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海外大手企業やスタートアップが取り組む「アフォーダブルハウジング」とは?|ESG Talk #10

earthshot_affordable housing

第7回から第9回までは衣食住の「衣」に関するESGをテーマとし、私たちが毎日着ている洋服などの製造から廃棄の過程で発生している環境問題や人権問題、アニマルウェルフェアについてお届けしてきました。今回のエピソードではは衣食住の「住」、暮らしに関するテーマでお届けします。
コロナ禍を経験したことで多くの人の暮らしが変わりました。その中でも、リモートワークをする方が増え、みなさんもおうちで過ごす時間が増えたのではないでしょうか。私たちの会社でもリモートワークを取り入れている従業員が多く、家で過ごす時間が格段に増えています。そのような状況で、暮らしやすい都市や街が重要になってきています。そんな私たちの生活基盤になっている都市や街を、持続可能に住み続けられる取り組みがSDGsの11番目の項目「住み続けられるまちづくり」です。

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SDGs目標 11「住み続けられるまちづくり」とは

「住み続けられるまちづくり」を直訳すると「インクルーシブで安全かつ持続可能なまちづくり」となります。つまりこの11番目の項目は雇用・格差・経済成長・生活インフラなど、最低限の暮らしの保証からより良い暮らしに関するための目標の中の1つです。

出典:ソフトバンクニュース

また日本では近年、豪雨による水害の被害が多く、そのような災害から身を守ることも、「住み続けられるまちづくり」において、避けては通れない課題とされています。昔から、災害から身を守るために、ハザードマップがありますが、これをさらに活用できるように、災害が発生する30分前に警告がでるような取り組みもされています。
災害を防ぐためには、被災地の現調が必要となり、危険がつきものでした。その危険な状況を少しでも避けるために、ドローンで撮影し、撮影したデータをVRで確認し、直感的に視察することができます。そうするこにより、二次災害の危険性があり、立ち入りできない現地を、調査をすることが可能となります。さらに、3D技術やICT建機をつかって、作業効率も上がり、住民が安全に過ごせるように取り組みをされているそうです。

出典:ITmediaNEWS

さまざまな問題を抱えるSDGs11の目標 「住み続けられるまちづくり」ですが、日本の1番の課題と言われているのが都市人口の増加ですUNの2018のデータによると1950年には30%だった世界の都市人口が2018年に55%に増え、そして2050年には68%になるというデータがあります。これは世界の人口の3分の2にあたる数値です。
現在では、世界の人口の半数以上が都市部に住んでいますが、この比率は年々高まっており、2030年には都市に住む人の割合が全人口の60%まで増えると予測されています。しかし、都市に人口が集中し、地方から都市部へ人が多く流れることで、人口が減り続け少子化が加速する“消滅可能性都市”の問題も課題としてあがっています。
総務省のデータによると東京の都市人口は2025年までに世界1位の予測とされています。また、日本の総人口の約3割が埼玉、千葉、神奈川を含む東京圏に住むようになるのではと言われています。人々が東京に暮らす多くの理由は、東京圏に仕事を求めているからです。その背景には輸入による農作物の価格の低下などによる、農村部での収入の低下などもあげられると言われています。
日本の借家の1ヶ月当たりの家賃・間代は、全国平均で55,695円ですが、東京都が81,001円と最も高く、最も低い県との違いは約2倍というデータがあります。また、1畳当たり東京都は5,128円で最も低い県との違いは2.7倍ほどになっています。そのため、東京は仕事はあが、家賃が高い都市といえます。そのほにも、日本には平均で家賃と年収が2割を超えている県が多くあり、2013年時点で、若年(30歳未満が世帯主)の借家世帯における家賃年額が年収に占める割合は34.8%になっていますが、、東京では45%と平均より上回る結果が発表されています。「可処分所得の3割」が家賃目安とよく言われているので、45%が苦しいことは明白です。

