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ライバルはGoogle。一人ひとりに最適化した位置情報コンテンツを提供するソーシャルマップSNS「SignPlace」|Meet with Onlab grads vol.14

ライバルはGoogle。一人ひとりに最適化した位置情報コンテンツを提供するソーシャルマップSNS「SignPlace」|Meet with Onlab grads vol.14

< プロフィール >
サインプレイス株式会社 代表取締役CEO 三浦 玄

金融機関でアルゴリズム取引システムの構築・運用を経験し、在職中に位置情報コンテンツのレコメンドシステムの着想を得る。自らエンジニアとしてアルゴリズム開発を行う傍ら新しい空間体験を提供する「SignPlace」をリリース。今までになかった体験として若年層を中心にユーザーが拡大中。専門は金融工学、機械学習、統計力学、システム開発。2019年よりサインプレイス株式会社の代表取締役。

Open Network Lab(以下、Onlab)は「世界に通用するスタートアップの育成」を目的に、Seed Accelerator Programを2010年4月にスタートしました。2020年で10周年となるOnlabは、今までに数々のスタートアップをサポートしてきました。

今回は、位置情報を用いたソーシャルマップSNS「SignPlace」で注目されている、Onlab第20期のサインプレイス株式会社の代表、三浦 玄さんのお話です。SignPlaceは、ユーザーが実際に行って良かったお店や場所をマップ上に「サイン」として残し、同アプリで繋がったユーザー同士で体験を共有することができる、新しいお店選びができるアプリです。

Onlabに参加したきっかけやプログラムから得られた経験等を、代表取締役の三浦さんにオンラインでインタビューしました。

好きなユーザーが訪ねたお店がマップに載る「SignPlace」は、世界初のソーシャルマップSNS

提供:SignPlace
提供:SignPlace

― SignPlaceについてお教えください。

SignPlaceは位置情報を用いたソーシャルマップSNSのサービスです。これまでは、食べに行く場所を決める時は飲食店検索サービスや検索エンジンで探すことが中心でしたが、SignPlaceでは、話題のお店や気になるスポットがマップ上で可視化されて、SNSの生の声からお店選びを実現できる新感覚のお店選びアプリです!

― SignPlaceを利用しているユーザーはどのような人でしょうか?

ユーザーは男女同じ割合で、年代もさまざまです。現在はまだマーケティングに注力していないものの、ユーザーは順調に増えています。SignPlaceを使って、Instagramでオススメのお店を頻度高く投稿するユーザーには、公認アンバサダーとして参加していただいています。現在アンバサダーは約200名。彼らのフォロワーが「あの人がやっているなら私も使ってみたい」と、新規ユーザーになってくれています。これまでは首都圏を中心にサービスを展開していましたが、最近では日本全国に対応し、今後は世界展開を目指し韓国、台湾でも利用できるように開発を進めています。

― 新型コロナウイルスによってマップに掲載される飲食店が打撃を受けていますが、サービスへの影響や対策していることはありますか?

一時的に影響はあったものの、現在は持ち直して伸びている印象です。SignPlaceはC向けだけでなく飲食店向けにもサービスを提供しているので、各店舗の現状を把握し必要な機能をヒアリングしながら開発しています。新型コロナウイルスによって各店舗様の予算が大幅に減っているため、通常の半額でご契約いただき、店舗の業務支援を含めたサービスをパッケージ化する取り組みも準備しています。

金融トレーダーから一変。「関わる人全てが豊かになる世界を作りたい」と起業を決意

― SignPlaceを立ち上げる前、三浦さんはどんなお仕事をされていたのでしょうか?

前職では、SignPlaceとは全く異なる金融業界で証券会社内の資産を運用するプロップトレーダーをしていました。トレードの世界では、同じ部署内でも誰かが勝つと誰かが負ける風潮がまかり通っていて、決してトータルサムにはならないんです。当然、歓送迎会もないし、負けた同僚は来月に去る。やりがいのある仕事でしたし、勝負の世界なんだと割り切っていましたが、みんなが一緒に幸せになれないことへ疑問を抱いていました。

― そのような環境から、起業しようと思ったきっかけは何ですか?

