2021年04月02日
Open Network Lab(以下、Onlab)は、「世界に通用するスタートアップの育成」を目的に、Seed Accelerator Programを2010年4月にスタートしました。「Meet with Onlab grads」では、過去10年間でプログラムに採択され、その後も活躍を続けるOnlab卒業生たちのリアルボイスをお届けします。
2020年に開催されたOnlab第21期に参加した株式会社OutNow(以下「OutNow」)が運営する「theLetter」は、近年英語圏でも話題に上る「ニュースレター」のサービスです。書き手は何かしらの専門家であるケースが多く、質の高いコンテンツを読者に届けます。クローズドなコミュニティ足りうるニュースレターでは、書き手はコンテンツを配信しながら読み手とのコミュニティを育てていくことで、コンテンツでのマネタイズも可能です。
そんな個人をエンパワーメントするプロダクトをつくる思いや、Onlabに応募した経緯、実際のアクセラレーションプログラムに参加したことでの気付きや発見について、代表取締役の濱本さんにお話を伺いました。
< プロフィール >
株式会社OutNow 代表取締役 濱本 至
神戸大学在学時に、位置情報SNS「ColonyTale」をリリース。株式会社リッチメディアではマーケティング経験を積み、2017年からフリーランスとして、複数のマーケティング業務や事業立ち上げ、iOS開発業務等を受ける。2018年4月より、株式会社OutNow 代表取締役をつとめる。2020年7月「theLetter」をローンチ。
Contents
― そもそもなのですが、「ニュースレター」と「メルマガ」の違いとはどういったものでしょうか。
辞書レベルで定義が明確になっているわけではありませんが、私が思う両者の違いは、メディア目線でいうとニュースレターという独自コンテンツにしているかどうか、読者目線でいうとそのニュースレターコンテンツを得たくて登録したのかどうか、ということです。これがニュースレターとメルマガの違いなのではないか、と考えています。
近年のメルマガは「何かを宣伝したり、何かの数字を上げるための場所」という意味が強く、例えばWebサイトへの流入や商品の宣伝が目的です。他方でニュースレターはそれ単体で読み切れるコンテンツだというところに特徴があります。コンテンツを読みたくて、読者によってわざわざ登録されたものが「ニュースレター」というイメージです。(こちらのニュースレターに詳しく書いてあります)
またニュースレターは読者体験の良さも特徴です。情報収集をする際、Twitter等のSNSを使っている方が多いと思いますが、昨今のSNSは余計な情報も多くて、良い情報に巡り会うのが難しくなってきました。そこで今はオンラインサロンやSlack、LINEオープンチャット等のクローズドな場所から情報収集する方が増えています。つまり情報収集のソースがオープンなプラットフォームから、個人や小さなコミュニティといったクローズドな場所、個人から情報を得る時代に移っているんですね。
読者にとっては、雑多な情報や自分にとって不要な情報のノイズに対するPainが深いんです。この流れとニュースレターは非常に相性がいいと思っています。ニュースレターは読者が良い書き手を見つけて登録すれば、後は勝手に情報が自分の元に届くので、楽に情報収集ができます。
― なるほど。となると、theLetterは「ニュースレター」の配信を通じて、書き手と読み手のコミュニティをつくるようなイメージなのでしょうか?