海外の大手企業のaffordable housing(アフォーダブルハウジング)に関する取り組み

そんな住宅と家賃の問題に関して、アフォーダブルハウジングが海外で取り沙汰されています。アフォーダブルとは、単に家を購入したり、借りたりするだけではなく、その家で生活する余裕があることを示します。所得よりも上昇する住宅コスト、需要に追いつかない住宅供給、土地不足、人口増加、高齢化、世帯構成の変化がアフォーダブルハウジング不足の原因と言われています。アフォーダブルハウジングの定義は住宅費負担が収入のおよそ30%以下となる価格で供給される住宅のことで、UN Habitatによると世界のわずか10%ほどの都市しかアフォーダブルハウジンがないと言われています。これは地代や物価が上がってる都市が多いことも要因の1つです。所得の中央値の3倍以下が、アフォーダブルな平均住宅価格の一般的基準と考えられていますが、2018年の調査によると、調査対象となった世界200都市の90%がこの基準を超えています
アメリカでもアフォーダブルハウジングは大きな問題となっており、解決するための施策が数多く行われています。米Google(グーグル)、米Apple(アップル)、米メタ(旧フェイスブック)、米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)といった大手 IT企業が巨額の資金を投じて住宅の建設を始めており、米メタ(旧フェイスブック)では3800万ドルを4つのローカルのアフォーダブル住宅とホームレスのための住宅のプロジェクトに拠出しています。
米アマゾンは20億ドルのファンドHousing Equity Fundを立ち上げて低所得者向け住宅の供給を後押ししており、本社のあるシアトル近郊やアーリントン、ナッシュビルを対象にし、合計2万戸以上を建設。その中にはアーリントンに1300戸、ワシントンに1000戸など自社のオフィスがあるエリアを集中的に支援しています。
米Apple(アップル)の本社があるカルフォルニアでは、深刻な住宅難が起こっており、米アップルは25億ドルを拠出しHousing Trust Silicon Valleyとの10個の共同プロジェクトで800もの新しいアフォーダブル住宅を作りました。
サンフランシスコベイエリアに本社を置く米グーグルは10年間で10億ドルを投じ、2万戸を建設。そのうちの1万5000戸は米グーグルの所有する土地に建てられています。米グーグルが投じている10億ドルの追加投資のうちの2億5000万ドルは投資ファンドの設立に使用されており、このファンドで最低5000戸のアフォーダブル住宅を建設できるようにインセンティブを提供。さらに米グーグルではフィランソロピー(人々のwell being、幸福、健康、QOL)事業部門に5000万ドルを使いホームレスや強制退去問題に取り組む非利益団体を支援しています。
このようなGAFAによる不動産関連への投資は罪滅ぼしとも言われております。大手IT企業が1つのエリアに集中し、高所得者が多く住むエリアになり、家賃が高騰し、一般の人が住宅難に陥ってしまいました。これらの事象は、社会課題になったことに対するアクションになっています。そして、大手IT企業のあるアメリカの都市では年間約1040万円稼ぐ4人世帯でも低所得者とみなされています。このようなことから、地域への還元を行うことで批判などを避ける狙いがあります。

出典:日経クロステック

アフォーダブルハウジングに取り組むスタートアップ

ファクトリーOS

ファクトリーOSは大手IT企業の米グーグル米メタ(旧フェイスブック)、住宅事業中心の投資会社Lafayette Square Holdings(ラファイエット スクエア ホールディングス)、建設ソフトウェア企業最大手のAutodesk(オートデスク)、金融機関Citygroupが投資しているスタートアップで、2017年にカルフォルニアで起業し、集合住宅の工業製品化を行なっています。住宅の部材と言われいてる建物の構造、機械設備、電気設備、配線設備を工場で生産し、現場に運び、組み立てるスタートアップです。
ファクトリーOSは第二次世界大戦中に潜水艦の建設を行なっていた巨大で奥行きのある建物を工場、本社として持っており、自動車産業をモテーフに住宅のモジュール建設をしている。1モジュールの構造建設に2時間半しかかからず、恒常化されているため熟練した技術者も不要のため、品質も安定するメリットがあります。
ファクトリーOSでは現在、7階以下の建設プロジェクトがメインに行っており、110個のモジュールを組み合わせるのに10日しかかかりません。さらに、天候などの影響を受けずらくなり、事故なども減らせると言われています。これらファクトリーOSのプロジェクトでは従来より4〜5割早く2〜3割安く建設できるとされています。

