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子どもを支える小児科・産婦人科オンラインは、利用者と医療機関の架け橋に|Road to Success Onlab grads vol.2

子どもを支える小児科・産婦人科オンラインは、利用者と医療機関の架け橋に|Road to Success Onlab grads vol.2

2020年に入り猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、テレワーク導入のきっかけとなり、その結果オンラインのコミュニケーションが広がってきました。医療業界ではそれに先駆けて、2016年からオンラインで医療相談できるサービスを提供する企業があります。その企業こそOnlabの第12期に参加していた株式会社Kids Publicです。

2016年に「小児科オンライン」、2018年に「産婦人科オンライン」をリリースしてから現在に至るまでの軌跡や今後の展望を、Kids Public代表の橋本さんに伺いました。

株式会社Kids Public 代表取締役 小児科医 橋本直也さん
株式会社Kids Public 代表取締役 小児科医 橋本直也

オンラインでリアルタイムに医療相談

出産や育児の際にふと浮かぶ健康の不安。「こんなこと相談してもいいのかな?」「こんな症状が出ているけど病院を受診した方がいいのかな?」等、病院に行くこと自体が難しかったり、わざわざ病院に行ってまで相談する内容なのか判断できない、妊産婦さんや⼦どもたちは社会ストレスの影響を受けやすい存在です。

このような不安を解消してくれるサービスが「小児科オンライン」「産婦人科オンライン」です。前者は小児科医、後者は産婦人科医や助産師に、電話やLINE(動画・音声通話やチャット)というオンラインのツールを使って、リアルタイムで医療相談できるサービスです。

相談できる時間帯は平日18時から22時。事前に相談したい時間帯の予約をサイト上から申し込み、時間になったら現役の医師や助産師に医療相談をするだけです。小児科・産婦人科オンラインを使えば、わざわざ病院に足を運ばなくても、気軽に専門家に相談できます。

Kids Publicの代表であり医師でもある橋本さんが小児科オンラインを作ったきっかけは、自身が小児科医として働いていた経験から、親の不安が消えない実情を感じていたことでした。

親が子どもの健康を不安に思う気持ちは当然です。しかし実際に救急外来に来た子どものうちの約90%は、実際には救急外来に来るほどの状況ではないと、橋本さんは語ります。いきなり救急外来にかかるのではなくオンラインで医療相談できれば、子どもや親はもちろん、医療現場の負担も軽減できる。そう思いついた橋本さんは、小児科オンラインの開発に着手。子どもを生む前からのサポートも担うため、次いで産婦人科オンラインを開設しました。妊娠前から出産までは産婦人科オンラインで、出産後は小児科オンラインで子どもの相談ができる仕組みを作り上げたのです。

厚生労働省も2018年にオンライン診療のガイドラインを初めて策定するなど、オンラインの活用に力を入れ始めました。経済産業省は遠隔で医師に無料で相談できる健康相談窓口(遠隔健康相談事業)の運用を開始。この事業には小児科・産婦人科オンラインのほかメドピアグループの「first call」や「LINEヘルスケア」が採択されています。

オンラインで医療相談を受けるというサービスは複数ありますが、他社の多くは専門を設けていない、つまりどんな相談でも受け付けています。翻ってKids Publicの専門は「子どもと、子どもに関わる大人」、つまり小児科と産婦人科です。その理由は社名に込められていました。

橋本:Kids Publicという社名には、子どもは社会で育てるものだというメッセージが込められています。そのため1番大事にしているのは子どもたちと、子どもたちに関わる大人たちの安心です。よく「他の専門をターゲットにしないのか?」と聞かれますがそれは考えていません。例えば一般的な内科はKids Publicのターゲットにはならないんです。その軸はぶらしません。

子どもが生まれる前から成人になるまで見守り、育てていく。小さな不安は社会が一緒に寄り添って解消していく。それがKids Publicの軸となる理念なのです。

民間企業、教育機関、行政、医療機関が次々にサービスを導入

小児科オンラインはサービスリリースしてからの4年間で、様々な企業へ導入されてきました。

民間企業では2016年に富士通の福利厚生制度として利用が決定。2017年には鉄道業界で初めて小田急電鉄に導入されています(2019年に産婦人科オンラインも導入)。さらには社内だけに留まらず、小田急電鉄沿線ユーザーに提供されているONE(オーネ、共通IDで様々なサービスが利用できるシステム)の提携サービスにも追加されました。

