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世界中の花業界をアップデート。誰もが素直な気持ちを伝えられる社会を目指す|Meet with ESG Startups vol.1

世界中の花業界をアップデート。誰もが素直な気持ちを伝えられる社会を目指す|Meet with ESG Startups vol.1

国内外でデジタルガレージが出資する企業やOpen Network Lab(以下、Onlab)の支援先にはあらゆるサービスが存在してますが、昨今「企業価値」だけでなく「社会的価値」の両立を目指す「ESGスタートアップ」が注目されています。このシリーズではスタートアップの事業成長と会社経営のあり方や持続可能な社会へのインパクトをどのように創り出していくのか、経営者としての考え方や企業の様々な取り組みについて伺っていきます。

今回登場するのはOnlab第23期生、CAVIN Inc. 代表取締役CEOのYuya Roy Komatsuさんです。Royさんはカリフォルニア大学に在学中、先進国の中で日本の若者が自らの命を断っている実態を知り、人との繋がりと温かいメッセージによって心の貧困やコミュニケーションの質を解決すると決意し「人が想いを伝える背中を花で押したい」と、旧態依然とした生花業界を刷新すべく生産者と生花店がスマホで簡単に取引できるプラットフォームを作ります。花によって運ばれる気持ちを増やしたいと語るRoyさんに、CAVINを起業した当時のエピソードやESG視点での経営、今後の展望についてオンラインで伺いました。

< プロフィール >
CAVIN Inc. 代表取締役 CEO Yuya Roy Komatsu

幼少期から日米を往来。高校卒業後、フィリピンのスラム地区にてNGOボランティア後、渡米。カリフォルニア大学在学時に、現地アクセラレーターでインターン。スタートアップのメタ原則や立ち上げ方を学ぶ。帰国後は、独立系経営戦略コンサルファームにて勤務。その後国内スタートアップにて、取締役CIO(最高国際責任者)に従事。海外向けMC/モデレーターなど国や領域を問わないスタイルで活動。2018年11月、CAVINを創業。

花を届ける本来の目的を取り戻す、生産者と生花店の直接取引プラットフォーム

― CAVINの事業概要について教えてください。

CAVINは、花の生産者さんと花屋さんがスマホで簡単に取引できるプラットフォームです。生産者さんは育てた花を自分で決めた価格で出品し、花屋さんはお店に必要な花を必要な分だけ、いつでも仕入れることができます。従来の生花業界では流通が縦割りされていて、生産者さんのこだわりや花屋さんの声がブラックボックス化していました。そこで、私たちはこの流通を最適化し、生産者さんと花屋さんのコミュニケーションを可能にしたことにより、マーケットインの生産や仕入れを実現したり、フラワーロスの削減にも貢献したりしています。

従来の花の流通では、生産者さんが市場に出荷し、競りにかけられ、卸や仲卸を通してから花屋さんに花が届くので、生産者さんが出荷してから花屋さんに届くまで、県内でおよそ2日、県外だとおよそ3〜4日かかっていました。CAVINを使えば産直の仕入れができるので、生産者さんが午前中に花を出荷すれば、当日の午後には花屋さんに届けられます。花の輸送にかかっていた時間が短縮された分、花を長く楽しめるようになったと購入したお客さんが喜んでくださっています。

― CAVINをご利用になっているお客様にはどのような方々がいらっしゃいますか?

CAVINにご登録いただいているのは、北部九州を中心とする花の生産者さんと福岡県中心部の3分の1以上の花屋さんです。CAVINの使い方として、生産者さんは、出品したい花を撮影し、花の種類や値段、数量、生産のこだわりを入力します。花屋さんは、CAVINに出品された花の中から好きな種類や数を自由に仕入れることができます。取引が成立すると、CAVINと提携している物流業者が生産者さんのもとに集荷へ行き、花屋さんに届けているので、生産者さんや花屋さんが市場への出荷・仕入れをする手間が省けるのがメリットです。また、メッセージ機能によって、これまで関わることのなかった生産者さんと花屋さんが「こういう花がほしい」「こんな花もありますよ」といった情報交換ができるようになりました。

― CAVINのサービスにはどのような価値がありますか?

