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地球にやさしいヴィーガンクッキーで環境問題に挑む。「ovgo B.A.K.E.R」創業者が語る「B Corp」認証のメリットと課題|Meet with ESG Startups vol.7

地球にやさしいヴィーガンクッキーで環境問題に挑む。「ovgo B.A.K.E.R」創業者が語る「B Corp」認証のメリットと課題|Meet with ESG Startups vol.7

近年「企業価値」と「社会的価値」の両立を目指す「インパクトスタートアップ」が注目され、Open Network Lab(以下「Onlab」)でも、スタートアップの事業成長と会社経営のあり方や持続可能な社会へのインパクトをどのように創り出していくのか、経営者としての考え方や企業の様々な取り組みについてインタビューをしています。

今回登場するのは、「Doing Good Tastes So Good(いいことをするってこんなに美味しい!)」を合言葉に環境にやさしく、食の多様な嗜好に応えるヴィーガンのアメリカン・クッキーを販売し、たちまち人気を博したベイクショップ「ovgo B.A.K.E.R」を担う株式会社ovgo代表取締役の溝渕 由樹さん。学生時代NGO団体や途上国支援に関わった経験から食糧問題に強く関心を持ち、大手商社に勤務後、幼い頃から好きだった焼菓子と環境問題の解決を結び付けた事業を立ち上げるべく起業し、同店をオープン。脱炭素に貢献した店舗として国内の飲食店初となる国際認定制度「B Corp」も取得しました。そんな溝渕さんに企業当時の考えや「B Corp」認証取得に至るまでの経緯、海外展開も見据えた今後の展望についてデジタルガレージでESGを担当する堤がお話を伺いました。

< プロフィール >
株式会社ovgo代表取締役 溝渕 由樹

慶応義塾大学在学中、NGO団体や途上国支援に関わったことから食糧問題に関心を持つ。三井物産に入社し、法務関連の部署でコーヒーのトレーディングやエネルギー事業、ベンチャー投資について学ぶ。「自身の好きなことで環境や社会の課題解決に繋がる事業を立ち上げたい」という思いから退社。「DEAN&DELUCA」勤務を経て全て植物性、できる限りオーガニック、自然栽培または国内で生産された食材でクッキーを中心とした焼菓子の製造・販売を行うアメリカンヴィーガンベイクショップ、「ovgo B.A.K.E.R」をオープン。現在は日本橋、軽井沢、京都など7つの実店舗を構えるほか、オンラインでの販売、全国各地でのPOPUP開催も定期で行う。

株式会社デジタルガレージ オープンネットワークラボ推進部 マネージャー ESG担当 堤 世良

三井物産でアメリカや東南アジアの不動産開発、森林・植林関連事業の事業開発に従事。スペイン/IE Business Schoolでサスティナビリティやインパクト投資領域を中心に学び、2021年にデジタルガレージにて、ESG・サステナビリティの新規事業の創出と、ESGの観点におけるスタートアップの支援・投資等を行う。

環境負担軽減を目指す、プラントベースのベイクショップ

堤(デジタルガレージ):まずは株式会社ovgoの事業概要を教えていただけますでしょうか。

溝渕(ovgo):弊社では100%プラントベースのベイクショップを展開しています。このなかにはグルテンフリーのお菓子もあるのですが、何故こういった事業をやっているかというと、根底には環境負担を下げるという意味合いでプラントベースのメニューを提供したいという考えがあります。そういったものに対して沢山の方に興味を持っていただきたいという思いからいちばん初めは2020年に青山ファーマーズマーケットに出店するところから始めました。

私達がフォーカスしているのは、環境や社会にとってよい選択肢という文脈でのプラントベース。ヴィーガンの方にとっては、製造過程で動物の骨が使用される白砂糖も気になる要素になったりするので、砂糖を変えることで食べられるようにする等の工夫を行っています。健康目的でヴィーガンやプラントベースに関心がある人も多いので、小麦粉不使用のオプションを付けたりもしました。いろんな考えや制限がある方と、全くそうじゃない方が一緒においしいものを食べられる環境を作っていきたいと考えています。

2021年6月には日本橋の小伝馬町にお店をオープンして現在は原宿や京都など、6拠点の実店舗を展開しています。さらにオンラインショップを運営したり、様々なコーヒーショップでポップアップを行ったり、小売りの店舗での卸しをしたりというのが今の主な事業となっています。

ヴィーガンの人もそうでない人もおいしい焼菓子を共有できる場を目指して

堤(デジタルガレージ):溝渕さんはどんなことがきっかけで起業に至ったのか、詳しくお話いただけますでしょうか?

