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スタートアップの効果的なESG戦略とは?生産者と消費者を繋ぐソーシャルグッドマーケット「Kuradashi」を担うクラダシが「B Corp」認証を取得するまで|Meet with ESG Startups vol.6

スタートアップの効果的なESG戦略とは?生産者と消費者を繋ぐソーシャルグッドマーケット「Kuradashi」を担うクラダシが「B Corp」認証を取得するまで|Meet with ESG Startups vol.6

近年「企業価値」と「社会的価値」の両立を目指す「インパクトスタートアップ」が注目され、Open Network Lab(以下「Onlab」)でも、スタートアップの事業成長と会社経営のあり方や持続可能な社会へのインパクトをどのように創り出していくのか、経営者としての考え方や企業の様々な取り組みについてインタビューをしています。

今回登場するのは、規格外や3分の1ルールなどの食品流通の商慣習どが要因でまだ食べられるのにフードロスになってしまう恐れのある食品などを販売し、食品事業者と消費者とを繋ぐショッピングサイト、ソーシャルグッドマーケット「Kuradashi」を運営する株式会社クラダシ(以下「クラダシ」)。2022年6月には社会や環境に配慮した公益性の高い企業に対する国際的な認証制度「B Corp(ビーコープ)」認証を取得したことでも注目を集めました。同社でB Corp取得のプロジェクトを推進した人事広報の中野さんに経緯や社内外の反応、スタートアップにおけるESG経営のコツについて、デジタルガレージでESGを担当する堤がお話を伺いました。

< プロフィール >
株式会社クラダシ 広報基金運営G グループ リーダー 中野奈緒子

商社にてエネルギー企業向け資機材の海外営業部署に所属。その後、異動を経てサステナビリティを担う事業部に2年半従事。ESGのリスク管理などを行う中、社会課題の解決をビジネスの中心に据える企業への転職を考え、2021年11月に「クラダシ」に入社。広報基金運営グループの中でリーダーを担いつつ、ESGの取り組みに深く関わる。

株式会社デジタルガレージ オープンネットワークラボ推進部 マネージャー ESG担当 堤 世良

三井物産でアメリカや東南アジアの不動産開発、森林・植林関連事業の事業開発に従事。スペイン/IE Business Schoolでサスティナビリティやインパクト投資領域を中心に学び、2021年にデジタルガレージにて、ESG・サステナビリティの新規事業の創出と、ESGの観点におけるスタートアップの支援・投資等を行う。

ESG経営の始まりは原体験と「社会の仕組みを変えることでよい変化を生みたい」という想いから

堤(デジタルガレージ):近年、スタートアップもESGやサスティナビリティへの関心を高めています。しかしながら、忙しくリソースも少ないスタートアップがESG経営でどう効果生みだしたらいいのかというのは難しい問題だと思います。先陣をきって成功されている方々にそのヒントをお伺いしたいのですが、まずは「クラダシ」のミッションやビジョン、サスティナビリティに関する取り組みを教えてください。

中野(クラダシ):私たちはソーシャルグッドカンパニーでありつづけることをミッションに掲げると同時に、日本で最もフードロスを削減する会社になることをビジョンとして掲げています。

創業者の関藤竜也は、2つの原体験から創業を決意しており、その1つが大学時代に自身も被災者となった阪神淡路大震災でした。ニュースを見てどうにかして被災した人を助けられないかと思い、バックパックひとつで救助に向かったそうなのですが、そこで感じたのが自分1人では何もできないという無力感だったそうです。そこで、社会の仕組みを変えることでよい変化を起こせないかと思い、起業を考え始めました。

もう1つのきっかけはその後に商社に就職し、中国に駐在していた時に大量生産されては大量廃棄されていく食品の現場を目の当たりにしたことだそうです。これは今後大きな社会問題、環境問題に繋がるのではないかと思い、それを解決するようなビジネスモデルを作りたいと強く思ったそうです。

子どもの7人に1人が貧困状態である一方、年間522万トンの食糧が廃棄される日本の現実

中野(クラダシ):その後15年ほど試行錯誤し、2014年7月に「Kuradashi」を創業しました。2015年の国連サミットで「SDGs(持続可能な開発目標)」が採択される少し前になります。弊社としてはフードロスの削減を主軸に事業を進めているのですが、「FAO(国連食糧農業機関)」によると、現状世界では食料の3分の1が廃棄されていると言われています。フードロスによって排出される温室効果ガスの量は非常に多く、これは気候変動にも繋がっている問題です。

