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北欧VCの byFounders が発表した「Impact Awareness Report 2022」を解説

【イベントレポート】Onlab ESG x byFonders|スタートアップ起業家・VCはそれぞれどうESGに取り組むべきか?(前編)

世界各地でESGに関する取り組みが加速しており、企業の社会的責任が注目される中、スタートアップ起業家とVCにとってもESGへの取り組みが求められています。デジタルガレージのグローバルインキュベーションストリームのパートナーであり、北欧を拠点とするアーリーステージのコミュニティー重視型ファンドで、インパクト重視の次世代の創業者に寄り添って支援をしているbyFounders社が4月に発表したImpact Awareness Reportについて、同社ジェネラルパートナーのトミー・アンダーセン氏に解説してもらいました。

なお、当該レポートでは、ファンド自体に関するデータはもちろん、ESG全般に関するデータなどの詳細も掲載しており、ESGとインパクトが財務実績とどのように関連しているかを学ぶ非常に良い入門書となっていますので、ESGに関する取り組みにご興味のある方やインパクト投資について知りたい方はぜひご参照ください。

< プロフィール >
byFounders VC General Partner Tommy Andersen

デンマークのテック・スタートアップのための業界団体の共同設立者であり、デンマーク政府の起業家パネルを率い、14th Climate Partnershipのメンバー。byFounders以前には、LibratoneやEmbeditなど3社の共同設立と撤退に成功。いくつかのアクセラレータ、インキュベータ、スタートアップ組織への参加を通じて、デンマークのテクノロジーとインパクトのエコシステムにおいて重要な役割を果たしている。byFoundersの共同設立前は、個人として、またエンジェル投資家のグループ、Nordic Makersの一員として、エンジェル投資の広範なポートフォリオを構築。起業とアドバイザリーの豊富な経験により、ビジネスと経営管理に対する理解を深め、現在ではbyFoundersのポートフォリオ企業の長期的な成長と成功を支援中。

byFoundersが大事にする3つの価値観

― byFoundersのファンドの特徴について教えてください。

byFoundersは、新北欧に投資するコミュニティ出資のアーリーステージ・ベンチャー・ファンドです。1号ファンドは1億ユーロの資金があり、昨年末にはさらに1億1000万ユーロの資金を持つ2号ファンドも立ち上げ、合計で2億ユーロ以上の資金を運用し、ソフトウェアやディープテック企業に焦点を当てています。また、インパクト投資にも注力していますが、インパクトだけをみているファンドではなく、伝統的な投資とインパクト投資の両方を行っています。

byFoundersではインパクト啓発に焦点を当てながら、3つの価値観を大事にしています。

1つ目は創業者への共感です。私自身もこれまで3つのスタートアップを経営してきました。byFoundersのチームは全員起業の経験があります。ですから、私たちは投資の観点だけでなく、創業者の視点から創業者やスタートアップ企業が成功するためのサポートを提供しています。

byFoundersが大事にする3つの価値観

2つ目は、グローバルマインドです。私たちは北欧を拠点にしており、デンマーク/コペンハーゲンとスウェーデン/ストックホルムにオフィスを構えていますが、投資対象やLP(リミテッドパートナー)は北欧だけでなく、米国やヨーロッパなどグローバルとしています。アジアに進出する計画も進めています。

3つ目は、私たちにとって最も重要である、インパクトを生み出す企業に投資することです。現代社会を取り巻く様々な課題の中で、特にファンドとして、気候変動に対処するスタートアップへの投資は、素晴らしいビジネスチャンスだと考えています。

― 北欧を拠点にされているということですが、どのようなメンバーで運営されているのでしょうか?

byFounders Team

チームは9人で女性4人、男性5人の多様性のあるメンバーです。この他にも、byFounders Collectiveと呼ばれる北欧、バルト諸国、ヨーロッパ、米国から集まったサポートグループ約50人が、投資先企業の経営面で支援や自身のネットワークをパートナーや他のVC、LPと共有をしています。また、一部のボードやアドバイザリーボードにも参加し、取引のフローも提供したり、エンジェル投資家としても活動しています。

ビジネスへの理解とインパクトの創出

― byFoundersの3つ目の価値観である “インパクト” についてもう少し教えてください。なぜファンドがインパクトを意識することが大切なのでしょうか?