教育機関では2018年、新渡戸文化学園が小児科オンラインを導入。新渡戸文化こども園・小中学校・アフタースクールに通う児童や生徒の保護者及び学園職員が、小児科オンラインを利用できるようになりました。2019年には女性が多い、新渡戸文化短期大学の学生へ産婦人科オンラインのサービス提供が始まっています。

橋本:例えば月経前症候群(PMS)で苦しんでいる女性は少なくありませんが、「痛みで苦しむことはあるけど月に1回だからまぁいいか」と我慢強くやり過ごしている方も大勢います。しかし中には医師に相談いただいたら楽になるケースもあるんです。女性が多い短大で産婦人科オンラインを導入いただくことで、学生時代から自分の健康を主体的に考えられるきっかけになればいいと思っています。

2019年には岡山市で小児科オンライン・産婦人科オンラインの提供が始まりました。岡山市では年間約7,000人の子供が誕生し、生後4か月ごろまでに地域の愛育委員が全戸を訪問。その際にチラシを使ってサービスの利用を推奨しています。

自治体による導入のメリットは様々な家庭に平等にサービスを届けられるという点です。Kids Publicではオンラインの相談内容をもとに、育児不安が強い方や産後うつのリスクが高そうなユーザーに手厚く声がけをしたり、アラートを察知した場合には本人の同意を得た上で行政と内容を共有して、現地を訪問してもらうといった連携をしています。

大船渡病院とは相談内容のカルテ連携も実施しています。小児科・産婦人科オンラインの利用時間は平日18〜22時。夜に受けた相談内容を、病院のドクターが朝には相談カルテで確認できるようになっているのです。「このお母さん、こんなことで悩んでいるんだな」「夜に熱があって、もし熱が続いていたら今日来る可能性があるな」といったことが事前にわかることで、患者さんが何度も同じ説明をしなくていいようになるというのもメリットです。

橋本:Kids Publicが目指しているコンセプトは「オンラインだけで閉じないオンライン相談」です。相談者とのコミュニケーションは必ずしもオンラインだけで終わるわけはなく、対面での診療が必要な人はちゃんと病院へ繋ぎます。オンラインはあくまで診療や対面でのサポートが必要な人を見つける窓口のひとつという位置づけなんです。

子どもと親にとって必要不可欠なサービスになるために

橋本:実際に小児科・産婦人科オンラインを利用してくれている人はITに抵抗がなく、ちょっとやってみようという方々なんです。岡山市のケースでも住民全員が登録してくれているわけではなく、オンライン相談をせずに、直接外来に行く人の方が多いのが現状です。まず小児科・産婦人科オンラインに相談していただければ、家族も随分楽になるのにと思いますが、まだまだこれからですね。

オンラインで相談を受けて夜間の救急外来受診を推奨するアドバイスになるのは、全体のたった1%程度。夜間の救急外来受診は不要とアドバイスを受けたユーザーの99%は、実際に医療機関へ行っていないことがアンケート結果でわかっています。オンライン相談の効果は数字にも表れているのです。

とはいえ、ユーザー層の中心であるアーリーアダプターの評判は良好。小児科・産婦人科オンラインの利用者は順調に増加していて、中には「小児科オンラインに聞いてみた」とTwitterへ投稿してくれる方もいるのだとか。

橋本:日本は子供が年間約86万人生まれる国ですが、小児科医は1万5,000人しかいません。医療リソースが限られる中で、どうやって多くの不安を解消し、安心を作れるか。ITやオンラインというテクノロジーを活用しながら、小児科・産婦人科オンラインで蓄積してきた相談のノウハウや傾向、理解を得やすい回答などのデータを活かして医師の作業の効率化をしていきたいです。今後は、サポートがなかなか行き渡らない思春期にも、サービスの範囲を広げていきたいですね。

子どもと親の伴走者であり続けるKids Public。ユーザーと医療者がオンラインでつながる世界観が浸透したときには、子どもと親にとって必要不可欠なサービスになっていることでしょう。

< プロフィール >
株式会社Kids Public 代表取締役 小児科医 橋本直也

小児科専門医。2009年日本大学医学部卒。2009~2011年聖路加国際病院にて初期研修、2011~2014年国立成育医療研究センターにて小児科研修、2014~2016年東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻修士課程、2015年~現在、都内小児科クリニック勤務並びに小児科・産婦人科オンラインを運営する株式会社Kids Public代表取締役。

(執筆:長岡 和宏 編集・写真:pilot boat、Onlab事務局)

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