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電動マイクロモビリティのシェアリング「LUUP」は街のインフラに。ESGスタートアップに必要な定量的インパクト|Meet with ESG Startups vol.3

電動マイクロモビリティのシェアリング「LUUP」は街のインフラに。ESGスタートアップに必要な定量的インパクト|Meet with ESG Startups vol.3

国内外でデジタルガレージが出資する企業やOpen Network Lab(以下、Onlab)の支援先にはあらゆるサービスが存在してますが、昨今「企業価値」だけでなく「社会的価値」の両立を目指す「ESGスタートアップ」が注目されています。このシリーズではスタートアップの事業成長と会社経営のあり方や持続可能な社会へのインパクトをどのように創り出していくのか、経営者としての考え方や企業の様々な取り組みについて伺っていきます。

今回登場するのは、株式会社Luup 岡井大輝さんです。同社が提供する電動マイクロモビリティのシェアリングサービス「LUUP」は、都心部や地方都市で導入が進んでおり、街中で緑基調の電動キックボードや小型電動アシスト自転車を見たことがある方も多いのではないでしょうか。Luup代表の岡井さんは、マイクロモビリティ推進協議会の会長も務め、電動マイクロモビリティの安全な社会実装に尽力しています。単なる便利な移動手段を超えて、街のインフラと化しているLUUP。ESG・SDGsの観点も経営に生かしているようです。
※ Luupは会社名を、LUUPはサービス名を表しています。

< プロフィール >
株式会社Luup CEO 岡井 大輝

東京大学農学部卒業。その後、戦略系コンサルティングファームにて上場企業のPMI、PEファンドのビジネスDDを主に担当。その後、株式会社Luupを創業。代表取締役社長兼CEOを務める。2019年5月には国内の主要電動キックボード事業者を中心に、新たなマイクロモビリティ技術の社会実装促進を目的とする「マイクロモビリティ推進協議会」を設立し、会長に就任。

安全性に配慮した対策と公共交通機関を目指した新デザイン

― Luupは2022年2月にロゴの刷新を発表されたそうですね。保安基準を満たさずに走行している電動キックボードと、適法な車両を提供しているLUUPとを見分けやすくすることが、目的の一つと伺いました。

おっしゃる通り、LUUPはコーポレートロゴおよびサービスロゴを刷新し、電動キックボードのデザインも合わせてアップデートしました。夜間の視認性の向上や、安定性を改善しました。

LUUP
(image: Luup)

まず残念ながら、保安基準を満たさずに走行している電動キックボードが多い事実を指摘しなければなりません。家電量販店やECサイトで売られているようなものは、私有地の中で許可を得た上で走行する分には問題ありませんが、公道を走行するためには、購入後にナンバープレートやミラーの装着などが必要です。こういった保安基準を満たさない車両が公道を走行し、多数の事故を起こしてしまっていることも事実です。実際に、電動キックボードの事故の87%が保安基準を満たさない個人所有の車両だという警視庁のデータが報道されていました。

電動キックボードの事故・違反が増えると、当然メディアでも報道が増えます。ただ、事故を起こしたのは違法な電動キックボードでも、ニュース映像で使われるのはLUUP、ということも多かったんです。当然ながらLUUPは法令に準拠して車両を製造していますし、安全性に配慮して設計していて、その結果として事故も保安基準を満たしていない機体と比較して少なく抑えられています。見た目が、一般に売られている電動キックボードに似ていることによって受けてしまう誤解が大きかったので、それを避けるためにもロゴの刷新を決めました。新しいロゴでは、緩和曲線(クロソイド曲線)という、街中の道や高速道路にも使われている、曲がる時の曲率が一定になる曲線を使っています。LUUPは公共交通機関になるというメッセージも込めて、この曲線を採用しました。
https://note.com/luup/n/n83d53e8c08fb

― 安全性に配慮した設計ということで、LUUPの電動キックボードの安全対策の例を教えてください。

これはLUUP独自のものではなく、実証実験に参加している事業者に共通している安全制御の1つなのですが、ハードウェア面では例えば、最高速度を15キロに制限しています。また法的には時速20キロ以下の原付にはウインカーは不要なのですが、LUUPの車両には安全性を考慮して装着しています。保安基準・法令遵守の面から当然なのですが、ナンバープレートやミラーも備えています。ソフト面では、加害者が被害者に対して補償する自賠責保険への自動加入が挙げられます。さらに、任意保険にも全車両に対して当社で一括加入しており、ユーザーはご利用と同時に当該保険の適用対象となります。対人・対物だけでなく、ご自身の怪我も補償できるようになっています。

