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この課題は必ずある。ピボットを重ね導き出した院内残薬の社会課題|9lione(クリオネ)|Road to Success Onlab grads vol.13

この課題は必ずある。ピボットを重ね導き出した院内残薬の社会課題|9lione(クリオネ)|Road to Success Onlab grads vol.13

Open Network Lab(以下、Onlab)は、「世界に通用するスタートアップの育成」を目的に、Seed Accelerator Programを2010年4月にスタートしました。シリーズ「Road to Success Onlab grads」では、過去10年間でプログラムに採択され、その後も活躍を続けるOnlab卒業生たちのリアルボイスをお届けします。

「9lione(クリオネ)」の廣田さんは学生時代に起業し、様々な事業を経験してきました。その中でみてきた「ある社会課題」での起業のために、アクセラレータープログラムの門を叩きました。その理由を廣田さんは「医薬品業界で勝負するため、外部の力も借りたかったから」だと語ります。そう、廣田さんは決して医薬品業界の知見があったわけではなかったのです。なぜ院内残薬の課題にたどり着き、この課題を解決するために起業したのか、そして知見のない業界でどう活躍の兆しをみせているのか、これまでの様々な出来事を交えてお話を伺いました。

< プロフィール >
株式会社9lione 代表取締役 廣田 雄将

1989年徳島生まれ。大学在学時に広告・プロモーション会社を創業、事業売却を経験。 事業売却後、医療系M&Aアドバイザーとして活動し、動物病院を中心に調剤薬局、クリニックなど幅広い医療機関の事業承継およびデューデリジェンスおよびPMI業務に従事。 PMI時にはグループ病院に出向し統括事務局長として臨床現場で勤務を行い「院内残薬」という課題を感じ解決するため株式会社9lioneを創設。

動物病院でのコスト管理で気づいた、医薬品廃棄の社会課題

― まずは9lioneを創業したきっかけについて教えてください。

私は学生時代に広告やPRを扱う会社を起業して事業売却を経験しました。そのご縁で医療系のM&Aのアドバイザーとして、グループ展開する動物病院での仕事をさせていただいたことがあり、その現場であるとき医薬品の在庫に課題があることに気づいたんです。病院内の医薬品はかなりの余剰在庫があるにも関わらず、ほとんどの場合が期限内に使い切ることなく廃棄されていました。

これを金額に換算するとかなりの額で、院長や事務の方に尋ねてみたのですが、誰に聞いても「医薬品は余るものなので…」と回答されていたんです。当時私は、原価や経費削減を任されていたので、そんな理由では困る。そこで、医薬品の廃棄を削減するプロジェクトを社内で提案したんです。しかし「薬は余るもの」という固定観念がある現場の方に、この問題を納得してもらい、状況を改善することはできませんした。私は「絶対に課題がある」と信じていたので、「だったら自分で起業します」と言って、起業することにしたんです。

起業を決めて医薬品在庫について深く調べを進めていると、どうやら動物だけではなく、人間の医療現場でも同じような問題が起きていることが判明しました。後に9lioneで「院内残薬」と名付ける「医薬品の不動在庫」を、多くの病院等がかなりの量を保有しているということがわかったのです。

― 院内残薬と呼ばれる医薬品の不動在庫は、一般的にどのくらいあるものなのでしょうか。

概算ですが、例えば小規模な調剤薬局店舗でも1店舗当たり年間500万円程度の院内残薬があると見込んでいます。これは個人経営の薬局だったら年間の営業利益に匹敵する金額です。本来院内残薬は、在庫仕入れの10%以内に収めるのが鉄則ですが、ただそれでも、2019年度の医療費43.6兆円の内「調剤」は7.7兆円(編注:医療費の金額は厚生労働省HPより。以下同じ)なので、単純計算で7,700億円が院内残薬となる計算です。しかも高齢化に伴い医療費はどんどん膨れ上がっていて、2024年には12兆円になると言われています。その10%なら院内残薬は1兆円を超える。1兆円分の医薬品が廃棄されてしまうとしたら、とんでもない社会問題ですよね。