インパクトを意識することを重視している背景として、まず、インパクトを創出する事業は非常に優れたビジネスであり、投資リターンの向上に繋がることが示されています。また、多くの投資家がインパクトを重視しているスタートアップへの投資を積極的に行っています。加えて、若い世代では目的を追求する傾向が非常に強いことも分かっており、才能ある若者を惹きつけるられるということが言えるでしょう。

また、社会もインパクトを意識し始めており、消費者がサステナビリティを求め、商品がどのように製造され、どう提供されているのかへも関心も高まり、そのような意識の高いユーザーを獲得するという意味では、投資先の事業そのものへも利点をもたらすと考えています。

最後に、私たちがEUで直面している重要な問題は、コンプライアンスの要件です。現在、EUではいわゆるFDA(米国食品医薬品局)コンプライアンスに基づいた規制が導入されました。これによりファンドの状況、投資先の業績、サステナビリティと気候への影響などを年次報告する必要が発生し、ステークホルダー全体に影響を及ぼしています。

LPはリスク管理の観点からインパクト・アウェア・ファンドに関心を示しており、この傾向が近年顕著になってきています。LPがよりGP(ゼネラル・パートナー)に対して責任投資を期待してきているといえます。また、社会的意義を求める意向やそうしたインパクト企業の投資リターンが魅力であることも受け、LP自体も責任投資に資金を使いたいという傾向が強くなってきており、2021年からの1年間だけで、金額ベースで約1/5もの投資がインパクト投資に置き換えられました。これだけでも非常に大きな金額ですが、2022年以降も増加し続けています。

byFoundersの投資先2社を紹介

― byFoundersの投資先には、どのような企業があるのでしょうか?

MontaはEV充電用のソフトウェア会社です。世界中で高額で複雑なEV充電ポートを見かけますが、EVの普及を促進するべく、Montaは消費者向けの充電ポートのマップを生成し、EVで移動中に充電器を見つけたり、支払いを処理したりできる、シームレスでオールインワンのEV充電体験を実現。これにより、ガソリンスタンドで給油するのと同じような体験を提供しています。byFoundersがシードで投資し、MontaはすでにシリーズBを経て、毎年5〜10%以上成長しています。

byFounders投資先紹介 Monta

Pixierayは、REIという自動調整メガネを開発している会社です。REIをかけるとリアルタイムで遠視と近視の見え方を調整し、見ている部分がよりクリアになるようにピントを合わせることができます。例えば、画面から窓に視点を動かすと、遠視から近視が自動的に調整され、コンタクトレンズや複数のメガネを用意することなく、1つのメガネで常に完璧な視力を提供することができます。このREIには光学機器、LCDスクリーン、マイクロエレクトロニクス、そしてソフトウェアが統合されたディープテクノロジーが搭載されています。byFoundersは2年前に投資を行い、2024年に市場投入を予定しています。今後アジアのパートナーとの共同投資も予定されており、世界中に数千のストアを展開、販路を拡大していく見込みです。

byFounders投資先紹介 Pixieray

byFoundersの投資戦略と具体的な投資先支援内容

― byFoundersでは実際にどのようにインパクトを意識した投資を行っているのでしょうか?

byFoundersにおけるインパクト戦略

インパクト戦略は、私たちの日々の業務の中に組み込まれています。まずは投資プロセスで、投資先の選定と評価に対して、社会的インパクトの有無を考慮しています。次に、投資先の支援で、持続可能なオペレーションや計測を支援しています。最後に、私たち自身の内部業務で、具体的には、ファンドチームの構築方法やファンドの運営方法、財務上の利益を上げる方法においても投資先と同様の指標を持つようにしています。

byFoundersにおけるインパクト戦略

このインパクト戦略をしっかり実行する上で、重視しているポイントが、

  1. インパクトを重視する考えを組織のDNAに組み込むこと
  2. 行動に移すこと
  3. 結果を測定し振り返ること

― 社会的インパクトの有無を踏まえて、byFoundersではどういった評価項目で投資先の選定をしているのでしょうか?

