2020年10月28日
< プロフィール >
株式会社Toreru 代表取締役 / 特許業務法人Toreru 代表社員 宮崎 超史
神戸大学海事科学部を卒業後、トヨタ自動車株式会社に入社。品質管理部において自動車製造の品質管理業務を担当した後、弁理士資格を取得し、実父が経営する宮崎国際特許事務所(旧ブナ国際特許事務所 江坂オフィス)に入所。弁理士としての実務経験を経て、2014年10月に商標登録クラウドサービスToreruをリリース。2017年、特許業務法人Toreruを設立し、2019年には商標代理件数において日本一を達成した。
< プロフィール >
Open Network Lab 古川 裕也
日本・タイでの二度の創業。起業家のパートナーとして寄り添えるアクセラレーターに関心を持ち、Onlabへ参画。スタートアップの成長ボトルネックの発掘と解決を目的としたStartup Success Managerとして、主にスタートアップ支援コンテンツ開発、事業進捗カルテ管理、メンタリングに従事。得意領域は、プロジェクト管理・仮説検証キャンペーン管理、Web・CRM活用したデジタルマーケティング、Webプロダクトのデザイン・設計。
2014年に開催されたOnlab第14期のプログラムに参加し、デモデイで最優秀賞を受賞した特許業務法人Toreru(以下、トレル)の宮崎超史さん。
現役の弁理士でもある宮崎さんは、自身の実務経験をもとに、商標登録ができるクラウドサービス「Toreru」を創り上げました。Toreruは、商標登録にAIのディープラーニングを活用することで、弁理士が行う手続き業務を約10分の1に効率化したサービス。従来、類似する商標の調査などにかかっていた作業時間を大幅に短縮し、迅速な出願手続きを実現したほか、業界水準の3分の1程度の価格での商標取得を可能にしました。
現在、ユーザー数は企業や大学を中心に10,000社以上。2019年には、商標登録の代理件数で国内事務所ランキング1位を獲得し、文字通り「日本一」のサービスとなりました。
そこで今回は宮崎さんとOnlab担当の古川裕也の2名で、Toreruの成り立ちからOnlab参加の経緯、そして今後の展望までを語り合う対談を実施。Onlab参加当時は「スタートアップ」という言葉さえ知らなかったという宮崎さんが、日本一のサービスを創出する起業家になるまでを振り返りました(宮崎さんの企業のきっかけはこちらから)。
※以下「トレル」は法人名、「Toreru」はサービスを表すものとします。
Contents
― 宮崎さんが2017年のOnlab第14期に参加するまでの経緯を教えてください。
宮崎(トレル):僕のOnlab参加は全くの偶然でした。僕はトヨタに新卒入社して約3年間勤務した後、父親が経営する大阪の特許事務所に勤めていたんですが、商標登録の課題を知り、商標登録を効率化するサービスの必要性を感じていた頃、なんとなく「起業」という検索ワードで色々と情報収集していたら、偶然OnlabのHPに辿り着いて、「これに入れば自分の会社を持てるのか…」と思いました。それが参加を決めたいきさつなんですが、深く考えた末の決断というより、「勢い」で応募したというのが正直なところですね。
古川(Onlab):すごい偶然のタイミングだったんですね(笑)
宮崎(トレル):ええ。実際にOnlabがどんなプログラムを主催しているのかも理解していませんでした。さらに言えば、当時は「スタートアップ」という言葉すら知らないほど、ビジネスや事業開発には無知でした。
― Onlabの応募時に、何か構想していた事業アイデアはあったのでしょうか。
宮崎(トレル):当初は、弁理士と企業とのマッチングサービスを作ろうと考えていました。そのアイデアでOnlab第14期の選考を通過したのですが、いざプログラムが始まってユーザーアンケートを取ってみると、全く手応えが得られませんでした。結局、プログラム開始の直後には、ピボットすることになりましたね。
― その後、どのようにしてToreruにたどり着いたのでしょうか。
宮崎(トレル):実は、Toreruの原型となるweb商標登録サービスは、特許事務所時代の2014年に既にリリースしていました。仲間のエンジニアと2人で開発し、Onlabの参加当時には収益化できる程度にはなっていたんですが、当時は「サービスをグロースさせる」という概念を理解していなくて、Toreruにそこまでの将来性があるとは思っていませんでした。
しかし、弁理士マッチングサービスのアイデアをピボットした後、試しにToreruの既存ユーザーにヒアリングをしてみたら、予想に反して評価が高かったんです。「えっ?こんなにも多くのユーザーが評価してくれているんだ」と驚愕しました。しかもその直後に、Onlabのメンターの方にweb広告の出稿を勧められて、言われた通りにしてみたら、翌週にはユーザー数が2倍になったんですね。そうした経験から、Toreruの可能性に気付かされて、Onlabを通じてサービスをブラッシュアップすることに決めました。
― 当時のOnlabのメンターからのアドバイスで何か印象に残っているものはありますか。
宮崎(トレル):一番印象的なのは、Toreruのサービスの構造に気付かせてくれたことです。Toreruは僕が開発したサービスなんですが、それが誰の、どんな課題を解決しているのかといった点を、深く突き詰めて考えたことはありませんでした。それがプログラムに参加して、メンターの方々からアドバイスをいただくうちに、だんだん理解できるようになったんですね。