日本は子どもの7人に1人が相対的貧困状態、食料需給率が先進国の中で圧倒的に低いと言われる中、国内のフードロス量は年間522万トンと、非常にアンバランスな状況とも言えます。

日本のフードロスの年間の内訳の半分以上がサプライチェーンから出てくるものと言われていますが、当社が注力しているのは上流部分の製造業・卸売業のロス問題です。何故そこでロスが起こるのかというと、1つは製造過程でブランド価値を守る為に規格外の商品が廃棄されてしまったり、期間限定商品が廃棄されてしまったりするという背景があります。また、業界で3分の1ルールというものがあり、製造日から賞味期限まで3分の1の日程を過ぎてしまうと小売店に納品できずに廃棄されてしまうケースもあります。

食品業者と社会貢献したい消費者を繋ぐソーシャルグッドマーケット「Kuradashi」を開始

中野(クラダシ):一方で、ユーザーに目を向けてみるとフードロスを防ぐ意識、社会貢献したいという意識は以前より高まっています。そういったユーザーと食品事業者をマッチングするプラットフォームとして、「ソーシャルグッドマーケット『Kuradashi』」という名のショッピングサイトを立ち上げました。本来であれば廃棄されてしまう可能性のある食品などを販売することで、企業は新しい金銭価値を生め、ユーザーはお得に商品を購入しながらフードロスを削減できるという点が大きな特徴です。

また、自ら社会課題解決を行う為、「クラダシ基金」という活動も始めました。売上の1~5%を社会貢献活動団体に寄付しておりまして、ユーザーが寄付する団体を自身で選べるようにすることで、双方が商品の売買を通して社会貢献ができるようなビジネスモデルを構築しています。

堤(デジタルガレージ):なるほど。まさに「ソーシャルグッドマーケット」として企業のフードロスの課題とユーザーの社会貢献を叶える素晴らしいビジネスモデルですよね。現在のプラットフォーム利用者はどのぐらいなのでしょうか?

中野(クラダシ):現状パートナー企業数は1200社、会員数は44万人、支援金額は合計で9,800万円を超えました。ユーザーのみなさまが取り残されることなく、買い物で気軽に社会貢献に参加できるところが、大きな魅力だと思っております。

こういったビジネスモデルを評価していただいて、2021年には「EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー 2021 ジャパン」関東地区代表に選出、2022年には「第6回食育活動表彰」消費・安全局長賞や「令和4年度食品ロス削減推進表彰」環境大臣賞もいただいています。

フードバンク団体支援事業や地方創生事業も担い、立体的にESG経営を推進

中野(クラダシ):そのほかには品質に問題がないにもかかわらず、包装の傷みなどで市場に流通出来なくなった食品などをフードバンク(※)にマッチングするする「フードバンク支援事業」を行っております。人手不足に悩む地方の農家へ学生を派遣し、交通費や宿泊費などを支援しつつ収穫した食品をKuradashiで販売する「地方創生事業」も注力事業のひとつです。

※フードバンク:品質に問題がないにもかかわらず市場で流通できなくなった食品を、企業から寄付を受け生活困窮者などに配給する活動、およびその活動を行う団体。

新しい取り組みとしては「食のサステナビリティ研究会」をスタートしました。ここでは1社では解決できない課題を業界全体で解決していけるよう、ネットワークを広げる場を設けています。その1つの活動として2022年には食の課題を解決する「食のサスティナビリティ共創・協働」フォーラムというイベントも開催いたしました。自治体はもちろんのこと食品メーカーや不動産業界、百貨店、金融業界など幅広い企業と連携を行って「食」の課題の認知向上と、「食」の課題解決に寄与する機会の提供を目指します。

「B Corp」認証取得の秘訣はコンパクトに始め、経営陣のコミットを得ること

堤(デジタルガレージ):ありがとうございます。業界全体で解決していく取り組みというのは素晴らしいですね。そんなサステナビリティ時代の国際基準とも言われる社会や環境に配慮した公益性の高い企業に対する認証制度「B Corp(ビーコープ)」について、御社はかなり早い段階で認証を取得されておりましたが、日本では取得している企業が少なくハードルが高いようにも感じます。ガバナンス・従業員・コミュニティ・環境・カスタマーの5つの分野で評価を受けることが認証条件となっていますが、御社が取得に至った背景について詳しくお伺いできますでしょうか?