byFoundersにおけるインパクト戦略

スタートアップを評価するフレームワークとして8つのT、いわゆる『8T』を提唱しています。

  1. 市場の規模(TAM):投資を検討するスタートアップの市場が10億ユーロ以上のスタートアップをハードルレートにおいており、それ以下の市場では投資する意義が薄れるとか考えています。
  2. ユーザー数の増加率(Traction):スタートアップがどれだけ顧客を捉え、成長しているかを確認します。
  3. テクノロジー活用(Tech):イノベーティブなテクノロジーを活用しているか否かで、特許を取得し、先駆者としての地位を確立できる技術を持っているかも重要なポイントになっています。
  4. タイミング(Timing):市場がまだ早すぎる場合は投資が難しく、逆に市場が既に成熟している場合は競合他社に取って代わられてしまうので、適切なタイミングを見極めています。
  5. 変革(Transformative):スタートアップが画期的な変化を社会に与えられているかも重視しています。
  6. 透明性(Transparency):スタートアップの強みや弱みをきちんと把握し、同様に私たちも彼らに提供する情報をオープンにしています。
  7. チーム(Team):初期のアイディアの良し悪しに関わらず優れたチームは優れたアイデアを生み出すことができると考えているので、私たちが一番大切にしているポイントになります。
  8. 将来性(Tomorrow):現代の課題を解決し、より良い明日を作るかどうか、これがインパクトに繋がる部分として今回新たにハイライトしている視点になります。

― byFoundersの投資先支援について詳しく教えてください。インパクトを創出しているスタートアップと言っても、自社だけではリソースが足りないこともあるのではないでしょうか?

byFoundersにおけるインパクト戦略

投資先のインパクト創出に向けた支援としては、投資の段階で、投資先が設定したKPIが実際にどのような影響を与えるかについてブレインストーミングを行い、アンケートに回答してもらっています。投資が決定し、オンボーディングに進むと、行動規範とDE&I(ESG用語集参照)について学ぶワークショップを開催し、互いの理解を深めます。その後、ベンチャーファンドのスケーリングとして、財務的リターン向上に向けた各種支援を行います。

これに加え、インパクト調査のための二酸化炭素排出量と削減方法を確認できるツールや、従業員の福利厚生に関するツールの提供、さらにはインパクトを考慮したセッションも各種実施しています。無料で利用できるコーチングプログラムも提供し、多方面から投資先の成長をサポートしています。

― 先日公開した、インパクトレポートについて紹介を教えてください。

このレポートは時間をかけて進捗状況を追跡し、インパクトのベースラインとして定めました。我々が運用している2つのファンドは、純粋なインパクト投資と責任投資とのバランスを目指しています。私たちのミッションは、この考え方やインパクト測定のツールをオープンに共有することで、既存の投資家のレベルを向上させ、私自身がロールモデルとして行動することだと思っています。私たちが投資先評価に使用するフレームワークなども公開しています。

byFoundersにおけるインパクト戦略

これまでに我々がスタートアップへの投資を通じて約1,000件の雇用を創出してきました。また、投資先の17%は女性が設立した企業で、投資総額ベースでは25%となっています。更に、投資先の53%は社会的少数派と見做されていた創業者に対して行われました。これは、創業者の性別、民族的要素、またはその他の社会的な要因に関わらず、多様性を重視していることを示しています。

ポートフォリオの観点では、全ての投資先が二酸化炭素排出量と従業員の健康状態を計測・管理しており、従業員の離職率は8%と非常に低い水準です。また、現在の投資先企業の69%は少なくとも1人の女性が取締役として参加しています。以前は、ほとんどの取締役会は男性だけで構成されていましたが、現在は女性が取締役に選任されるように取り組んでいます。

また、byFoundersの組織においては40%が女性で、パートナーの1/3が女性です。また、CO2排出削減も継続的に行っており、約164トンのCO2をオフセットしています。初年度のファンドでは非常に良い成果を上げていると思います。

今後は、毎年レポートを公開し、私たちの取り組みが進捗しているかを定点観測していきます。こうした、より良い未来へのコミットメントは、持続的な社会・環境の実現と、財務リターンに繋がるものです。私たち一人一人のプレイヤーがESG(環境・社会・ガバナンス)への意識を高めることで、社会全体を動かす原動力になると信じています。

いかがでしたでしょうか?今回は、北欧を拠点とするVCのbyFoundersのファンドコンセプトとそのインパクトレポートについてご紹介しました。同社は10月に来日予定で、日本の投資家、事業会社、スタートアップと直接会話できる機会もありますので、ご質問・ご関心のある方はぜひ、デジタルガレージ/Onlab ESGまでご連絡ください。

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