2025年01月09日
Seed Accelerator Program(シードアクセラレータープログラム)を運営するOpen Network Lab(以下「Onlab」、読み「オンラボ」)は、2024年12月17日、第29期Demo Dayを開催しました。200社以上の応募の中から採択された5社のスタートアップが多くの投資家や事業会社の皆様を前にPitchしています。また、Onlab卒業生の4社がAlumni Pitchに登壇し、現役時からの事業のアップデートを報告してくれました。今回は特別に、台湾発、東南アジアのスタートアップアクセラレーターであるAppWorksのAlumni 2社も登壇しています。
Onlab第29期プログラムでは、日本での成長支援を行う「JAPAN Track」に加え、DAY1から海外で事業を展開するスタートアップを支援する「GLOBAL Track」を新設。メンタリングは東京だけでなくサンフランシスコでも行われました。今回のDemo Dayに登壇した5社はすべて「GLOBAL Track」に採択されたスタートアップです。
本稿では各社のPitchを振り返りながら、第29期Demo Dayの受賞企業を紹介します。
※29期の1社は非公開のため4社を紹介します。
Contents
この日、最優秀賞とオーディエンス賞をダブル受賞したのはAI採用エージェント「Hope」を運営するBlancAIです。
BlancAIは、製造業や建設業のブルーカラーワーカー採用業務を自動化し、最適な候補者を1日以内に採用することを可能にするAI採用エージェント「Hope」を提供しています。
BlancAIの則俊代表は、1回目の起業の後、ある日本企業で年間100人のエンジニア採用に携わっていましたが、その会社では業務に疲弊した採用担当者の退職が続出していました。毎回同じ質問をして、その結果を集計することに人間が耐えられなかったようです。そこでBlancAIは生成AIを使い、この状況の改善を試みます。目をつけたのは、離職率が年間65%と言われるアメリカの製造業や建設業のブルーカラー採用業務です。
既存の採用管理システムに、AI採用エージェントであるHopeを繋ぐことで、AIが自動で膨大な候補者スクリーニング(履歴書チェック)や日程調整、果ては電話面接までも実行してくれます。多くの応募者は相手がAIだと気づかないまま電話を終えるのだとか。電話面接をした全員の評価が次の日の朝までに実行され、採用担当者はそれを確認して承認すればいいだけです。Hopeを利用することで、採用担当者の業務負担を大幅に削減し、また応募者とのマッチング精度向上により離職率を3割にまで抑えることを目指します。
アメリカの採用市場は約40兆円、製造業・建設業に絞っても約12兆円の巨大な市場です。Hopeは月額だけでなく、成果報酬型でのサービス提供も開始しました。価格は半分程度でも24時間稼働し続けられる点も鑑みれば、企業のコストカットも見込めるでしょう。「AIを使って人間がクリエティビティを発揮できる環境を作りたい」と、BlancAIの則俊さんは意気込みます。
会社名 | BlancAI, Inc.(ブランクエーアイ) |
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サービス名 | Hope(ホープ) |
代表者 | 則俊 慶太 |
ホームページ | https://blancai.io |
xMap社が開発する位置情報分析プラットフォーム「Polygon AI」は、不動産の最適活用を提案するSaaSです。土地が事業に適しているか、どのような利用方法が最適な資産活用かといった質問に回答します。
Polygon AIを使うには、まず地図上で調べたい土地をポリゴン(多角形)で囲み、チャット欄に「この中に何人が住んでいる?」「このエリアにはどのくらいのレストランがあるか」「ホテルは建築できそうか」といった質問を入力。するとロケーションに強みのあるLLM(大規模言語モデル)と生成AIが即座に回答をしてくれます。Polygon AIによる分析結果は、交通パターン、人口統計、レストランの数に加えて、地震や洪水といった災害関連情報にも対応します。不動産開発や都市計画、レジャー拠点やサービス出店などの戦略的な意思決定に役立ちます。
xMap代表のBatranさんは、東京大学の修士を取得後、1社目の起業を経てxMapを創業しました。Polygon AIは既に日米で4つの特許を取得。日本に拠点を置き、国内外の複数の企業との契約も勝ち取っています。
会社名 | xMap, Inc.(エックスマップ) |
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サービス名 | Polygon AI(ポリゴンエーアイ) |
