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エーザイ×Onlabだからできる支援。認知症特化のスタートアップ支援プログラムが始動|Onlab BioHealth Dementia アクセラレータープログラム編

エーザイ×Onlabだからできる支援。認知症特化のスタートアップ支援プログラムが始動|Onlab BioHealth Dementia アクセラレータープログラム編

2020年で10周年を迎えたシードアクセラレータープログラム「Open Network Lab(Onlab)」。その姉妹プログラムの一つが「Onlab BioHealth」です。3回目となる今回は、エーザイ株式会社(以下「エーザイ」)をパートナーに迎え「Dementia(認知症)」をターゲットに、「Open Network Lab BioHealth Dementia Innovation Challenge(以下「本プログラム」)」と題して開催します。

本プログラムの特徴の一つは、①オープンイノベーションプログラムと②アクセラレータープログラムという2つのプログラムがあること。本記事で登場するのは、②アクセラレータープログラムを担当するエーザイの安達さんと、デジタルガレージの田端さんです。本プログラムの特徴や、どんなドメインのスタートアップに応募してほしいのか等、詳しく聞きました。参加を検討しているスタートアップの方は是非御覧ください。

オープンイノベーションプログラム編の記事はこちら

< プロフィール >
エーザイ株式会社 コーポレートベンチャーインベストメント部 日本・アジア室
ディレクター 博士(生物科学)安達 竜太郎

筑波大学大学院生命環境科学研究科博士後期課程修了。2004年、武田薬品工業株式会社に入社し、13年に亘り創薬研究に携わる。2017年からプライベートエクイティファームにて技術系スタートアップに対するプリンシパル投資やファンド活動に従事。2020年にエーザイに入社し現職。バイオテックやデジタルヘルスのスタートアップに対するグローバルでのストラテジックな投資活動に従事。

株式会社デジタルガレージ オープンネットワークラボ推進部
Open Network Lab BioHealth プログラムディレクター 田端 俊也

慶應大学大学院メディアデザイン研究科卒。Royal College of Art / Pratt Instituteへの留学でデザインを学ぶ。卒業後、ヘルスケアスタートアップで事業開発、株式会社NTTデータ経営研究所で新規事業開発及び組織開発のコンサルティングに関わる。現在はデジタルガレージ にてOpen Network Lab BioHealthのプログラムディレクターとしてBioHealth領域の投資・経営支援を担当。

「認知症」に特化したスタートアップ支援プログラム

― 今回のプログラムの経緯について教えてください。

安達(エーザイ):
エーザイは20年以上、認知症治療薬の開発に携わってきたグローバル規模の製薬会社で、これまでは主に医薬品の研究開発にフォーカスした事業運営をしてきました。その上で、2021年度からスタートした中期経営計画「EWAY Future & Beyond」でも示している通り、生活者の皆様を対象とする日常領域において、サイエンスに基づくソリューションを提供するビジネスを作り出そうとしています。

つまりこれまで培ってきた創薬の強みに基づいた「エーザイ ユニバーサル プラットフォーム」を構築し、そこに、他産業と連携することで、人々の多様な「憂慮」を取り除いていくエコシステムの構築を実現していきたいと考えているのです。

エーザイ 安達
エーザイ 安達

安達(エーザイ):
認知症の中で多くを占めるアルツハイマー病は、実はまだ症状が現れていない早期の段階から脳での変化が始まっていると言われています。つまり認知症の当事者様が自覚する前からアルツハイマー病は進行しているのです。そのためアルツハイマー病の治療・緩和のためには早期介入が重要と考えられます。ヒューマン・ヘルスケアにコミットするエーザイとしては、普通に日常生活を送っている方々にいかに認知症・アルツハイマー病への関心を持っていただき、認知症にまつわる課題解決策をお届けするかが、重要なテーマだと考えています。

従来のように医薬品を開発しているだけでは、認知症の当事者様や生活者の皆様にとって効果的なソリューションとはならない。課題解決のためにはデジタルを利用したソリューションが必要となってくる。そこでデジタル分野の事業を推進しているデジタルガレージに相談してみたらバイオにも興味があるということで、一緒にスタートアップ支援プログラムを運営することになったんです。

田端(Onlab):
デジタルガレージも自社でデジタルヘルス事業を営んでいて、本プログラム以前から認知症領域においても事業を推進したいと考えていました。また弊社はDG Daiwa Venturesという投資ファンドも運営しているのですが、エーザイにはLP(出資者)として参加いただいています。スタートアップ支援プログラムの運営だけでなく、投資の面からもスタートアップと連携できる可能性があるという意味でも、Dementiaの企画は魅力的でした。

デジタルガレージ 田端
デジタルガレージ 田端

― 認知症という絞った領域では、自分たちでパートナーを探して協業を打診するというやり方もあったかと思います。なぜスタートアップ支援プログラムという形式を採用したのでしょうか。