― 確かに、その金額を聞くと驚きですね。院内残薬は廃棄するしか方法はないのでしょうか。

一般的に在庫が動かなくなって半年程度経つと、廃棄されることが多いようです。食品ロスと同じようなイメージですね。医薬品には使用期限があるので、消費できなければいずれは廃棄しなくてはならず、投資金額を回収できない。場合によってはこれが廃業の要因にもなっています。

― そもそも院内残薬はなぜ発生してしまうのでしょうか。

当然ながら、患者さんに処方する際に薬がないと困るので、多めに薬を発注しているという側面はあります。ただそれ以前の問題として、そもそも薬の在庫管理がちゃんとできていないことも多いようです。多くの病院や薬局では、薬の在庫管理をエクセルや手書きで管理しているのが実態で、それが悪いわけではありませんが、勘と経験で毎回在庫を減らせるかというとなかなか難しい。結局よくわからないので、多めに発注してしまうというわけです。

そして最大の問題は、薬が「箱買い」しかできない点にあります。つまりある薬の必要発注量が10錠だったとしても、100錠の箱でしかその薬を購入できないのです。残りの90錠は保管しておくしかないのですが、使われなければ結局廃棄されてしまう。そのため、稀にしか処方されないような薬は院内残薬になってしまいます。

― そんな課題を解決するプロダクトが9lioneですが、具体的にどのようなサービスなのですか?。

9lioneは、院内残薬を簡単に削減できる医薬品プラットフォームです。医薬品は少単位での発注を自由に選ぶことができないので、どうしても余ってしまいます。そこで9lioneがプラットフォームとなって、薬局や病院で使われていない医薬品を買取り、必要とする近くの薬局や病院に届けるというシステムです。

院内残薬の課題解決から需要予測へ、進化する9lioneが目指すもの

― 9lioneの特徴について教えてください。

9lioneの特徴はまず、完全審査制で医療従事者しか使えない点です。登録には免許証や開設届が必要で、患者が直接「頭痛薬を仕入れよう」「必要なだけ買ってしまおう」とはできません。あくまでBtoBのサービスです。

2点目は、箱買いではなくて必要な数量だけ買えるようになっています。最適な量の購入によって在庫の圧迫を防ぎます。

3点目に、そうは言っても院内残薬は発生してしまう。そんなときは院内残薬を撮影するだけで、不要としている医薬品を必要としている医療機関に譲渡できるシステムとなっています。

9lioneでは、例えば1シート単位の少量の医薬品でも実際に在庫を回収して配送できるようにしました。CtoCではよく梱包や配送が面倒という話が出ますが、9lioneでは徹底的に、医療機関の手間にならないサービス設計をしています。これらにより、買う側は医薬品を安く最適な量で仕入れられるし、売る側は廃棄予定だった残薬の一部を投資回収できる。社会としても医療費の軽減に繋がるということで、三方よしのサービスとなっています。

2020年2月からサービス提供を開始して、現在は50店舗程にご利用いただいています。2021年5月から有償化し、契約手数料の20%を頂いています。一見高額に感じるかもしれませんが、ここには配送料も含まれていますので、それを考慮すればリーズナブルです。

― 現在、9lioneはどんな体制で運営されていますか?

現在は14名でほぼ業務委託です。今後は採用を強化しようと考えていて、セールスとエンジニア、バックオフィスの社員を増やしていこうと思っています。営業スタイルはドミナント式で「足りてない薬はないですか?」というように、とにかく顧客の声を聞いて回ります。ですので、インサイドセールス兼カスタマーサクセスのようなチームを作りたいと思っています。

― メンバーも徐々に増えてきていると思いますが、既存投資家やステークホルダーとはどんな頻度でコミュニケーションされていますか?

