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【起業家トーク】創業4年目マーケットプレイス2社が語る、ユーザーへの認知拡大施策と組織づくり戦略|Road to Success Onlab Grads vol.18

【起業家トーク】創業4年目マーケットプレイス2社が語る、ユーザーへの認知拡大施策と組織づくり戦略|Road to Success Onlab Grads vol.18

Open Network Lab (以下、Onlab) は「世界に通用するスタートアップの育成」を目的に、Seed Accelerator Programを2010年4月にスタートし、これまで数百社以上のスタートアップを支援・育成してきました。今回はOnlab卒業生でともに創業4年目でマーケットプレイス事業を行う株式会社TRiCERA 代表取締役社長の井口さん(19期生)とTippsy, Inc. Founder/CEOの伊藤さん(20期生)に、グローバル事業のきっかけやスタートアップとしての成長についてお話を伺いました。

< プロフィール >
株式会社TRiCERA 代表取締役社長 井口 泰

大学卒業後、老舗音響機器製造業に入社、アジアパシフィック統括本部にてキャリアをスタートする。ドイツ最大手医療機器メーカーに転職、医療機器の受発注に従事、プロジェクトリードとしてシステム導入に尽力する。2015年、世界最大手スポーツカンパニーに入社。2017年には日本の直営店舗サプライチェーンを統括するマネージャーとなり、グローバルプロジェクトに参画、日本国内においても複数の新規プロジェクトを立ち上げ実行する。2018年11月1日、株式会社TRiCERAを設立する。

Tippsy, Inc. Founder/CEO 伊藤 元気

2009年日系食品商社で勤務するため渡米。その後USC(University of Southern California)にてMBA取得。2018年11月、ロサンゼルスにて日本酒eコマーススタートアップTippsy, Incを起業。日本酒のサブスクリプションという新しいサービスを提供している。

126ヶ国以上のアートを販売するグローバルマーケットプレイスと米LA拠点の日本酒eコマース

TRiCERAは「創造力に国境なんてない」というVISIONに則り、あらゆる可能性を秘めている新進気鋭のアーティストが世界中で活躍できるようにさまざまなアートサービスを提供しているスタートアップです。主力プロダクトのグローバルアートマーケットプレイス「TRiCERA ART」は、現代アート専門の登録制ECプラットフォーム。2022年8月現在で6,000名のアーティストが登録し、126ヶ国以上のユーザーが利用しています。また、TRiCERAはOnlabの第19期Demo Dayで最優秀賞を受賞し、2021年8月には3回目の追加出資も実施しました。日本のアート市場は海外に比べると規模が小さいため、海外への販売はアーティストの生き残り戦略として非常に重要。そこで、TRiCERAはアートの越境販売ができるプラットフォームとしてアーティストのプロモーションから販売までを代行しています。

TRiCERAの井口さん
TRiCERAの井口さん

最近ではマーケティング手法を駆使して各国の市場やトレンド、ユーザーの嗜好を分析しながら1人1人によりパーソナライズされた提案をしたり、公式WebサイトのUI・UXを改善したりしています。アートを購入する思考には日本、世界に関係なく「インテリアとして自宅に飾る目的」と「コレクションする目的」の2軸がありますが、購入者に好まれるアート作品は国によって全く異なる、と井口さんは話します。

Tippsyはアメリカ・ロサンゼルスに拠点を置いた日本酒のeコマースを運営するスタートアップです。2018年11月に設立し、オンラインストアと、日本酒が定期的に自宅へ届くメンバーシップモデルの2つを展開しています。公式Webサイトには日本酒に関するコンテンツをはじめ、数百種類に及ぶ日本酒の銘柄や商品のストーリーを掲載。また、メンバーシップでは300mlのミニボトル6本にそれぞれのペアリングや最適な温度帯、蔵元の特徴を記載したプロダクトカードを付けて3ヶ月に1回ユーザーに配送することで「アメリカでも日本酒がワインのように認知されて愛飲するユーザーを増やしていきたい」と伊藤さん。

