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建設・建築物で活用するサステイナブル素材と“見える化”ツールを活用した脱炭素社会|ESG Talk #12

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『ESG Talk ~IT企業社員が紐とくESG~』

第10回から第12回までは衣食住の「住」に関するESGをテーマとし、不動産へのESG投資について、事例などを交えながらお伝えしてきました。今回は、建物が環境に与えるインパクトとそれに対する解決策、そして今の世の中の動きを、建設時の視点と建物の運用の視点でお伝えしていきます。
私たちは普段からたくさんのCO2を排出する生活を送っています。環境省のwebサイトによると、CO2排出の6割が、衣食住を中心とする「ライフスタイル」に起因してます。フードとファッションのエピソードにおいてもCO2排出量についてお伝えしてきたかと思いますが、今回は私たちの生活の基盤である「住まい」で発生する環境負荷の問題とその問題解決を担うスタートアップと未来の住まいについてお伝えします。
私たちのライフスタイルで関わる主な建築物は、住宅やオフィスが多いのではないでしょうか。実は、日本のCO2排出量のうち家庭やオフィスからの排出量は合わせて30%近くを占めているそうです。過去のエピソードで取り上げたフードとファッションのトピックでもそれぞれの業界から排出されるCO2による環境負荷が大きかったかと思いますが、今回は30%近くのCO2排出をしている、私たちの「住まい」について深堀りしていきます。

建物のCO2排出の現状について

建物の環境負荷は、施工時、管理・運用時、そして解体する際に、多くのCO2を排出します。たとえば、建設工事現場における燃料の燃焼は、 年間約1.1千CO2トンのCO2が排出されています。これらは機材や建設機械そして作業の過程から排出されていると言われており、当然ながら、人が住み始めてからもCO2は排出され続けています。日本のCO2排出量のうち、家庭部門からのCO2排出量はその16%を占めており、居住中のエネルギー消費を減らすことは、CO2削減を大きく促すと言われているのです。ちなみに家庭部門からのCO2排出の割合は、暖房が約20%、給湯が約20%、照明・家電製品が約50%を占めています。これは1世帯あたりで換算すると年間約3.4トンのCO2を排出していることになり、杉の木が1年間に吸収するCO2排出量に換算すると、約384本分になるのです。
また、私たちが自宅と同等の時間を過ごすオフィスでも多くのCO2を排出します。オフィスの排出割合は、日本だと全体の約18%。家庭と合わせると全体の約30%が私たちの住まい、または活動している場所から発生していることになります。割合をみると、その影響力の大きさがわかります。

個人や会社のサステイナブルな取り組み

今回のエピソードでは、住宅・オフィスのつくりにも注目してみました。最近注目されている取り組みのひとつが、生活のあらゆる部分で地球への悪影響を減らす持続可能(サステイナブル)な住宅・オフィスづくりというもので、施工時から環境負荷の少ない方法で建てていくことです。
このサステイナブル建築とは、設計・施工・運用の各段階を通じて、地域レベルでの生態系の収容力を維持しうる範囲内で、(1)建築のライフサイクルを通じての省エネルギー・省資源・リサイクル・有害物質排出抑制を図り、(2)その他地域の気候、伝統、文化および周辺環境と調和しつつ、(3)将来にわたって人間の生活の質を適度に維持あるいは向上させていくことができる建築物を構築することを指します。

まとめると、環境負荷のかからない素材を使い、施工を行い、メンテナンスも環境負荷のかからない素材を活用することです。

サステイナブル素材

サステイナブル建築を実行するための方法はいくつかありますが、今回はその中でもサステイナブルな建築素材の選定に着目したいと思います。実は、建築する段階からサステイナブル な建築素材を選ぶことはとても重要です。なぜなら、建物のセメントから出される温室効果ガスは、世界全体の排出量の約8%を占め、その量は航空業界と比較しても格段に高いからです。
また、建築物・建設セクターは世界のエネルギー使用量、資源消費量、温室効果ガス排出量において高い割合を占めており、米国では建物が国全体のCO2排出量の約40%を占めているとされ、問題となっています。近年注目されているサステイナブル素材は以下です。

・バンブー

竹が最も優れたサステイナブル素材のひとつと言われ注目されている理由が、資材として成長するまでに、木は約20〜25年かかるとされていますが、竹は2~3年で栽培・収穫が可能だからです。鉄やプラスチック、コンクリートなどの伝統的な素材にも遜色ない強度もあり、近年注目されています。

・コルク

コルクは木を伐採することなく、木の樹皮を剥き、樹皮を加工したものになります。樹皮を剥がされた木は、数年経過すれば元に戻ることができ、木の命をそのまま生かし続けることができるので、伐採と比べ環境負荷は大きく低減することができます。品質は、質感が良く、弾力性、断熱性に優れています。

・リサイクル素材

ここ数回のpodcastで扱ったフードやファッションでもゴミ問題は取り上げましたが、建設業も大量の廃棄物を出す業界のひとつです。そのため、素材を持続可能な素材から作り出すことにより、既存の廃棄物の削減、エネルギー/水の節約、二酸化炭素排出量の削減などが期待されます。