既存投資家としてインキュベイトファンド、DGベンチャーズ、三井住友海上キャピタルにご出資いただいています。隔週もしくは、最低でも1か月に1回はミーティングで進捗報告をしているので、次回のミーティングまでにはこれぐらいの進捗を持っていないとその先の話が進まないと、自分なりにはいい締切効果に繋がっていると思います。また、その中で期日までに結果が出ない施策であれば、別の会社の事例などのアドバイスをいただくことも多いので、非常にありがたいです。

― 採用強化とのことですが、9lioneに入社して欲しいという人物像はありますか?

9lioneはメンバーの裁量権が大きいので、ひとりひとりが課題解決の視点をちゃんと持っているかというのが重要だと思っています。何をユーザーが課題として感じていて、どう解決していくのかというのを一緒に考えられるような人に来ていただきたいです。

― 今後、中長期的に取り組んでいきたいことはありますか?

9lioneで受発注を繰り返してもらえれば、我々は将来的に、いつ・どこで・どんな薬が売られているのかがわかるようになります。このデータを使って、需要予測ができる在庫管理プラットフォームとして展開していく予定です。

例えばある持病をもった方が病院に通っているとします。1回30錠を処方するために100錠の箱を買う必要がありますが、これを補充し続けるだけならあまり問題にはならないのですが、途中で薬が変わってしまうと、元の薬はかなりの量が余って廃棄になる可能性がある。こういう課題を在庫予測を用いて解決したいんです。

今後は医薬品だけでなく、医療の消耗材、ガーゼ、針、マスク、医療機器等も9lioneで販売できていけるようになれば、医療機関のAmazonのように進化できるのではないのかなとも考えています。ビジョンとしてはOnlabに思い描いたものと変わらず、『院内残薬をなくすことによって医療費の削減につなげていきたい』と考えています。まずは、足元の院内残薬を簡単に削減できる医薬品プラットフォームとして一歩一歩進めていきます。

3年経った今、改めて実感しているOnlab先輩起業家からのアドバイス

― 廣田さんは学生時代に起業経験がありますが、なぜアクセラレータープログラムに申し込もうと思ったのでしょうか。

今回の起業で取り組もうと思った医療領域は、大きなマーケットで既得権益もあり複雑です。何より人命にも関わるので規制の壁も高い。自分1人だけで「絶対にできる」なんてことはなくて、業界に関する知識やノウハウが必要だと感じていました。例えばリーガルチェックは担保したいですし、人脈も必要。外部からの意見も欲しかった。大きな資本も必要になってくると思っていたので、投資家の方々からの出資を受け入れたいとも考えていたんです。そんな中、これら全てと出資が条件に含まれるアクセラレーターに参加できれば、全て手に入るのではないかと考えました。それが、Onlabだったんです。

― Onlabでの3カ月間の最初はどのように過ごしましたか?

最も力を入れていたのはユーザーヒアリングです。当時はまだ課題仮説があるだけという段階だったので、病院や薬局にひたすらヒアリングに行っていました。最終的にヒアリングできた数が50ぐらいだったので、たぶん10倍の500軒ぐらいの医療機関を訪問したと思います。

― 廣田さんの経験を鑑みるに、最初から薬局のネットワークがあったわけではないですよね。どのようにヒアリング先を見つけていったのですか?

最初はドアノックが多かったですね。いきなり薬局に行って「こういうこと今考えているのでヒアリングさせてください」と頼んでいました。「今、忙しいので」と断られることもありましたが、10回に1回は興味をもってくれたという感じです。この中から何時ぐらいだったら断られることがないのか、どんな依頼方法であれば時間を割いていただける可能性が高いのか、学んでいった感じです。

― 廣田さんはそこがすごいですよね。確率が1/10だったら「やっぱりこの課題はないのかな」と諦めてしまいがちですが、継続して取り組まれていたのが印象的でした。

とは言っても「5回連続断られたらやめよう」といったルールはありましたよ(笑)。精神的に厳しい時期もあったので、自分の中にルールを決めていました。Onlab期間中は、大阪から東京に来てネットカフェに寝泊まりしながらの生活で、この課題は絶対にあるはずだから、その理由が何かを薬局を回りながら業務フローだったりオペレーションだったりを聞き回っていました。

