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現場感から辿り着いた、不動産管理を紙から解放するシステム|Onlab Resi-Tech|管理ロイド(前編)

現場感から辿り着いた、不動産管理を紙から解放するシステム|Onlab Resi-Tech|管理ロイド(前編)

2020年で10周年を迎えるシードアクセラレータープログラム「Open Network Lab(Onlab)」。その姉妹プログラムで2018年からスタートしたのが、生活者を起点とした住宅・暮らしの豊かな未来を描くプログラム「Onlab Resi-Tech」です。

Onlab Resi-Tech第1期でコーポレート部門最優秀賞を飾ったのは、不動産管理サービス「管理ロイド」を運営する株式会社THIRD。Onlab Resi-Tech第2回を迎えるにあたって、THIRD代表取締役の井上さんと、Onlab Res-Tech担当の木暮が、第1期を振り返る対談を行いました。

今回の前編では井上さんに、管理ロイド開発のきっかけや管理ロイドが提供する価値について、お話を伺いました。

株式会社THIRD 代表取締役社長 井上 惇 さん
株式会社THIRD 代表取締役社長 井上 惇 さん

2回のピボットを経て管理ロイドを開発

管理ロイドは不動産業界に特化した、いわゆるバーティカルSaaSです。そのためサービス構築にあたって業界の知識は不可欠ですし、逆に言えば業界の知識がなければサービスを始めようなんて思わないでしょう。その点井上さんは、前職の経営コンサルティングファーム在籍時に、大手不動産デベロッパー向けのプロジェクトを担当していました。

不動産という業界に勝機を見出した井上さんは、THIRDを創業。ただ最初から管理ロイドのようなITシステムを作っていたわけではなく、創業当初に生業としていたのはコンストラクションマネジメントという建築工事のコスト削減プロジェクトや、プロジェクトマネジメントでした。

THIRDがコンサルタントとして関わった工事の案件では竣工から1年後に、点検をする必要があります。この際に苦労した体験が、管理ロイドの開発に繋がりました。

井上(THIRD):1年点検の際には報告書を作らなければいけないのですが、当然この作成は大量の紙でやるのが通常でした。これがとにかく大変だったんです。「これはIT化しなくてはやってられない」ということで、不動産管理の社内ツールの開発を決めました。

実は井上さんは不動産のコンサルタントに従事するより前に、外資系のITベンダーである日本オラクルに勤めていました。いざ社内ツールを作ろうとなったときも「この経験を活かせる」と考えたそうです。しかしその考えこそが落とし穴でした。

井上(THIRD):日本オラクルにいたこともあって、ITの知見はそれなりにありました。ただやはり大きなシステムとスタートアップ的な開発は異なるもので、開発は当初上手くいかなかったんです。2回のピボットを経て、今の管理ロイドに辿り着きました。

と言うのも、最初はウォーターフォールに近い形で、先にシステム全体のプロトタイプを作り上げる開発手法をとっていました。それ自体も使えるものではあったのですが、結局システムの細かいところでPMFが必要な状況が出てきてしまい、開発方法を変えました。その後は最小限の機能単位を作って、徐々に肉付けしていくというスタートアップ的なアプローチを採用しています。

知識があったからこそ、失敗の罠に陥ってしまったTHIRD。ピボットを経ながら誕生させたのが「管理ロイド」でした。

膨大な紙の管理を不要にするシステム

管理ロイドは「不動産管理をAIを使いながら効率化していくためのサービス」です。従来紙で行われていた不動産管理の報告を、システム上で実現します。

例えば検針作業は、メーターをスマホで撮影すれば一瞬で作業は終了。アプリをメーターにかざすと管理ロイドが自動でメーターを検知して、AIが数値を記録します。対前月比、対前年比に対して稼働が正常かどうかの判定も可能です。

管理点検中に異常があればアプリで現場の情報を記録し、関係者に共有できます。各種レポートは自動で作ってくれるし、修繕進捗管理も自動で実施されるという仕組みです。

そもそも不動産管理はビジネスモデルとして、多重請負構造になっています。不動産の扱いには専門的な分野が多数必要であることもあって、5次請けまでいるなんていうことも珍しくありません。

そんな中なぜ紙が発生するかというと、不動産管理の作業結果を何らかの形で記録する必要があるから。例えば下請け企業が点検をして、その記録をエビデンスとして紙で残す。現場では手書きで点検表に記入して、会社に戻ってきたらExcelに転記。写真もデジカメからデータを移して写真台帳を作成する必要があります。

ところが管理ロイドを導入すれば、現場にスマホをもっていくだけで報告書が自動で作られ、大幅な作業の効率化が見込めるというわけです。

しかし先述したように、不動産管理は多重下請け構造になっています。元請けの会社だけでなく、関係会社全体が導入しなくては全体の効率化には繋がりません。そのため管理ロイドには、様々な関係者に使ってもらう工夫が凝らされています。