個人的にTwitterが好きでよく使っているのですが、2013年にたまたまニューヨーク出張とTwitterが上場する日が重なった時があって、ニューヨーク証券取引所まで、上場の様子を見に行きました。Twitterのロゴの入った横断幕が掲げられた瞬間、いつかは自分も起業したいと熱い想いがこみ上げたのを覚えています。

例えば、Apple社の製品で考えると、iPhoneを十数万出して買ってもユーザーは嬉しいし、iPhone上にダウンロードされる各アプリ会社も売上が上がるし、修理やメンテナンスに関わる人達も経済が潤う。私自身もこういった「全員がプラスになるサービス」を生み出したいと思いました。

同じ頃、世界有数の有名ヘッジファンドから自分のキャリアを評価いただき、超高層ビルの最上階のオフィスに招待されてオファーをいただいたんです。金融を続けるか、起業の道に進むかを迷いましたが、ゼロサムのような一方が得すれば他方はその分だけ損をするような環境の毎日から、相手も自分も双方が勝ちになるようなWin-Winの世界に移りたかったし、取れるリスクとしても体力的にも起業は今しかできない、と覚悟を決めました。

― 金融業界で将来の約束された仕事をするよりも、新たに起業する道を選んだのですね。

実は昔から起業したいとひそかに考えていて、サービスアイデアも100個ぐらい作っていましたが、実際に起業したのは33歳の時でした。市場や競合を調査しながら、どのアイデアが時代のニーズに合致するか、どの既存サービスにバリューがあるかを見極めて、スケールする可能性が高いと信じて現在のSignPlaceがあります。

また、この領域には自身の原体験がありました。私が生まれ育ったのは北海道の中でも特に寒い地域で、冬はマイナス30度に達するような都会とは地理も文化もかけ離れている田舎でした。そんな私が上京した時、インターネットやIT技術がより進化してきた頃だったので、「インターネットがあったら、東京に住んでいようが田舎に住んでいようが情報量が画一的になって、情報格差や地域格差が減っていくだろう」と期待していましたが、実際は違ったんです。

― どのようなところが違ったんですか?

東京には東京にだけの固有の情報があり、ニューヨークにはニューヨークにだけの固有の情報がある。つまり、インターネットによって情報は集積化されるけれど、その場所・空間にいなければ分からない空間固有の情報までは網羅できていませんでした。

例えば、私が上京したての頃、ごはん屋さんに行こうとなっても土地勘ないし、知り合いもいない。グルメサイトで星が4〜5個付いていても自分の好みに合わなかったり、人が並んでいるからおいしいというわけでもなかったりする。逆に、自分がおいしいと思ってもそのお店の評価が低いこともある。つまり、自分に適した情報が届かないという課題を身を以って実感しました。そんなニーズをSignPlaceというサービスで解決したいと開発に舵を切りました。

正解のないC向けサービスでは「真逆のプロセス」で事業を成長させていく

Onlabプログラム当時の様子

― 三浦さんがOnlabのプログラムに参加したキッカケをお教えください。

実を言うと、私はOpen Network Labの存在を知りませんでした。デジタルガレージはTwitterへの出資もしていたので認識していて、ある時、投資部門の方とお話する機会があり、サービスの説明をしたら興味を持ってくださったんです。そこから出資の話が進み、ハンズオン支援もということになり、Onlabのアーリー・バード枠として2020年1月からのOnlabプログラムに参加させていただくことになりました。

― Onlabに参加した当時、SignPlaceはどのような状態だったんでしょうか?

Onlabに入った頃には正式リリースを控え、β版サービスを開発していた頃でした。
会社を立ち上げる前の1年間は、起業準備をしながらエンジニアを雇ってプロトタイプを作っていましたが、なかなか思うようなものができませんでした。

― どのようなプロセスでサービスを完成させていったのですか?

