2021年12月01日
Open Network Lab(以下、Onlab)は「世界に通用するスタートアップの育成」を目的にSeed Accelerator Programを2010年4月にスタートし、これまでに数々のスタートアップをサポートしてきました。今回はOnlab第23期で最優秀賞を受賞したコネクティー株式会社 代表取締役の杉原 尚輔さんです。杉原さんは新卒でドイツ証券株式会社(債券営業部)に入社し、外貨債券営業部でトップセールスとして活躍。その後、日本にもっと貢献したいという思いから2018年にコネクティー株式会社を設立し、深刻化する日本の人材不足と、在留外国人人材が日本で就業しづらい課題を解決するために、特定技能人材と日本の雇用主を繋ぐ「tokuty」を開発します。このサービスを介して日本をもっと魅力ある国にしたいと語る杉原さんに、コネクティーを起業した当時のエピソードやOnlabへ参加したきっかけなどをオンラインで伺いました。
< プロフィール >
コネクティー株式会社 代表取締役 杉原 尚輔
1985年2月2日、東京都生まれ、東京育ち。2008年慶應義塾大学経済学部卒。2010年一橋公共政策大学院公共経済コース修了。 一橋公共政策大学院在学中英国ウェストンミンスター大学へ留学。一橋公共政策大学院修了後、2010年4月ドイツ証券営業本部に就職。営業として、20代で35歳以下、債券、株式営業でトップセールス、2016年上半期外貨債券営業部トップセールスになる。 2014年5月、以前より問題意識のあった英語教育事業で起業、ファンデミーキッズを設立。2016年7月より独立、2018年8月より現職。
Contents
― 特定技能人材と日本の雇用主を繋ぐ「tokuty」とは、どのような課題を解決するサービスなのでしょうか?
「tokuty」は特定技能人材と、特定技能人材を採用したいを企業を繋ぐマッチングプラットフォームです。「特定技能」とは2019年4月に新設された在留資格です。人材不足が深刻な製造業や介護、サービス業といった14分野で働くことができるビザで、一定の専門性・技能を持ち即戦力となる外国人特定技能人材が積極的に雇用されています。日本では、少子高齢化が進んで2030年には625万人もの人材が不足すると言われる中、特定技能を持つ外国人人材の受け入れが年々増加し、この1年間だけでも特定技能人材は7倍に伸びています。しかし、日本の雇用主が彼らを採用したくても全人材の0.4%にしかリーチできないため、わずかな選択肢の中からしか選べていません。
― なぜ、外国人特定技能人材が増加傾向にある中、日本の雇用主はリーチできていないのでしょうか。
それは採用プロセスに原因があるためです。通常、人材紹介会社は直接求職者にアプローチできますが、外国人特定技能人材の場合、現地国の人材紹介会社に所属していることが多いんです。日本の人材紹介会社は海外の人材紹介会社と連携する必要がありますが、言語の壁によってこれがなかなか進んでいません。
私たちが開発する「tokuty」は多言語へ対応しており、日本の雇用主からの求人情報を母国語に翻訳し共有され、弊社独自のアルゴリズムでスキルマッチングを実施することにより人材へのリーチを支援しています。このように特定技能人材と日本の雇用主を繋げることにより、人材雇用の場面で活用していただけるプラットフォームを目指していきたいと考えています。
― 「tokuty」の強みや、実際にご利用になっているお客様からどのような反応がありましたか。
我々は多くの提携などを通じて、日本に在留する外国人特定技能人材を雇用主に紹介する力が圧倒的に強いんです。例えば、他の人材紹介会社を使うと数名の採用に1ヶ月かかったところ、「tokuty」は40名の候補者を1週間で送客したり、雇用主が人材紹介会社に問い合わせても3ヶ月間候補者が来なかったポジションに1週間で2名送客した実績があります。お客様にはこのスピードと候補者の多さに驚かれるとともに、現場にフィットする優秀な経験者を雇用できたと非常にご満足いただいています。
― 外国人特定技能人材にとって、日本で働くことにはどのようなメリットがありますか?
