2025年10月08日
Seed Accelerator Program(シードアクセラレータープログラム)を運営するOpen Network Lab(以下「Onlab(オンラボ)」)は、2025年9月19日に第30期 Demo Dayを開催しました。
今年はOnlab創立15周年、そしてシードアクセラレータープログラムも第30回という節目の年。国内外から240社以上の応募があり、3回の選考を経て今期は4社がDemo Day登壇の機会を掴みました。
Demo Day当日は、約170名の投資家や事業会社の皆様を前に各チームがPitch(ピッチ)を披露。さらに、Onlab卒業生4社によるAlumni Pitchに加え、同様にシードアクセラレータープログラムを実施している「Onlab HOKKAIDO」からも、現役の第8期生が発表しました。全9社の登壇企業をご紹介します。
Contents
最優秀賞– Best Team Award –を獲得したのは、干ばつ被害に悩む地域に潤いを与える土壌保水剤「SuperSponge」を開発する株式会社Teraformです。
近年、気候変動により世界中で干ばつが深刻化。その結果、農作物の被害総額は年間10兆円にも及んでいます。国内でも記録的な酷暑による干ばつが頻発し、水不足により、作物が根を張る前に枯れてしまう事例が大きな問題となっています。
その対策として土壌保水剤が利用されていますが、その主流は石油由来で、マイクロプラスチックによる土壌汚染が問題視されています。一方、自然由来の製品は、生産コストの高さが導入のネックとなっていました。
これらの問題を解決するのがSuperSpongeです。特徴は100%自然由来の完全生分解性を持ちながら、高い保水性を実現。使い方は非常にシンプルで、土に散布して水を与えるだけです。これにより長期間の保水効果が持続します。生産コストを他社製品の1/10に抑えました。
Teraform社は今後、水分だけでなくスポンジ内に肥料・農薬などを内包し徐放する技術を開発していく予定。農薬などを効果的に長期間散布できる土壌インフラを形成していきます。
会社名 | 株式会社Teraform(テラフォーム) |
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サービス名 | SuperSponge(スーパースポンジ) |
代表者 | 日高 聡 |
ホームページ | https://teraform-inc.com/ |
来場者の投票で決まるオーディエンス賞を受賞したのは、子どもを犯罪から守る親子向けAIスマホアプリ「コドマモ」を提供するAdora株式会社です。警察や大学と産官学による共同開発で生まれました。
近年、子どもは8歳頃からスマホを使うようになっているものの、9割の保護者がその利用に不安を抱えています。悩みの種はいじめや誹謗中傷、性的被害、個人情報流出といった、LINEなどSNSでのトラブル。しかし従来の見まもりサービスでは、この問題を十分に解決できていません。子どもたちのいじめ・SNSでの犯罪被害や自殺も、過去最多となってしまっています。
この社会課題を解決するためにAdora社が開発したサービスがコドマモです。独自開発した暗号化通信技術を用いて、LINE上で危険なやりとりが検知されると、AIが自動で保護者に通知。子どもの居場所把握や歩きスマホ防止、利用時間管理といった、保護者の多くが抱える悩みをまとめて解決する機能を実装しています。
リリースから約2年で、国内外16万人以上に使われるまでに成長。全国3,000の携帯ショップとも連携を開始しました。auの子供向け一部プランでは追加料金なしで利用でき、順調に成長基盤を築いています。
Adoraの強みは、メッセージングアプリ上のやり取りを読み込んで分析できる暗号化通信技術です。今後は、高齢者の詐欺被害防止や、自治体向けの小中学生用タブレットのセキュリティ、さらには企業向けの事業展開を予定しています。
会社名 | Adora株式会社(アドラ) |
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サービス名 | コドマモ |
代表者 | 冨田 直人 |
ホームページ | https://www.kodomamo.com/ |
日本のアニメは海外からも大きな注目を集めており、市場規模は年々拡大。一方でアニメ業界は、アニメーターの減少という大きな課題を抱えています。その結果、制作を海外に依存するケースも増えてきました。しかし今度は作画のクオリティの低さや修正コストの高さが新たな課題となり、アニメを作りたくても作れない状況に陥らせています。人気アニメでさえ、現在は制作が3年待ちになる場合もあるそうです。これらの課題を解決するのが「ANICRA」です。
ANICRAは作画を1分で完了させる、アニメスタジオ向けのAI制作サービス。原画素材を入稿すると、AIが自動で動きの作画の工程である中割・着彩を実施してくれます。例えば「(バイバイのように)手を振る」といった動作について、最初と最後の原画をアップロードすると、AIが途中の手を振っている絵を自動で生成してくれる、というイメージです。