溝渕(ovgo):20歳の時にロンドンに留学し、途上国支援や貧困支援をしていた際に食糧問題に関心を持ったのがいちばん初めのきっかけだったと思います。日本に帰国してNGOでインターンをしていたのですが、寄付金を募ってもスポンサーが1企業になってしまった場合、事業の継続が難しいという状況を垣間見ました。その時、事業が社会にとって必要なもので、ビジネスとして上手く回りながらも社会にとってよい取り組みができないかと考えるようになったんです。

その後、総合商社の「三井物産」に入社し、途上国との関わりやビジネスを作ることを学びました。一方で、学生時代からアメリカのジャンクなお菓子やパンが大好きでいろんなカフェを巡ったりしていたんですね。それで入社して3年経った頃から「自身が好きなことで自分が社会にとって必要だと思うことを事業にしていきたい」と思うようになり、退社を決意しました。実際辞める時はフェアトレードのようなことをいつか始めようかとしか思っていなかったんですけれど。

退社してすぐにアメリカやブラジルにネタ探しに行った際に、向こうではヴィーガンやプラントベースが環境問題や食糧問題という観点で広まっていて、「ビヨンドミート(Beyond Meat)」や「インポッシブルミート(Impossible Meat)」をはじめとした植物由来の材料を使った代替肉が流行し始めていたんです。それまでヴィーガンと言えば、動物愛護や健康志向がベースになっていて365日絶対に乳製品を食べてはいけないというような、極端なイメージが強かったんですが、「環境や社会にやさしい」という文脈になると、「ミートフリーマンデー」などもあり、自分のペースで取り入れられる選択肢の1つなんだと認識できるようになりました。日本にはまだその考え方が浸透していなかったので、帰国してすぐに通常のお菓子と比較しても同じようなおいしさの100%プラントベースのお菓子を作って事業にしようと決意しました。

堤(デジタルガレージ):確かに欧米に実際に行くとヴィーガンオプションも浸透していますし、味もおいしい店舗が多いですよね。因みに「ovgo B.A.K.E.R」に実際に訪れるお客様は、動物愛護を背景とした方やアレルギーの方以外もいらっしゃるのでしょうか?

溝渕(ovgo):ヴィーガンやグルテンフリーのお店を探している方たちはわりと自身で積極的に探してくださることが多いんです。なので「ovgo B.A.K.E.R」は、ヴィーガンやSDGsなどに興味がなかった人にも関心を持ってもらうことを初めからかなり意識してブランド作りに取り組んでいました。今のお客様は過半数がヴィーガンだからという理由ではなく普通においしいから、好きだからという理由で来店してくださるんですね。その上でサスティナビリティに関心がある方が多いので、味だけではなく背景となっている部分にも関心を持ってファンになって下さる方がいちばん多いと感じています。

「B Corp」認証を取得することで社会からの信頼性を獲得

堤(デジタルガレージ):実際にクッキーをいただきましたが、店舗もおしゃれですしパッケージもかわいく味もおいしかったので、確かにそういったお客様は多そうですね。今回、加えてぜひお話聞きしたかったのが「B Corp」認証の取得についてなのですが、なぜ取得されたかその経緯を教えていただけますでしょうか。

溝渕(ovgo):「B Corp」を取得した目的としては大きく2つあります。ひとつは私たちがサスティナビリティに取り組む会社なので、それを外部から認証される社会のスタンダードに合わせたものにしたいということ。もうひとつは、将来的に欧米をはじめ海外に進出していくというプランがあるので、向こうでの信頼性を獲得するという意味合いで必要性を感じたという事です。青山ファーマーズマーケットから事業をスタートし、次の年に創業してその時点で1年の実績があったので、ゼロベースで会社を作るところから、BIA(B Impact Assessment)と呼ばれるB Corpの認証のアセスメントの内容と制度を照らし合わせつつ、「B Corp(ビーコープ)」取得に向けて準備していたという感じです。

堤(デジタルガレージ):初めからそういった情報をもって始められる企業は多くないかとは思うのですが、進めるにあたって大変だったことや学びになったことはありましたか?

