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子どもの興味を引き出す冷凍宅配幼児食 「mogumo」が作るあたらしい食体験|Meet with ESG Startups Vol.8

子どもの興味を引き出す冷凍宅配幼児食 「mogumo」が作るあたらしい食体験|Meet with ESG Startups Vol.8

近年、「企業価値」と「社会的価値」の両立を目指す「ESGスタートアップ」が注目され、Open Network Lab(以下「Onlab」)でも、国内外の支援先が増えてきました。シリーズ「Meet with ESG Startups」では、スタートアップの事業成長と会社経営のあり方や持続可能な社会へのインパクトをどのように創り出していくのか、経営者の考え方や企業の様々な取り組みについて伺います。今回登場するのは、冷凍宅配幼児食 「mogumo(モグモ)」を営む株式会社Oxxx(オックス、以下「Oxxx」)です。mogumoのサービス内容から、「体験」の中身まで、OnlabFUKUOKAを担当する大木とOnlabESG担当の石川が、Oxxx代表の黒瀬さんにお話を伺いました。

< プロフィール >
株式会社Oxxx 代表取締役 黒瀬 優作

2012年株式会社Nexyz.に入社。 2014年にグループ会社である株式会社Brangsta転籍しBtoB向けECサイトを運営する企業様支援をするディレクターを従事。 2016年、美容系スタートアップ企業に営業部長として入社。 2021年3月株式会社Oxxx設立。2022年5月に冷凍幼児食「mogumo」をローンチ。

世界中の親が一度は体験する、幼児期の食の悩みに共感

― 直近でのプレスリリースも拝見しましたが、冷凍幼児食「mogumo」について教えてください。

黒瀬(Oxxx):私たちは、”子どもの未来を信じ、子育てをするすべての人のパートナーになる”をミッションに掲げる福岡の会社です。「幼児食に関わる悩みをすべて解決するサービスを作りたい」という想いから、幼児期に必要な栄養素をカバーするだけでなく、子どもが喜んで食べる食の体験作りを目指し、1歳半から6歳までに特化した冷凍幼児食ブランドの「mogumo(モグモ)」を運営しています。

― DGとOxxx社との出会いの背景にはOnlab Fukuokaの活動があると聞きましたが、どのような活動なのでしょうか。

大木(Onlab):デジタルガレージの福岡拠点では、「Onlab FUKUOKA」というオープンイノベーションプログラムを運営しています。テクノロジーの社会実装に向け、スタートアップと各産業の共創による事業創出を目指すプログラムで、私達はパートナー企業とスタートアップとのビジネス開発をファシリテートし、福岡地域のインキュベーションエコシステムを立ち上げていこうと日々活動しています。Onlab Fukuokaの活動拠点は福岡で存在感を放つFGNなのですが、ある日ここでピッチイベントが開催されたんです。デジタルガレージが協賛してたこともあって、その審査員を私が拝命し、そのときにデジタルガレージ賞に選ばせて頂いたのが冷凍宅配幼児食「mogumo」でした。

Onlab Fukuoka 大木 健人
Onlab Fukuoka 大木 健人

― 「mogumo」のどの部分に共感されたのでしょうか。

大木(Onlab):純粋に、私自身がいちユーザーとしていいサービスだなと感じました。私にも子どもがいて「確かに、せっかく作った料理を食べてくれないこともあったな」なんて当時のことを思い出して、非常に共感できたんです。創業者の思いがビジネスに反映されている点が好感を持てました。

石川(Onlab):私もmogumoのピッチを聞いていました。幼児食の課題はおそらくどこの国・地域でも共通で、どこの親御さんもストレスを抱えているような気がして「なんで日本では注目されていないんだろう」と不思議に思ったのを覚えています。実際、後で調べてみたら、海外にはmogumoのようなサービスはあるんですよね。日本でも共働き家庭が増えるなど幼児食のニーズは今後上がってくるはず。mogumoにはその旗振り役になってほしいです。

Onlab ESG 石川
Onlab ESG 石川

作るのも大変なのに、作っても食べてくれない 幼児食の課題とは

― Oxxxは福岡のスタートアップですが、代表の黒瀬さんは元々福岡の方なのでしょうか。

黒瀬(Oxxx):いえ、私は東京の出身で、新卒からずっと東京で働いていたのですが、妻が福岡出身で、結婚を機に2016年に福岡に移住したんです。それで福岡で起業して、それからずっとこちらで活動しています。