また事前に関係省庁監修の交通ルールテストに全問正解しないとLUUPには乗れません。東京海上ホールディングス株式会社とは資本業務提携を締結しており、直近は共同で「電動キックボード ご利用ガイドブック」を制作し、Webで全ページを公開している他、安全講習会等で配布しています。一方で、事前の免許証登録や交通ルールテストなどを実施しているにもかかわらず、一部の悪質な利用者による違反行為が発生していることも事実です。そのような違反行為に関しては、警察と連携し、重大であると確認できた際にはアカウント凍結等の措置を行っています。

(参考)【注意喚起】LUUPをご利用の皆様へ
https://luup.sc/news/luup-safety-measures/

LUUP
(image: Luup)

運転免許がなくても電動キックボードに乗れるようになる?

― 位置情報と言えば、内閣府及び準天頂衛星システムサービス株式会社が公募した、準天頂軌道衛星を使った衛星測位システムの実証事業に採択されていました。

当然GPSでも位置情報は取れているのですが、精度に課題があるんです。例えば「特定の道では安全のため、遠隔で減速させたい」というケースが今後発生するかもしれません。しかし、GPSでは位置情報の精度が十分ではありません。一方で、準天頂軌道衛星を使えば、誤差数cmの範囲等のかなりの高精度で車両がどこを走っているかリアルタイムで把握できることが見込まれています。まだ実証実験段階ですし、費用や技術の問題もありますが、中長期的には位置情報をうまくサービスに活用したいです。

― LUUPはどんどん進化していますね。車両はどのくらいの頻度でアップデートしているのでしょうか。

LUUPの自転車をローンチしたのが2020年、電動キックボードが2021年。もちろんその前から開発はしていて、そこからカウントして今11回アップデートしています。テクニカルなアップデートもありますし、法令に適合させるためのアップデートもありました。

LUUP
(image: Luup)

上図が車両の変遷で、左は私有地用の試作機です。真ん中の車両にアップデートする際にミラーやウインカーを付けたりしていますね。写真ではわかりにくいかもしれませんが、段差を超えられるように車輪がどんどん大きくなり、安定性を向上しています。サスペンションも小さなバネから重厚な金属に変更されたり、充電の規格に応じて車両も変えてきました。その甲斐もあって、当初の車両は数時間しか乗れなかったのですが、今は40km程は走行できるようになっています。詳しいことはまだ明かせませんが、今も新しい車両を開発中です。すごく乗りやすくなっていますので、期待してお待ち下さい。

― それは楽しみですね! 実はインタビューしている私は運転免許をもっておらず、現在LUUPに乗れないのです。今後電動キックボードを免許なしで使えるようになるらしいと聞いたのですが。

2022年4月19日(火)に電動キックボード等の車両区分を新しく定める道路交通法の改正案が衆議院で可決されました。その内容を見ると、16歳以上の方が乗れ、免許は不要とされています。都内では免許を持っていない方も多いので、そういった方はLUUPの電動アシスト自転車を使っていただいています。法改正されて免許が不要になれば、そういった方にも乗っていただけるようになるかもしれません。

― LUUPはデータ分析にも積極的ですよね。どのような分析をしてサービス運営に生かしているのですか?

例えば車両の充電です。LUUPの車両はポートでスタッフがバッテリーの交換をしていますが、全てのポートへ交換しに行っているわけではありません。「車両がこうやって移動したから、今日は特定のルートで特定のポートに充電をしにいけば大丈夫」という計算をして、必要なポートにのみ交換しに行っています。この方式でも、車両のほとんどが充電できている状況です。要はデータに基づいてオペレーションを最適化しているんですね。

環境に優しいから選択する、新しいモビリティを目指すESGの考え方

― Luupは2021年に約20億円の資金調達を実施していますが、昨今投資家からもESG観点の説明は求められはじめていますか?