はい。まさに theLetterはニュースレターの配信に加え、集まった熱心な読者の人たちとのコミュニティを作っていくサービスです。ニュースレターを配信するための機能を開発しているのはもちろん、コミュニティ構築のための施策や機能もあります。
ニュースレターは英語圏で急速に拡大している分野です。そのためニュースレターに関する知見が貯まってきています。例えば、ニューヨークタイムズの記者が公開できなかった企画を、ニュースレターで配信したり、いろんな人がこれまでの枠の中ではない、表現方法をしています。そんなノウハウをtheLetterがまとめたり、日本流にアレンジしたりして、theLetterのユーザーである書き手の皆さんに共有しています。
もちろん海外の情報を紹介しているだけではありません。theLetterは2020年7月にローンチし、既に色々なジャンルの書き手がいるのですが、読者データ、わかりやすいところですと、読まれやすい配信頻度や文字数といったことをデータから読み解き、よりコンテンツが届きやすくなるような仕組みを作っています。
ニュースレターの書き手の方々は、配信頻度や配信タイミングを当然気にされるのですが、theLetterのデータから、配信曜日は開封率や読了率にさほど影響を与えないことが数字でわかっているんです。このデータを元に「読むタイミングよりもコンテンツの質のほうが遥かに大事なのだ」ということを書き手に伝えることで、書き手の心配事を一つ減らし、コンテンツ作りに集中できるような環境を整えています。
また書き手と読者が交流できる仕組みも用意しています。
例えば、読者をセグメントできる機能やクーポン発行のようなマーケティングに活用できる機能、また、開封率に応じて施策が打てる機能も検討中です。theLetterには、有料・無料を問わず熱心な読者が集まっていて、一部の読者と意見交換をして、ニュースレターへのフィードバックをもらったり、内容について質問・回答したりできるようになっています。
ニュースレターを特定の読者層に送ることも可能で、例えば開封率の高い、つまりエンゲージメントの高い方だけに特別な内容を送れます。無料読者だけど開封率が高い方向けにクーポンを送り、有料会員への導線をつくる方もいて面白いですね。
― 書き手にはどのような方が多いのでしょうか。
有名媒体で書かれているライターやジャーナリストといったプロの書き手もいれば、普段は会社員で研究職という専門性の高い方、投資に詳しい方、ブランド運営をされている方等がいます。最近になって書き手の属性も多様化してきました。
― 書き手はなぜSNSやブログではなく、ニュースレターで情報発信するのでしょうか。
理由の1つに、SNSのフォロワー数ではなく、フォロワーあたりの熱量を重視したいということが挙げられます。そのために、コンテンツの「質」を高めていける配信サービスが求められています。
と言うのも、ただ無料のコンテンツが溢れかえっている世の中で、差別化できるようなコンテンツを作ろうとすると、どうしてもハイコンテクストな内容になってきます。それをオープンな場に投稿すると、誤読されて炎上するリスクが高くなる。そのため情報発信者には「質の高い情報を安全に世に出したい」というニーズがあるんです。
その点ニュースレターはSNSと違いクローズドで、文脈を理解した熱心な読者が蓄積していきます。そのため、質の高さを出すためにハイコンクストにならざるを得ないコンテンツでも、安全に読んでもらいやすい、というわけです。
― theLetterは書き手・読み手の双方に有益なサービスとなっていますね。このサービスのきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
theLetterを開発するOutNow社は、私(濱本氏)と荻田の2人で創業しました。我々はメディアスタートアップのエンジニア同期で、その後私はマーケティングや経営企画、荻田は開発責任者のキャリアを歩み、数年で2人ともフリーランスになりました。
会社を辞めてからも一緒にプロダクトを作っていたのですが、フリーランスを続けながらだとどうしても、開発してローンチはできても、そのサービスをグロースさせる時間が作れなかったんです。そこで2人で相談して、OutNowを創業しました。フリーランス時代から色々なサービスを開発してはクローズしを繰り返していましたが、例えば、小説家志望の人が出版編集者に直接フィードバックをもらえるサービスとか、音楽家の人がビートをラッパーに売れるサービスだとか、個人に焦点を当てエンパワーメントするという軸でピボットしていました。そして、ラストチャンスで産まれたのがこのtheLetterだったんです。
― 色々なサービスの中から、どうしてtheLetterを選んだのでしょうか。
僕がたまたま海外のニュースレターを購読しまくっていて、ニュースレターの良さをわかっていたことが大きいです。例えば英語圏だとニュースレターは2015年くらいから流行っていて、スタートアップの良質な情報がニュースレターで配信されていました。僕はこの、シリコンバレーの上質な情報がニュースレターという形式で勝手に届くという体験が好きだったんです。
また僕がtheLetterを着想したのは2020年6月頃、信頼性の高い情報が必要になると実感していました。というのも、この時期は新型コロナウイルスの影響によって東京にも緊急事態宣言が発令していたり、日本だけでなく世界中が慌ただしかった。僕もSNS等でコロナ関連の情報を追っていたのですが、この時期はフェイクニュースや釣りタイトルの記事が非常に多くて、次第に何を信用すればいいのかわからなくなってきたんです。
その中で専門家や研究者、現場の医療従事者からの情報というのは、非常に価値あるものでした。ただ彼らの情報を探しにいくのは非常に苦労したんです。何らかのプラットフォーム上では、信頼できる方の発信とノイズが混ざります。良質な情報を発信してくださる方だけの情報を受け取りたいと思いました。発信者と受け手を、プラットフォームを通じてではなく、直接繋ごうと考え、2020年6月にtheLetterの開発に取り掛かったんです。
― Onlab第21期が募集がちょうどその頃です。theLetterはニュースレターのアイデア段階で応募してくれましたよね。エンジニア出身のお二人で、これまでもさまざまなプロダクトをつくる経験はあったと思いますが、なぜこのタイミングでOnlabに応募されたのでしょうか?