― 福岡に来て幼児食の事業に取り組み始めたのですね。

黒瀬(Oxxx):それが最初は歯磨き粉ビジネスに取り組もうとしていたんです。歯磨き粉ってドラッグストアにとんでもないくらいの種類があって選べないじゃないですか。実際「CMで見たことあるから」くらいの理由で選んでる方が多いそうです。ただ歯医者に言わせれば、口内環境次第で歯磨き粉を変えたほうがいいとのこと。私は前職で歯のホワイトニングに関わっていたこともあって土地勘があったので、適切な歯磨き粉を作るビジネス、言うならば歯磨き粉のパーソナライズをしたいと思っていました。ただ、歯磨き粉は大きな釜で作る都合、どうしてもロットが大きいんです。なのでパーソナライズと非常に相性が悪い。その事実が判明してこのビジネスは諦めました。

株式会社Oxxx 代表取締役 黒瀬 優作 氏
株式会社Oxxx 代表取締役 黒瀬 優作 氏

黒瀬(Oxxx):じゃあどうしようかと思っていたときに、1歳半になる娘を見ていたら「こんなに小さい子どもがいるパパで、創業してどうなるかも分からない人生を歩んでいるということ自体が貴重なんじゃないか?」と思ったんです。妻も起業自体は応援してくれていたので、そういった身近な人のための何かできる事業ができないかと考えていたら、「そういえば自分自身も子どもの食事に困っているな」と閃きました。離乳食は購入していたのですが、幼児食になると途端に購入できるものがなくなる。それで気軽に食べられる幼児食にはニーズがあるだろうと思ったんです。

― 確かに、スーパーには離乳食はありますが、幼児食というジャンルはあまりみかけない気がします。

黒瀬(Oxxx):その通りです。共働きが増えて忙しい家庭が増えているなかで、幼児食を作るのに時間と労力がかかって親御さんが疲弊していく。これは社会課題だなと思い「幼児食」にチャレンジすることにしました。

― それでmogumoに至るわけですね。mogumoはどんなサービスなのでしょうか。

黒瀬(Oxxx):mogumoは管理栄養士など幼児食のプロたちと商品を開発しています。対象年齢は1歳半から6歳で、オリジナルパッケージの可愛いパウチに1つあたり約100gの食事が入っており、レンジまたは湯せんで約3分温めるだけで用意できるのが特徴です。また子どもにわからないように細かくなった野菜を入れたり、食べやすいように色々な工夫もしています。

株式会社Oxxx mogumo

― 幼児食にまつわる課題にはどのようなものがあるのでしょうか。

黒瀬(Oxxx):先程も話に出たように、現代は共働きの家庭が増えていて、全体の7割を占めると言われています。そうすると当然親御さんは毎日忙しく、料理をすること自体が大変です。加えて、幼児食は材料を細かくする、柔らかくする、味付けを変える、栄養を考えるなどの事情から、大人の食事と別に作る必要があります。それだけでも大変なのに、手間と時間をかけてせっかく作った食事を、子供はイヤイヤ期で食べなかったりするんです。

大木(Onlab):分かります……うちの子も、せっかくご飯を作ったのに食べないことがよくあるんですよね……妻が傷ついています。

石川(Onlab):私も好き嫌いが激しい子で、ハンバーグが嫌いだったんです。それで母はいまだにハンバーグがトラウマだと言っていました。

黒瀬(Oxxx):ショックですよね。幼児食を食べる時期というのは子どもの自己主張が強くなる時期でもあるので、椅子に座ってくれないとか、座るまで1時間かかるとか、各家庭が色んなことに困っています。

親としては本当は作ってあげたいんですよ。でも働きながら食事を作るのは本当に大変。そんなときにこそmogumoを使ってほしい。毎日mogumoで済ませるというよりは、ちょっと時間や気持ちに余裕がないときに使ってもらったり、冷蔵庫にストックしておくことで安心できる存在になっていきたいですね。