井上(THIRD):例えば管理ロイドのアプリデザインは、わざと最新のUIを模して作っていません。不動産管理の現場には、実は70歳を超える高齢の方も多いんです。管理ロイドは不動産管理に関わる方全員に使っていただかないと効果が半減してしまいます。そのため、彼らにも使いやすいUIにする、言うなれば「らくらくフォン」のような設計にしているんです。

協力会社が収集したデータは、本部のダッシュボードで統合されて、一元管理が可能。ボタン一つで報告書が出力できるので、やはり紙での管理は不要となっています。

image: THIRD
image: THIRD

管理ロイドが提供できる真の価値

バーティカルSaaSの多くが単に単純作業や重複作業をなくすだけではないように、管理ロイドも業務の効率化だけがその価値ではありません。管理ロイドが削減した時間は、顧客への付加価値活動へと注がれるし、それこそが管理ロイドのコンセプトであると井上さんは語ります。

インタビュー中に井上さんが何回も口に出したのは「現場感」という言葉です。管理ロイドは現場で使われてこそ活きてくるプロダクト。井上さんのコンサルタントとしての経験に加え、現場でユーザーの声を聞きながらPMFしていくのが、管理ロイドの強みです。

実際にOnlab Resi-Techで行われたデベロッパー各社とのPoCも、現場で本当に管理ロイドが使えるのか、ネックになるのはどんな部分なのかという内容に取り組みました。その結果、協力いただいたデベロッパーからの評価は総じて好評。中にはそのまま管理ロイドの導入に踏み切った会社もありました。

そんな大手不動産会社からも認められつつある管理ロイドですが、井上さんは「まだ提供できる価値の3割しかカバーできていない」と感じているそうです。

井上(THIRD):例えばビルに何か故障があって修理するとします。その際には必ず工事が発生するのですが、工事は現場によって細かいところが違うので「適正価格」というものがありません。

ビルは設備や機械の塊で、機械には寿命があります。管理ロイドには将来的に不動産管理の実務データが溜まっていくので、複数の設備機器で構成されているビルの設備システムの中で、どの設備機器間に不具合が発生したら故障の可能性が高まるといったことが分かるようになる。各メーカーは自社製品設備機器単体のデータはもっていますが、ビルには複数の会社の設備機器が入っており、それらが有機的につながって機能しているので、建物を横断した不具合データはまだ誰も持っていません。このデータを活かせれば、不動産管理をさらに効率化できます。

そういう意味で現時点では、管理ロイドができることの半分以下しか提供できていないと考えています。

また管理ロイドは不動産管理会社だけでなく、不動産のオーナー企業にも価値を提供できるそうです。

前述の通り不動産管理は現在紙で行われていることもあって、不動産オーナーが管理記録をきちんと保管し、過去のメンテナンス状況を把握しておくのは至難の業。不動産は金融商品としての側面も強く、オーナーが不動産を売却しようとすると今まで適切にメンテナンスされてきたかが、買い手側の専門家によって調査されます。

その調査が入った際にメンテナンスの記録が残っていないと、不動産の価値計算が適切に実行できない可能性が生じるのです。その結果、今まで適切にメンテナンスしてきたかどうかが証明できないという理由で、オーナーにとっては不利な条件で不動産の売却交渉に臨まなくてはいけない場面も多くなってしまうのだとか。

しかし管理ロイドを使えば、不動産管理の実務を効率化すると同時に、不動産のあらゆる情報をデジタル管理できます。不具合を起こした箇所や修繕の方法や履歴をデータで残しておくことが、最終的にはオーナーにとって「不動産価値の下落」を防ぐことになるのです。この機能が実現すれば将来的には、不動産オーナーにとっても管理ロイドはなくてはならないサービスになるかもしれません。

井上さんは管理ロイドの将来について、以下のように語ります。

井上(THIRD):不動産や建築は外から見ると、中で何が起きているかわからないブラックボックスな業界です。私はIT、金融、経営コンサルティングとキャリアを歩んできて、いざ不動産の世界に足を踏み込んでみると、やはりIT化が遅れていました。

だからといって他業界を参考にDXできるというわけでもありません。業界を真に理解して、現場で発生している課題の本質に切り込んでいく。それができてこそ業界に貢献するプロダクトになっていけると考えているし、THIRDが目指しているのはそんな世界観です。

まだ「半分も提供できていない」という管理ロイドの将来に、期待を隠せません。

さて前編では、Onlab Resi-Tech第1期の最優秀賞に輝いたTHIRDの概要をお届けしましたが、後編では井上さんとOnlab Resi-Tech担当のデジタルガレージ木暮が対談予定ですのでお楽しみに。

THIRDはOnlab Resi-Techをどのように活用してデベロッパー各社とのPoCを成功させたのか、どんなスタートアップがプログラムに参加すべきなのか等を伺っています。こちらもぜひチェックしてみて下さい。

< プロフィール >
株式会社THIRD 代表取締役社長 井上 惇

外資系ITベンダー(DBエンジニア)、外資系投資銀行(金融商品設計・マーケティング)、外資系証券会社(創業メンバー)、企業再生/経営コンサルティングファーム(不動産コンサルティングチームリーダー)を経て、2017年夏に株式会社THIRDに参画、代表取締役社長に就任。