2021年12月23日
『ESG Talk ~IT企業社員が紐とくESG~』
第11回も前回に引き続き「住」をテーマに、建物のライフサイクルを通じて環境に与えるインパクトと不動産へのESG不動産投資についてお話していきます。近年欧米諸国を中心に、投資家がESGの視点から投資先を選別し、投資先に対してESGへの配慮を求める動きが拡大しています。その中でも今回のテーマである「住」に関連する不動産は、生活や経済成長を支える基盤であり、環境や社会に関する課題解決に貢献できるポテンシャルも大きく、ESG投資の重要な対象となり、注目されています。今回は、具体的に不動産分野において、どのような取り組みがESGの対象となっているのか深掘りしていきます。
不動産分野においてESGの対象になる取り組みをESGの頭文字ごとにみていきます。まず、「E(環境)」においては、住居の省エネ対策の向上と再生可能エネルギーの活用。次に「S(社会)」については、健康的に快適に暮らせるように / 災害への対応 / エリアマネジメント / 少子高齢化へ対応したデザイン。最後の「G(ガバナンス)」は環境対策などの情報開示と透明性 / ダイバーシティの実現、に関する取り組みが対象とされております。
出典:国土交通省
特に不動産投資は、短期的な価格上昇を期待する動きのみに基づくものではなく、資産が生み出す中長期的な価値を基本として行われるようになることが望ましく、人生100年時代と言われている昨今、このようなESGを意識した取り組みをしている企業に資金は集まっていきます。
次に、RPIにふれていきます。RPIとは、日本語で、責任不動産投資と訳され、英語表記の「Responsible Property Investment」の頭文字をとってRPIと言われています。2006年にコフィ・アナン国連前事務総長が提唱した「責任投資原則(PRI: Principles for Responsible Investment)」は、環境(Environmental)、社会(Social)及び企業統治(Governance)にわたる諸々の課題(ESG問題)を、資産運用に組み込む考え方ですが、これを受けて推進しているのがRPI(Responsible Property Investment)で、RPIはUNEP FI不動産ワーキンググループという国際連合環境計画(UNEP)と銀行、 保険、各種金融からなる金融セクターのグローバルパートナシップがあり、2007年に「10か条の不動産投資戦略」を発表しました。
出典:国土交通省
投資家が不動産の取得など意思決定の際に、サステナビリティを考慮に入れることで、将来収益に関するリスクを最小化でき、投資家は様々な利益を得られる可能性があり、この手法は日本国内でも今後ますます進展していくと思われます。
ESG分野のその他の取り組みを詳しくみていきます。まず、「E(環境)」について、環境に配慮している建物、「グリーンビルディング(環境配慮建築)」です。グリーンビルディングとは、建物の着工から竣工までのエネルギー、竣工後の建物にかかる維持、運営のエネルギーが、自然に与える影響を考えた上で建築された、環境性能が高い建物を指します。
出典:Sustainable Japan
グリーンビルディングは自然との共生を目的に建てられており、ZEH(ゼッチ)の取り組みもその一環とさえております。ZEH(ゼッチ)とは経済産業省が政府目標に掲げている政策であり、「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」の頭文字からとった略称です。住宅で消費されるエネルギーより、住宅で創出されるエネルギーを上回る状態で、エネルギー収支がゼロの住宅を指します。
出典:経済産業相 資源エネルギー庁 省エネポータルサイト
また、グリーンビルディングの取り組みとしてあげられるのが、「パッシブハウス」です。パッシブハウスとは、ドイツパッシブハウス研究所が提唱したエコ住宅であり、ドイツパッシブハウス研究所の提示している基準を満たし、自然の力を最大限活かし、少ないエネルギーで快適に過ごすことができる住宅を指します。また、冷房器具の使用をできるだけしない高性能な住宅でもあります。前回のエピソードで取り上げられた「Tiny Housing(タイニーハウジング)」の、小さな住宅に住むことで冷暖房の使用を抑え、電化製品数を減らし、環境に優しく、限られたエネルギーで暮らす点も、パッシブハウスと似ているのではないでしょうか。
次に「S(社会)」である地域社会や経済に、建物が及ぼす影響についてみていきます。建物の新築・改修やエリアマネジメントのあり方がもたらす建物周辺への影響が地域社会・経済に寄与し、中長期的に不動産価値にも反映される可能性があります。