安達(エーザイ):
エーザイは数年前からベンチャー投資を始めていて国内外で投資を実行しています。これに加えて、まだ我々が触れていない優れた事業アイディアや仮説を持っているスタートアップにアプローチしたいと思ったからです。エーザイは創薬という観点を中心に認知症関連ビジネスの経験値を提供できますので、これを生かしながら新しいビジネスを展開できるベンチャー企業にアクセスしたいですね。

エーザイの知見×Onlabの経験で新たな価値を

― それでは、本プログラムの概要を教えて下さい。

田端(Onlab):
本プログラムの特徴は、①オープンイノベーションプログラムと②アクセラレータープログラムの2種類のプログラムが用意されていることです。

①オープンイノベーションプログラムは、エーザイ・デジタルガレージと共に事業を作る、PoCを進める、業務提携を推進するといった内容です。まだまだ技術の段階というスタートアップから、プロダクトを既に販売しているスタートアップまで、幅広い会社に応募していただきたいと考えています。

他方の②アクセラレータープログラムは、シード・アーリーステージ向けのプログラム。アイディアはあるけれど事業化できていない、事業を立ち上げたけどまだ売上は出ていないといった企業を対象に、エーザイとデジタルガレージ の知見を生かして、スタートアップを支援するプログラムです。

②アクセラレータープログラムは、基本的にはOnlabの長年の経験に基づくプログラム設計となってはいるのですが、今回のプログラムの強みは、なんと言ってもエーザイにパートナーとして参加してもらい、認知症や創薬という領域の専門的な知見でサポートしていただくこと。そのためこれまでのOnlabでは支援しにくかった企業を採択したり、内容を提供したりしていく予定です。(編注:以下「②アクセラレータープログラム」を前提とします)

安達(エーザイ):
繰り返しになりますが、エーザイとして日常領域にビジネスを拡大していくという際には、デジタルが鍵になってくると考えています。スタートアップのアイディアとエーザイの知見・経験を上手く掛け合わせたいですね。

田端(Onlab):
デジタルヘルスの領域は、一方で「デジタル技術を使ったユーザーエクスペリエンスの改善やビジネスのスケールアップ」といったスタートアップ的な議論があり、他方で医療に関する専門的な知見が必要になってきます。この両方をサポートできるのが、本プログラムの特徴です。

― 具体的にはどんなスタートアップからの応募を期待しているのでしょうか。

田端(Onlab):
健康・未病状態のときに認知症を予測・予防すること、認知症発症後の治療やケア、その他認知症に関連した不動産や金融に関連する間接的な課題解決をスコープとしたものまで、本プログラムでは認知症に関連する幅広いソリューションを検討していきたいと考えています。

― 予防や未病だけでなく、不動産や金融等の生活面の課題解決まで対象なんですね。

田端(Onlab):
認知症を発症すると、治療以外の生活面でも課題が出てきます。その代表例が金融や不動産の管理。普段の生活で抱える課題を当事者様の視点から捉え直すサービスも認知症の当事者様やご家族には必要ですので、そのソリューションも提供していきたいという趣旨です。

プレシジョンメディシンやデジタルバイオマーカーの可能性

安達(エーザイ):
繰り返しになりますがエーザイは、医薬品の提供にとどまらず、デジタルソリューションの提供を通じて新しい領域にもどんどんビジネスを拡大していきたいと考えています。認知症の課題解決のためには、エーザイにはない知恵を持っている方々との協業が不可欠です。

その中でも特に、プレシジョンメディシン(治療のパーソナライズ)の強化は必須だと考えています。そのためには正確に認知症の当事者様の状態を把握することや、将来どのように疾患が進行していくのか、あるいは生活者の皆様が将来どのような疾患を発症する可能性があるのかを予測する技術が必要。それに治療薬を組み合わせる流れを考えていきたいです。

田端(Onlab):
個人的には、デジタル技術を駆使したソリューション、例えばデジタルバイオマーカー(ウェアラブル等を使って取得する生理学的データ)、SaMD(Software as a Medical Device)等を扱うスタートアップは、今回のプログラムと相性がいいのではないかと感じています。デジタルバイオマーカーに関しては、例えばスマートフォンで会話ログから「普段の話し方と違うな」「認知症の兆候がある話し方だな」といったことを発見し、「認知症の疑いがあります」といったことを本人や医療機関に伝えることで、認知症の予防や早期発見に繋げていけると考えられます。

安達(エーザイ):
発声の他にも、目の動きやスマホのキーストローク、歩行等、様々な行動データをAIで分析して発症予測に繋げられる可能性があります。遺伝子や血液の検査と組み合わせることで、より高精度な予測も可能となるかもしれません。これまで医療領域だけが対処していた認知症の診断が、日常生活に溶け込んでいくようになる。そんな世界観を作っていきたいですね。

