2020年03月24日
2020年で10周年を迎えるシードアクセラレータープログラム「Open Network Lab(Onlab)」。その姉妹プログラムで2018年からスタートしたのが、生活者を起点とした住宅・暮らしの豊かな未来を描くプログラム「Onlab Resi-Tech」です。
OnlabはPMF(プロダクトマーケットフィット)達成前、いわゆるトラクションが出る前のシードスタートアップのアクセラレーションを担当しますが、Onlab Resi-Techは、2つのプログラムになっています。
Onlab Resi-Tech最大の特長は、パートナー企業が保有するアセットを活用できることと、業界を代表する複数の大手プレイヤーと同時に実証実験を行うことや新ビジネスの共創を推進できることです。その中でデジタルガレージはスタートアップとパートナー企業をつなぎつつ、Open Network Labのノウハウを活かしてメンタリングや、各段階におけるサポートを行います。
Onlab Resi-TechではOnlabが企業とスタートアップ両社の橋渡しをすることで、オープンイノベーションを生み出しやすくし、実証実験や事業連携を加速させていくのが強みであると、担当者は語ります。
Onlab Resi-Techのプログラム内容、スタートアップにとっての価値、どんなスタートアップに応募して欲しいのか、Onlab Resi-Techを担当する木暮さんと松本さんにお話を聞きました。
― Resi-TechはOnlabのプログラムの1つとして運営されていますが、そもそもなぜ数ある分野の中からResi-Techという領域が選ばれたのでしょうか。
木暮:不動産業界は今、ビジネスの変革期です。人口減少に伴い個人向けのマーケットは減少し、昨今のリモートワーク化に伴い今後はオフィス需要が減るかもしれません。そのため不動産業界は今、新しいビジネスを見つけなければいけないということで、オープンイノベーションに取り組んでいます。
木暮:元々私も松本も、DGコミュニケーションズというデジタルガレージの子会社で、不動産広告を担当していました。そのため不動産デベロッパーの方々とは以前からお付き合いがあったんです。
そこでOnlabとしてResi-Techに特化したプログラムを運営することで、スタートアップには成長のチャンスを、不動産業界にはオープンイノベーションの機会を提供できると考え、Onlab Resi-Techを始めることになりました。
当時の顧客でもあった不動産デバロッパーの方々からは、不動産広告も単に広告を売るというだけでなく、不動産の価値を上げたり新しい商品を開発したいという課題は各所から挙がっていました。その課題に対して、Onlabというスタートアップの皆さんの事業視点で一緒にオープンイノベーションを起こそうというチャレンジをしていく、というわけですね。
― Resi-Techでの3ヵ月のプログラム期間中には、どんなことをやるのでしょうか。
木暮:そもそもなのですが、Resi-Techのプログラムは大きく2つに別れます。一方が「ACCELERATOR PROGRAM」で、他方が「Open Innovation PROGRAM」です。
前者は「チームとプロダクトはあるけどトラクションはこれから」くらいのスタートアップを対象として、PMF、導入を目標としてスタートアップの育成・支援を実施する、という内容です。後者は、シリーズA程度以降のスタートアップを対象として、デベロッパーと一緒にオープンイノベーションの実現を目指します。
2つに別れているため申込みの際にはどちらのプログラムか選んでいただきますが、スタートアップのステージや状況を鑑みてどちらが向いているかをOnlabとスタートアップで相談しますので、安心して応募いただければと思います。
Onlabが何を作るかを検討する「What」の意識が強いのに対し、Resi-Techはどのように事業を進めていくかの「How」の要素が強いのが特徴です。
松本:「Open Innovation PROGRAM」では3ヵ月のプログラム期間中に、応募頂いたビジネスアイデアの実現に向けて、デジタルガレージ・パートナー企業と共にディスカッションや課題の検証を通じてアイデアのブラッシュアップを目指します。
アイデアの発表や今後の事業計画の発表を3ヵ月の成果として行いますが、プログラムの目的はあくまでも新しいビジネスの創造なので10月以降もPoC(コンセプト検証のための実証実験)を通じた検証などプロダクト・サービスの開発など実現に向けた活動を行います。その活動の中でOnlabはPM(プロダクト・マネジメント)として、スタートアップとパートナー企業を繋ぎ、効率的に事業を進めていくサポートをしていきます。