出典:Factory OS

NEULANDT

同じモジュール建設を行っているオーストラリアのスタートアップNEULANDTは開発途上国に向けてポータブルな独自のプレキャスト工場を開発している企業です。プレストキャンプと呼ばれる工場を使うことで、アフォーダブル住宅を数週間で建設でき、ワクチンの接種会場や避難収容施設としても使用できるように特化されています。
NEULANDTはアフリカの住宅供給の不公平に着目して創業し、アフリカの全人口の約60%を占める25歳未満の若年層は、コンゴ民主共和国のキンシャサやナイジェリアのラゴスなどメガシティへ移住することが多いといいます。そのメガシティでは、生活の貧富格差が大きく、豪華な住宅街の近くにスラム街やテント街がある状態です。NEULANDTは工場自体がポータブルなため、さまざまなところで住宅建設用の工場が作れることがメリットとなっています。
NEULANDTのプレキャスト工場で年間最大1,000棟の平屋、または多層住宅を建設することができます。その住宅は構造を自由に変更できる余地があり、間取り図なども柔軟に対応でき、その地域やクライアントに合わせて対応できるシステムを採用しています。
NEULANDTは不動産事業にテクノロジーとインフラのサプライヤーとして参入しており、技術的な専門知識と効率的な建設技術を現地のプロフェッショナルに伝授することで住宅不足危機に一役買うだけでなく、建設費用を抑え、コストの削減、労働者に今後重要な新しいスキルを提供しています。こういった取り組みは発展途上国の持続的な発展につながっています。
今後は災害が起きた際の避難所の建設などにも使われる予定で、一時的な避難所としてプレキャストが使われるだけでなく、そのプレキャストで仮設住宅を作ることができることにも注目されています。

出典:NEULANDT

また、不動産投資にアフォーダブルハウジングを取り入れる事例が増えており、世界有数のプライベート・マーケット投資運用会社でありPartners Group AGもインパクト投資の投融資テーマとしてアフォーダブル・ハウジングを採用しています。

出典:ポータルフィールドニュース

日本でも国土交通省の発表しているポジティブインパクト不動産投資フレームワークとして、低所得住民用に確保された住宅数、社会住宅の開発戸数、中間所得が求め安い価格であること、ポートフォリオ配分の変化(高・中・底所得に向けた住宅の投資比率が記載されています。

Tiny House(タイニーハウス) Movement

アメリカの一部では、Tiny Houseいわゆる” 小さなおうち” に住むことが生活効率がよく環境にいいという考え方もあります。住宅を立てる際、小さな面積で済むため、必要になるマテリアルが減り、環境に良い、とされています。現段階ではまだどれくらいのインパクトが明確にあるかわかっていませんが、研究では45%のエコロジカルフットプリント(資源の再生産および廃棄物の浄化に必要な面積として示した数値)の削減が記載されております。その理由として大きな住宅に比べて土地面積が少なくて済むこと、庭や山などのグリースペースが維持できること、家を快適な温度に保つために使われる冷暖房のエネルギー消費が減ることが言われています。
小さな住宅が選ばれる理由は、環境に優しいことに加え、建設時のコストが減る上に、修復代や電気代などを含めた維持費なども減ると言われています。小さな家に住むことで無駄に大きな家電を買わず、収納との兼ね合いで他の消費物への消費行動が変わるともれており、このように小さな住宅に住むことをTiny House Movement(タイニーハウスムーブメント)と言われ、アメリカで浸透し始めています。

出典:Fast Company

これはミニマリストの考え方にも近く、ものを持たないことで単純にお金がかからないだけでなく、心も豊かになれると考えられており、物が少ないから整理整頓がしやすく、無駄なものを買わない判断ができ、さらに大事にものをメンテナンスしながら、使い続けるといった暮らし方を変えるムーブメントになっています。ものを少なくするだけでなく、心が豊かになることを重視し、限られた範囲でいかに豊かに過ごせるかを工夫して行くことが大事になっています。

日本ではIKEAのTinyHomeがメディアなどにも取り上げられており、Tiny House Movementなどの考え方も近いうちに日本に入ってくるのではないでしょうか。

出典:IKEA【公式】

今回のエピソードではアフォーダブルハウジング、そしてTiny House Movementについてお届けしてきました。住宅に関する問題にテクノロジーを活かして参入しているスタートアップも増えてきています。次回は建物のライフサイクルを通じて環境に与えるインパクトと不動産へのESG投資についてお届けします。

Podcast『ESG Talk ~IT企業社員が紐とくESG~』

(執筆:Rian 編集:Onlab事務局)

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