まず、機能的な価値としては、花屋さんで発生するフラワーロスを減らすことができます。実は、飲食店では約5%、コンビニでは約1%というロス率がある中、花屋さんでは約30%もあり、経済損失は年間約1500億円とも言われています。言い換えると、花が好きで花屋さんになった人が、10本仕入れたうちの3本を自分の手で捨てているようなもので、もったいないですよね。フラワーロスが起こる要因は、主に供給過剰や売れ残り、搬送や保管時に起こる劣化です。CAVINのサービスで仕入れを合理化することでこれらの課題を解決できます。

情緒的な価値もあります。生花業界では純粋に花が好きで、人々の生活を彩ることが好きな方が従事していることが多いのですが、生産者さんは自分の作った花を綺麗だと喜んでくれる人々の声を耳にすることがありませんでした。CAVINでは、花屋さんとの直接のやりとりができるようになったことで、お客さんが母の日にカーネーションをプレゼントした話や「この花の香りが大好き」といった声を聞けるようになったりと、これまでになかった対話が生まれています。

普段、私たちはファーストペンギンや業界の改革だとおっしゃっていただくことが多いんですが、実は「元に戻そうとしているだけ」なんです。昔は、沢山の売り手が並び、そこに買い手が行って意見交換をしながら売買を成立させるのが当たり前でした。でも、「規模の経済」に目を付けた人が市場という仕組みに変え、生産者さんや花屋さんではなく市場職員を作ろうと言い出した。もちろん、その方が経済的合理性は高いんですが、私は「価格は価値を教えない」と考えていて、それが生花業界に生きる人々の幸せに繋がるとは思いません。だから、CAVINのキャッチコピーを「最先端のクラシック。」にしています。

人が思いを伝える背中を花で押したい。創業した背景に「若者の心の貧困」

― Royさんのご経歴についてお聞かせください。

私は幼少時から日本とアメリカを行き来する生活を送っていました。地元福岡の高校を卒業した後、フィリピンのスモーキーマウンテンというゴミの山から腐敗ガスが出ているようなスラム地区でNGOのボランティアを経験しました。その後、上京して大学に進学しましたが、特に目標を持たずに過ごす日々。これではいけないと一念発起し、退学届とアメリカ行きの書類を準備してカリフォルニア大学に行きました。

当時、自分を変えたかったので朝から夜まで勉強しましたね。朝6時に起きたら図書館に行き、10時から夕方まで授業を受け、深夜まで図書館にこもっていました。学生生活もキャリアも順風満帆でした。でも、その頃に大事な友人を亡くしたんです。亡くなる直前までその友人と他愛もない会話をしていた私は、肝心な一言を伝えられなかったことを悔やみました。

日本全体を見渡してみると、これは私だけの話ではありませんでした。日本はGDPが世界第3位の裕福な国ですが、国連が発表する世界幸福度ランキングでは毎年順位が下がり続けています。国際的に見た自殺死亡率でも、ワースト10に入る先進国は日本と韓国だけ。日本では自殺者の数がここ数年間は横ばいですが、純増しているのは10歳から19歳の子供。35歳以下の若い世代で死因の第1位が自殺なのは、G7では日本だけです。毎年多くの若者が亡くなっているのに、日本では誰もそれに目を向けない。恐らく、口にしたらあまりにも身近で誰かを傷つけてしまうかもしれないし、記事に書いたところでメディアのPV数は伸びないから。世の中は依然として新しい製品をひたすら作って売っているだけ。こんな発展を遂げたところで、この深刻な問題は解決しません。私たちが取り組むべきことは、発展させる仕方を変えることなんです。

それは、価格ではなく価値に指針を戻すこと。人は独りでつらい思いをしている時、最も心を温めてくれるのは、人との繋がり。若者の自殺を止められるのは、いつでも言えたけれど言えなかったメッセージと、何でもない隣の誰かです。私は人が思いを伝えるその背中を花で押したいと考えています。人は言葉で十分だったら花なんて送らないから。ところが、そんな思いでいざビジネスを始めてみると生花業界は旧態依然としていました。そこで、花によって運ばれる気持ちを増やすプラットフォームを作って心の貧困やコミュニケーションの質を解決しようと心に決め、2018年11月に会社を設立しました。

― 事業を立ち上げてからどのような苦労がありましたか?

とにかくオンラインで花を発注したことがない方々でも安心して操作できるサービスにしたかったんです。そこで、生産者さんや花屋さんにCAVINを実際に利用していただきながら、現場で必要な機能や誰でも直感的に操作できる仕様を何度もヒアリングし、実用性を追求しながら開発を進めていきました。

特に、コロナ禍ではトラブルが続きましたね。世の中がステイホームの時、一時花を買わなくなったので、ユーザー数が伸び始めたばかりだったのにゼロになってしまいました。でも、スタートアップの定石は、急激にユーザーを増やすのではなく、ユーザーを絞ってコアなファンを作っていくこと。実際にマーケットを見に行くと、お客さんが来なくて閉店する花屋さんが増えていました。また、ある生産者さんは花の生産をやめようとされていたところでしたが私たちのサービスについての話を聞き、その後に家族会議を開き、「もう一度、CAVINにかけてみよう」と踏みとどまる決断をしてくださったこともありました。CAVINの上に誰かの生活がかかっているんだと、大きな責任の中で事業をしているんだと改めて実感しました。