― 商品にはどんなものがあるのでしょうか。

黒瀬(Oxxx):子供に人気がありそうな「チキンカレー」や「コロッケ」から、家庭で作るには手間がかかる「サバの味噌煮」や「つくね」、他にも「ミートソース」「ハッシュドビーフ」など20商品を用意しています。主菜、副菜、スープ、米飯などを用意し、栄養バランスも考え、子供が残さず食べてくれそうな商品から開発しました。今は20商品を展開していて、2023年4月に10商品を追加予定です。ちなみに人気商品の1位はチキンカレーで、2位はサバの味噌煮となっています。

株式会社Oxxx mogumo
mogumoのHPより

石川(Onlab):幼児にサバが人気なんですね。意外です。

黒瀬(Oxxx):そうですよね。ただ、まだ「売れている」ということしかわかっていないので、これから、子供が好きなのか、それとも親が食べさせたいから人気なのか調べようとしています。こういった調査やデータ次第では、次に作るものが変わるかもしれませんね。

― データが商品開発等に影響するんですね。

黒瀬(Oxxx):その通りです。データは今後上手く活用していきたいと考えていますし、実際、データを使ってそれぞれの子どもたちに最適な栄養バランスを補えるようなシステムを今開発しています。

例えば子どもの成長度合いで摂取できる栄養素が変わるので、身長や体重といった情報はmogumoにとって非常に重要なんです。(mogumoユーザーの最小・最高年齢である)1.5歳と6歳では摂取できる栄養素が異なりますし、1日に摂取していい塩分量も変わってくる。また分析次第でパーソナライズされた食事を選んだり、mogumoじゃなくてもどんな料理を作ればいいかレコメンドできるようになる可能性もあります。データが溜まれば将来的に、例えば「アレルギーの子供にはこういうものを食べさせたらいい」なんて情報も集まるかもしれません。実際、特殊なアレルギーをお持ちのためmogumoを解約したり使えないという子供もいるんです。そういった状況でも安心してmogumoを使っていただけるようにしていきたいです。

「おいしい幼児食」だけではなく「幼児食体験」の構築へ

― 幼児食の商品開発において最初の関門みたいなものはなかったのでしょうか。

黒瀬(Oxxx):めちゃくちゃありましたよ(笑)。そもそも私に食品ビジネスの経験がないので、最初に何をしたらいいかわからなかったです。たまたま工場にも詳しい管理栄養士の後輩がいたので彼女に相談していました。

一番驚いたのは、製造を断られることが非常に多かったことです。工場としては作ったら売上になるのだから、当然作ってくれるだろうと思っていたんです。でも幼児食は、下手をすると命に関わる非常にセンシティブなもの。幼児食自体がまだ世の中に浸透していないし、だから必要な技術がない工場も多くて「うちではできません」と当初は何十件も断られました。とはいえ諦めるわけにもいかないので「世の中をこうしたいから協力してください」と、アポをとっては頼み込んで……を繰り返して、やっと作ってくれる工場を全国で数件みつけたんです。

― 工場は全国にあるんですね。流通も大変そうです。

黒瀬(Oxxx):そうですね。例えば配送に際しては、商品をマイナス20度以下で瞬間的に凍らせるようにしています。そうすることで味や品質が落ちないんですよ。また、一般に食品宅配は作った工場からそのまま冷凍して発送することが多いのですが、mogumoの場合は一旦冷凍倉庫に送り、そこからお客さまのところに発送します。なぜかというと、商品の組み合わせを変えるためです。

親御さんは子どもに色々なものを食べてほしいと思っているので、mogumoでは毎回商品の組み合わせを変えています。気に入ったものを毎回送るケースももちろんあるのですが、「次は筑前煮にチャレンジしてみたい」「自分では作らない商品を食べさせたい」という方が多いので、一旦全国の工場から商品を倉庫に集め、ここで商品を組み合わせてから全国に配送する仕組みにしました。

とはいえ「ミネストローネがあまりにも好きなので、個別にたくさん購入したい」なんていうリクエストは珍しくありません。現在はこういった要望に対応できていないので、柔軟に対応できるようにしていきたいです。また今はmogumoのECでしか買えないので、チャネルも増やしたい。インターネットでモノを買うことに抵抗を感じられる方もいらっしゃいますからね。早くいつも行っているスーパーで幼児食が手に入る時代を作りたいです。

株式会社Oxxx mogumo

― mogumoが子どもたちに好まれるように工夫していることはありますか?