Tippsyの伊藤さん
Tippsyの伊藤さん

創業4年目に入った現在、アメリカのコンシューマーに日本酒の素晴らしさを伝えられるようになったり、既存のマーケットもニーズを掴むようになってきたりしているとのこと。最近では新たにエンジニアを採用しながらUI・UXに力を入れたり、日本酒の世界観や魅力を追求しながらアウェアネスの低い層を獲得しようと計画したりすることでニッチな日本酒市場に負けない成長を続けています。おいしい日本酒を飲んだアメリカ人はみんな、日本酒への興味・理解を深めていく。それをどうやってスケールしながらマーケットを引っ張っていこうかと伊藤さんは思索しています。

グローバル事業のきっかけや経緯、どのようなスキルや経験が起業に活きたのか

― まず、お二人の事業の共通点は「グローバル」という点が挙げられますが、伊藤さん、Tippsyを起業したきっかけをお聞かせください。

伊藤 (Tippsy):アメリカに来たのはもともと、前職の日系貿易商社で10年間アメリカに滞在しながらハワイやニューヨーク、ロサンゼルスといった都市を転々としながら食品の輸入に従事していたことがきっかけです。当時、会社組織で昇格していくために海外MBAを取ろうと南カリフォルニア大学に入学しました。プログラム中、ロサンゼルスで起業した大きなスタートアップの社長がゲストスピーカーとして話してくれたり、アメリカ人のクラスメイトたちと熱心にディスカッションしたりするうちに「日本ってすごく存在感が弱い・・・」と思ってしまったんですよね。ケーススタディに日本の企業は出てこないし、クラスにも日本人は私だけ。アメリカではスタートアップが大きなディスラプションを起こしているし、中国でも目覚ましい経済発展を遂げているのに、日本は取り残されているな、と。そこで、私は前職で経験した、アメリカのマーケットにおける日本食の流通で見えたビジネスチャンスを形にしようと思い立ちました。それがたまたま日本酒だったんです。「アメリカで日本酒の認知を変えて世の中にインパクトを起こす」という目標にたどり着き、Tippsyを起業しました。

▼Tippsy伊藤さんのインタビュー▼

― 国を超えたユーザーに日本酒の魅力を伝えることをビジネスにするというのはなかなかの挑戦ですね。TRiCERAも世界各国のユーザーを対象に事業を展開していらっしゃいますが、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

井口 (TRiCERA):もともと私はNIKEやシーメンスといったグローバル企業でサプライチェーンを担当してきたこともあって物流は得意分野なんですよね。シンプルに言ってしまうと「物が届くんだったら売れるよね」と。グローバル化、IT化された現代では、物流網が整備されていればどの国や地域にもアプローチをかけて販売できるので起業当時からハードルを感じませんでした。TRiCERAにはそもそも「海外に向けて起業したい」や「国内・国外」のように国境で分ける発想がないんです。もちろん、梱包や税関手続きといったアート商品の国際物流は大変な面もありますが、こういった物流をスムーズに実現できているのはTRiCERAの強みでもあります。

▼TRiCERA井口さんのインタビュー▼

― なるほど、確かにアートはそもそもクリエーターのボーダーレスな世界の作品ですし、それを国や地域で分ける必要がないというのは納得します。お二人とも前職で培った経験が現在の起業に結びついているんですね。

重要なのはユーザーとの接点をどのようにつくり、認知してもらうか。多種多様な接点づくりと戦略的施策

― 海外マーケットではアプローチの手段が異なるイメージですが、どのようにユーザーグロースを進めていきましたか?

井口 (TRiCERA):まずはユーザーに認知してもらうことが重要ですよね。私たちは世界130ヶ国に配送するサービスを提供できるので、マーケットとして魅力的な国・地域に住んでいるユーザーを選定してアプローチしています。ユーザー獲得には7〜8種類の手法がありますが、TRiCERAではSNSや広告、SEOをメインに行っています。CRM (カスタマー・リレーションシップ・マネジメント) でユーザーとの接点を作り続けています。例えば、マーケットプレイスでアートを購入していただくだけではなく、日本ではオフラインでギャラリーを設置したり、オンラインではオークションイベントを開催したりするなど、月に数回はユーザーの方々が求める情報を提供しています。

伊藤 (Tippsy):井口さんのお話を聞いてなるほどなあ、と思いました。Tippsyでもオンラインでいかにユーザーとの接点を作るかを考えていました。アメリカ人が日本酒に興味を持つのは、和食レストランで日本酒を飲んで「おいしい!」と感動した時です。そこで、獺祭や八海山をGoogleで検索しているうちにTippsyのサイトにたどり着く。SEOを戦略的かつ長期的にやっているので、公式Webサイトに魅力的なコンテンツを掲載しておくことで、ロングテールでTippsyのキーワードとして確保できるし、「日本酒ってこんなに面白いんだ」と気づいてもらえます。