具体的にいうと、僕はずっと、Toreruは商標登録を行うユーザーの課題を解決するサービスだと思い込んでいました。「商標を安く、早く取得できる」という点ばかりを捉えて、漠然とそう考えていたんですね。しかし、メンターの方に「ユーザーへのメリットはただの結果であって、Toreruは本来、弁理士の課題を解決するサービスのはずだ」と指摘されて、ハッとしました。たしかにToreruの提供価値は、煩雑だった商標登録の出願手続きを効率化することであって、その価値は弁理士に向けられるべきものだと気付かされました。課題は事業開発の行く末を左右する羅針盤のようなものです。それをメンタリングのなかで明らかにしてくれたのは印象的で、今でも大変印象に残っているアドバイスです。
古川(Onlab):宮崎さんは「取り入れ上手」ですよね。例えば、そうしたアドバイスをもらった時に、事業や顧客のためになるものならすぐに取り入れて、それを即座に行動に移す。そうした吸収力と行動力があったからこそ、Toreruを成長させることができたのだと思います。
― そのほかに、Toreruをブラッシュアップするうえで、特に注力した点はありますか。
宮崎(トレル):「効率化」というフレーズを、いかに具体的に伝えるかという点は工夫しました。Toreruは弁理士の業務を効率化するサービスですが、具体的にどんな業務が、どのくらい圧縮されたのかを適切に表現しないと、サービスの優位性がユーザーに伝わりません。なので、例えば「出願手続きの95%は事務作業」や「Toreruは商標登録の手続き業務を約10分の1に削減」といった、具体的な数字で表現するように努めました。
古川(Onlab):この点に関しては、宮崎さんの経歴が生きていますよね。宮崎さんは以前、トヨタの自動車製造工場で品質管理の仕事をされていたことがありますが、トヨタといえば「カイゼン」という言葉を世界に広めたほど、厳密な業務効率化を行っている企業です。その現場で働いていた経験は、自社のサービスの「効率化」を見直すうえでも役立ったのではないでしょうか。
― その後、Toreruはデモデイで最優秀賞を獲得します。ピッチで印象に残っているエピソードはありますか。
宮崎(トレル):当日の登壇直前まで資料を直して、練習を繰り返していましたね。実は、練習では何度やってもミスをしてしまい、一度も完璧に話せないまま登壇の時間を迎えたのですが、奇跡的に本番だけ唯一ミスをせずに話し通すことができました。登壇中は客席の反応を伺うほど余裕はありませんでしたが、結果的に最優秀賞を獲ることができましたし、デモデイ終了後には現在の株主でもあるエンジェル投資家の有安伸宏さんに声を掛けていただいて、聴衆に響く、良いピッチを創れたのかなと思っています。
― Onlabはプログラム終了後も卒業生支援を行うのが特徴ですが、Toreruはなにか支援を受けてらっしゃるのでしょうか。
宮崎(トレル):2020年3月からは古川さんに担当いただいて、主にToreruのマーケティング領域のサポートをお願いしています。
古川(Onlab):Toreruはすでにオンラインでの商標登録事業では日本一の実績を有しているので、今後はこの事業への参入障壁をいかに作っていくかが課題です。なので、そうした施策や仕組みづくりに精通したスペシャリストと宮崎さんをマッチングして、Toreruの支援に携わっています。
― 参入障壁の生成というと、具体的にどのような施策を企図しているのでしょうか。
宮崎(トレル):まずはブランドの強化ですね。現在は、レビューを集めるなどの手法で、サービスへの信頼度を高めていっていますが、今後はTVCMなどをはじめとしたマス広告の出稿にも挑戦したいです。
古川(Onlab):私はロビー活動もひとつの戦略だと考えています。現在、内閣には知的財産戦略本部が設置されているなど、政府の経済成長戦略に知的財産は重要な役割を果たしています。そうした政府機関や特許庁のステークホルダーへの働きかけも、今後事業をグロースするうえでは必要になってくるのではないでしょうか。
― 古川さんから受けた支援で、現在役立っているものはありますか。
宮崎(トレル):オウンドメディア運用の仕組みづくりですね。現在、Toreruでは情報発信や顧客獲得を目的としたを目的としたオウンドメディアを運営しているんですが、記事を投稿するまでのフローを、古川さんのサポートを受けながら、タスク管理ツール上で構築しました。
業務フローは会社の成長を支える「財産」ですし、事実、現在もオウンドメディア運用の場面で効果的に機能しています。こうした事業の中枢を支える仕組みにまでコミットして、共に創り上げてくれるのが、Onlabの卒業生支援の魅力ですね。
― Toreruの今後の展望を教えてください。
宮崎(トレル):現在、Toreruは商標登録の領域に特化していますが、それをゆくゆくは特許や、デザインについての権利である意匠権など、他の領域にも手を広げ、あらゆる知的財産権の出願がweb上で完結するようなサービスを作りたいです。
― 日本一を達成したサービスにぴったりの、壮大な事業展望ですね。古川さんは、Toreruの事業のどういった部分が優れているとお考えですか。
古川(Onlab):私の個人的な考えでいえば、Toreruは社会的意義の大きいビジネスだと思います。メディアなどで盛んに取り上げられる、海外での「パクリ」のニュースなどを見れば明らかですが、知的財産権を守ることは、今や外国に日本国内の権利を濫用されないための重要な手段です。
しかし知的財産権にまつわる法律や手続きはとても複雑なため、日本国内におけるリテラシーはまだまだ低いですし、権利を有している人々も適切な防衛策が取れていないケースが多々見受けられます。そうしたなかで、出願の手続きを簡略化し、気軽に商標を取得できるToreruは、知的財産権の防衛に貢献していて、社会的にも重要な役割を果たしているサービスだと思います。
そして、そうした社会的意義の大きいサービスをサポートできるのは、私個人としても大変誇らしい気持ちです。今後も継続的に支援を続けて、ゆくゆくはToreruに、日本国内における知的財産のリテラシー向上を促すような取り組みにも挑戦して欲しいと考えています。
― 本日はありがとうございました!