2024年08月28日
デジタルガレージが運営するアクセラレータープログラム「Open Network Lab Seed Accelerator(以下「Onlab」、読み「オンラボ」)」は、「世界に通用するスタートアップの育成」を目的に2010年4月にスタートし、これまで数々のスタートアップを支援・育成してきました。
Onlab 第26期生でありYOILABO株式会社(読み:ヨイラボ) 代表取締役CEOの播磨 直希さんは新卒でワークスアプリケーションズに入社後、福岡発のスタートアップにてEXITを経験し、学生時代からの夢だった独立を決意します。アルコールが好きだったことからお酒を嗜む方に向けた事業を思い描く中「お酒が飲めない方」の悩みが大きいと知り、彼らが料理と楽しめる、お酒でもお茶でも、ジュースでもないプレミアムノンアルコール飲料を作るためにYOILABOを設立します。播磨さんにOnlabプログラムに参加して学んだこと、播磨さんが人材採用で求めること、また社会貢献に努める理由を伺いました。
< プロフィール >
YOILABO株式会社 代表取締役CEO 播磨 直希
新卒で株式会社ワークスアプリケーションズに入社後、福岡のスタートアップ「umeebe」に編集長としてジョイン。同社がイグジット後、2019年4月に飲料領域のスタートアップ「YOILABO」を創業。
Contents
― YOILABO社の事業概要を教えてください。
現在(2024年8月)、YOILABOは「世界からお酒の不公平をなくす」というミッションを掲げてお酒を飲めない方のスタンダードとなることを目指し、ミシュランレストランやラグジュアリーホテルに向けて料理と楽しめるプレミアムノンアルコール飲料を企画・販売しています。
実は、お酒を飲めるかどうかは遺伝的要因で決まっているそうで、日本人の約半数はお酒に強くないと言われることがあります。お酒を飲む方は飲食店や高級レストランなどで料理に合わせてワインやウイスキー、日本酒、ビールなどの多様な選択肢、幅広い価格帯から選んで楽しんでいますが、お酒を飲まない方はウーロン茶や水、スパークリングウォーターなどに限定されることが多いんです。
YOILABOは、飲む方も飲まない方も別け隔てなく、食の場を楽しめる世界を実現することを目指しています。また、記念日や特別なシーンに相応しいノンアルコール飲料だけでなく、ゆくゆくは「今日は鍋だから」「今日は餃子を食べたい」「今日は疲れたから」といったカジュアルなシーンに合わせた飲み物を作り、ユーザーがスーパーやコンビニなどで手軽に購入できるようにしたいと考えています。
― 播磨さんのご経歴を教えてください。
新卒で入社したワークスアプリケーションズでシステム開発や法人営業を幅広く経験した後、福岡発のスタートアップ「umeebe(読み:ウミーベ)」にジョインしました。umeebeは釣りに特化したインスタグラムのように、ユーザーが釣った魚を投稿すると「どこで釣れたのか?」「大きさはどれくらい?」といったコミュニケーションが発生するアプリを運営していました。2020年10月にumeebeがクックパッドに吸収合併された際、私はメディアディレクターやマネージャーを務めていましたが、M&Aが一段落したところで「今起業しなければ一生しないだろう」と踏み切り、次は何に挑戦すべきかと1〜2年かけて事業ドメインを探しました。
― なぜ、お酒が飲めない方に向けたサービスを立ち上げたのでしょうか。
独立したばかりの頃、私は現在とは反対にお酒を飲む方に向けたサービスを考えていました。最初に思い浮かんだのは、二日酔いに効く商品でした。私自身、1ヶ月のほとんどを飲み歩くほどお酒が好きで「アルコール関連の商品といえば二日酔い対策だ」と発想したんですね。友人知人に二日酔い向けのサンプル商品を配って試してもらったところ「お酒を飲む方向けのサービスはすでに多く存在し、ニーズも十分に満たされている」、お酒を飲まない方々からは「そもそもお酒を飲みたくないし、飲む場にも行きたくない」といったフィードバックが多く寄せられました。
さらに「お酒を飲めない私たちのためにサービスを作ってほしい」という要望や「記念日に高級レストランのコース料理を食べに行ってもスパークリングウォーターで乾杯しなければならない」「付き合いで飲みに行ってもお茶しか選択肢がなく、お酒を大量に飲んだ人の分まで割り勘される」という悩みを聞き、お酒を飲まない方々のペインが非常に大きいことが分かりました。そこでようやくターゲットをノンアルコール飲料に絞ることにしました。
― Onlab第26期プログラムに参加した当時、YOILABO社はどのような状況にありましたか?
当時、事業はコロナの影響で停滞していましたが、復活の兆しが見えてさまざまなアクションを起こそうとしていました。2022年8月までは緊急事態宣言やまん延防止策が交互に発令され、飲食店は営業時間を20時までに設定されたりお酒の提供を禁止されたりして、弊社も売上を伸ばすのに苦労しました。特にハイエンドな飲食店では、お客様のお楽しみの一つとしてお酒を提供するところが多かったものの「お客様が来ないならお店を閉めよう」とシフトする方が日に日に増え、手の尽くしようがありませんでした。
そのため「Onlabプログラムで事業の方向性を見直そう」「toBだけでなくtoCの事業を推進する方法も学びたい」「食べログの知見を持つメンターからフィードバックを頂きたい」と考え、アクセラレータープログラムに応募しました。
― Onlabプログラムに参加してみて、どのような気づきがありましたか?