最初は対象ユーザーを明確化せずに進めていたので、通常のプロセスとは真逆でしたね。海外のスタートアップの事例にもありますが、先にプロダクトをローンチしてからマーケティングを見て、プロダクトに刺さるユーザーを見つけていく逆算の戦略です。分析ツールも入れてオーディエンスごとのリレーションや滞在時間を見て、この層が一番使うと確認してターゲットを絞っていきました。

― Onlabのプログラム中はどのようにサービスの検証を行なっていたのですか?

C向けサービスは正解のない好みや感性といったハート的なものがあるので、ユーザーにソリューションを求めても分からないんです。代わりに、私たちでサービスのストーリーを作って、ユーザーへのヒアリングを重ねて彼らが求めているものを想定して、定量情報をもとに分析して、伸びているようだったら上がっているね、という具合に進めています。このサイクルを続けて、2019年9月にApp Storeへ登録しました。

― Onlabのプログラム中、一番大変だったのは何でしたか?

サービスをロジックに基づいて仮説・検証することです。例えば、OnlabのAlumniであるSmartHRには「現在、これだけの業務時間がかかっている。これをどれくらい短縮したら、5万円の人件費がかかっているところを2万円のソリューションで解決するか」といった明確なロジックがあります。

しかし、私たちのようなサービスは「こういう見た目にしたらユーザー数が伸びる」を検証する方法がないんです。しかも、ジャッジする側の「私はこう思う」も十人十色で、誰もコンセンサスを取れない状況になるので、ロジカルを組み上げて形にするのは難しい。TikTokがまだ存在しない世界でモバイル向けショートムービープラットフォームを作ると言っても、誰もこれだけのバリューを出すと想像できないのと同じです。

なので、ユーザーへのヒアリングを重ねて検証して数字を出すというサイクルを愚直にやるしかない。その困難さはありましたが、Onlabやデジタルガレージには投資実績が豊富にあるので、成功事例としてTwitterがどのように成り立っていったかを教えていただいたり、国内初のフリマアプリ「フリル(現ラクマ)」が開始された当時の様子もお話しいただいたり、C向けサービスを成長させる上で欠かせない情報を沢山いただきました。

― アプリリリースから新規ユーザーは継続的に入ってきますか?

波はありますが、ユーザーは一定して増えています。Onlabに参加する時、5年間のKPI予測値のようなシミュレーションも作りましたが、ほぼ想定どおりに推移しています。

SignPlaceが目指す姿は、日本発のIT企業として世界の舞台に立つこと

提供:SignPlace
提供:SignPlace

― SignPlaceのチームには、何名のメンバーが集まっていますか?

業務委託を含めて10名です。もう自分ひとりだけの事業ではないので、私がやれば上手くいく仕事も彼らに託して、敢えてやらないようにしています。その方がメンバーが自分の仕事に責任を持つようになるし、プロフェッショナルとしての成長も早いからです。もともと、私自身がトレーダー時代にスタンドプレーな仕事ばかりしていたので、CRM(顧客管理)をしたことがないし、人をマネジメントするノウハウも持っていませんでした。それでも、チームをまとめてサービスを作っていかなければならない。最初はやり方が分からないし、私自身の意思決定も弱かったので、みんなの顔色を伺いながら「どう思う?」と聞いていました。

でも、多数決で決めても中庸なものになって、良いものにならない。自分がこの事業をスタートさせたんだし、サービスについて24時間考えているし、ビジョンは自分が見た夢なんだから、メンバーがその船に乗れるかどうかで進めよう。そう振り切ったら意思決定もマネジメントも上手くいくようなりました。

― メンバーとのコミュニケーションの取り方で、工夫していることはありますか?

私は、自分が能力があると認めた人は年齢や立場に関係なくプロフェッショナルとして見ています。例えば、私はビジョンリードとして、会社のビジョンに沿うかを判断してチームを引っ張っていますが、アプリを開発している時、テックリードが「この技術の方が良い」と言うならば間違いないと取り入れています。おかげで、SignPlaceでは、一人ひとりが責任を持って自分の任されたテリトリをやりきるというプロ意識を強く持っていますね。

― 今後どのように事業を成長させようと思いますか?