また、日本酒が自宅に届いたら本当のUXが始まる仕組みになっています。ユーザーが商品のカードやビギナーズガイドを読むことで日本酒の奥深さや種類の豊富さ、原料のこだわりを知ってますます日本酒を好きになる。Tippsyのメンバーシップの商品にはサブスクリプションのミニボトルがありますが、3ヶ月に一度、Tippsyがセレクトした日本酒と蔵元さんにインタビューした動画を送ったり、蔵の様子を紹介したりといったユーザーとの接点を持ちながら、蔵元さんとの乾杯イベントを毎月ZOOMで開催して日本酒の販売機会も増やしています。

― 確かに、ユーザーとの接点を作って戦略的にコンテンツ化する仕組みは重要ですね。いかにユーザーに体験してもらってコンバージョンさせていくかというストーリーも。お二人ともECマーケットプレイスという点も共通していますが、初期の立ち上げではどのような順序で着手していきましたか?

井口 (TRiCERA):TRiCERAは、アーティストが作品を出品して、ユーザーやコレクターが購入するCtoCです。マーケットプレイスでは「デマンドとサプライ、どちらからやるか?」という問題が常にあって、ほとんどのケースではデマンドを先に選びますが、私はサプライからやろうとアーティスト集めから始めました。

(image: TRiCERA)
(image: TRiCERA)

伊藤 (Tippsy):私もサプライ側でしたね。ECマーケットプレイスを作る時、まずは品揃えを充実させなければいけない。私は前職で食品の輸入を行っていたので、当時扱っていた日本酒に関する情報を集めて蔵元さんに連絡してストーリーのコンテンツを揃えたり、初めてお会いする輸入業者さんに「こういう者ですが、こういうことをやりたいからご協力をお願いします」と積極的に声をかけて関係を構築したりしていきました。

― マーケットプレイスの初期に直面するニワトリとタマゴの問題ですね。サプライ側から集めていった点も共通していますよね。また、人材採用についてですが、どういったところが課題で、どのように行っていらっしゃいますか?

人材採用に正解はない。事業と組織をともに育てるために大切なこと

井口 (TRiCERA):人材採用はone of the top prioritiesで、常に難しいと感じています。株主さんからのご紹介や、自分やメンバーの友人知人など、創業期の頃からリファラルが多いですね。最近ではWantedlyやアマテラスなどのスタートアップ向け人材採用メディアやLinkedInのようなスカウトサービスを利用しています。私にとって、どれだけ面接してきたかが採用の成功を左右すると思っています。場数を踏んでいくことで「こういうタイプの人が好きだ」と自分に対する解像度が上がるし、ジョブディスクリプションを見ながら話を聞いても「違うな」と分かるようになります。ちなみに、私はカルチャーフィットをあまり気にしません。そもそもアーリーステージでカルチャーが出来上がっていることなんて、ほぼないんじゃないでしょうか。それよりも自分やメンバーたちとの相性を見ています。

― 確かに、数名のチームの場合は相性が重要で、面接の場数でそれが見えてくるというのも納得します。Tippsyの組織はいかがでしょうか?

伊藤 (Tippsy):私もアーリーステージではリーダークラスの人材に「これからこういうことやるから」と会社の目指すことや私のやりたいことを語って納得してもらってからチームに入ってもらったり、リファラルでメンバーを増やしたりしていました。最近では媒体を使って採用していますが、ディレクタークラスのエンジニアを採用したくてもこんな小さなスタートアップになかなか入社してもらえないので、とにかく会社をPRしていますね。面接では冒頭から「こんな面白いことやっている」「ただのeコマースではない」と熱心に話しています。