中野(クラダシ):2021年にデザイン会社「グッドパッチ」が公表した社会課題やSDGs促進を志す企業や団体にデザインを無償支援、という企画に弊社が応募し、選んでいただいたのですが、ブランド構築支援の中で「B Corp」の存在を共有いただいたのが最初のきっかけです。当時は社員数もまだ少なく、弊社がソーシャルグッドカンパニーという面を重視している背景もあり、経営陣も前向きな姿勢だったので、自然な流れで取得しようという話になりました。

堤(デジタルガレージ):経営陣が熱意を持って推進していくということは、やはり重要なのでしょうか?

中野(クラダシ):そうですね。ESGに取り組む際、経営陣のコミットは重要だと思います。今回の「B Corp」認証も最初は社員20人ぐらいの時で、担当取締役が推進していました。社内での意思決定も素早くプラットフォーム登録をして、実際にアセスメントに関わったのは実務担当者の広報、インターン生含め3名ぐらいだったと思います。その後2021年4月にはBIA(B Impact Assessment)という評価への回答を提出し、110.1点を獲得して認証に至りました。その後は社員数が一気に2倍に増えましたね。

堤(デジタルガレージ):「B Corp」取得の準備を開始してから80点以上を獲得するまでに、改善されていったポイントはどこでしたか?

中野(クラダシ):実はそこまで改善したポイントはないです。もともと企業の経営方針にソーシャルグッドなポイントが盛り込まれていましたし、事業として成果を出しつつフードロスを削減していくことが経営層のコミットメントであり、ゴールでもあったので。また、社員に対するエンゲージメント、教育についても「B Corp」認証を行う以前からスタートアップとして成長していく為に仕組み作りを行っていたので何かを大きく変えたということはありませんでした。ただ、取り組みが明文化されていなかった部分については評価を受けていく中でしっかり明文化を行いました。

堤(デジタルガレージ):確かに。事業のミッションとイコールであることやスタートアップならではの組織づくりには親和性がありそうですね。既にあったものをこの機会に言語化していかれたのは興味深いです。ちなみに「B Corp(ビーコープ)」はアメリカの認証制度ですが、資料提出は英語で行われたのでしょうか?

中野(クラダシ):先方とのやりとりは英語でしたが、難易度は高くないので翻訳機能を利用すれば問題ないと思います。資料は日本語で提出しました。そのほかに200問程度の項目の中から、何問かピックアップして質問行う英語のインタビューが1時間ほどあります。内容がアメリカ合衆国の文化・制度をベースにした質問なので、そもそも日本では規定されていない生活賃金についての質問なども存在し、その分対応が難しい部分もありました。

堤(デジタルガレージ):御社は平均値より高い110ポイントという点数を獲得されていますが、そこにはどのようなインサイトがあると思われますか?

中野(クラダシ):事業が社会やコミュニティによい影響を及ぼしていることを意味する「IBM(インパクトビジネスモデル)」の数値が高得点のようでした。環境の面でいうと弊社の事業を進めることでフードロスを削減することができるという点、どれぐらいCO2排出を削減できたかを環境省の実証事業で検証し、数値を見える化できていたのが大きなポイントではないかと思います。ビジネスモデル上、コミュニティ支援についても分かりすく提示できました。

堤(デジタルガレージ):御社がもたらす経済効果はどんなロジックですか?

中野(クラダシ):本来であれば廃棄していた食品を「Kuradashi」に出品することで得られる価値、通常かかるはずの廃棄処理コストを足した金額を算出しています。ESGというとCO2の削減量を重視しがちですが、B Corpでもすべてのステークホルダーに対する利益へのコミットメントが求められる為、社会や環境問題だけでなく、弊社の場合は株主を含めた経済的な利益も追及していくことがキーワードになると思います。

堤(デジタルガレージ):重要な数値は経年で算出されていますか?

