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起業家が集い、成長をドライブする北海道の新拠点。産官学連携プログラムの「Onlab HOKKAIDO」とは

起業家が集い、成長をドライブする北海道の新拠点。産官学連携プログラムの「Onlab HOKKAIDO」とは

デジタルガレージが2010年から取り組んできた、グローバルに活躍するスタートアップの育成に向けたアクセラレータープログラム「Open Network Lab(以下、Onlab)」。今回はそのノウハウやコミュニティを北海道にも移植し 「北海道から世界に羽ばたくスタートアップの発掘・育成」をミッションにしたOnlab HOKKAIDOが2018年にスタートしました。

北海道札幌市を拠点とする本プログラムは、 活動資金やオフィススペースの提供をはじめ、事業のブラッシュアップを目的としたコンテンツや各分野のスペシャリストによるメンタリングを通じてスタートアップを育成します。今回は、オープンネットワークラボ推進部長の松田さんとOnlab HOKKAIDO プログラムディレクターの赤坂さんにOnlab HOKKAIDOを設立した当時のエピソードやOnlab本体との違い、また北海道の起業家の育成・活躍に対する思いをオンラインで伺いました。

< プロフィール >
Onlab HOKKAIDO プログラムディレクター 赤坂 美奈

北海道大学経済学部卒業。大学卒業後、SEを経て2012年に北海道新聞社入社。主に海外作家の美術展などの大型イベントを手掛ける。その後、2018年にデジタルガレージへ出向し、Onlabのノウハウを学ぶ。翌2019年からはデジタルガレージと北海道新聞社の合弁会社D2 Garageに参画し、Onlab HOKKAIDOプログラムディレクターとして活躍中。

オープンネットワークラボ推進部長 松田 信之

東京大学大学院工学系研究科卒。大学院在学中に学習塾向けコミュニケーションプラットフォームを提供するスタートアップを共同設立。卒業後、株式会社三菱総合研究所において、民間企業の新規事業戦略・新商品 / サービス開発に係るコンサルティングに参画。スタンフォード大学への留学時にシリコンバレーのスタートアップエコシステムについて学ぶ。2019年4月より株式会社デジタルガレージにおいて、スタートアップ投資およびアクセラレータプログラムを軸とするスタートアップ支援に携わる。

「スタートアップって何?」起業に馴染みのなかった北海道で誕生したOnlab HOKKAIDO

― Onlab HOKKAIDOについて教えてください。

赤坂:Onlab HOKKAIDOは北海道札幌市で2018年に誕生した、北海道初のシードアクセラレータープログラムです。ミッションは「日本の課題先進地域」とも呼ばれる北海道にイノベーションの力をもたらすこと。実は、北海道は、農漁業の深刻な担い手不足や、観光産業の新型コロナウイルスによる衰退、少子高齢化など、さまざまな試練を持つ大地でもあるんです。また、D2 Garageがデジタルガレージと北海道新聞社の合弁会社として生まれた当時、北海道では「スタートアップって何?」「アクセラレーターって聞いたことがない」という状態でした。そこで、北海道でイノベーションエコシステムを作って、起業家を育成して社会課題を解決するために、Onlab HOKKAIDOをスタートしました。

― 数多くの都市や地域がある中、なぜ「北海道」だったのでしょうか。

赤坂:親会社が北海道新聞社という北海道に根差した企業であったということもありますが、先ほど申し上げたように北海道は課題先進地域でもあったからです。

松田:北海道には北海道大学をはじめとする優秀な大学や一次産業や宇宙産業、バイオ・ヘルスケアなどの独自性のある強い分野があるのに、これまでスタートアップが育っていない状況でした。そこで、東京を中心にグローバルなスタートアップエコシステムと繋がりノウハウを蓄積してきた私たちがOnlab HOKKAIDOを設立して、北海道でもスタートアップが続々と産まれるエコシステムを立ち上げることを計画しました。