木暮:スタートアップから見たOnlab Resi-Techの特長は、Onlabが事業をアクセラレートするだけでなく、デベロッパーと一緒になってオープンイノベーションを生み出していく点です。PoCに向かって進む間も、パートナー企業との調整や計画立案もOnlabがサポート。デベロッパーのアセットを使いながら、スタートアップが自身の事業をアクセラレートしていきます。
松本:全額というわけにはいきませんが、PoCに係る費用をOnlab側が負担するケースもあります。Onlabがサポートする人件費等も考慮すれば費用的なメリットもあるのではないでしょうか。
― Onlab ResiTechでの皆さんの役割について、詳しく教えてください。
木暮:アクセラレータープログラムは通常、大企業が主催して、スタートアップが申し込み、両社が直接コミュニケーションをとるというスタイルです。
Resi-Techの主催社はOnlabを運営するデジタルガレージで、そこにデベロッパーの方々に参加いただいています。つまりOnlab Resi-Techと他のアクセラレーションプログラムの違いは、課題をもっている大企業とスタートアップがいきなりコミュニケーションをとるのではなく、Onlabが「ハブ」となることなのです。
木暮:アクセラレーションプログラムの上手くいかない原因の一つに、大企業とスタートアップのやりたいことが異なるということが挙げられます。その点Onlab Resi-Techではまず、ハブであるOnlabがデベロッパーから事業課題を収集し、Onlabが生活者・スタートアップ・テクノロジーという目線に変換。スタートアップからソリューション提案を頂き、課題との落とし所を見つけます。このようなフローを辿ることでオープンイノベーションを成功に導いているのです。
― 落とし所と言っても、スタートアップ側も当初提案を持ってくると思います。それが方向転換することも多いということですか?
松本:デベロッパーや不動産業界と一口に言っても、実際には部門や担当が非常に細分化されていて、業務もニーズも相手によって異なります。それが故にスタートアップからよく聞くのは、自分たちのサービスをセールスしたいと思っても対象となる部門が分からない、自分たちの考えていた課題が全く違っていたといった話です。また業界特有の慣習や文化などが分からず、うまく不動産事業者とコミュニケーションが取れないというケースもあります。
その橋渡しや通訳によるサポートがOnlabの存在意義。潜在的にはお互いを必要としているのに、思い込みや勘違いでマッチングが上手くいかなかったり、出会っても成功しないというのはもったいないですから。
― オープンイノベーションをするときに、担当が違うから難しい、ということはよくあると思うのですが、Resi-Techの場合は関係者にコンタクトをとることに、デベロッパーは協力的なのでしょうか。
木暮:皆さんかなり協力的です。そもそも大企業が他の事業部等にコンタクトを取りにくいというのは、紹介するのが大変だから。紹介したいスタートアップとミーティングをして、調べて、資料を作って…とやっていたら時間がいくらあっても足りないのです。
その点Resi-Techでは、Onlabが「このスタートアップはこういうサービスをしていて、こういう実証実験ができないかと考えています」という資料を作り、あとは他事業部に連絡するだけ、という状況を作っています。打ち合わせのセッティング以外はOnlabが担当しますという状況にすることで、スタートアップのサービスに適した部署や担当者を紹介してもらいやすくしているんですね。
松本:「よくわからないけど、とりあえず新しいスタートアップ来たから会ってみてよ」とは、なかなか違う部門の方には言えません。会うべき理由を明確にして、コンタクトにまでつなげるのがOnlabの価値かと思います。
― パートナーの中には既にオープンイノベーションで成果を上げている会社もいます。デベロッパーの大手企業はなぜOnlab Resi-Techに参加するのでしょうか。
木暮:第1期では7社のデベロッパーがOnlab Resi-Techに参加いただきました。各社各様の理由があると思いますが、Onlab Resi-Techがコンソーシアム的な取り組みだからというのはあります。
極端なケースですが、あるスタートアップのサービスをみんなでPoCしたら、自分たちだけでなく7社分のフィードバックをスタートアップに返せるわけです。つまりデベロッパーから見たら、当該サービスの導入検討フェーズ時に自社の結果だけでなく、他社の結果も参考にできます。当然みんなでやればコストやスピードという面でもメリットがありますね。
松本:裏を返せばデベロッパー7社と一気に協業が進む可能性があるということで、これもスタートアップにとってのメリットですね。
― 先程デベロッパー側から課題を挙げてもらうとのことでしたが、どんな課題が挙げられたのでしょうか?