出来上がりは複数パターンから選べ、アニメーターが自らの目でシーンに最も適した作画を選んで修正が可能。操作はシンプルで、難しいプロンプトも不要。8月のリリース以降、トライアル導入されたスタジオからは「クリエイター同等のクオリティ」と高く評価されています。
会社名 | 株式会社CrestLab(クレストラボ) |
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サービス名 | ANICRA(アニクラ) |
代表者 | 坂東 裕太 |
ホームページ | https://crestlab-inc.com/ |
貨物量の増加に伴い、国際物流や貿易におけるコンテナ船の運航遅延は年々増加。国際情勢や自然災害、サイバー攻撃といったリスクにも晒されています。そのような事情もあり、コンテナ船の定時運航率は57.5%程と低い水準にとどまっています。例えば、物流遅延により工場が1日停まると数億円規模の損害が発生することも珍しくなく、年間の欠品ペナルティとして数億円を支払っている物流会社も存在します。しかし、それを防止するために物流担当者がタイムリーにすべての貨物の状況を把握する動静確認は非常に困難です。この課題を解決するのが「Harbitt」です。
Harbittは、これまで人手に頼っていた船輸送や貨物のデータ収集を自動化し、国際物流や貿易に関わるデータをAIで分析。高精度な到着予測が自動で更新される仕組みを提供します。貨物の遅延状況を即座に把握できるほか、代替ルートの検索や、遅延するかもしれないといった、示唆の伴う分析機能がHarbittの強みです。特定の担当者の経験やスキルに依存せず、誰でもデータドリブンな意思決定を可能にします。
今後は蓄積した国際物流や貿易データを活用して、保険や送金、与信といったFinTech領域にも事業を展開していく考えです。
会社名 | ハービット株式会社 |
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サービス名 | Harbitt(ハービット) |
代表者 | 仲田 紘司 |
ホームページ | https://harbitt.com/ |
Onlabの姉妹プログラム「Onlab HOKKAIDO」のアルムナイから登壇してくれたのは、株式会社NINAITEです。介護、農業などの外国人ブルーワーカー領域に特化し、在留管理や採用マッチング、定着に関する課題を解決します。
現在30万社が実施していると言われる外国人のブルーワーカー雇用は、2040年には100万社まで増加すると予測されています。しかし、この外国人採用には膨大で複雑な書類作成が必要です。というのも、企業・外国人本人・日本語学校・登録支援機関など、多くのステークホルダーが関わるため、申請業務が構造的に入り組んでいるからです。さらに、コストをかけてまで採用しても、従業員が突然辞めてしまい、再び人手不足に陥るという課題もあります。これらの課題を解決するのが外国人ブルーワーカーのHR SaaS「TSUNAGITE」です。
TSUNAGITEでは、採用に係る在留管理をAIがサポートすることで、申請業務の大幅な効率化を実現。外国人一人あたりにかかる在留業務を20営業日から3営業日に短縮しました。TSUNAGITEに集まる豊富な人材リストが、企業の効率的な採用活動を支援し、さらに、外国人材のマネジメントデータを活用することで、彼らの転職・離職予兆リスクを事前に把握し、3年間の継続率90%を達成しています。
会社名 | 株式会社NINAITE(ニナイテ) |
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サービス名 | TSUNAGITE(ツナギテ) |
代表者 | 横山 三四郎 |
ホームページ | https://ninaite.ne.jp/tsunagite/ |
Demo Dayでは、Onlabの卒業生4社も登壇。事業の進捗を報告してくれました。
Alumni Pitchのトップバッターとして登場したのは国内最大級のドローンショー事業を展開する株式会社レッドクリフ。ドローンショーに関する2つのギネス記録を保有し、ピッチ時点で開催中の大阪万博でも毎日ドローンショーを実施しています。
レッドクリフはtoBとtoC向けの2方面から事業を展開。toB事業では「空の広告代理店」として、QRコードをドローンで空に描きSNSに展開してPR効果を高める施策や、日本の歴史・文化を融合させたナイトタイムコンテンツの創出でナイトタイムエコノミー(夜間に行われる経済活動)に貢献しています。また、花火大会やお祭りの資金不足という地域課題に対して、ドローンショー広告で募った企業協賛金を活用し、持続可能な形で解決することで地域活性化に寄与してきました。
今後は、toC向け事業としてレッドクリフが企画・運営する自主興行型ドローンショーの新たな展開も予定しています。クリエイティブ、コンテンツ、テクノロジーの3つの強みを活かし、世界的に人気の日本のエンタメIPコンテンツと連携し、地域創生だけではなく、世界展開も狙っていきます。
会社名 | 株式会社レッドクリフ |
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サービス名 | ドローンショー |
代表者 | 佐々木 孔明 |
