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免税電子化を基点とした地域観光マーケティング。Onlab FUKUOKAはスタートアップ3社とどのようなPoCを実現したのか

免税電子化を基点とした地域観光マーケティング。Onlab FUKUOKAはスタートアップ3社とどのようなPoCを実現したのか

Open Network Lab FUKUOKA(Onlab FUKUOKA) は、福岡地域のNew Normal時代における、スマートシティやスマートライフなどの事業創出を目的としたオープンイノベーションプログラムです。福岡市を舞台にスマートシティの社会実装を目指し、デジタルガレージと福岡地域戦略推進協議会(FDC)Fukuoka Growth Next(FGN)が共催しています。

Onlab FUKUOKAは2019年に第1期を開催し、現在第2期の参加スタートアップを募集中です。(応募締切は2020年12月4日(金)迄)。今回は第1期採択企業の中から、シリコンバレー出身のPie Systemsに関するプロジェクトを紹介します。

2018年に設立したPie Systemsは、免税電子化に関するサービス「Pie VAT」を展開しています。2019年に日本でのサービス展開のため日本法人を設立しました。本プロジェクトでは、他社スタートアップ2社と協業する形で、福岡でのPoCの実施が決まっています。この取り組みには、デジタルガレージのマーケティングテクノロジーカンパニー(以下:「MTC」)からもメンバーが参画し、共同でプロジェクトを進めています。

複雑なプロジェクトをOnlab FUKUOKAはどう支援してきたのか。そして、なぜ複数のスタートアップが協業してPoCに取り組むのか。Pie SystemsのHoltaさん、Onlab FUKUOKAプログラムディレクターの大木、MTCの高岡、蒔貞(ダニエル)の4名にオンラインでお話を伺いました。

< プロフィール >
Bjørn Holta(ホルタ ビヨン) Pie Systems Japan 代表取締役

1995年にボストンカレッジを卒業後、Citiのニューヨーク及び東京オフィスにて勤務。その後東京にてEvolution Capital ManagementやKBCなどヘッジファンドや金融機関を数社経験した後、北欧のファンドを数社経営。2019年にPie Systemsにジョイン。

大木 健人 Open Network Lab FUKUOKA プログラムディレクター
2019年よりデジタルガレージに参画。Open Network Lab FUKUOKAのプログラムディレクターとして、スマートシティにおけるテックの社会実装を目指し、不動産、金融、ヘルスケアなど多岐に及ぶオープンイノベーションを推進。一級建築士/宅地建物取引士。

高岡 篤央 株式会社デジタルガレージ マーケティングテクノロジーカンパニー CRMストラテジー本部 UXデザインセンター 副センター長
2012年、デジタルガレージに入社。メーカー、金融業界のWebサイトやアプリのUXデザイナーとして従事。

蒔貞 ダニエル 株式会社デジタルガレージ マーケティングテクノロジーカンパニー CRMストラテジー本部 UXデザインセンター
上智大学国際教養学部を卒業後、2019年にデジタルガレージに入社。ユーザー視点を取り入れたマーケティング企画やWebサイトの改善を実施。

免税をデジタル化するPie Systemsのソリューション

― まずは今回のプロジェクトの座組みについて教えてください。

大木(Onlab FUKUOKA):Onlab FUKUOKAは採択されたスタートアップとパートナーとして参画する大企業とが、オープンイノベーションを通じ新しい事業を創出するプログラムです。今回紹介する案件は、Onlab FUKUOKA第1期で採択されたPie Systems、購買データの分析サービスを持つunerry、人の流れを解析するソリューションを持つTrue Dataの3社が協業し、「デジタル免税化マーケティング」に取り組む実証実験です。プログラムの詳細についてはこちらの記事にまとめています。

僕がプログラムディレクターとして協賛企業を含む各所とプログラム期間中の連携を担当しています。MTCから高岡さんとダニエルさんがプロジェクト・マネジメントの役割でプロジェクトに参画しています。そしてHoltaさんは、Pie Systemsのメンバーで、日本展開のためにシリコンバレー本社との橋渡しをしてくれています。

― ありがとうございます。それでは、まずHoltaさん。Pie Systemsのサービスについて教えてください。

Pie Systems

Holta(Pie Systems):Pie Systemsが提供するのは、デジタル免税ソリューションです。従来の免税手続きは購入記録票の作成など大量の書面手続きが必要です。これは事業者側にとって大きな負担になっています。また、旅行者からみても、そもそもどこが免税店かわからなかったり、買い物に時間がかかったりと、双方に課題がありました。日本では2020年の4月から免税手続きの電子化がスタートしており、今後書面による手続きの廃止に伴い、国税庁にオンラインで情報を送信するなど事業者側に対応が求められます。VAT(付加価値税)の還付手続きを完全電子化したソリューションがPie Systemsというわけです。

Pie Systemsのシステムは、最終的にはEU圏への進出も視野にいれつつ、まずはデジタル免税制度が整っていて、比較的規制緩和が進んでいるノルウェーやデンマークで先行して事業を進めています。2020年内に700~800店舗で導入される予定です。例えば、北欧大手の靴量販店等でも使われています。

― ノルウェーやデンマークと、日本のマーケットに違いはあるんですか?