木暮:オーソドックスに「スマートホーム」「IoT」などはもちろん、「場所に囚われない働き方」「シェアリング」「移動手段としてのMaaS」等も挙げられました。
松本:意外なところでは「エンタメ」が出てきました。例えば新しい都市型エンターテインメントを提供したいと。住宅やビル、商業施設などの自分たちの商品価値を上げるアイデアも歓迎ですが、デベロッパー側にはアセットを通じてエンドユーザーにどんな価値を提供できるかという事にも強い関心があるのでそういったアイデアを応募頂けると嬉しいですね。
木暮:Resi-Techと言っても住宅のレジデンシャルと言うよりは「街」というフィールドをイメージしていただいたほうがいいと思います。Onlabとしては街に住んでいたり、働いていたりする方々のために何ができるか、という視点からプログラムを捉えています。
― 最後に、どのようなスタートアップにOnlab Resi-Techの門を叩いていただきたいか、教えてください。
木暮:不動産業界にいる方、不動産業界向けのプロダクトを作っている会社、不動産業界にアタックしたいスタートアップはもちろん、今までデベロッパーに自分たちで行ってもダメだった、不動産業界は難しいなと感じているスタートアップにも来ていただきたいです。チームやプロダクトがあって、トラクションを追い出したステージ以降の会社は、ぜひお越しください。どうやったら不動産業界に届くのかを一緒に考えていきましょう。
松本:不動産業界は今変革期であり、スタートアップにとってはチャンスです。今回協賛頂いている会社のデベロッパーもそうですが、業界全体にスタートアップの持つアイデアや技術を活用して自社事業に活かしたいというニーズが高まっています。デベロッパーの関心対象も広がっているので、ぜひチェックしてみてください。
Onlab Resi-Techでは一度に多くのパートナー企業と接点を持つことも可能なので、今回のテーマ(ライフスタイル、安心・安全、健康、データプラットフォーム、不動産、その他)に少しでも自分たちは関わるなと感じた方には是非この機会に応募して欲しいですね。
< プロフィール >
株式会社デジタルガレージ オープンネットワークラボ推進部 マネージャー
Resi-Tech担当 木暮 祐介
1983年生まれ。大学時代は、建築を専攻。その後、デジタルガレージ グループに入社。通信会社のプロモーションの企画立案、提案から運用に携わる。その後、不動産企業のコンサル、ブランディングから業務から広告プロモーションの企画、提案から実施までを担当。2018年よりOpenNetworkLab推進部に参画。大手デベロッパーとの暮らし・不動産領域におけるスタートアップの発掘・支援を目的とするOnlab Resi-Techを担担当。主に全体管理、PoCのPM業務を中心に担当。
株式会社デジタルガレージ オープンネットワークラボ推進部 ディレクター
Resi-Tech担当 松本 翔太
1984年石川県金沢市生まれ。2007年にデジタルガレージグループの広告代理店であるDGコミュニケーションズに入社。入社1年目に不動産ポータルサイト立ち上げに携わり、その後デベロッパーをメインクライアントとする広告営業部門に配属。営業担当として不動産物件のマーケティング調査からコンセプト立案、クリエイティブ、広告施策の企画・提案から実施までをワンストップで行う業務に従事。2018年よりOpen network Lab推進部に参画。大手デベロッパーとの暮らし・不動産領域におけるスタートアップの発掘・支援を目的とするOnlab Resi-Techを担当。