― Royさんが起業家として大事にしていらっしゃることを教えてください。

「社会の課題をビジネスという道具を使って解決する者」という起業家の定義をぶらさないことです。スタートアップのJカーブではなぜ赤字になるか、それはマーケティングや製品開発に投資するから。こんな模範解答を言える人は世の中に五万といますが、私はその先が重要だと考えています。例えば「今日、あなたの知らない男性がご飯を届けるのでそれを食べてください」と言われたら、怖いですよね。でも、これはUber Eatsというサービスなんです。人は見たことないものに対して恐怖心を抱くので、Jカーブはそれを啓蒙するための期間です。友達から「Uber Eatsだっけ。あれ意外といいよ」と言われ、実際に使ってみたら「いいじゃん」と実感する。人々の常識が未来に追いついた時、行き場をなくした声が一気に流れてくる。だから、一気に跳ねる。

これまでのマーケットの動向を見ていると、早くExitすることが起業家のステータスになっているように見受けられますが、人の心は簡単に変わらないし、どれだけ効率の良い啓蒙をしても時間がかかるものだと思っています。

CAVINを介して「愛すべき無駄」や「生きる意味」を議論できる世界を創る

― ESGの視点では、CAVINをどのように運営していらっしゃいますか?

「地産地消」を実現できるように目指しています。例えば、これまでは、ある地域ではバラしか作っていなかったので、花屋さんはカーネーションがほしい時、遠くから仕入れる以外に選択肢がなかったんです。花屋さんや花を購入するお客さんの声や意見が通ってマーケットインになれば、花の生産が最適化していくので、流通を通じたライフサイクルのカーボンフットプリントを減らすことができます。

また、花は、人が生きていく上で絶対に必要なものというわけではありませんよね。でも、だからこそ楽しめるんです。花は、ビジネススーツのように必要性がないし、お金のように中毒性もない。人が花にお金を使っているさまは、純度の高い心の余裕を表していると思っています。現に、世界の花の消費量と幸福度の関係には一定の相関があるんです。出世やお金儲けという目標を立てて、誰よりも早く出世してお金を得て、もっとほしくなって馬車馬のように働く。この連続には、人生の旅としての要素がありません。ふと自分の手に目をやるとシワシワになっていて「こんなに歳を取ったのか」と気づく。これでは人が幸せに生きるという本来の目的を失ってしまうので持続しているとは言えません。

― CAVINが思い描く未来の世界観や、この世界でどのようにサービスをフィットさせていくのかをお聞かせください。

まず、愛すべき無駄が重要だという議論が生まれる世界が大事だと考えています。アートは、とりあえず部屋に飾れば良いとか、髪は、みんなが言うように切れば良いとか、ファッションは、これが流行っているから着れば良いと、同じく「生きるとは何か?」という議論も然りで、ご飯を食べて寝るだけの生活なんて、果たして生きているんでしょうか。夕日に向かって吠える動物は人間しかいないし、この愛すべき無駄が人間を人間たらしめる。CAVINができることは、それに規模と継続性を担保する経済力を身につけることです。

まだ世の中に広まっていない中で「ここまで伸びる」という前例を作ることは、未来の起業家像を変えられるかもしれません。「ここにマーケットがあって伸びそうだから始めよう」ではなく、「なぜか説明できないけれど、これを課題だと思っている」と逆算してビジネスモデルを作り、経済性を担保しにいく。一次産業の花でプラットフォームを構築するのは難しい。でも「なぜここから入ったのか」があれば業界のシンボルになれると確信しています。

― 投資家の方々から求められる事業成長に対して、どのようにRoyさんの思いで経営されているのですか?

そもそも、負ける戦いはしません。私がやっているビジネスモデルは、偶然思いついたものではなく、アメリカのアクセラレータ・プログラムにいた頃から考えていました。とはいえ、こんな二者択一を迫られた時、例えば、こっちはめちゃくちゃ儲かるけれど、社会的には悪。こっちはそこそこしか儲からないけれど、社会的には善。この2つであれば、迷いなく後者を選びます。それに納得いただける方にのみ、私に資金を預けてほしいとお伝えしています。

また、見栄ではなく、誇りを保てる経営をしています。見栄は「私の方が重い重りを持ち上げられる」のように誰かと比較しないと張れないもの。一方、誇りは自分で決めるもの。仕事をする上でも、誰しもが見栄ではなく、誇りを持つべきではないかという時代に差し掛かってきていると思います。仕事や働く場所、仲間を自由に選べる中「この仕事で誰かと競うしかない」という考え方は、終わったのではないでしょうか。CAVINに投資してくださった方々には、これまでの実績の中で最も誇れる会社にしていくと宣言しています。

人に経済の範囲を超えた価値をもたらす花を世界に広めていきたい

― CAVINではどのようなメンバーが活躍されていますか?