溝渕(ovgo):企業規模がまだ小さい時点で「B Corp」を取得するのが大事ということでしょうか。制度がまだなく、いい意味での緩さがある段階の時に従業員の中で口約束になってることを言語化したり体系化したりすることで、社内制度として固めていくというやり方が凄くよかったと思います。日本では自然に取り組んでいることが、BIA(B Impact Assessment)の中でポイント加点になるというケースもわりとありましたね。現状自社にない項目を認証取得に合わせて作っていき、それを従業員に周知していくことを強化してやってきたように思います。

ただ、環境の部分でポイントを獲得するには、会社としてCO2の排出量やゴミの量を測り、相殺する必要もあったので、定量化が大変でした。なんとなくでやっていたところを「B Corp」に合わせて制度化し、慣習を変えていったことがいちばん苦労したことかもしれないですね。

堤(デジタルガレージ):取得するのもさることながら「B Corp」をキープしていくのも大変かなとは思うのですが、当初の目的や目標は達成されましたか?

溝渕(ovgo):昨年12月に取得し、2023年の1月にプレスリリースをリリースしたので、企業としての効果の全体像はまだ分かりかねるのですが、嬉しかったのはプレスリリースやInstagramライブなどを通して「B Corp」認証取得をしたことを知った方が弊社で働きたいと応募してきてくださることですね。アルバイトのスタッフももちろんなのですが、サステナビリティに関心ある方が就職を希望されるケースもわりとありました。あと、弊社内でよかったのは、「B Corp」認証を取得したことを報告した際に、スタッフのモチベーションが上がったことです。「自分たちの事業やサービスは社会をよくするために取り組んでいるんだ」という認識が生まれたので、そういったモチベーションを維持する材料としては凄くよかったなと思います。日本だとまだ「B Corp」のコミュニティが狭いので、取得した企業同士の繋がりが深まったことも非常にポジティブな出来事でした。

堤(デジタルガレージ):「B Corp」認証の取得に関して投資家からの反応や資金調達の影響などはありましたか?

溝渕(ovgo):残念ながらあまりないですね。少なくとも弊社に入ってくださっている既存投資家からは「B Corp」認証を理解してくださっているので、取ったからにはメディア含めてどんどんプッシュしていったらと後押しはしてくれます。現時点だと金融機関やベンチャーキャピタルでは、この分野のアドバンテージが直接投資判断に繋がるというところには至っていなかったみたいです。

堤(デジタルガレージ):海外を視野に展開していく上で「B Corp」認証の取得をすることで認知されやすくなるということはあるのでしょうか。

溝渕(ovgo):弊社の商品を気入ってくださっている海外の企業様で同じように「B Corp」を取得されているところがあり、その方たちは取得のニュースを見て、非常に喜んでくださいました。企業取り組みも日本語で説明しないと分からない部分が、このマークがあるだけで同じように取得している企業同士はリスペクトし合い、繋がることができるというのはいいことかなと。

堤(デジタルガレージ):なるほど。いいことですね。因みに取得することでマイナスになった部分はありましたか?

溝渕(ovgo):事務的なデータ集める業務にアサインされるスタッフの業務負荷が上がるということぐらいでしょうか。また取得に費用がかかるのですが、弊社のような中小規模の会社だと高くはないので、ポジティブな面の方が大きかったですね。

投資家や金融機関への影響力がこれからの課題

堤(デジタルガレージ):これからも「B Corp」認証はスタートアップだけでなく多くの企業が取得を目指すようになっていくと思うのですが、何かアドバイスはありますか。