LUUP
(image: Luup)

そもそもスタートアップで普通の感性をもっていれば、ESGに反する行動は取らないと思うんですよね。なのでインパクト投資する投資家からみれば、ほとんどのスタートアップが投資対象になるかと思います。その中で投資してもらうには、「うちに資本を集中させることが最も人類の前進になります」と説明しなくてはならない。そういう意味では定量的な視点が重要になるかなと考えております。つまり、いわゆるインパクト投資に応えようとするには、規模が必要なんです。「キックボード1台当たりのCO2排出量は自動車の約50分の1です」と主張しても、全部で20台しか稼働していなかったら社会的な意味はありません。数万台になってやっとインパクトが出てくるんです。そういったことは事業計画に反映し、投資家とも議論しています。

― LuupとしてESGへはどのように取り組んでいますか?

ESGの「E(Environment)」は特に意識しています。実は人一人を運ぶための電動キックボードのCO2排出量は、自動車の54分の1しかありません。それもあって電動キックボードは、バルセロナ、パリ、アメリカの一部主要都市など諸外国で環境に優しいモビリティとして普及しています。短距離の自動車移動を電動キックボードに置き換えられれば、環境にも自然と配慮することになります。また中長期的には、LUUPで使用する電源は再生可能エネルギーに切り替えていきます。

次にESGの「S(Social)・G(Governance)」。働く環境という意味では、弊社は最初の緊急事態宣言発令時以降、ずっとフルリモート体制を継続していますし、女性の社員も増え、産休・育休を取られ、復帰された方もいます。またLuupは東京海上ホールディングスから出資を受けておりまして、彼らに第三者の立場からLuupのオペレーションが正しく設計されているかというアセスメントをしてもらっています。

LUUP
(image: Luup)

― SDGsという観点からはいかがでしょうか。

Luupはミッションに”街じゅうを 「駅前化」するインフラをつくる”を据え、短距離移動のための電動マイクロモビリティのシェアリング事業を展開しています。SDGs 目標 11は「住み続けられるまちづくりを」なので、ここへの貢献はしていきたいです。都内を中心に、駅前よりは安価で住みやすいけど、その最寄り駅から徒歩で20〜30分かかる自宅に住んでいる方は大勢います。そういった方々に簡単に利用できるモビリティを提供して、暮らしが豊かになる街づくりに貢献していきたいですね。

今ユーザーの多くは「移動を楽にしたい」「使いやすいから」という観点でLUUPを使ってくれていますが、先述したように欧米では「環境や気候変動に貢献できる移動手段だから」という観点でモビリティを選ぶ方も増えてきているんです。今後日本でもこういう方々が登場してくると思うので、そういう方々に選ばれるサービスにしていきたいですね。

― 街づくりという意味では、 先日地震があった際に、移動手段としてTwitterでLUUPを無料開放していたのが印象的でした。

https://twitter.com/Luup_Official/status/1504129571792486401

社内では「このレベルの災害があった場合、原則として、この施策を実行する」といったルールを決めているので、それに則ってチームが自主的に動いてくれました。今後自治体や地元の方々と連携を深めていく上でルールをアップデートしていきたいと考えていますし、災害時に都度、個別判断を行う必要がありますが、引き続き街のインフラとしての役割を考えていきたいと思います。

インフラという意味では今後、新しく建てられる不動産にはLUUPが基本的には備えられているという状況を目指しています。今は、Luupが営業して不動産に置かせてもらっているわけですが、例えば、自動販売機はきっと営業しなくてもオーナーが自然と設置しますよね。LUUPもそうなっていかなくてはいけないと考えています。自動販売機でしたらどこのメーカーのものを置いても大きくは変わらないかと思うのですが、マイクロモビリティは乗る場所と降りる場所を同じ会社が提供する必要があるためネットワーク効果があります。つまりその地域で最も使われているサービスでないと利用者は便利に使えないわけです。なのでこのままLUUPの設置場所を増やしていけばどこかでしきい値を超え、急激にLUUPのポートが増えていくかと思います。

また、駅から離れた不動産の価値が、LUUPがある街とない街で大きく変わるような状況をつくっていきたいと考えています。通常、首都圏だと駅の前だと地価が高いですし、地方では高速の入口付近の地価が高くなりがちですよね。それと同じように、LUUPがあるから不便が少なく地価が高いという状況にしていきたいです。

本当は都心の観光客やフードデリバリーの方向けにサービスの舵を切ったほうが短期的には売上はたちやすいかもしれませんが、LUUPのやりたいことはそうではない。僕らが向き合うべきMissionから逆算されるユースケースにフォーカスしていきたいと思います。

(執筆:pilot boat 納富 隼平  編集:Onlab事務局)

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