例えば1960年代、米国ニューヨーク市のタイムズ・スクエア周辺は治安が悪く、当時の42丁目は、ホームレスや浮浪者、麻薬の売人がたむろし、ストリップ劇場等あらゆる種類のポルノ産業が発展し、犯罪件数は増加する一方でした。そのため、ブロードウェイと聞けば、誰もが不潔なイメージを抱いておりました。しかし、1992年から2012年にかけて、再開発が行われ、犯罪数が激減したほか、テナント賃料が10倍になり、不動産価格が2.8倍になり、土地としての価値もあがりました。
現在のタイムズ・スクエアは、ニューヨークにきた観光客は必ずいくエリアと言われるほどの観光地となり、劇場などが多く、きらびやかな電飾が多くテーマパークのようになっており、華やかで人々が住みたいエリアとなってます。
もうひとつ、「S(社会)」の取り組みとして、日本では少子高齢化への対応が進んでいる中、高齢者施設や保育所等に係るニーズは今後増加していくと見込まれ、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅、病院などの医療施設を含む「ヘルスケア不動産」は、超高齢化社会の課題解決のための不動産になります。
上記施設における業務効率化をするために創業された、海外のスタートアップ「Tellus(テルス)」を紹介します。テクノロジーで高齢者ケアを改善する為に米グーグル、米アップルを経た2名が創業。介護施設や一人暮らしの高齢者の健康状態を、室内に設置した非接触型小型レーダーで検知し、AIを用いてデータ処理し、高齢者の睡眠状態をモニタリングすることで、健康管理を実現するサービスです。
カメラでもウェアラブルでもない、最先端のレーダー技術を応用して対象者の健康や睡眠の状態をモニタリングして、アラートや長期的変化などを通知することで、介護の質を向上し介護従事者の負担も軽減することができます。
現在、高齢者の健康や活動をモニタリングするデバイスは、期待する効果が低く、身体に装着する製品は煩わしいため、使用感が悪いものが多くあります。また、面倒な充電が必要であり、カメラでのモニタリングによるプライバシー上の問題、工事の手間などを考えると気軽に設置することができません。現在開発中の「 Tellus(テルス)」は、介護施設や単身で暮らす高齢者の健康や活動状態を、居室内に設置するたった一つ非接触型小型レーダーで検知することが可能となります。人口が集中する都市部にも高齢者が増えていくため、今後最新の技術を使ってサポートするtellusのようなスタートアップが多くなってくるでしょう。
出典:tellus
最後に住まいや建物に関する「G(ガバナンス)」についてふれていきます。「G(ガバナンス)」の取り組みは、情報開示 / 透明性 / ダイバーシティの実現などが求められます。
地震が多い日本において、ESG不動産投資に重要視される点は、耐震性の確保を含めた災害対応、不動産の開発・運用・投資です。そのため投資環境の安定化に向けて今後これら情報開示の標準化のあり方などの検討が進むことが期待されます。
出典:Worker’s resort
ESG不動産投資に関する海外の事例では、映画『ハリー・ポッター』に出てくるホグワーツへの出発駅として有名な英国のロンドンにある「キングス・クロス駅」周辺の再開発があげられます。再開発前は、貧困層が集まる治安の悪いエリアとされていました。そのため、2012年駅舎が改修され、駅周辺には大学の移設や、IT企業の拠点化、商業施設のオープンなどによって、かつての暗いイメージを払拭させました。また、2012年のロンドンオリンピックを機に街全体が変わり、それまでの閑散としていたショップやカフェなど何もない印象が、現在は米グーグルやYouTubeが入ったオフィスビルが並び、現在も建設中の建物が多くある街並みとなりました。建物を改修することにより、地域の治安を改善させ、企業や大学など人が集まる街づくりをすることにより、持続可能な地域社会を作ることができました。
出典:FASHION HEADLINE
出典:150 King WEST
最後の事例は、 米アップルのデータセンターです。こちらは100%グリーン電力で運営され、さらにアイオワ州に3万7,000m2規模のデータセンターを建設しています。既存のデータセンターと同様に再生可能エネルギーのみで稼働する予定です。また、約550人分の雇用を創出する見込みで、周辺の地域開発およびインフラのための公共開発にも最大で1億ドルの寄付を予定。同基金は、公園、図書館、娯楽用スペースのようなコミュニティープロジェクトのほか、社会インフラの開発支援にあてられるそうです。
出典:Apple
今回のエピソードでは「グリーンビルディング」、「パッシブハウス」そして海外の再開発事例についてお届けしてきました。住宅や社会環境に関する問題にテクノロジーを活かして参入しているスタートアップも増えてきています。次回は私たちが住んでいる建物やオフィスが環境に与えるインパクトとそれを解決する最新スタートアップについてお届けします。
(執筆:Yuki 編集:Onlab事務局)