他己評価を受けたことが事業のターニングポイントになりました。例えば、Onlab やカカクコムのメンターから経営視点のさまざまなご意見を頂き「やらないこと」を決める重要性を学びました。当時、私はtoBで勝ち抜くビジョンが見えず、toCにも手を出そうとしていましたが「YOILABOはまだリソースが少ないので、やることを絞った方がいいです」「それはYOILABOが実現したい世界ですか?」といった問いかけにより、自分で「違う」と判断しながら軌道修正ができました。
また、投資家やメディアの方、金融関係の方がYOILABOをご覧になった時、どのように映るのかを知る機会になりました。メンターから彼らに刺さるピッチを徹底的に鍛え上げられたおかげで、現在でもそのスキルを人材採用や資金調達に役立てています。
― Onlabプログラムの同期スタートアップからどのような影響を受けましたか?
普段お会いすることのない尖った起業家と出会う機会に恵まれていると実感しましたね。例えば、第26期 Onlab Demo Dayで最優秀賞を受賞したSpatial Pleasureの鈴木綜真さんのすばらしいピッチには衝撃を受けました。事業の魅力や将来性を見事に言語化している彼を見て、ピッチの重要性を再認識しました。
また、Alpacaの棚原生磨さんも運転代行配車サービスに加えて保険会社と提携したり、地元沖縄の深刻な社会課題を解決しようと果敢な挑戦を続けたりしているのを見て「起業家とはこうあるものなんだ」と目の当たりにしました。プログラム卒業後も交流は続いていて、現在のご活躍を拝見しても起業家として目指す姿だと思っています。
― YOILABO社の近況についてお聞かせください。
現在、事業は着実に成長の基盤が整ってきて、営業職を中心に人材を採用しようとしています。また、これまでは無数のトライアンドエラーを重ねてきましたが、現在はtoBと並行してtoCにも挑戦し、新しいブランドの展開を目指しています。さらに、YOILABOがリリースしているノンアルコール飲料はサイズ違いの商品も含めると13種類ありますが、数年以内には新たに考案した商品をクイックに検証できるような、大量生産とは異なるラボを新設して一部内製化を図りたいと考えています。
― 営業職の他には、どのようなポジションで人材を募集したいとお考えですか?
PRの方やデザイナーの採用も計画しています。パッケージやラベル、メニューなどのプロダクトデザインを経験した方にジョインしていただけたら嬉しいですね。今後、東京と福岡の2つの拠点でフルタイムの社員を増やしていきたいです。
― 播磨さんにとって、YOILABOで活躍する人材に欠かせない条件をお聞かせください。
YOILABOにはスタートアップの経験がなくても活躍できる場が多くあります。実際に大手人材・広告企業に新卒から6年勤めた後にYOILABOで多方面にわたって活躍している社員もいます。私が一緒に働くメンバーに求める要件は「誠実で嘘をつかないこと」です。この「誠実」とは、社会人としての礼儀・マナーがあることや、お客様や取引先の事業者様、社員に対する想像力に長けていて彼らのニーズを具現化する能力があることだけでなく、私自身がその社員を信頼しきれるかどうかも見ていますね。
― YOILABO社の掲げるミッション「世界からお酒の不公平をなくす」を実現するために、どのような取り組みを行っていきますか?
長期的には「文化の啓蒙」を推進していきます。現在、ノンアルコール飲料と料理を楽しむカルチャーには「ビールと餃子」のような鉄板の組み合わせが少ないですよね。私たちが先駆者となってこのノンアルコールペアリングのカルチャーを新たに醸成し、社会に変革を起こしたいです。
― コロナ禍で飲食業界全体が厳しい状況の中、なぜ頑張ってこれたのかをお聞かせください。
YOILABOを創業して最初の商品をリリースした際にコロナの緊急事態宣言が出ました。業績が落ち込み、一巻の終わりのような心境に陥りましたが、現在も事業を推進できるのはステークホルダーの皆さんのおかげです。チームメンバーはもちろんのこと、VCやエンジェル投資家、商品を作ってくれているソムリエ、商品を製造してくださっている工場の皆さんが支えてくださったからこそ、今日のYOILABOがあります。この方々に必ず、恩返しをしていきたいんですよね。これから入社して弊社のためにアクションをしてくださる方々にも、できるかぎり還元していきます。
― 最後に、Onlabプログラムに参加したいと考えているスタートアップの皆さんにメッセージをお願いします。
出不精で引きこもりがちな方や「まだ力が足りないから恥ずかしい」と感じている方こそ、新たな学びが増え、起業家としても成長できるはずです。他人からの評価にさらされるのは怖いですが、その不安以上に大きなリターンがあります。
また、Onlabコミュニティには普段出会えないユニークな方々が集まっていて、同期スタートアップとの繋がりだけでなく、OB・OGの方や、各業界の専門性が高いメンターとも出会えます。実際に、私はパリ発祥で国内30年の歴史を誇るワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」の方とシャッフルランチをする機会を頂き、どのように事業を広げてきたのか、苦難を乗り越えてきたのかを伺ったことも現在の事業戦略に大きく活きています。この記事をご覧になっているということは、すでに参加しようという意思がある程度固まっているはず。ぜひエントリーすることをお勧めします。
(取材・執筆:佐野 桃木 編集:Onlab事務局)