ベトナムをはじめ、東南アジアでは平均月給が約4万円ですが、日本で働くと18万円がもらえます。彼らが日本で300万円貯めたら現地国では5倍程度の価値に相当するので、彼らは借金を作ってでも日本で働きたいと考えています。現在、外国人特定技能人材の国籍はベトナムが半数を占めています。ベトナムでは自国の人材を海外、特に日本へ送ることに注力していて、高校から第一外国語として日本語を学べる学校もあります。
― 杉原さんのご経歴についてお教えください。
私の父は政治家で、父の選挙を手伝った時に素敵な仕事だと思い、将来は政治家になろうと考えていました。地盤看板がない私は、国家公務員の道を考え、大学時代には国家公務員1種経済職の試験に合格し、国の政策や経済、社会問題を研究するために大学院へ進学しました。しかし、倒産直前のリーマン・ブラザーズでインターンしたり、IBPグローバル留学プログラムの特待生として英国ウェストンミンスター大学へ留学したりするうちに、「行政での業務よりもまずはビジネスの世界で営業力をつけることは、将来に繋がるだけでなく、自分に向いているのでは」と思い、ドイツ証券のサマーインターンに参加し、2010年にドイツ証券債券営業部へ就職しました。
ドイツ証券では、入社4年目から結果が出始め、20代で35歳以下の債券・株式営業の中でトップ、また2016年上半期で所属チーム外貨債券営業の中でもトップの営業成績を残すことができました。
金融業界で結果を出すことは達成感もあり、エキサイティングな環境でしたが、2013年末頃から金融という少し無機質な世界で今後のキャリアを過ごすのかと自問自答する時間が増える中、昔から抱いていた日本に貢献したい、社会にインパクトを残したいという思いが日に日に強くなっていったんです。社会に出る前は、自分が起業することを想像していませんでしたが、周りでもスタートアップを立ち上げた方がいらっしゃったなど起業が身近になり、自分も新しいチャレンジをしてみたいと新規事業について考えるようになりました。
― ドイツ証券で働きながら、どのような事業を立ち上げたのですか?
2014年5月に幼児・児童向け英語教育事業「ファンデミーキッズ」という、英語で子供にダンスを教えるサービスを始めました。いわゆるスモールビジネスでしたが、フィリピン人のアナさんという大変エネルギッシュな方が講師として応募してきてくれたことがターニング・ポイントになりました。
― それはどのようなターニングポイントだったのでしょうか?
アナさんと一緒に外国人向けの求人情報を探しましたが、当時は外国人向けの求人情報は非常に少なかったんです。日本の外国人労働市場を調べると、アナさんのように熱心に働きたい外国人は多い一方、求人情報が届きづらいなど環境が整っていないことを知りました。日本では団塊世代が一斉に退職し、単純労働を好む若手が減っているため慢性的な人材不足を抱えていて、最悪の場合、企業は事業停止や倒産を余儀なくされてしまいます。アナさんのような勤勉な外国人人材が活躍するようになれば、この社会課題は解消されていくのではないか、日本の経済も活気づいていくんじゃないかと考えるようになりました。
何か事業を起こすのであれば大きな社会の変化にベットしたいと思い、外国人人材事業を立ち上げるべく2016年7月より株式会社エムティックとして、在留外国人に特化した人材派遣・職業紹介業を始めました。2年後の2018年には、外国人人材との意思疎通や在留カードの一元管理といった現場の悩みを解決するアプリや求人サイトの開発・運営を行うコネクティー株式会社を設立しました。
― 大企業からスタートアップの起業という大きなキャリアチェンジをなさったんですね。
今思えば事業分野も異なり、経営ノウハウがない中で、我ながらダイナミックな変化を選択したと思います。当時は安定よりも「自分の力で何かやりたい」という思いの方が強かったんだと思います。
― 杉原さんはどのようなきっかけでOnlabへ応募されたのですか?