赤坂:最初に、北海道のアクセラレーターとして唯一、産官学連携の枠組みを作りました。道内の市町村や各大学と繋がることができるので、北海道の抱える社会課題に対して、各分野のスペシャリストによるメンタリングなどのリソースを提供できます。次に、札幌市が取り組むスタートアップ支援プロジェクト「STARTUP CITY SAPPORO」や、札幌・北海道スタートアップ・エコシステム推進協議会にD2 Garageも参画しました。それによって、道内の自治体と連携した課題検証や実証実験をスムーズにサポートすることができています。また、D2 Garageの親会社である北海道新聞社の持つ広大なメディアネットワークや、デジタルガレージの持つグローバルコミュニティを活かして、ファイナンス、PR、マーケティング、事業連携など、あらゆる事業の可能性を模索することができています。

― 現在、Onlab HOKKAIDOでは第5期生の募集をしていらっしゃいます。第1期からこれまでどのような活動を行ってきたのでしょうか?

赤坂:D2 Garageを設立した当時、北海道は未開拓の地でした。そこで、「起業したいけれど、どうやったら良いのかわからない」という個人や民間企業、大学などの研究シーズ、また、同じビジョンを持ってスタートアップ支援をしている札幌市などの自治体を巻き込んでいきました。「スタートアップとは」に答えるオフラインイベントを札幌で開催して起業したい方を増やしていき、2年目に入ったところで道内での起業やスタートアップに関する認知度が徐々に高まっていきました。

― これまで馴染みのなかった起業やスタートアップに触れて「自分も起業しよう」という方は増えていったのでしょうか?

赤坂:北海道にも起業している方はもちろんいらっしゃいましたが、事業を開始してからの数年間は赤字で、短期間で急成長を果たすといったスタートアップ型の成長を目指す方は少なかったですし、地元の優良企業へ就職する方が多いので啓蒙活動は大変でした。しかし、すでに北海道で起業している先輩起業家の方もいたので、その方々にご協力いただき、これまでのハードシングスや起業のメリット、魅力を学生に語っていただくイベントも企画・開催しました。この活動が功を奏したのか、現在は起業をキャリアの選択肢と考える方が増えてきています。

2019年7月頃
2019年7月頃

松田:日本のある一定以上の大きな都市では、実は起業家は生まれ難い実情があります。それは、例えば東海地方にトヨタ自動車があるように、各地域にはすばらしい大企業が存在していて、優秀な人材はまずそこを目指すからです。また、東京では、ここ数年で成功した起業家が身近にいて、彼らがロールモデルになることで「自分も起業して成功したい」と目指せますが、北海道などでは若者と近い年齢層でそういった方がいない。そこで「起業するってこういうことだよ」を紹介していくことによって「じゃあ自分も」という方を増やしているんです。

Onlab HOKKAIDOは大学教授や企業、自治体と繋がれる「産官学連携プログラム」

― Onlab HOKKAIDOのプログラムにはどのような特徴がありますか?

松田:Onlab HOKKAIDOのプログラムは、国内外で活躍する起業家を多数輩出してきたOnlabのノウハウを詰め込んでいます。また、事業やサービス・プロダクトを作っていく過程には「製品を出したけれど、誰も買ってくれない」など、さまざまな「落とし穴」があります。プログラムでは道内の各大学の教授やその道のプロフェッショナルによるメンタリングによって、その穴に落ちないようにサービスの仮説検証をしたりしています。もう一つはピッチです。スタートアップは投資家に自分たちのビジネスをアピールして事業資金を調達しますが、サービスの説明や見せ方が大事。どこでも通用するようにピッチを鍛え上げます。

赤坂:やはり、産官学連携プログラムがOnlab HOKKAIDOの付加価値ですね。例えば、北海道で事業を展開したら道内の自治体や協賛パートナーと実証実験ができたり、プログラム卒業後も、協賛パートナーが協業や事業支援など、スタートアップの成長をサポートしてくれたりしています。Onlab本体と比較すると、Onlab HOKKAIDOでは協賛パートナーと接触する機会が本当に多いので、企業と繋がりたい方にとってはうってつけのプログラムです。

― Onlabでは、TOKYOとHOKKAIDOを同時募集・同一採択という新たな制度があると伺っています。併願応募をするメリットは何でしょうか?