黒瀬(Oxxx):mogumoの解約理由で一番多いのは、やはり「子どもが食べない」ことです。なのでいかにして食事を食べてもらえるかは今も今後もずっと課題になると思います。そんな中mogumoが注目しているのが「幼児食体験」です。一般的な幼児の食事体験は「親が作ったものを座って食べる」というものです。でも幼児食で大事なのは、子供が主役になることだとmogumoでは考えています。

なのでmogumoはキッズメニュー表を同梱して、食べたいものを選ぶことから、食体験を始めてもらうんです。メニューを選んだら3分チンするだけなのですが、2歳にもなれば、レンジのスタートボタンを押すくらいはできるので、それもお手伝いとして一緒に体験してもらう。不思議なもので、それだけでも子どもは自分ごとになるので、食事を素直に食べるんですよ。一連の食に関する環境を整えてあげることで、いつもは食べない野菜入りの食事も食べるようになる。単に「幼児食を食べる」のではなく、いかに幼児食を『体験』に昇華させて楽しんでもらえるか、ここをmogumoでは重要視していて、今後も強化していきたいと考えています。

石川(Onlab):子ども向けのUXを作り込むのは大変ですよね。子どものためのサービスは大人のそれよりも苦労している印象があります。データも取得しにくいですよね。mogumoは子どもたちの食体験をデザインをしっかり構築していて、食を日常的に楽しんだ上で、ちゃんと栄養が取れて健康になっていくのはすごくいいですよね。

黒瀬(Oxxx):ありがとうございます。確かに子どものUXは色々試行錯誤しています。例えば、食事を食べない子ども向けに、セットやキャラクターを用意してアテレコしたことがあるんです。そういう体験的な要素を提供したら、食事を食べなかった10人中10人がその食事を食べるようになったんです。

石川(Onlab):すごいですね。

黒瀬(Oxxx):私も驚きました。もちろん食品の品質は当たり前に重要なのですが、それに加えて子どもたちに寄り添った体験を作ることが、子どもたちや親御さんの満足度が上がるのかなと思っています。

幼児食データから読み解く、「食事」で強いアスリートを作る?

石川(Onlab):私はSDGsの観点からもスタートアップ支援をしているのですが、食の問題は一定基準を超えたらいきなり生命に関わることはないと、軽視されがちな部分があると思っています。特に日本は食品の安全は割と担保されていて、飢餓で亡くなる子どもがいたり、栄養失調になる子どもが少ないこともあって、あまり注目されてきませんでした。

Onlab ESG

石川(Onlab):ですが実際には痩せ型・肥満体質の子どもが増えているというデータもあります。これも十分社会課題ですよね。mogumoはこの解決に繋がるサービスで、親御さん以外にも幼児食の大変さが伝わるのが強みだと感じています。

黒瀬(Oxxx):ありがとうございます。私も最近気づいたのですが、0〜6歳の食の情報ってオープンになっていないんですよね。例えば、今活躍しているアスリートが自分の半生を振り返るとします。ですがその始まりはだいたい中学生くらいからなんです。でも最近の研究では、体内の菌が多いと筋肉量が多くなることがわかっていて、体内の菌の量は6歳までに決まることがわかっています。じゃあどうしたら菌が増えるかというと、重要なのは食事です。なのでアスリートを育てたい方にとっては、有名アスリートの0〜6歳までの食生活が参考になるはず。なので私達は、そのデータ等をもとに親御さんに情報を提供していきたいなと考えています。

― データ解析から食体験づくりまでまだまだやることがたくさんありますね。

黒瀬(Oxxx):本当ですね(笑)。

Onlab ESG

黒瀬(Oxxx):ただすべては、mogumoを食べていただくことから始まります。(この記事が出る)2023年4月にはから揚げ、プチコロッケ、コーンポタージュ、じゃがいもポタージュをラインナップに加えました。ぜひmogumoのサイトを覗いて購入いただき、親御さんがちょっと忙しいときにお子さんに食べさせてあげてください。

(執筆:pilot boat 納富 隼平 撮影:taisho 編集:Onlab事務局)

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