Onlabに応募した最大の理由は、スタートアップ界隈のネットワークにリーチしたかったからです。元々スタートアップ、ベンチャーキャピタル・エンジェル投資家、アクセラレーターというエコシステムの存在は知っていたのですが、私も荻田も接点を全くもっていませんでした。接点が無いと、グロースするためのノウハウも手に入らないし、資金調達の難易度が高くなると思っていたんです。実際、投資家の方に時間をもらうのにも苦戦していました。なのでアクセラレーションプログラムに応募してコミュニティの中に入ってしまうことが得策だと考えたんです。そこでアクセラレーションプログラムを調べて、SmartHRやFRIL(現ラクマ)等、自分が知っている卒業生を含めて実績のたくさんあったOnlabに目が留まり、応募をしたという経緯です。
― プロダクトがない状態で選考に挑んだわけですが、面談の時に意識した自身の強みやアピールポイントはあったのでしょうか?
はい、おっしゃる通り。まだ実績がないので仮説しか話すことがなく、説得力がない状態だったので面談は非常に苦労しました。「インタビューではこう言っていました」「この人は使うと言っています」とか、それぐらいしか話すことがないんです。まだ開発しているところなので、ビジネスモデルの正しさや、本当に収益が出るのかもわからない。
なので面談では、自分たちの「事業のスピード」を示すしかないなと思ったんです。一次面談から二次面談まで10日位だったのですが、一次面談時に出た課題をクリアしたり、潜在的にニーズのあるユーザーへのインタビューを実施したりして、スピード感をアピールしましたね。
― 実際、選考ではお二人の領域への取り組む意欲もそうですが、そのスピード感は他社に比べて評価したポイントでした。
じゃあ作戦は見事に成功しましたね(笑)。
― Onlabでの3ヵ月間はどのように過ごしましたか?
最初はずっと顧客インタビューを繰り返していました。課題発見のためのインタビュー、ソリューションについてのインタビュー、細かい機能のインタビュー。本当に様々なインタビューをしていましたね。
定期的にOnlabの方々やメンターの方等ともお話していましたが、その度に感じたのは「自分たちは自分たちの事業についてわかっていないし、整理できていない」ということでした。メンタリングやオフィスアワーで、色々な方に事業のコアについて聞かれるのですが、どうもうまく答えられない。その理由はシンプルで、自分たちがまず事業について理解が足りていなかったのです。自分でも深く理解できていないから、人に説明できるわけもない。Onlabの方々からは手法や整理方法についてはアドバイスや知見を頂きましたが、どちらの方向に事業を進めるかは、僕たちの経営判断。そのためには事業理解やメタ認知が必要で、プログラム期間は事業を客観的に把握するのに非常に役立ちました。
またプロダクトづくり以外の、経営に必要なことも支援してもらっています。弁護士や税理士がいなかったので紹介してもらったり、登記を手伝っていただいたりしました。
― プログラムもオンラインに変わりました。振り返るとデモデイはいかがでしたか?
オンラインとは言っても生配信ではなく、自分で事前に収録したものをを配信したんですよね。ただ、時間は5分と決まっていて、5分も話していたら一回くらい噛むじゃないですか(笑)。自分で収録するから何回でも取り直しができる。だから納得するまで何十回と撮り直して、結局20時から朝の5時までずっと収録していました。
こだわりすぎるのもよくないのでしょうが、事業が進捗していても伝え方が悪ければ人には届かないし、そのバランスが難しかったです。
― 当初の目的であったスタートアップ界隈のネットワークには近づけましたか?
はい。プログラム中はもちろん、プログラム後のネットワーキングも役立っています。デモデイを視聴頂いたメディアやVCの方から連絡をいただいたり、Onlabから相性がよさそうな投資家を紹介いただいて、自分たちだけで動いていたときより遥かにスタートアップ・コミュニティにリーチできるようになりました。
― 最後に、今後のtheLetterについて教えください。
ここまで運営してきて、個人に眠っている知見や情報は、やはりたくさんあることを実感しました。ただ、ニュースレターやブログでそれをアウトプットする方はまだまだ少ない。知見を持っている方ほど忙しくて、アウトプットする時間がないんです。なので如何に継続的に情報を発信するインセンティブを設計できるか、そしてtheLetterを使ってもらえるかを突き詰めることが、今後は重要なポイントになってきます。
theLetterは、クリエイター経済圏やパッションエコノミー等と言われる分野のサービスで、今後巨大なマーケットになっていくはず。その中で面白い価値を創造できる独自のサービスを創っていきたいですね。