2019年にG’s Academyというエンジニア養成スクールに通っていた頃、デジタルガレージの佐々木さんと出会ってOnlabについてお声掛けいただいたんです。さっそく20期に「Connectee」というサービスで応募しましたが、二次面接で不採択。続けて21期にも応募しましたが、最終面接で落ちたので「事業に魅力がないのか・・・・・・」と挫折を味わいました。その時、デジタルガレージの林社長からConnecteeに対して「マーケット規模が小さい」とフィードバックを頂いたことが、サービスをピボットするきっかけになりました。
そこから約1年後、新型コロナウイルスによって帰国できない外国人技能実習生が在留資格の特定技能を取得するようになり、日本の企業も彼らで人材不足を補填するようになったことで外国人特定技能人材の市場が拡大していることに気づきました。そこで、3回目は現在のサービス「tokuty」で応募し、三度目の正直でようやくOnlabプログラムへの切符を手にすることができました。スタートアップはマーケット規模はもちろんですが、一定数の顧客を掴んで成長していく兆しがあるかが成功の鍵だと思いますが、「tokuty」のトラクションには自信があったんです。ただ、Onlabへ3回目のエントリーをした時「もう2回落ちているから、また門前払いになるかな」と内心は不安でした。
― 当時、選考面談をしたメンバーは「今回の杉原さんの目の輝きは違った」と驚いていたそうです。
私がここまでOnlab参加にこだわった理由は、何よりもその実績です。SmartHRさんをはじめ、Onlabを卒業した後に調達したりエグジットしたりしている先輩方の割合が非常に高い。次に、メンターの古川さんは海外で事業を立ち上げたご経験を持つ方で「tokuty」のサービスを理解してくださいましたし、オンラインを含めてお会いするたび「心強く伴走してくれそうだ」「ここで頑張ったら明るい将来が見えてきそうだ」と期待感が高まっていったんです。また、Onlabを知る前は手弁当でノウハウがないまま進めてきましたが、やっぱり一気にグロースするような企業にしたかった。そのためにはOnlabに参加してしっかり教わった方が近道だろう、と。Onlabには絶対に入りたかったので、最終面接のプレゼンでは「Onlabじゃなきゃいけない理由」を発表するほど。やっと両思いになれたことに感動しました、笑。
― Onlabに参加した頃、サービスはどんな段階だったのでしょうか。
外国人特定技能人材と日本の雇用主を繋ぐ構造は現在と同じですが、Web上での機械的なマッチングではなく、ベトナム人のコーディネーターと私たち日本人営業が直接連絡をしながらマッチングをしていました。当時、営業は私とインターン生数名だけで進めていましたが、月間のマッチング数が5、10、20と順調に増えていったのを見て「これはニーズがあるはず」と確信していました。
当時からユーザーにもヒアリングを実施していたためユーザーが抱く課題を把握していましたが、私はその課題を「言語化」できていなかったんです。それだけでなく、当時の私は業界専門用語を多用していて「なぜ既存のフローではマッチングしづらいのか」を説明しても、聞き手に全く刺さりませんでした。Onlabの皆さんからも「それを徹底的に考えて言語化しましょう」とアドバイスをいただき、再度ユーザーインタビューを実施し、自分の暗黙知を全て書き出し、専門用語を使用せず、業界の課題や「tokuty」の魅力を第三者に実感していただけるように、3ヶ月かけて一つ一つを適切な言葉に変換していきました。
― 「tokuty」が現在の形になるまで、どのようなステップがあったのでしょうか。
2020年12月までは在留外国人を管理するアプリConnecteeにフォーカスしていましたが、同年末に入国管理局がConnecteeに似た機能をリリースしたんです。既存のお客様には弊社のクラウド管理が便利なので引き続き使っていただいていますが、新規お問い合わせは減りました。林社長からのフィードバックもあったので、注力事業をピポットしようと決めましたが、2021年の初めの頃は新たなアイデアが浮かばずに悩みました。そんな折に、ある会社から「農業の人材を50名探している」と求人をいただいたんです。私たちはその案件へ合計10名紹介しながら「これはどういう構造なんだろう」と向き合ったことが「tokuty」を走らせるきっかけになりました。