SignPlaceはこれまでになかった位置情報を使ったソーシャルマップSNSを目指しています。マップ上のコンテンツも飲食店に限定していないので、競合はいないと考えています。強いて言えば、TikTokやGoogle、そしてスマートフォン向けの拡張現実技術を利用した位置情報ゲーム「Ingress」やポケモンGOを開発したNianticですね。位置情報を統合したマーケティング、決済、予約などリアルとネット空間の統合では莫大なマーケットが広がっています。Googleもマイビジネスというローカルビジネス向けのサービスを提供していますが部分的な参入で、いまだこのマーケットではまだ覇者が存在していません。このマーケットにおいて世界で先手を取ったら何兆円という企業価値につながるため、どの企業も我先にと巨額の予算をかけて奮闘しています。SignPlaceもそこで覇者になるという夢を大きく描きたいですし、スイートスポットを取りにいきたいと狙っています。

― 日本国内にとどまらず、世界規模での事業成長を考えていらっしゃるんですね。

日本はGDPで世界第3位なのに、世界の舞台に日本のIT企業が現れていないことを私は課題だと考えています。現在、世界トップのApple社の時価総額は200兆円で、日本トップのトヨタ自動車は約25兆円(2020年9月)。トヨタ自動車の長い歴史から考えると、GAFAはまだ誕生したばかりなのに世界ランキングの上位を占めている。日本は高度経済成長期からずっと製造業で戦っているので、そろそろ世界を席巻するようなIT企業が出てきても良いのではないかと思っています。

スタートアップはエゴイズムの境地。正しいと思ったら突き進む

サインプレイス株式会社 代表取締役CEO 三浦 玄
サインプレイス株式会社 代表取締役CEO 三浦 玄

― 直近では、SignPlaceとしてどんな挑戦をしたいですか?

これまでは飲食業を中心とした位置情報サービスの開発を進めてきましたが、今後はホテルやアパレルやブランドというビジネス的な空間から、綺麗な夜空が見える場所や自分のお気に入りの夕日が綺麗な丘、といった個人的な空間にも特化したサービスに刷新するためにVer 2.0を作っています。

業界や場所のバリエーションが増えたらユーザーも多種多様になるため、SignPlaceのアプリでは、Twitterのように、フォローする人の属性やリコメンドによってマップ上のコンテンツをパーソナライズしていく予定です。自分がこの分野・この人が好きだとフォローやいいねをしたら、SignPlaceというプラットフォーム上で、ユーザーを理解しユーザー毎の最適な情報を提供していき、いずれはARまでサービスを拡大してユーザーの一日一日のあらゆる意思決定の手助けが出来るサービスを作るというのがゴールです。

― 最後に、Onlabにこれから参加する方へのメッセージをお願いいたします。

Onlabにはパッションや気合だけではなく、物事を論理立てて考える人が多いです。理知的な人も、ビジネス経験が豊富な人も沢山いるので、理論的に攻められるような下地を作るのに最も適した環境だと言えます。

また、自分の正しいと思った道を進むべきだと考えています。突き抜けたくなければ、スタートアップをやるべきではない。なぜなら、スタートアップはエゴイズムの境地じゃないですか。人の言うことに従うだけだったら会社員で良いとすら思います。「自分の思う世界を作りたい」「自分がやらなくてはならない」と動くことが起業家であり、スタートアップ。私は今後も「こんなサービスがあって良かった」というユーザーの声を励みに、関わる人全員が嬉しい状態になるサービスを作って役に立ちたいと思っています。

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三浦さんによると10代のユーザーを中心にInstagramやGoogle Mapを使った飲食店検索が主流になっているそうです。そんな中、SignPlaceは、実際に友だちが行って気に入った場所をマップ上で共有して楽しむSNSとして徐々に人気が高まってきています。また、SignPlaceには「同じ価値観を持つ繋がりを作る」「1つのアプリに情報が集約されている」「好きな場所のデータベースを作れる」という3つの特長があり、自分の好みや気分に合ったお店選びが実現できるので、当日お店を訪れてガッカリすることが少なくなりそうですね。

SignPlace(現在iOS版のみリリース、Android版は近日リリース予定)
https://signplace.co/

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