ホームページ | https://redcliff-inc.co.jp/ |
株式会社9lioneが開発するのは、医薬品流通改善DXプラットフォーム「9lione(クリオネ)」です。院内残薬や医薬品の安定供給ができないといった問題を解決します。
多くの医療機関が抱える問題のひとつが「院内残薬」です。院内残薬とは、病院内に余剰在庫として残っている医薬品で、期限内に使い切ることなく廃棄されてしまうことが多く、事実上の「医薬品の不動在庫」ともいえます。その市場規模は、薬剤費の約10%にあたる年間7,700億円相当と見込まれています。院内残薬が発生する理由は、医薬品の管理が煩雑で十分に行われていないことに加え、院外での在宅診療時のずれ、在庫把握が困難なことによる過剰発注などです。
この問題を解決するのが「9lione Cloud」です。バーコードで医薬品を一元管理し、在庫情報の可視化を可能にしました。
また一方で、医療機関には「医薬品を仕入れられない」という課題も存在。限定出荷・出荷調整となっている医薬品は3,800品目もあり、市場の2割に相当します。この問題は、処方箋を受け取ったにもかかわらず薬がないケースが発生し、病院や薬局での処方業務や患者対応に支障をきたしています。9lioneはこの課題に対して、医薬品二次流通プラットフォーム「9lione:Market」を提供。1錠単位から数十万錠単位まで発注が可能で、通常の卸では仕入れできないロット数にも柔軟に対応します。また、それでも解決できないものについては、院内残薬に悩む医療機関と、仕入れに困る医療機関をマッチングして解決に導きます。
会社名 | 株式会社9lione(クリオネ) |
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サービス名 | 9lione(クリオネ) |
代表者 | 廣田 雄将 |
ホームページ | https://www.9lione.net/ |
WHILL株式会社が開発するのは、従来の電動車椅子の概念を進化させた近距離モビリティです。機能性、デザイン性、安心・安全性を兼ね備え、施設内や街中での快適な移動を実現。時速6kmを超えないため、歩行者扱いとなり、免許やヘルメットは不要で、歩道も走行可能です。世界の歩行困難者は2025年に1.6億人、2035年には1.9億人になると予想され、国内でも1,000万人と見込まれています。WHILLはこうした介助を必要とする人の移動を支えます。
近年は法人向けに「WHILLモビリティサービス」も展開しています。テーマパークやショッピング施設、空港・駅、スポーツ施設などで導入が進み、来場者の散策や観光地の周遊をサポートしています。施設にとっても来場者の回遊性が向上し、訪問店舗数・滞在時間の増加、収益アップに貢献するというメリットがあります。
会社名 | WHILL株式会社(ウィル) |
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サービス名 | WHILL(ウィル) |
代表者 | 杉江 理 |
ホームページ | https://whill.inc/jp/ |
6.1時間。これは日本人の平日の平均話量で、我々は想像より多くの会話をしています。近年注目される「人的資本経営」を実現するためにも、伝え方やコミュニケーションといったソーシャルスキルの重要性は明らかです。「話し方は人生を左右する究極のポータブルスキル」だとカエカ代表の千葉さんは語ります。この“話し方・伝え方”のトレーニングをサポートするのがkaekaです。
kaekaではまず、パソコンに向けて30分の口頭試験を行い、AIが話し方スキルを採点し、使っている言葉や抑揚などを数値化し・可視化。自分の強みや課題を客観的に把握します。次に、グループトレーニングやパーソナルトレーニングを3〜6ヵ月かけて実施。最後に、再度のスコア診断で定量的・定性的に成長を確認します。
kaekaの受講者の約8割は一般の社会人。そのほか、政治家やCxOなどリーダー職向けのトレーニングも行っています。現在は銀座、築地、大阪、オンラインで受講が可能です。
会社名 | 株式会社カエカ |
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サービス名 | kaeka(カエカ) |
代表者 | 千葉 佳織 |
ホームページ | https://kaeka.jp/ |
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15周年・30期という節目のDemo Dayは、Teraformの最優秀賞獲得で幕を閉じました。
プログラム終了後も、Onlabは30期生を始め卒業スタートアップを、起業家コミュニティの一員として、継続支援してまいります。
また、2025年12月には第31期Seed Accelerator Programの募集を開始予定です。起業を検討している方や、事業成長の機会を求めているスタートアップ経営者の皆さまは、オンラインで実施している事業相談会(Open Office Hour)も是非ご活用ください。たくさんのスタートアップからのご応募をお待ちしています!
(執筆:pilot boat 納富 隼平 編集:Onlab事務局)