溝渕(ovgo):ちょっとでも思いがあったら、最初の時点から「B Corp」の取得を視野にいれて動いて欲しいということです。私たちのこの2年ぐらいのことを振り返るとスタートアップとして信頼性やネームバリューもないし、ちょっとでも理解しやすいコミュニティとネットワークを得ることがビジネスの発展において重要なことだったと思います。
また、少人数の段階で始めることも重要です。私たちは3名で起業し、その後、5月にお店をオープンしたタイミングで30名から40名に増え、現在は100名程度の企業となりました。組織がまだ出来上がる前にしっかりそのカルチャーの中の指標を決めていたので、進めやすかったと思いますね。会社の制度を変える際は多くの人の同意などが必要になってくるので、その輪っかが小さいうちに進行したのは良かったと思うことのひとつです。

それから、環境面でB Corpのポイントを獲得する為に必要なCO2の排出量、ゴミの量などの横断的ななデータは、一定の切り取り方をしておけばそのまま出せるものなので、最初の時点から月末についでにデータをとっておくというのが大事かなと。そういった意味で忙しくなってからよりも最初の段階に考えて置いた方がスムーズだと思います。

堤(デジタルガレージ):B Corp取得やインパクトスタートアップに対する課題感をお伺いできますか?

溝渕(ovgo):世の中にはSDGs融資というものがありますよね。「B Corp」認証を取得した企業としてそういった融資を受けないか、お声がけいただくことがあるんですが、環境や社会面のインパクトとはずれるような指標のところをSDGsに当てはめた融資が多く、弊社だと「B Corp」を取得したからといってそこのクレジットが上がるわけではないので、枠に入らないことが多いんです。ESG投資のファンドやインパクトの投資などの金融プログラムがあるのであれば、もう少し「B Corp」認証を取得したことがメリットになればいいなと思います。一生懸命環境に配慮した活動を行う企業がもう少しレバレッジをかけて進め、それをサポートする金融があるといいなと。

私は最終の利益は何のための利益で、誰のための利益なのかということをよく考えていて、今までの考え方だと株主的に黒字を多く残して分配していくところが企業価値が高い会社という認識だと思うのですが、そこには結構違和感を持っています。従業員の分配とか地域コミュニティの分配とか、PLのもっと手前のところで分配なされていくことに価値があるし、そっちの方がサステナブルな事業だと思っています。そういった部分に理解をいただけるファンドは少ないかなと。

弊社のようにオーガニックの食材を使用し、従業員にもできるだけいい対応を行うとなってくると、コストを削減するか売り上げが莫大的に何か伸びるノウハウがない限り、マクロに残るところがないという話になり、黒字化が難しいと見られてしまう部分もあって。投資家はもちろんですが、金融機関も認識をもう少し変化させていってほしいなとは思います。「B Corp」認証は欧米では認知度があるので、今後海外進出をしていく中で向こうで違うリアクションが得られたら嬉しいですね。

欧米での取り組みと気づきを日本にも反映

堤(デジタルガレージ):今後、御社として取り組まれていきたいことや展望はございますか?

溝渕(ovgo):国内でもより多くの人に手に取りやすいブランドになれたらと考えているので、今後もオンラインショップは強化し、商品も増やしていけたらと思います。ヴィーガンやプラントベースに興味を持たなかった人が持つきっかけをいろんな側面で広げていきたいと思っています。今後アメリカに進出することで、よりサスティナビリティに対する取り組みやアクションがブラッシュアップされていくと思うので、それを日本に持ち帰って、より精度の高い取り組みにしていきたいですね。「B Corp」認証の側面で言うと、日本においては面白い時期だと思っていて。初期段階で取得した企業として正しい発信、正しく仲間作りを心掛けていきたいと思っています。

堤(デジタルガレージ):溝渕さんのお話の中で課題に挙がっていたように、金融機関側も志の高いスタートアップを支援していく体制を強化していく必要があると再認識しました。長年スタートアップを支援してきたOnlabも、新しい支援の形の一つとして、社会・環境問題に取り組むスタートアップをこれからもサポートし、世界をリードする存在を目指していきたいと思っています。「B Corp」に関しては認知がまだ広がっていないので、同様のマインドを持っているスタートアップ企業にはぜひ今回の記事を参考に認証取得にチャレンジしてもらいたいですね。ありがとうございました。

(執筆:中村友美 撮影:taisho 編集:Onlab事務局)

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