中野(クラダシ):事業と数値が密接に絡んでいるので、もともとCO2の削減量は四半期に1回算出していました。

ミッション・ビジョン・リテラシーを合わせ、優先順位を明確化する

堤(デジタルガレージ):御社では定期的に定量的な数値を算出されていたと思いますが、これからそこに取り組もうとする企業が重視すべきことどんなことでしょうか?

中野(クラダシ):最初にもお話しましたが、これらの取り組みには経営層の理解とコミットメントが最も重要だと思います。ミッションとビジョン、社内のリテラシーを合わせ、まずは何に取り組むべきか優先順位を決めて実行していくことが大切です。また、算出した数値をしっかり社外にも明示し、アピールしないと勿体ないと思います。

堤(デジタルガレージ):「B Corp」認証によって投資家や顧客からはどんな反応がありましたか?

中野(クラダシ):ちょうど資金調達とB Corp取得の時期が重なったということもあり投資家からは特に大きなリアクションはありませんでしたが、出品企業や採用候補者への影響があったことは実感しています。社会課題に関心がある一定数の方々は「B Corp」認証で弊社を知って出品されたり、採用に興味を持っていただいたりしたようです。また「B Corp」には取得した企業同士のコミュニティもあるので、これからはそういったものも大切にしていきたいですね。

堤(デジタルガレージ):社員の方々には「B Corp」認証をどのようにアピールポイントとして伝えていったのでしょうか?

中野(クラダシ):「B Corp」の仕組みについての説明や勉強会を社内で行い、社外向け資料にもその内容を盛り込むようにしました。バイヤーチームは食品事業者さまとの商談の際に積極的に「B Corp」認証についてお話したりもしています。元々弊社にはフードロスや地方創生、サステナビリティに関心が高い社員が集まっているので、社内からも非常に喜んでもらえました。

堤(デジタルガレージ):国際的な認証を得ることによる海外へのアピールなど、御社なりの狙いはありましたか?

中野(クラダシ):フードロスはグローバルな課題、地球規模な課題ではあるのでもちろん海外は視野にありますが、現時点では主軸にはしていません。日本でのフードロス削減でまだまだやりたいことが山ほどあるので。

堤(デジタルガレージ):「B Corp」認証取得によるデメリットはあったのでしょうか?

中野(クラダシ):インパクトレポートの提出や3年ごとに更新がありますが、ここは一度整備をしてしまえば大変な作業は特にないので、総合的にみると取得するメリットの方が大きいと思います。

「B Corp」認証の取得を考え始めたら一歩でも早く動き出すことが重要

堤(デジタルガレージ):今後「B Corp」認証を取得を検討するスタートアップにアドバイスがあればお願いします。

中野(クラダシ):基本的には取得に時間がかかるので、どうしようか迷っているなら1日でも早く動き出すことですね。極力早く回答を提出して、補足資料はあとで整えていくのがよいと思います。

堤(デジタルガレージ):今後企業として維持し続けたいことや、社会課題に対する取り組みのビジョンをお聞かせください。

中野(クラダシ):これからも日本で最もフードロスを削減する会社であり続けたいと考えています。2022年12月には環境省が推進する食とくらしの「グリーンライフ・ポイント」推進事業の採択事業者として「Kuradashiポイント」というサービスをスタートしました。Kuradashiのサイト内でポイント還元対象商品を購入すると、購入額の0.25%〜0.5%のポイントが付与されるのですが、これはサイト内の買い物に利用できるほか、支援したい社会貢献活動団体への寄付にも活用できます。サービスの機能の拡充はこれからも行って行く予定ですし、今後は関東圏でのポップアップショップや常設店など、リアルな場で弊社を知って頂く機会を作っていきたいですね。そして、私たちのようにソーシャルビジネスを行う企業の仲間を増やし、業界全体でESGに取り組んでいけたらと思います。

堤(デジタルガレージ):Onlabも引き続きスタートアップのESG経営を支援して、御社のように持続的な成長を目指すスタートアップを増やして行ければと思っています。B Corp認証を取得し、ESGへの取り組みを行う株式会社クラダシのみなさまにお話を聞かせていただきました。他のスタートアップも参考にできるお話があったのではないかと思います。本日はありがとうございました。

中野(クラダシ):ありがとうございました。

(執筆:山本真紀子 編集:Onlab事務局)

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