― 「何をしている会社なのか」を発信することや、「創業者がどんな思いでこの事業に取り組んでいるのか」を言語化することで会社のPRに繋がりますよね。

伊藤 (Tippsy):Tippsyでは日本人もアメリカ人も採用していて、日本人メンバーは日本のコンテンツをアメリカや世界に発信することに魅力を感じて働いています。日本人とアメリカ人ではキャリアに対する考え方が違っていて、日本人はジェネラリストの発想を持っていて会社に教えてもらう、さまざまな経験をさせてもらう傾向がありますが、アメリカ人は完全ジョブ型で、2年間勤務したらさっさと転職して自分の給料を上げていきます。なので、アメリカ人のマーケティング・ディレクターを採用しようとすると年収20万ドルを払う羽目になる。その代わりにアドバイザークラスの人材とマーケター未経験者を採用してチーム・ラーニングをしながら組織作りの戦略を練っています。

― その点も面白いですね。ジョブ型、メンバーシップ型の働き方は昨今の雇用でも重要視されていますが、多様性のある組織ではそのあたりのマネジメントやチームビルディングにより一層の気配りが必要になりそうですね。

(image: Tippsy)
(image: Tippsy)

― 人材を採用した後、実際にそのメンバーが活躍するかどうかなど新たなお悩みがあると思います。どのように乗り越えていらっしゃいますか?

井口 (TRiCERA):フルコンプリートしている勢いで苦労していますね。人材のことはケースバイケースで、あるスタートアップでは社長のリソースを使って人材育成に向き合って好転した事例もあるし、時間の浪費になってしまった事例もあります。必ずしも「こうしたらいい」はないんですよ。スタートアップ自体がそもそも「成功するかどうか分からないけれどやってみよう」という精神のもとに進めている。メンバーがパフォーマンスを出していないことに対して、彼にとって無茶なタスクを振っているのか、フェーズが合わなかったのか、初期には判断しづらいことが多い。だから、場数を踏んだり手探りで進めたりしていくしかないんですが、トップの自分が人事に対してどんなスタンスでいるのか、どんな方針でいくのかを心に決めておくことが大事です。悩む時間が増えたら事業成長を緩やかにしてしまう恐れもあるので。

― やはり事業を成長させるには必ず人が関わってきますし、人を中心にした持続的な事業成長はスタートアップにとって難しいところですね。伊藤さんはいかがでしょうか?

伊藤 (Tippsy):私もアメリカならではの苦労もありましたね。例えば、この人とは合わないと思って退職を促した時、相手に「銃を持って乗り込むぞ」と脅迫されたり訴えられそうになったりしたこともあったので、入社前には必ず雇用契約書の内容で齟齬が生じないように握り合っています。また、創業期に入ってくるメンバーは前職の職種や経験の有無に関わらず、どんな仕事もやらなければいけない。マーケティングだけでなくオペレーションや倉庫の管理とか、全部。誰かに決められてからしか動けない人は長続きしません。現場では、リーダーシップを学びながら動いていく人や、従来のプロセスを壊してより良いものを作り直して進んでいく人が活躍していますね。私1人がルールやポリシー、プロセスを決めていたら、私の能力以上のスタートアップにはならないので、みんなにはいつも「どんどん議論して良くしていこう」と伝え続けています。

― 確かに、1+1を2にするだけではスタートアップが描くような成長は難しいので、3や5、10にするためには学びながら進化するのも大切ですね。また、退職における感情的ないざこざはスタートアップでもよく耳にしますし、雇用契約書など最低限の対応は必要ですよね。海外で起業する際、事務的なところではどのような苦労がありましたか?

伊藤 (Tippsy):アメリカでは法人設立がとても簡単で、数分でできるんです。しかも1万円もかからないし、弁護士も資本金もいりません。大変なのは、州ごとに規制が違う中で納税をしなければいけないこと。リモートワークの時代ですから、Tippsyのメンバーはハワイやニュージャージーをはじめ、さまざまな州に住んでいるので各州に合わせたエンプロイメント・タックスを納めなければいけないし、その都度会社として登記しなければいけない。セールスタックスも州、郡、市ごとに違うし、レートも違う。それらを上手く管理しないと国税局から多額を請求されるので、起業当初から優秀な税理士や弁護士を雇って対応しています。

井口 (TRiCERA):TRiCERAは日本で設立していますが、世界中にユーザーやアーティストがいるので間接税、例えばGST (Goods and Services Tax) やVAT (Value Added Tax) 、セールスタックスへしっかりと対応しています。アーティストが納税を申告する時にはドキュメントが必要ですが、それがとても細かいんです。最近の流れでは、越境ECで海外と二国間の取引になったら最初から利益を徴収しておいて、後で国税を納めるルールになっていて、イギリスをはじめEU全体にも広まりつつあります。ビジネスで海外に進出するとこんな複雑な問題が付き物です。

― なるほど。地域によって異なる細かい納税手続きなどは時間を取られそうですね。海外拠点で事業を起こす方に立ちはだかると言われる「言葉の壁」はいかがですか?