・菌類

ファッションのエピソードでもキノコ生地素材について取り上げましたが、建設業においてもキノコの素材は注目されています。キノコから作られた素材は、市場ではバイオプラスチックやバイオコンポーネンツと呼ばれ、100%の生分解性があり、安価で軽量で、そしてコンクリートよりも強度があります。

・ストローベイル

ストローベイルとは、藁(わら)でできたブロックです。藁は、日本でも古民家の屋根で使われていたこともあり、欧州でも近年建築素材として注目されております。現地で手に入る天然素材のため、長距離の輸送(CO2排出量の増加)を必要とせず、空気の循環にも適しているため、高い断熱性を発揮し、サステイナブル な素材と言われています。

知っておきたい5つのサステイナブル建築材料

3Dプリンターの家

さらに近年では、米国や欧州で「3Dプリンター」を活用した新しい家づくりが注目されています。3Dプリンターは、早く、安価に、環境に優しい方法で建築が可能となるため、建築業界での活用が期待されています。さらに環境問題だけでなく、急激な人口増加や貧困地域において住宅の不足など、差し迫った社会問題に対応する取り組みのひとつとして3Dプリンターを取り入れる地域もあります。
3Dプリンターでつくられた住宅の外観は、通常の住宅と変わらず、遜色がないほどです。また、施工できるデザインの幅も広く、モダニズム建築から奇妙な形状をしたものまで自由度は高く、つくることができます。

世の中の「脱炭素」に向けた動き

企業の脱炭素の「見える化」

次に建物の環境負荷軽減に対して、日本としてどのような取り組みを行っているのかお伝えしていきます。日本での大きな動きとしては、2021年5月に成立した改正地球温暖化対策推進法、略して「改正温対法」です。
まず、温対法というものが、1997年に採択された京都議定書を受け、1998年に成立しました。温対法は、正式名称を地球温暖化対策推進法と言い、地球温暖化対策を国・地方自治体・事業者・国民が一体となって取り組んでいくために制定された法律です。この法律には温室効果ガスの排出量に対する報告義務や排出量抑制等について規定されています。

そして今回改正された改正温対法は、改正前の温対法と大きく3つ項目が変わりました。

1.「2050年カーボンニュートラル」が法に位置づけされた
2.地方自治体に脱炭素の施策目標を追加
3.企業の脱炭素の「見える化」

企業における脱炭素の「見える化」により、企業のCO2排出量の「電子システムによる報告」を原則化し、開示請求なしで公表される仕組みとなりました。つまり、企業のCO2削減を「デジタル化」「見える化」することとなったのです。企業としても数字を抑えることにより、一般消費者に良いイメージを与えることができ、企業価値もプラスになりますが、逆に数値が悪いと、企業イメージも悪くなるため、脱炭素の取り組みに重点を置く企業も増えています。
住宅業界においてもCO2削減に向けて大きな変化がありました。新築では省エネ基準についての説明義務化が制定され、2025年には省エネルギー基準に適合させるよう義務化される予定です。さらに2030年に向けては適合義務基準の強化についても検討されています。

「見える化」スタートアップ

このように、CO2削減について取り組むだけでなく、取り組みに対しての結果が見えるようになることで、脱炭素の「見える化」ツールが注目されています。企業だけでなく、一般の住宅に対してツールを活用することができます。省エネのデータを「見える化」することにより、実態を正確に把握し、エネルギー使用量を減らすための行動を探ることが可能となります。次に、見える化ツールを開発しているスタートアップを紹介します。

・Block Power

Block Powerは、米国ニューヨークを拠点としているスタートアップです。学校や住居用などの中規模ビルのエネルギー性能を管理・分析するソフトウェアを開発。公開情報から作成した、冷暖房、照明、温水暖房におけるエネルギー効率を評価する独自のモデルから、エネルギー効率の悪い学校や住居用などの中規模ビルを特定することができます。分析結果に基づき、最新の寒冷地用空気熱源ヒートポンプ(電気と冷媒を使って熱を移動させる冷暖房装置)、太陽光パネル、Wifi等の設置を依頼しているパートナーと連携して改善をすることが可能となります。

・SPAN

SPANは、米国サンフランシスコを拠点に、自宅用のスマート配電盤利用してエネルギー消費量を見える化できるサービスを展開し、エネルギー使用量や出力の監視をすることができます。また、Amazonが提供しているEcho端末の音声サービスAlexaと配電盤を結合することができます。
SPANのスマート配電盤を使用している住宅では、家庭内のあらゆる電気回路や電化製品のオン / オフの状態から、各電化製品が使用している電力の監視をし、どの電源が最も発電しているかの判断することが可能となります。

・EaSyGo

日本のスタートアップGOYOHが提供している「EaSyGo」を紹介します。
EaSyGoは、ビルオーナーが脱炭素とESGによる不動産価値を創出するためサービスを提供しています。 不動産が生み出すESG/SDGsのインパクトを可視化し改善し最適化することができます。

今後、世界人口が2050年に95億人になると予想されていますが、それに伴いエネルギー消費が爆発的に増えることが懸念されています。今回紹介した見える化ツールは、まだまだその課題に対する解決策のひとつです。このようなサービスや技術が住宅・オフィスなどの建物に使われるようになり、日本で導入予定の都市計画、スマートシティにもつながるかと思います。

(執筆:Rena 編集:Onlab事務局)

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