― そういえば自転車でヒアリングに行ってましたよね? 当時Onlabのコワーキングスペースに突然自転車が配達されて、ざわついた記憶があるのですが……。

そうでした(笑)。ヒアリングの効率化を考えているときに「徒歩だと時間がもったいないな」と思って、自転車移動に切り替えたんです。夜通し仕事をしていて、本当は禁止されていたのですが、結果的にコワーキングスペースに泊まったり……。あ、今は自転車からバイク移動になりました(笑)。

― ヒアリングは結果的に期間中に50件程度実施したとのことでしたが、結果どのようなインサイトがありましたか?

当時は在庫管理に注力して話を聞いていたのですが、かなりの割合で「在庫管理はできている」との回答を頂いたんです。それでその管理方法について詳しく聞いてみると、古いWindowsでしか動かないオンプレミスのシステムを数百万円で購入したと。当然そのシステム上で簡単に管理したり、在庫予測ができるわけではありませんが、皆さんそれで管理は十分だと考えているようでした。それで勝機はあると感じたんです。

実際、サービスローンチの段階になって、FAXで3~4万店舗に連絡したら、90件程のレスポンスがきました。FAXを送っただけでこれだけ反応があるのだから、やはりここで見つけた課題は間違っていなかったんだろうなと今でも感じています。

― 9lioneは17期最優秀賞でしたが、もともとピッチは得意だったのでしょうか?

いえいえ全く得意じゃないです。とにかく僕は人前でしゃべるのが苦手で……。ピッチは、要点を簡潔に伝えるという点が本当に難しいと感じました。「これも伝えたいしあれも伝えたい」と思っていたら「文字が多すぎる」と言われて、「えっ、こんなに少ないのに、まだこれでも多いの?」という感じでした。「1時間かけて行うようなプレゼンテーション発表会だったらそれでいいけれど、ピッチは違う」と言われたことを覚えています。でも苦手だからこそ、Onlabでのピッチを機に、伝えたい要点を短い時間でも簡潔に伝えるピッチができるようになったのは良かったです。

― Onlabのようなアクセラレータプログラムへ申し込んだのは、事業に対する外部からのアドバイスが欲しい、というお話でした。Demodayがお披露目の場となり、様々な方の目に触れることになりましたが、目的は達成できましたか?

そういう意味では、メンターのカカクコムの方には事業目線で、どんな顧客に対して何を価値提供とするのか深いお話を聞けましたし、DGやOnlabのメンバーからは投資家目線ではこういうことが聞かれるのでと、事業計画や対話整理のためのディスカッションもしました。

あとはOnlabの先輩卒業生の話を聞けたのもよかったです。SmartHRの宮田さんにメンタリングしていただいた時も「最初はこういうところで躓くと思うから、こういうことを対処した方がいい」「こんな課題をカバーリングするCSが今後必要になってくるから、早めに担当者を採用した方がいい」とアドバイスいただいたんです。実際、3年たった今、そこが事業上のボトルネックになっているので「あれはこういうことか」「やはり宮田さんがおっしゃっていたことは正しいんだな」と今になって実感しています。今さら気付いているのでアドバイスを活かしきれていないのですが(笑)。

― これからOnlabへ参加しようと検討している方々へのアドバイスをお願いします。

Onlabに参加して良かったのはまず、同期でも優秀な人が多い中で「この人たちには負けたくない」と頑張れる点です。また同じようなフェーズの会社がどうやって事業を伸ばしているのか、逆に躓いているのかを間近で見られるのも影響が大きかったです。あとは先輩起業家からのアドバイスは正しいです!

あと、Onlabは他のアクセラレーターと比べて、ものすごく仲が良いですね。9lioneが17期で、16期・18期くらいなら同じようなステージの会社が多いということもあって、よく相談しています。最近はコロナ禍で会えていないので、そろそろみんなの状況もキャッチアップしたいですね。

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