井口 (TRiCERA):弊社では最初から英語ができる人材のみを採用していて、日本を含めて6ヶ国の出身のメンバーが揃っています。会社の共通言語を英語にしているのでコミュニケーションに問題はありませんね。

伊藤 (Tippsy):私はMBAへ進学した頃から英語を使ってきているのでビジネスレベルにはなっていますが、アメリカでは英語が話せるなんて当たり前のこと。アメリカ人よりもコミュニケーションが上手でないと話になりません。メンバーにリーダーシップを発揮してもらうためにビジョンを語ったり、「あなたがやっている仕事が将来どんな大きなキャリアになるか」「キャリアが上がったら給料はこれくらいになる」「あなたには他の会社へ行ってほしくないから給料は負けないくらい出す」と的確に交渉しなければ、小さなスタートアップにいてくれないのでボキャブラリーや言い回し、話し方は常に勉強しています。

スタートアップは「冬の時代」。これまでの常識をアップデートして戦略的なピボットとチャレンジを

― 今後、事業としてどのような挑戦をするのかをお聞かせください。

伊藤 (Tippsy):Tippsyはこの数年間でアメリカ人たちが自由に日本酒を飲めるシーンを作ってきました。ただ、日本酒がこれだけアメリカ人に飲まれていて、日本食もローカライズされて月に3回食べることが当たり前になってきているのに、獺祭や八海山といった日本の特定名称酒がまだアメリカに浸透していません。アメリカのマーケットはもともと、外国の食文化の浸透が速い。例えば、メキシコのテキーラなんて20年前はほとんど飲まれていなかったのに今では5〜6倍の市場規模に成長していて、スピリッツの中でもウオッカと並ぶ巨大カテゴリーになっています。それに習って日本酒のマーケットはTippsyが引っ張っていきたい。スタートアップとして成長しながら、さまざまなチャネルやマーケティング手法、UI・UXを使って、どのレバーを引っ張ったら一番早く実現するのかを検証していきたいです。

― Tippsyが新たなカテゴリーリーダーとして市場をリードする姿が目に浮かぶようです。

伊藤 (Tippsy):もちろん、実際は大変だと思っています。社内では今やっていることだけではなく、来年、再来年の未来を見せながら動きつつ、メンバーたちの給料も上げていかなければいけない。ブランドの世界観は構築できていますが、スピードも重視しなければいけないから「こっちも大事だよ」とコンセンサスを取りながら仕事を進めてもらう。事業拡大と同時に、アメリカで新しい市場を作って日本のコンテンツの素晴らしさに気づいてもらうという、めちゃくちゃ難しいことにチャレンジしたいです。

井口 (TRiCERA):伊藤さんがおっしゃっていることに共感しますね、スタートアップにとってこれが全てだなあと。TRiCERAでも事業をどんどん成長させつつ、「どんな世界にしていくのか」というロードマップを実現するためにエクイティ・ストーリーを作っています。実際にその世界観を作ることができたらマーケットへ出て行ってこれだけの時価総額でやっている、という姿を目指したいです。

それを作っていくためには、バックキャスティングで「この段階で何をやっている」を2〜3年後も含めて考えていかなければいけない。こういった仕込みをすると、場合によっては別の新規事業を立ち上げるというポートフォリオ戦略も出てきますが、また新たにゴリゴリやっていかなければならないので苦しみを味わうことになります。TRiCERAも、既存事業へテコ入れしたり成長させたりするのと同時に、世界観を作るために新しい取り組みにも着手しようと考えています。