松田:Onlab HOKKAIDOはTOKYOのプログラムと一見似たような内容なので、応募者からするとどちらのプログラムが良いのか迷うと思うんですよね。北海道を併願する場合、応募動機の欄にOnlab HOKKAIDOへ応募する理由もご記入いただいています。北海道のプログラムは、TOKYOのプログラムに北海道ならではの支援をプラスした内容になっていますが、その代わり、採択する分野が狭くなっています。両プログラムに併願いただくと採択されるチャンスが広がるので、苦手な開催地がなければ、デメリットはないので両方にご応募いただく方がオススメです。

― Onlab HOKKAIDOにはどのようなメンターがいらっしゃいますか?

赤坂:Onlab HOKKAIDOにはTOKYOのメンターに加えて北海道内の大学教授や、先輩起業家、北海道で起業した方がメンターを担ってくださっています。Onlab TOKYOのメンターからもアドバイスを受けられるので、東京の起業家にとっては事業のテーマが合えばOnlab HOKKAIDOに参加した方がプラスアルファなのではと思います。

― Onlab HOKKAIDOには起業家に向けたコミュニティはありますか?

赤坂:はい。現在はコロナ禍でオフラインイベントは開催できませんが、通常は起業家の同期が集うイベントを開催しています。現在でも、オンライン上で懇親会を開催したり、FacebookでOnlabの卒業生同士が縦横で関係構築できるコミュニティを作ったりしています。

北海道の起業家は控えめだけどガッツがある。揺るぎない志を持って事業へ突き進む

― Onlab HOKKAIDOには、どのような起業家が集まってきますか?

赤坂:遠慮がちに見えるけれどガッツのある方が多いです。粘り強くこなしたり、内に秘めたものを持っていたりしています。これは意図していなかったんですが、女性起業家も多くいらっしゃいますね。Onlab HOKKAIDOでは北海道出身・在住にこだわっていないので、起業家の方は全国各地、世界各国からご応募いただけますが、一次産業や宇宙産業、バイオ・ヘルスケアといった札幌や北海道が課題としている業界に絞っています。また、北海道出身ではないけれど、Onlab HOKKAIDOを敢えて選んだ方もいらっしゃいます。ドローンを使って上空から撮影した画像とAIを組み合わせて、農作物の被害を発見する事業を行っているSkysenseは共同経営者がアメリカとフランスの出身ですが、北海道の広大な土地で実証実験をしたいとOnlab HOKKAIDOで採択させていただきました。

松田:東京のスタートアップは他に儲かりそう、成功しそうなビジネスがあるとそちらにピボットすることが多いですが、Onlab HOKKAIDOに参加するスタートアップには何らかの思いがあって「それをやるんだ」という揺るぎない決意があります。一見「そんなことやるの?」という事業でも、必ず前に突き進めていく。

また、Onlab HOKKAIDOに参加する起業家の特徴として、一次産業では、お祖父さんが漁師で、自分も漁師や漁に関するサービスを立ち上げた方など、実体験をもとに起業した方が多いですね。株式会社komhamの創業者である西山さんは、父親らが開発した牧草由来の微生物「コムハム菌」を使って、生ゴミや家畜糞尿などの有機性廃棄物を高速で減容させるバイオマス処理システム(コンポスト)を作っています。最近では、渋谷区などの自治体や教育機関と連携して共同コンポストを街中に設置して実証実験を進行するなど、独自のテクノロジーを広めようとしています。