Holta(Pie Systems):北欧の付加価値税と日本の消費税は仕組みが似ています。ただ北欧の付加価値税は25~30%と、日本の消費税に比べてかなり割高です。Pie Systemsのマネタイズはこの中から手数料をいただくモデルを採用しているので、利幅は大きくなります。日本のマーケットの場合、消費税10%にも関わらず、売上はイギリスやフランス、スペインの2-3倍はある。ですので我々は日本展開も視野に、大手事業者や地方自治体などとアライアンスを組んで店舗開拓できればと考えています。

― そもそも海外のスタートアップであるPie Systemsが、どうしてOnlab FUKUOKAに応募されたのでしょうか。

Holta(Pie Systems):Pie Systemsは、Onlab FUKUOKAを運営しているデジタルガレージの投資会社、DGベンチャーズから出資を受けており、その繋がりでこのプログラムについて紹介して頂きました。

先程申し上げたように日本はマーケットが大きいので、Pie Systemsを広げるためにはパートナーシップ戦略が有効だと考えていたんです。そんな中、Onlab FUKUOKAが運営する、パートナー企業との協業を目指したオープンイノベーションプログラムは、パートナー探しの面で最適だと判断し、応募しました。

スタートアップ3社で新たな価値を創出する座組みに

Pie Systems

― Onlab FUKUOKAの特徴は、パートナー企業と協力した社会実装です。パートナー企業は免税電子化への対応にどんな課題を抱えていたのでしょうか。

大木(Onlab FUKUOKA):当初そこまで「免税電子化」という課題は顕在化していませんでした。しかし、Pie Systemsのソリューションやノルウェーやデンマークの事例をもとにディスカッションする過程で、パートナー企業にヒアリングしたところ、実は確かな課題であり、対応すべきだとわかり、話が進んでいきました。

Pie Systemsら3社とPoCを実施することになったのは、パートナーとして参画したデベロッパーでした。彼らが運営する商業施設のテナント各社は、各店舗で免税電子化の対応をしていて手続きが煩雑になっており、そこに施設側で電子免税の一括システムを提供できないかと、この構想が始まりました。さらに、免税手続きのDXに留まらず、訪日外国人の購買データや行動データとを掛け合わせたデジタルマーケティングを活用したソリューションとして提案し、ビジネス機会に変えた点が、新たな価値創造を実現したとてもユニークな点だと思っています。

実装にあたって商業施設内の大型店舗は店舗内で免税手続きをする一方、小規模店舗は免税カウンター頼みになっているという現状がありました。テナント毎にソリューションが異なる中での実証実験というのは本当に大変で、その整理等にご尽力いただきました。

― なるほど。購買データや行動データのマーケティング戦略を組み合わせた実証実験の企画はMTCが担当されたんですよね。

高岡(MTC):はい。私たちMTC(マーケティングテクノロジーカンパニー)は、デジタルガレージの中でマーケティング事業を手がけています。認知や獲得広告に加え、CRM等エンゲージメント向上、データ分析、AI活用、DX推進 、決済連携まで幅広いマーケティングソリューションを提供しています。本プロジェクトでの私たちの役割は、PoCの全体管理や運営等のプロジェクトマネジメントとマーケティングに活用するための企画です。例えば、免税手続きのフローオペレーションや各社のデータ連携から、そのデータを使ってそのエリアに来た人たちの位置情報や購買情報を取得して、属性に応じてプッシュ通知をするなど、全体の流れを企画しました。

― 免税電子化の話を進めるだけなら、スタートアップ3社の座組みではなく、Pie Systemsだけでもできたのかと思います。何故3社の座組みになったのでしょうか。

ダニエル(MTC):これまでMTCが複数の案件でご一緒しているunerry、True Dataの2社と共に、地域を軸にした新規事業を検討していく中でアイデアが生まれました。MTCでは元々、単独のパートナーと組んでマーケティング施策を考えるというよりも、もっと大きな座組みで、仕掛けたいと考えていました。そんな中で、弊社のスタートアップ支援をしているOpen Network Labが取り組む「オープンイノベーションプログラム」で、新しいビジネスモデルを提案し、このプロジェクトがスタートしました。1社ずつならそれぞれの課題の解決で話が終わっていたかもしれませんが、3社が協力すれば、福岡の地域全体の活性化に繋げられ、MTCはこれまでのノウハウを元にマーケティングの観点から付加価値を提供できる。そこが3社の座組みになった理由です。

― Pie Systemsからすると、1社単独でソリューション提供するつもりだったわけですが、それが3社で合同で実施することになって、抵抗はありませんでしたか?