現在はCAVINには10名の仲間がいます。みんな個性が強く、目的意識を持っていますね。全国弁論大会で3年連続チャンピオンになった人や大学受験の全国模試で1位を取った人など「1位」のメンバーが多いです。私はSNSが苦手で定期的な発信をしていないし、採用の募集もしたことがなかったんですが、CAVINを掲載してくださったメディアをきっかけにCAVINのホームページからエントリーしてくれる方々がいるんです。そろそろ体系立てて採用したいので、現在はエンジニアや花業界DXの特徴を理解して取り組んでくれる方を募集しています。普段、花の生産者さんは電波の届かない場所にいることが多いので「電波が届かないってどういうこと?」「どうやってこれでカスタマーサポートをするの?」といった細かな疑問を許容できることが重要ですね。

私は、スキルはお金で買えるけれど、人格はお金で買えないと思っています。誰でも本気を出せば自転車に乗れるようになるし、足し算や掛け算もできるようになります。大切なのは、そのために頑張りたいと思えるかどうか。それがフィットすれば、打席に立ってバットを振り続ける方が早い。CAVINは、前例のない事業を進めているファーストペンギンなので、仮説検証のできるマッド・サイエンティストのような方が向いていますね(笑)。

― そのような尖りを持っている方々が集まると「将来に向けてどんなことに挑戦しようか」とわくわくしますよね。

やっぱりすごく楽しいですね。私はコードが書けないしエクセルも使えませんが、CEOとして総合力で評価されるチームを作ること、いわゆるコーチング・スキルはあります。3ヶ月もあればどんな人でも変えられる能力を持っていて、その変化や成長のプロセスを見届けるのが好きなんですよね。

― ESGには女性活躍推進やダイバーシティなどがありますが、CAVINではどのような取り組みをしていらっしゃいますか?

ちょうど社内でも話したばかりですが、私はフェミニストです。ジェンダーにおいてイコールとフェアは別の話であり、イコールにすることはできないと考えています。例えば、カラーコーディネーターの仕事は、女性の方が色を見分ける細胞が多いので適している。一方、重い荷物を背負って走る消防士は、男性の方が筋肉が付きやすく体力もあるので適している。

このようなジェンダーの特徴や傾向を冷静に把握することが第一歩です。本人が望むのであれば、男性がカラーコーディネーターになれるように、女性が消防士になれるように導線を整えます。これが、私が目指す男女平等参画社会ですね。今はまだ、どうしてもイコールになっている。色彩がわかる女性が化粧品会社に勤めているのは、色彩がわかる人に合わせて色彩を作らなければいけないので、ごく自然なこと。それをイコールにするんだったら男性50%、女性50%にして、無理やり女性の雇用を減らすのか?という議論になりますよね。あくまでもイコールじゃなくてフェアでありたいと心がけています。

― 今後のCAVINの事業戦略をお聞かせください。

日本全国にサービスを浸透させていくことはもちろんですが、世界では花の消費量が年々増えています。特にそれが顕著な東南アジアに日本の花を輸出することに挑戦したいです。美しさはそれぞれですが、例えば、輸入されたバラは茎が太くて大きな花がついていることが多い一方、日本の生産者の方々が得意としているバラは繊細で、花びらが薄いのに強い、小さいのに香り高いんです。そういった日本の魅力も世界に広めていきたいですね。社内では、スタートアップとしてのビジョンを達成するためにマイルストーンを設定し、「幸せって何だ?」を問い続ける環境を作りたいです。

― 今後、CAVINではBtoCのサービスを作って一般のお客さんにも世界観を広げていく計画はありますか?

加工ができる人を通す必要があるので、花の生産者さんからエンドユーザーへ直送するサービスはやりません。確かに、CAVINのフローリストが花を加工して直送することもできるし、投資家の方々にもやらないのかと聞かれたこともありますが、やらない。理由は、花をただ飾ればいいわけではないから。そこに芸術性が伴うのがアート。鑑賞する目的があるから、自分で納得のいく花をそばに置いて、じっくり眺めて心の栄養剤にする。ここまで徹底しないと、人が鑑賞するために育てられた花としては不本意でしょうね。

― RoyさんはOnlabプログラムにも参加していますが、応募を検討する起業家の方に向けて、メッセージをお願いします。

Onlabのプログラムは本当に効率が良いと痛感していて、私たちが知りたかったことが全て組み込まれているので、もっと早くに出会いたかったですね。自分で考えて「なるほど」と腹落ちするまでどれだけ大変だったことか。事業を立ち上げてある程度成長した時よりも、これから始めると意気込んでいる時の方がその価値を最大限に享受できると思います。

(執筆:佐野 桃木 編集:Onlab事務局)

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