― 既存事業と新規事業を同時に進めることは本当に大きな挑戦ですよね。

井口 (TRiCERA):既存事業が形になってきたタイミングで新規事業に時間を割いても必ずしも成功するとはかぎらないし、新規事業でも別のチームや才能、考え方が必要になってくるので次の1年をどうやってマネジメントしようかというところです。ちなみに、スタートアップの世界では日本でもアメリカでも2022年1月から「冬の時代が始まっている」と言われていますよね。スタートアップの評価軸がPSR (株価売上高倍率) でこれだけマルチプルがつきます、のような単純な話ではなくなってきています。有名な世界のVCが唱えていたように、スタートアップとしていかにデフォルト・アライブを目指すかを念頭に置いてやらなければいけない。今まで、スタートアップでは「お金ジャブジャブで赤字経営」はよくある話でしたが、そんな当たり前は消えていきます。経営者は今までの考え方を変えながら戦略的に構築し直さなければいけません。

伊藤 (Tippsy):マクロ金融経済のところで言うと、私たちのいるeコマースでもさまざまなことがありましたよね。以前は事業を順調に成長させていたのに、FacebookとAppleでセキュリティの問題が発生してマーケティングでのリターンが良くなかった。それに、コロナもeコマース業界にとっては追い風だったのに、誰も予測できなかったような終わり方になろうとしていて、金融経済も縮小しました。

スタートアップの評価基準も変わっているので、事業を成長させてキャッシュを残せるようにしないと評価されないし次のファイナンスができるかも分かりません。「この事業はこう成長しなきゃいけない」とファウンダーが思い込んでいると、上手くいかなかった時に「どうしよう」と前に進めなくなってしまいます。いかに柔軟にサバイバルしながら次は何をすべきか、どんなピボットをしたら生き残れるのかを考えなければいけない。一筋縄ではいかないので、ファウンダーが頭を固くしたままではダメですね。

― そうですよね。今の時代を生き抜く起業家の日々のプレッシャーの中で、改善や進化を繰り返していこうとする姿勢には頭が下がります。最後に、これから海外進出を目指すスタートアップの皆さんへのメッセージをお願いします。

伊藤 (Tippsy):私が起業した理由でもありますが、日本の会社には海外でもっと頑張ってもらいたいと思っています。今や日本は市場や人口が縮小気味じゃないですか。また、世界から見ると日本って独特な国なんですよね。言語的、文化的にもそうですが、会社のあり方や働き方も欧米とは違う点が多く、交わりにくい。日本で成功しているモデルをアメリカにそのまま持ってきても当然、成功できません。アメリカで世界を狙うのであれば、世界でのPMF (プロダクトマーケットフィット) を先に目指さなければいけないけれど、なかなかできることじゃない。それに、VISAステータスや言語、カルチャーをはじめ、アメリカの国民性や市場が分かっていないと「アメリカで起業するぞ」と意気込んでも上手くいきません。日本にはアニメや食品など強いコンテンツが沢山あるのでそれらを武器に世界の舞台で戦ってほしいし、実際にチャンスも転がっていると思います。困難もあるかもしれませんが、日本の起業家には世界の市場に出てきてほしいと願っています。

井口 (TRiCERA):私はローカライゼーションという観点が大事だと思っています。私は海外進出を考えた時、AppleやAmazon、前職のNIKEのように「グローバルスタンダードで攻めたらいけるかも」と頭をよぎったことがありました。ただ、これらの企業はあのレベルだから成功している話。私たちのような小さなスタートアップが海外へ進出するには、ローカライゼーション、つまり、国や地域の言語や習慣などの文化を理解した上で、いかに製品やサービスを現地でも受け入れられるように最適化していくのかにつきます。マーケットインによってビジネスモデルが変わってもいいじゃないですか。伊藤さんがおっしゃったとおり、日本での成功体験を海外に持っていっても同じように成功するとはかぎりません。何にペインを感じるのか、何を気にするのか、何がトレンドになるのか、国や地域によって全てが違います。

海外進出と言っても「海外」とひとくくりにするのではなく、アメリカや中国など、どの国を狙うのかを具体的に考える。さらに、日本でも東京と大阪で歴史や文化、コミュニケーションの取り方が違うように、その国の中でも地域によって違いがありますよね。その感覚は現地の人たちが一番知っているので、自分の凝り固まった先入観や「こういうのがいいんじゃないか」を白紙に戻した方が早いと思います。あとは、サービスやプロダクトにおいて文化的に親和性の高い国や地域から狙っていくのも確実かもしれませんね。

(執筆:佐野 桃木 編集:Onlab事務局)

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