代表者 | Mohamed Batran (モハメド・バトラン) |
ホームページ | https://www.xmap.ai |
米国大学受験のプロセスをLLMでリアルタイムに支援するサービスです。米国大学を目指す受験生の出願校選びからエッセイ添削まで、一気通貫でAIが個人指導を行い、志望校合格へと導きます。
米国で大学に入学するためには、高校の内申点、統一テストのスコア、エッセイが必要と言われています。しかしそのプロセスマネジメントに失敗し、最終的にエッセイに書くネタがないという高校生は少なくないそうです。エッセイ作成を支える進路指導担当者もいますが、例えばある高校の進路相談員は1人あたり400人の生徒を抱えており、細かいパーソナライゼーションは難しい状況です。民間の個人指導を頼むにも、多額のコストがかかってしまいます。アドミットエーアイ代表の真田さんもこの個人指導でスタートアップを経営していましたが、労働集約的でスケールしなかったと語ります。
そこで登場するのが、米国大学受験指導を全自動化するアプリ「Admit AI」です。大学入学までの一連のプロセスをLLMを用いて自動化することで、上記の課題を解決します。各プロセスは簡単な入力やクリックだけで進行するように設定され、エッセイの添削もLLMが再現。ユーザーの中には330回もエッセイをアップロードする人が出てきたり、受験シーズン中に1人のユーザーが100時間以上使用する例も出てきました。無料ユーザーだけでなく課金ユーザー数も伸びており、B2Bの学校営業も開始。将来的には米国の高校生だけでなくグローバルに、また受験だけでなく社会人教育なども見据えながら、40兆円の巨大な市場を狙います。
会社名 | アドミットエーアイ株式会社 |
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サービス名 | Admit AI(アドミットエーアイ) |
代表者 | 真田 諒 |
ホームページ | https://admit-ai.com/ |
Ampliumは、Apple Vision Pro向けイマーシブ(没入)ビデオプラットフォームです。超高解像度の3Dビデオと空間オーディオを活用して、視聴者がまるでその場にいるかのようなビデオエンターテインメントを提供します。
Apple Vision Proが2024年に発売され、イマーシブビデオの注目度が上がっています。しかしユーザーは現在、イマーシブビデオを再生するために、ビデオファイルをMacBookやiPhoneに一旦ダウンロードし、Apple Vision ProにAirDropするという手間のかかる視聴体験に陥っています。
このような煩雑な視聴体験を整備するために開発したのが、Apple Vision Pro向け180度、3D、16Kに対応するイマーシブビデオプラットフォーム「Amplium」。リアルタイムで動画にグレーディング(画像加工処理)をかける技術や、AIを活用し8Kの映像を16Kにまで向上させる機能により、元の映像よりもクオリティの高いビデオ配信を実現しています。
Ampliumはベータ版の発表直後から、アプリダウンロードは500人超、メディアで紹介されるなど業界の注目を集めています。著名なコンテンツ取得・映像配信の専門家もアドバイザーとして参画。Amplium社はイマーシブビデオの制作実績があるチームと、現在プロダクションチームを準備中です。
会社名 | Amplium, Inc. |
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サービス名 | Amplium(アンプリウム) |
代表者 | 佐藤 響 |
ホームページ | https://home.theamplium.com/ |
Boost Healthが提供するのは、社員の心の健康とパフォーマンスをブーストする攻めの社員ケアAIプラットフォーム「BOOST」です。コーチングやカウンセリングの現場で使われる認知行動療法に基づいて開発したAIと、人のコーチとのハイブリッドでユーザーをサポートします。
BOOSTでは、特にストレスが高い従業員にターゲットを限定し、その人たちの行動変容を促してストレスを解消。サポートの効果を数値化し、企業が人的資本投資(従業員を”資本”と捉え、その能力やスキルを最大化し、企業の持続的成長を目指す取り組み)を導入しやすくしました。AIツールと心理士などの専門コーチを掛け合わせたDXアプローチによりサービスの質を標準化しているのもBOOSTの特徴です。
会社名 | Boost Health株式会社 |