Onlab HOKKAIDO 第4期DemoDay 株式会社komham 代表取締役 西山すの
Onlab HOKKAIDO 第4期DemoDay 株式会社komham 代表取締役 西山さん

― Onlab HOKKAIDOで先輩起業家が誕生していくと、起業を志す方が増えそうですね。

赤坂:実際に増えています。Onlab HOKKAIDO第4期生にHILO株式会社という、慢性骨髄性白血病を持つ患者が分子標的薬治療の効果を投薬前に予測できる薬効診断検査サービスを提供しているスタートアップがいらっしゃいますが、北海道大学大学院医学研究院の教授と講師の方が設立しました。それに影響を受けた学生の方が、自分もいつか研究を活かして起業してみたいとおっしゃったり、他にも同級生で起業している友人を見て「自分も起業したい」と相談を頂いたりすることが多くなりました。また、DemoDayでは投資家や事業会社、メディアを招いて事業内容を発表しますが、Onlab HOKKAIDOの場合、それに加えて自治体や民間企業の方も沢山いらっしゃるんです。DemoDayでの発表をご覧になって協業の話が進んだり、面談をしたいと問い合わせを頂いたりするのが特徴です。

北海道の課題は国の課題。新しいテクノロジーを創出しグローバルリーダーを目指す

― 今後、Onlab HOKKAIDOはどのようなことに挑戦したいですか?

赤坂:今後も北海道の資産を活かしたスタートアップを募集して育てていきます。産官学連携では特に大学との連携を進めて各プロジェクトを強固にしていく計画がありますので、引き続き、ユニークなスタートアップを輩出していきたいですね。

松田:新しいテクノロジーをもっと見つけていきたいし、北海道だからこそできるビジネスがあると思います。それは一次産業や雪関連の事業、宇宙産業、バイオ・ヘルスケアなど、今までできなかった付加価値や効率化を実現するサービスを作ることで、社会課題を解決したいです。北海道では、20年後の2040年には高齢世帯が全世帯の半数に達するという推計もあるんです。

それによって農地を維持できなくなったり、その街自体が衰退したりするでしょうね。これは重大な課題です。食料自給率の側面もあるし、そういう産業がなくなることが国全体の課題になってくるので、イノベーションを起こして持続可能な形で日本の一次産業の基盤を整える。それを国の主導でやるのではなく、民間主導、特にスタートアップの新しいテクノロジーで成し遂げられることがカギになると思います。起業家の方々にはそれを担うリーダーになってほしいです。このような課題は遅かれ早かれ中国やその他先進国でも抱えるので、テクノロジーをリードするグローバル企業になって海外でも活躍してほしいです。そんなリーダーが北海道から出てきて、スタートアップで、しかもOnlab HOKKAIDOが育成したとなると尚更、希望が広がりますね。

― これからOnlab HOKKAIDOを検討する方々へメッセージをお願いします。

Onlab HOKKAIDO プログラムディレクター 赤坂 美奈
Onlab HOKKAIDO プログラムディレクター 赤坂 美奈

赤坂:Onlab HOKKAIDOは産官学連携のプログラムで、スタートアップを取り巻く環境も、D2 Garageがオール北海道で環境を整えています。北海道での事業展開を考えていらっしゃる方や事業を急成長させたい方、大きく飛躍したい方はぜひお待ちしております。Onlab HOKKAIDOは北海道の主要企業をはじめ、親会社である北海道新聞社の営業網を使うとほとんどの企業と繋がっているので、ご希望の企業があればすぐに連携できます。

松田:Onlab HOKKAIDOは、北海道でビジネスをする意味で絶好のエントリーのポイントになるので、ぜひチャレンジしてほしいです。特に一次産業などでここまでしっかりやっているプログラムは他にありません。我々のプログラムを利用して、北海道の主要企業と繋がって事業を加速させてほしいと願っています。

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