Holta(Pie Systems):はい。全くありませんでしたね。店舗などの現場の課題感も理解していましたし、何よりエンドユーザーである旅行者にとってメリットもあったので、このプロジェクトには賛成でした。一点あるとするなら、私たちの本社のあるシリコンバレーでは3社協業してというパターンはあまりないので、日本へのローカライズ戦略についての説明をメンバーにするのは大変でしたね。でも最終的にはみんな納得してくれました。

ダニエル(MTC):ちなみにTrue Data とunerryからも反対は全くなかったです。例えばunerryは消費者の行動解析をしているので、Pie Systemsのようにアプリと連携することで価値を発揮します。True Dataも地域の購買データに興味があったので、むしろ共同で価値を発揮したい、という声がありましたね。

今までにないような観光体験を目指して。全国展開を見据えた福岡発PoC

Pie Systems

― しかしみんな乗り気だったとはいえ、3社のプロジェクトマネジメントは大変だったのではないでしょうか。

高岡(MTC):そうですね(笑)。魅力的なのはもちろんなのですが、ステークホルダーが多い中で、どういったことをやるのか合意形成が大変でした。3社の合意形成の他にも、当然実証実験の場でもある複合施設テナントとの交渉も必要でした。

旅行者に対してどのようにアプリをダウンロードしてもらうのか、いつからやるのか、どのような場所でできるのか、といった具体的な内容も考えていかなければなりません。このPoCのために、Pie Systemsとunerryのデータ連携やSDKインストールなど開発工数もかかったり、店舗のPOSデータ連携のハードルが高く、最初は代替プランを検討したりと、思い返すと、本当に山のようにタスクがありました。

― なるほど。新しいビジネスモデルですからね。プロジェクトマネジメントの観点からもMTCが貢献したようですね。PoCはいつから実施予定ですか?

ダニエル(MTC):2020年4月からの実施予定だったのですが、新型コロナウイルスの影響で延期しており、2021年に開始予定です。この期間は次の動きを見据えて、Pie Systemsの日本ローカライズの支援をしていました。例えば、免税事業を国内で進めるには事業者登録が必要なので、その整備のお手伝いやサービスを導入してくれそうな営業先のご紹介などです。

― ではこの1年間で準備はできている感じですね。これから(編注:取材は2020年11月に実施)PoCを進めていくかと思いますが、前後で大変だった点はありますか?

Holta(Pie Systems):コロナ禍でのインバウンド旅行者の減少は、ネガティブな影響を及ぼしましたが、これを契機に企業側のDX化や低コスト化への意識が強くなってきました。その中で、我々のソリューションが見直されているという面はあるのではと、ある意味チャンスなのではないかと感じています。

左上:MTC高岡 左下:MTCダニエル 右上:Holta 右下:Onlab FUKUOKA大木
左上:MTC高岡 左下:MTCダニエル 右上:Holta 右下:Onlab FUKUOKA大木

― 最後に、この座組は、PoCや社会実装を経てどういった世界観を目指しているのでしょうか。

高岡(MTC):最終的にはインバウンド観光客や観光地、もちろんunerry、True Data、Pie Systems、3社にメリットがあるような座組みにしたいと考えています。

インバウンドのデジタルマーケティングに関する切り口は、免税手続きだけではありません。そもそも観光地でのショッピングを楽しんでいただく必要があるため、最適な通知やレコメンドを活用したシームレスな観光体験の提供など、様々な取り組みが考えられます。免税を入り口に、福岡ひいては日本の観光を盛り上げていきたいですね。

Holta(Pie Systems):あまり複雑なことは考えていなくて、僕たちはまず、自分たちのサービス普及を第一に考えています。まずは大都市圏から。東京、横浜、大阪、京都、福岡、北海道。これらの都市に仕掛けていきたいと思います。

大木(Onlab FUKUOKA):Onlab FUKUOKAは名前の通りOnlabが運営していますが、今回のケースのように必要に応じてデジタルガレージグループが持つ様々なアセットを活用し、スタートアップを支援してきています。

プログラムとしても、単にPoC実施で終わりではなく、福岡をはじめとする地方中核都市での横展開も見据えながら、社会実装や事業化を目指しています。スタートアップの皆さんにとっては他に類を見ない優位性のある有意義なプログラムです。ご興味のある方はぜひご応募ください。