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サービス名 | BOOST(ブースト) |
代表者 | 芳賀 彩花 |
ホームページ | https://boosthealth.jp/ |
CuboRexはあらゆる不整地に電動の足を提供する「不整地のパイオニア」です。独自開発の汎用性の高い「足回り(キャタピラ)」を用いて、ロボットや運搬機器動力化モジュールを開発し、人と機械の新しい未来を実現します。
中小・中堅規模の工場には、15度の急斜面、4センチを超える鉄板の段差、油まみれの床面など、運搬の自動化を阻む様々な床面の課題があります。CuboRexが開発する「CataCata」は、このような環境でも事前に設定したルートに沿って工場の中を自動搬送し、監視作業を行える自動搬送ロボットです。
CataCataは、重機で使われていたキャタピラやクローラを小型化し、金属とゴムを組み合わせて実現した独自のクローラ技術を元に開発されました。これにより従来タイヤ型のロボットでは走行が不可能だった環境でも柔軟に走りきることが可能に。雨、風、雪、雷にも強く、屋内外問わず自動化を実現できるため、敷地内の複数の工場間の運搬自動化も担えます。
会社名 | 株式会社CuboRex(キューボレックス) |
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サービス名 | CataCata(カタカタ) |
代表者 | 嘉数 正人 |
ホームページ | https://cuborex.com/ |
3D.Coreは、3Dデータの生成・管理・活用を簡単に実現するクラウド型ソフトウェアで、3Dデータの民主化を目指しています。建設、インフラ、プラント、製造業などの分野で、誰でも簡単に3Dデータを業務に活かせる仕組みを提供します。
使い方はシンプルです。3D化したい対象を撮影してデータをアップロードするだけで、AIが自動で高精度な3Dデータを生成します。このデータは共有が可能で、メモ機能も搭載。スマホデータに加え、360度カメラやドローンのデータにも対応しています。さらに、3D.Coreの最大の特長は「圧倒的な美しさで3Dデータを生成できる点」。3Dデータ生成技術は国内特許を取得済みです。
例えば、国内で深刻化する橋脚の老朽化問題では、従来の改修プロセスに非常に多くの手間と時間がかかっています。原地調査、CAD制作、施主への報告、担当者が引き継ぎを重ねていくこともあり、採寸しそこねた、部材のサイズが分からない、足場の設置場所の変更など、様々な課題が頻発します。この課題を解決するためには都度、現場に足を運ばなくてはなりませんでしたが、それを不要にするのが「3D. Core」です。もちろん、橋脚以外の用途にも柔軟に対応可能です。
社内に蓄積されたデータの活用も始まっています。3D. Coreを利用することで、2Dの図面から3Dデータの再構築が可能です。これにより、改修だけでなく設計業務への活用も期待されます。
会社名 | bestat株式会社(ビスタット) |
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サービス名 | 3D.Core(スリーディーコア) |
代表者 | 松田 尚子 |
ホームページ | https://bestat-data.com/ |
Emobiは、旅行者の移動をスムーズかつ思い出深いものにする、3人乗り電動トゥクトゥクレンタルサービスです。Z世代・ミレニアル世代・インバウンド観光客をメインターゲットに、全国9か所で展開中です。
観光需要の拡大に伴い、観光先で移動方法に困る旅行客も増加し深い課題を抱えています。既存の四輪電気自動車の1/10の電気で走れる、三人乗り小型EV「Emobi」でこの課題を解決します。普通自動車免許で運転可能、柔軟な価格形態、様々な情報提供ができる液晶モニターを備え、運転・駐車が簡単であるなどの要素がレンタカーよりも手軽で、キックボードよりも安心・安全に遠くまで速く移動できる点が特徴です。
Emobiは独自のエンタメ要素でもユーザーの観光体験を盛り上げようとしています。例えばガチャ要素を備えたバッテリーステーションを用意することで、本来オペレーションコストとなる充電をユーザー自身が実施するように。将来的にはIPコラボも計画しています。海外展開も準備しており、つい先日には経済産業省のプロジェクトに採択され、2025年にはインドネシア・バリでのEmobiの走行が控えています。
会社名 | 株式会社eMoBi |
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サービス名 | Emobi(えもび) |
