2021年01月22日
【プロフィール】
Open Network Lab 原 大介
2005年慶応大学卒業、公認会計士試験合格。2007年より新日本有限責任監査法人勤務。金融業や製造業等の様々な業務の監査に従事。2012年より2年間、アメリカ・シリコンバレーに出向、現地でアメリカ企業の上場を支援(3社)。2015年より、不動産ビッグデータを利用したコンサルティング会社・ゴミを原料としたケミカルリサイクルを営む会社でCFO。エクイティのみならず、デッドや助成金等の様々な資金調達手法に精通。現在までの累積調達額は130億円超。
Open Network Lab(以下、Onlab)は「世界に通用するスタートアップの育成」を目的に、Seed Accelerator Programを2010年4月にスタートしました。これまで数百社以上のスタートアップを支援・育成してきました。今回は支援の中でもニーズの高いファイナンスについてわかりやすく解説します。第2回のテーマは、「デットを使うべきか?エクイティを使うべきか?」についてです。
【シリーズ目次】
第1回 そもそもファイナンスとは何か?
第2回 デットを使うべきか?エクイティを使うべきか?
第3回 デットを使う時の留意点について
第4回 エクイティを使うときの留意点
こんにちは。原大介です。私は、デジタルガレージのOpen Network Lab(以下、Onlab)で、主にプレシード〜シリーズA前後のスタートアップ向けにファイナンスの支援をしています。具体的な支援内容としては、各社の資本政策を一緒に検討したり、事業計画を一緒に作ったり、金融機関や他の専門家を紹介しています。私が支援する多くのスタートアップがそうであるように、アクセラレータプログラムに参加するステージのスタートアップは資金調達が思うようにうまくいかないという課題を抱えています。この記事では、そんなスタートアップの課題や間違いやすいポイントにフォーカスし、ファイナンスについてより具体的に理解してもらうことで解決していければと思っています。
第1回は「そもそもファイナンスとは何か?」というタイトルで、ファイナンスとは何か、何故ファインナンスを理解しておく必要があるかを説明しましたが、今回は、デット・ファイナンス(以下 デット)とエクイティ・ファイナンス(以下 エクイティ)を利用するうえでの重要な考え方について説明しておきたいと思います。なお、説明の簡便化のために、ここでデットとは銀行からの借入、エクイティとはベンチャーキャピタル等の第三者に対する新株発行とイメージしてください。
デットとエクイティを利用する上での重要な考え方とは、相手(銀行、投資家)の期待するものを理解することです。
まず、スタートアップに対する銀行の期待とは、貸したお金が利息込みできちんと返ってくることです。金利はスタートアップの状況にもよりますが、通常2- 3%と考えておけばいいのではないでしょうか?一方、投資家の期待とは、投資したお金が大きなリターンを生むことです。ここで、大きなリターンとはどれくらいなんでしょうか?
ズバリ何倍だという回答はないものの、前田ヒロ氏は、ブログ「VCが期待する投資リターン」の中で、VCがスタートアップに期待するリターンは20~48倍と紹介しています。20倍と言われてもピンとこないと思うのですが、(期待利回り=企業の成長率という仮定を置いたうえで)企業の成長率で説明すると、7年間で20倍にするためには年間平均54%(10年間の場合は35%)、7年間で40倍にするためには年間平均69%(10年間の場合にするためには45%)成長する必要があります。
また、YJキャピタルの堀新一朗氏らの『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』でもアーリーステージへの期待リターンは20倍〜と説明されています。さらに、スタートアップのファイナンスの教科書ともいえる磯崎哲也氏の『起業のファイナンス増補改訂版』4章 企業価値では、DCF法による企業価値の割引価値として、理論的根拠はないと前提をおいたうえで、創業期でまだ黒字化も見えてないような企業の場合、割引率(=投資家の期待利回りと考えてください)は、4割から6割くらいに(結果として)なることが多いのではないかと説明しています。
銀行、投資家の両者は、スタートアップに資金を提供する点では同じですが、その期待は全く異なります。エクイティを受ける=投資家からの投資リターンの期待を背負う、ということを忘れないでいただければと思います。エクイティの場合、高い成長率を期待される分投資家がスタートアップの価値向上に一緒に貢献してくれる可能性があります。Onlabのプログラムでも、採択企業に対してエクイティを提供するとともに、ビジネスのアイデア検証や成長課題を解決する壁打ち相手として、事業面とファインナンス面での支援を継続して行っています。
間違っても、「デットは返済しなければいけないが、返済義務のないエクイティの方が得だ」という安易な考え方を取らないようにしてください。デジタルガレージが過去投資した弁護士ドットコムの元榮太一郎氏も著書、『弁護士ドットコム 困っている人を救う僕たちの挑戦』の中で、安易に出資を受けることについて警鐘を鳴らしています。
私がスタートアップから資金調達の相談を受ける際に、以下の2軸で考えることをおすすめしています。
① 投資家が期待する高い成長率を実現出来るか?
② 銀行が期待する借入金の返済を確実に出来るか?
①と②を両方満たす場合には(例えば、売上は順調に伸びており、利益も出ている会社)、デットもエクイティも併用すればよいと思います。デットにはレバレッジ効果があるため、デットを上手く使えば投資家の期待利回りを実現できる可能性が高まります。
次に、①は満たすけれども②は満たさない会社(例えば、ユーザーは物凄い勢いで増えているが、当面赤字であることが予想される会社)は、エクイティを優先した方がよいです。
さらに、あまりスタートアップではないかもしれないですが、①は満たさないけれど②は満たす会社(例えば、確実に黒字は出ているが、スケーラビリティに問題がある会社)は、デットを優先した方がいいです。
最後に①も②も満たさない会社は、コストを抑える、補助金等を活用する等、デット・エクイティ以外の方法の方がよいでしょう。起業家自身が成長率に対して懐疑的な状態で投資家と投資の話をしても良いことは一つもないので、コストをかけないでビジネスの再検討等を行っていくべきでしょう。
今回は、第2回として、デットは銀行からの借入、エクイティは第三者への新株式発行を想定して、どちらを優先して利用するべきかの考え方を説明しました。実際にはデットやエクイティにも様々な種類があります。それらの内容について、3回目以降で説明していきたいと思います。
BLOG :VCが期待する投資リターン|前田ヒロ
書名 :起業のファイナンス増補改訂版
著者 :磯崎 哲也
出版社:日本実業出版社
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書名 :STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか
著者 :堀新一郎、琴坂将広、井上大智
出版社:NewsPicksパブリッシング
発売日:2020/5/29
書名 :弁護士ドットコム 困っている人を救う僕たちの挑戦
著者 :元榮太一郎、上阪徹
出版社:日経BP
発売日:2015/1/17