― そういう意味では、例えばスポーツやIoT等、ヘルスケアや創薬と遠かった分野ともタッグを組む機会が増えそうですね。

田端(Onlab):
そうですね。ですのでそういった企業も本プログラムに応募いただきたいと考えています。ライフログやスポーツのデータと認知症を繋げるということは、我々としても関心のある領域です。

― とすると、スポーツやIoT等を扱っている方々にも、認知症の課題を正しく知ってもらいたいですね。認知症に対する一般的な認識と、実際のギャップについて教えて下さい。

安達(エーザイ):
まず一言で認知症といっても、様々な種類の認知症があります。認知症の中で最も割合が高く、製薬会社も治療薬開発に注力しているのがアルツハイマー病ですが、他の種類の認知症に対する治療についてもまだまだ課題が多いのが実態で、この領域におけるフォローも重要です。

田端(Onlab):
認知症というと、どうしても治療側に目がいきます。ただ、認知症になった当事者様自身はもちろん、ご家族を始めとした介護者様が抱える課題も大きいと感じております。認知症の当時者様に対するケアも必要だし、介護者様の負担も大きい。この点はテクノロジーを使ってサポートしていかなくてはならないと感じています。

例えばもの忘れが起きた際の対処や、いわゆる「徘徊」した場合の位置情報等の問題はテクノロジーでサポートできると思いますし、実際既にソリューションを提供している事業者様もいます。ただその前の予兆・予測という面についてはもっと専門的な知見や知識が必要になってくることもあって、まだまだソリューションが用意できていない印象があります。本プログラムを通じて解決策を探っていきたいですね。

本プログラムのビジョンは「認知症共生社会の実現」

― タッグを組むスタートアップに求めるカルチャーや考え方はありますか?

安達(エーザイ):
まずは当然ながら、認知症という大きな社会課題を解決したいという大きな志を抱いている方々とタッグを組みたいです。またシード・アーリー期向けのアクセラレータープログラムなので、会社としては若いけれど現場で得た経験に基づいたビジネス上のユニークな仮説があるといった方とは是非お話ししたいです。

エーザイは、「患者様と生活者の皆様の喜怒哀楽を考え、そのベネフィット向上を第一義とし世界のヘルスケアの多様なニーズを充足する」ことを企業理念に掲げており、これをhhc(ヒューマンヘルスケア)と呼んでいます。これに共感していただけることも重要なポイントです。

田端(Onlab):
本プログラムは「認知症共生社会の実現」というビジョンを掲げています。「Dementia Inclusive Society (認知症共生社会)」はWHOでも使っている言葉ですが、本プログラムでは「認知症になった当事者様の皆様の良い暮らしを実現する」「認知症の当事者様を含めて、誰もが共に生きる社会を実現する」という意味を込めています。このビジョンへの共感を前提に、自分達の技術の認知症への応用を模索しているスタートアップに応募していただけると嬉しいですね。

― 応募を検討しているスタートアップへのメッセージをお願いします。

安達(エーザイ):
先述した通り、本プログラムには①オープンイノベーションプログラムと②アクセラレータープログラムの2つがあります。まだ事業としてプロダクトがないスタートアップは②アクセラレータープログラムの方に応募していただいて、一緒にビジネスの立ち上げや磨きこみをしていきましょう。

またエーザイは2019年にベンチャー投資事業を始めています。

これまで神経変性疾患の治療薬開発を志向するベンチャーや、認知症のデジタルセラピューティクスを開発するベンチャーにシード投資してきました。そのため場合によっては協業だけでなく、投資という面でも支援できる可能性があります。この点も必要に応じて相談していきます。

「日本における65歳以上の認知症の人の数は約600万人(2020年現在)と推計され、2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)が認知症になると予測され(厚生労働省)」ています。つまり認知症は、決して珍しくない疾患なんです。身近な方が罹患したという方も少なくないでしょう。この大きな社会課題を、本プログラムでは本気で解決したいと思っています。このビジョンに共感していただける方は、是非応募をご検討下さい。

田端(Onlab):
繰り返しになりますが、本プログラムは認知症に特化しています。だからこそエーザイの認知症に対する幅広い知見と、デジタルガレージによるスタートアップ支援の経験を組み合わせた、他のプログラムにはない価値を提供できると考えています。認知症というディープな分野に取り組みたい企業と、是非お話ししたいです。一緒に認知症共生社会を築いていきましょう。

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Open Network Lab BioHealth Dementia Innovation Challengeは、2021年12月27日(月) 正午が締切でしたが、2022年1月17日(月)正午に締切を延長いたしました。詳細はこちらをご確認下さい。

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