代表者 | 石川 達基(登壇者:後藤詩門) |
ホームページ | https://www.emobi.co.jp/ |
本Demo Dayでは、今期29期に始動した「Global Track」の取り組みのひとつとしてAppWorks(アップワークス)のアルムナイ2社が特別参加しPitchしています。
AppWorksは台湾発、アジア最大級のスタートアップコミュニティとして2009年からアクセラレータープログラムを始め、年に2回のDemo Dayを主催しています。今年度はOnlabと同じく29回目のDemo Dayを台北とシンガポールで開催。投資としてはこれまで東南アジア・ブロックチェーン・AI/IoT領域に注力し、120社のスタートアップへの投資を実行しています。最近では日本初の投資としてデジタルガレージの投資先スタートアップにも投資を行いました。
TransTRACKは、輸送ロジスティクスのオペレーションに特化したテックイネーブラー企業です。IoT、AI、ビッグデータを用いた車両オペレーションの最適化サービス「Fleet Operaton Optimizer」と、サプライチェーンインテグレーターの2つのSaaSソリューションを提供しています。
Fleet Operaton Optimizerでは、遠隔で車両を管理する「車両マネジメントシステム」、維持管理を自動化する「ビークルマネジメントシステム」、荷物を管理し積載時間を最適化する「トラックアポイントメントシステム」を用意しています。一方のサプライチェーンインテグレーターでは、輸送管理システム、走行システム、配送計画、財務計画、ID管理や行動モニタリング、ドライバーアシスタント、シートベルトセンサーといった様々な機能を用意し、車両による荷物の配送を効率化しています。
TransTRACKは自動車だけでなく、バイクや重機、バスなどにも対応可能。生産性を40%向上し、残業時間や人件費、走行距離、アイドリングタイムなどを30%削減できます。
会社名 | Indo Trans Teknologi Pte. Ltd. |
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サービス名 | TransTRACK(トランストラック) |
代表者 | Anggia Meisesari(アンギア メイセサリ) |
ホームページ | https://transtrack.co/ |
Rekosistem社は、インドネシアで廃棄物管理の循環型経済構築を目指すスタートアップです。廃棄物のバリューチェーンを標準化し、廃棄物の回収プロセスを効率化することで、価値ある素材や再生可能な資源を生み出すための廃棄物管理と循環型経済運営システム「Rekosistem」を提供しています。
Rekosistemでは、ゴミを分別し、加工することで廃棄物をリサイクル材料に置き換えることが可能。自治体や街と協力して廃棄物管理を実施し、加工された廃棄物は工場などで原材料として使えるようにしました。またRekosistemで作られた原材料にはカーボンクレジットのような廃棄物オフセットが発行されるため、これを購入する企業はCO2削減といったESG達成にも貢献できます。
会社名 | Rekosistem Pte. Ltd. |
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サービス名 | Rekosistem(レコシステム) |
代表者 | Ernest Layman(アーネスト レイマン) |
ホームページ | https://rekosistem.com/ |
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Onlab第29期のDemo Dayは、審査員の判断が真っ二つに割れた結果、AI採用エージェント「Hope」のBlancAI社と、地理情報解析SaaS「Polygon AI」のxMap社が、Onlab史上2度目となる最優秀賞/Best Team Awardの2社同時受賞に輝きました。オーディエンス賞(観客による投票で選出)もBlancAIが接戦を勝ち抜きダブル受賞で幕を閉じました。ご参加いただいたスタートアップ各社、ご来場の皆さま、誠にありがとうございました。
さて2025年に15周年を迎えるOnlabは、2025年2月から第30期シードアクセラレータープログラムを募集開始の予定です。日本市場での成長を目指す「JAPAN Track」、Day1から世界に挑戦する「GLOBAL Track」 も継続します。この記事をご覧のスタートアップの皆様、ぜひ奮ってご応募ください。
(執筆:pilot boat 納富 隼平 編集:Onlab事務局)