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スタートアップのためのファイナンス|#1 そもそもファイナンスとは何か?

スタートアップのためのファイナンス|#1 そもそもファイナンスとは何か?

【プロフィール】
Open Network Lab 原 大介

2005年慶応大学卒業、公認会計士試験合格。2007年より新日本有限責任監査法人勤務。金融業や製造業等の様々な業務の監査に従事。2012年より2年間、アメリカ・シリコンバレーに出向、現地でアメリカ企業の上場を支援(3社)。2015年より、不動産ビッグデータを利用したコンサルティング会社・ゴミを原料としたケミカルリサイクルを営む会社でCFO。エクイティのみならず、デッドや助成金等の様々な資金調達手法に精通。現在までの累積調達額は130億円超。

Open Network Lab(以下、Onlab)は「世界に通用するスタートアップの育成」を目的に、Seed Accelerator Programを2010年4月にスタートしました。これまで数百社以上のスタートアップを支援・育成してきました。今回は支援の中でもニーズの高いファイナンスについてわかりやすく解説します。第1回のテーマは、「そもそもファイナンスとは何か?」についてです。

【シリーズ目次】
第1回 そもそもファイナンスとは何か?
第2回 デットを使うべきか?エクイティを使うべきか?
第3回 エクイティを使うときの留意点
第4回 デットを使うときの留意点

ファイナンスとは、企業価値を高める広範囲の活動

初めまして。原大介です。私は、デジタルガレージのOpen Network Lab(以下、Onlab)で、主にプレシード〜シリーズA前後のスタートアップ向けにファイナンスの支援をしています。具体的な支援内容としては、各社の資本政策を一緒に検討したり、事業計画を一緒に作ったり、金融機関や他の専門家を紹介しています。私が支援する多くのスタートアップがそうであるように、アクセラレータプログラムに参加するステージのスタートアップは資金調達が思うようにうまくいかないという課題を抱えています。この記事では、そんなスタートアップの課題や間違いやすいポイントにフォーカスし、ファイナンスについてより具体的に理解してもらうことで解決していければと思っています。

皆さんは、ファイナンスとは何か?と聞かれて、すぐに回答できるでしょうか?実は、このファイナンスの定義は非常に難しいのです。例えば、スタートアップにおけるファイナンスのバイブルとも言える、磯崎哲也氏の『起業のファイナンス増補改訂版』でも、ファイナンス手法については非常にわかりやすく説明されていますが、ファイナンスについて明確な定義はありません。ファイナンスに関する本の多くはファイナンスを所与のもの、基本的な前提として書いていることが多いように感じます。

ここでファイナンスに関して、直接的に定義した本を紹介していきます。

元mixi社長で、シニフィアン株式会社共同代表の朝倉祐介氏が書いた『ファイナンス思考』では、ファイナンスを以下のように定義しています。

ファイナンスとは、会社の価値を最大化するために、外部からの調達や事業を通じてお金を確保し、そのお金を事業への投資や資金提供者への還元に分配し、これらの経緯の合理性をステークホルダーに説明する一連の活動である。
(引用:ファイナンス思考 日本を蝕む病と再生の戦略論)

この定義は皆さんが通常考えるファイナンスよりも広い定義ではないでしょうか?まず、目的が企業の価値の最大化としっかり記載しています。つまり、企業価値増加に貢献しない活動はファイナンスではありません。また、資金調達だけではなく、企業活動における投資や分配も含まれます。さらに、その説明までも含まれているのです。なぜ、投資が含まれるかというと投資を検討せずに資金だけを集めても意味がないですし、上場企業を例にとれば自社株買いや配当増額などは企業価値を高めることがあります。また、説明の巧拙によって、株主総会が炎上したり、逆に好感されて株価が上がったり、次の資金調達がしやすくなることも考えられるからです。

ファイナンスのゴールは資金を調達することだけではない

では、なぜ企業経営するうえでファイナンスを知っておく必要があるのでしょうか?それは主に以下の2つの理由です。

  1. ファイナンスは何かを知っておかないと失敗する可能性が高くなるから
  2. ファイナンスはその特質上、不可逆である(一度実行してしまうと元に戻せない、もしくは元に戻すが非常に難しい)

まず、1点目について説明すると、多くのスタートアップは「ファイナンスのゴールを資金調達」と捉えていることが多いように思います。しかし、上記定義にあるようにファイナンスとはステークホルダーへの説明も含まれます。ステークホルダー(ここでは投資家とする)への説明を怠ると何が起こるのでしょうか?それは、投資家の失望です。YJキャピタルの堀新一朗氏らの『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』では、シード面談〜投資実行までの期待は1%と記載があり、そのスタートアップに投資する投資家はほんの一握り、つまりそのスタートアップのファンと言っても過言ではないと思います。そういったファンに対してコミュニケーションを取らないでおくと、投資家の気持ちがスタートアップから離れてしまう可能性もあります。

デジタルガレージでもOnlabを卒業した会社にフォローアップ投資をすることがありますが、何年も連絡がなく、資金がショートしそうになったタイミングで相談に来るスタートアップよりも、定期的にコミュニケーションを取ってくれるスタートアップへの投資の方が再度投資される可能性が高まります。例えば、コカ・コーラ社の社長であったロベルト・ゴイズエタ氏は、経営難であったタイミングで大株主であったウォーレン・バフェット氏に必ず毎日電話しており、バフェット氏はどんなに同社の業績が悪くとも支援し続けたという逸話もあります。

最初の投資家はスタートアップのファンですので、ファンは大切にしましょう。私はOnlab卒業生には最初の投資家にフォローアップしてもらえるのが、すごく良いファイナンスの一つだと説明しています。

資本政策は不可逆的、未来から逆算してラウンドを考える

続いて2点目について説明すると、これは多くの専門書でも説明されていることですが、特にエクイティについては一度発行した株式をなかったことにしたり、一度落ちてしまった経営者の持ち株割合を再び増加させるのは非常に困難です。そのため、ファイナンスをする際には、一度実行したら戻れないことを改めて確認する必要があります。例えば、2社が同じ条件(シリーズA、バリュエーション10億円で、1億円調達)する場合でも、1社にとっては良い調達でも、もう1社については良い調達でないこともあります。ファイナンスを検討する際には一度実行したら戻せないことを肝に銘じておきましょう。

私が実際にスタートアップの資本政策を作る場合には、そのラウンドだけでなく、その後のラウンドについても必ず考えるように勧めています。昔は一度作った資本政策表を色々検討するのは大変でしたが、今ではSmartRound等のスタートアップが簡単に資本政策表を検討できるツールを提供しています。IPOスタートアップの資本政策が閲覧できたり、各種テンプレートやマニュアルでの資本政策の策定、経営指標の整理など実務を効率化できるので活用してみてください。

おわりに

今回は、第1回としてファインナンスの定義とその特徴について説明しました。今回は抽象的な内容でしたが、次回はエクイティとデットどちらを使うべきかについて説明していきたいと思います。Onlabでは事業や資金調達に関する相談なども行なっておりますので、ご質問があればお気軽にお問い合わせください。

紹介した書籍

書名 :起業のファイナンス増補改訂版
著者 :磯崎 哲也
出版社:日本実業出版社
発売日:2015/1/16

書名 :ファイナンス思考 日本を蝕む病と再生の戦略論
著者 :朝倉祐介
出版社:ダイヤモンド社
発売日:2018/7/11

書名 :STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか
著者 :堀新一郎、琴坂将広、井上大智
出版社:NewsPicksパブリッシング
発売日:2020/5/29