4月からは「tokuty」に注力することを決め、ユーザーへヒアリングや営業を重ねながら、そのフィードバックをサービスやプロダクトに反映させるといったアップデートを徹底しました。第23期DemoDayの開催2週間前に林社長やカカクコムの畑社長から前向きかつ厳しいフィードバックを頂き、直前まで修正に修正を重ねましたが、マーケットやユーザーの抱える課題や「tokuty」の概要、今後の事業展開を誰が見ても分かる、魅力的なPitchに仕上げていきました。そのおかげで、皆さんの反応がガラリと変わったのを実感しました。
― 今後、事業拡大に向けてどのような戦略を考えていらっしゃいますか。
「tokuty」のプラットフォームを介して日本の企業に雇用された外国人特定技能人材は半年間で累計160名です。代理店は約2000社あるため、これから一気に面で取りに行きたいですね。そのためには営業人材を増やして雇用主の需要の大半を網羅することが短期的戦略です。さらに、外国人特定技能人材のマッチングサービスだけではなく、彼らが来日前後に抱える悩み、ローンや海外送金、クレジットカードなどに対して、私たちが新たな金融ソリューションを作って提案することを中期的戦略として掲げています。最終的には、人材供給力を活かし、アジアのみならず中東・欧米にもサービスを広げて優秀な特定技能人材を送客できるようにしたいです。
― 新型コロナウイルスによって、日本の企業が外国人特定技能人材を採用する流れは変わりましたか?
海外から技能実習生が来日できないため、私たちが現在特化している特定技能人材の採用への機運が高まりました。コロナが落ち着いた時には海外からの来日者数も復活しますし、2021年11月現在、出入国在留管理庁が外国人特定技能人材の在留期限を2022年以降になくす方向で調整しています。そうすると、2030年までに外国人特定技能人材は急増すると予想されています。
― 御社には多国籍な社員がいらっしゃると伺っています。
最初に立ち上げた会社の社員を含めると計9名います。現在、弊社では「tokuty」を開発しているアメリカ人・台湾人のエンジニアや営業メンバー、外国人コーディネーターが活躍しています。2021年12月に入社する人材は2名。今後は営業人材やエンジニアの採用を強化していきたいと計画しています。弊社ではさまざまな国籍の仲間と一緒に働くので、海外の文化や人材に興味がある方や日本が抱えている課題を解決したい方には非常に面白い環境だと思います。
― Onlabにこれから参加しようと検討している起業家の方々へのメッセージをお願いします。
「こんな挑戦をしたい」「自分の手で世界を変えたい」という強い思いやビジョンを持って起業している方は、Onlabに参加すると事業がグロース・成長できる機会に恵まれると思います。事業を魅力的に伝えるには、パッションがあると好印象だと思いますので、熱い想いを忘れずに臨んでほしいですね。また、私自身がそうだったように、世の中の課題や事業の魅力を伝えるには、自分の思いの丈を第三者に伝わるように言語化したり、マーケットの大きさやトラクション、ユーザーのニーズを捉えていることを表現したりすることが欠かせないですよね。
― ご自分のモチベーションやパッションを維持するために心がけていることはありますか?
私もOnlabの面接に2回落ちた時は大いに落ち込みました。そんな時は、無理をしなくていいと思います。諦めはしませんでしたが、常にトップギアでいなくてもいい。日々悩んで悶々とする時期があるかもしれませんが、もがいてるうちに光明が差してきます。打席に立ち続けていればチャンスが来る。チャンスが目の前にやって来た時にしっかりと打てるように準備をしておくことが重要だと考えています。スタートアップはいきなり成功するわけではないので焦燥感に駆られても、思いのまま進めていけばいいと思っています。
(執筆:佐野 桃木 写真:taisho 編集:Onlab事務局)
※ 2021年12月中旬より社名を「トクティー株式会社」に変更