2023年08月23日
デジタルガレージが運営するアクセラレータープログラム「Open Network Lab Seed Accelerator(以下、Onlab)」は、「世界に通用するスタートアップの育成」を目的に2010年4月にスタートし、これまで数々のスタートアップを支援・育成してきました。Onlab 第25期生の株式会社レッドクリフ 代表取締役の佐々木 孔明さんは、ドローンと世界一周旅行をしたことを機にドローンの可能性を確信。帰国後に大学を中退して世界最大手ドローンメーカーの日本第1号店に入社します。そこでドローンに関わるさまざまな職種を経験後、空撮に特化したレッドクリフを立ち上げて大規模なドローンショーの撮影にも携わるようになった佐々木さんに、事業を立ち上げた当時のエピソードやOnlabのプログラムで得た気づき、ドローンを介してどのような事業戦略を立てているのかを伺いました。
< プロフィール >
株式会社レッドクリフ 代表取締役 佐々木 孔明
1994年、秋田県生まれ。関東学院大学建築・環境学部へ進学。2016年、2年間の休学を使いドローンと世界一周の旅に出る。帰国後、大学を中退しドローン世界最大手DJIの日本一号店に勤務。ドローンの販売・講習・空撮を担当。2019年、ドローン空撮会社「株式会社レッドクリフ」を設立、テレビ番組の空撮やゴルフ場の空撮を行う。海外企業のドローンショーの空撮を担当したことからドローンショーに興味を持つ。東京オリンピックの追い風を受け2021年より日本最大規模のドローンショー運営会社を目指す。
Contents
― レッドクリフの事業について教えてください。
レッドクリフは2019年に設立した日本最大級のドローンショーを企画・運営している会社です。イベントでドローンショーを実施したり広告プロモーションを発信したりするなど、ドローンを情報発信ツールとしてご活用いただいています。私はドローンの空撮会社に勤めていた背景からドローンを接続できる台数や日本仕様の周波数帯を把握し、ショーに使用できるドローンも国内最大級に所有しています。
― どのようなお客様がドローンショーに興味を持っていらっしゃいますか?
ドローンショーは注目を集める最先端のプロモーションができるという点で、主にスポーツ業界やイベント業界、プロモーション業界からご依頼を頂いています。イベントのタイトルや企業ロゴ、ゲーム会社であればキャラクターを夜空に描くことができるので、お客様からのご依頼も徐々に増えています。レッドクリフは一昨年(2021年)からこの事業をスタートしていますが、昨年は年間約10本だったところ、今年はすでにその約3倍もの案件を頂いています。
― 佐々木さんは大学生の頃、ドローンと世界一周の旅に出たと伺っています。
私はもともとカメラや写真が好きで当初は「世界各地を巡りながらいっぱい写真を撮れたらいいな」と考えていました。たまたまネットでドローンの存在を知り「空飛ぶカメラがある!目で見たもの以上の景色を撮影できたら絶対にいい思い出を作れるはず」と購入したんです。当時は「ドローン」という言葉自体が新しく、航空法でもドローンを含む無人航空機のルールが制定されていませんでしたが、地元で試してみると簡単に飛ばせたのでドローンを持って世界一周に出ました。
当時、私は大学を休学して1年半をかけて海外を回った後、建築士になるための勉強をしていましたが「違う仕事に触れてみたい」と迷うようになっていました。そんな折にちょうど世界最大手ドローンメーカーのDJIが日本第1号店のオープンにあたってスタッフを募集していたのでエントリーしました。
― 念願が叶ってドローンに関わる仕事に行き着いたんですね。
当時、「ドローンは飛ばして撮影するだけだろう」と見ていましたが、世界中からお客様がやって来るし、農業や測量、物流とさまざまな分野で活用されているのを知ったんですよね。ドローン市場が大きくなっていくと確信し「残り2年間を大学で費やしている場合じゃない」と大学を中退してそのままDJIの日本第1号店に就職しました。
そこではドローンを販売し、法人のお客様に向けてドローンの導入サポートをする、ドローンのインストラクターをするなど幅広く経験を積みました。その中でも自分のスキルを活かせる空撮に特化したサービスを立ち上げたいと考えるようになり、2019年5月に独立してレッドクリフを設立しました。さまざまなテレビ局や制作会社からご依頼を頂き、番組や映画、ミュージックビデオのドローンを使った空撮を受託するようになりました。
― 佐々木さんがOnlabのプログラムに参加した当時、レッドクリフの事業はどのような状況でしたか?
きっかけは、2019年に東京モーターショーが開催され、約500機のIntel Shooting Star Droneと3Dサウンド、ライティングがシンクロしたドローンショーに参画したことです。当時はまだドローンショーが大規模かつ国際的に開催される高単価なイベントに限定されていて事業化までには至りませんでした。その翌年にドバイへ行ったらドローンショーが日常的に開かれていて「だいぶ身近になってきたな」と衝撃を受けました。ドローンを使って協賛企業のロゴが空を舞っていたんです。高単価なものの、一度に多くの方にご覧いただけるドローンショーが広告媒体になったら数千万円を払う企業はいらっしゃるだろう、と。
当時、日本には大規模なドローンショーを手掛ける企業がありませんでしたが、プロモーションする機体数が揃っている、企業ロゴが出せるのであればビジネスが成立すると考え、帰国後にさっそく資金調達に向けて動き始めました。どうやって資金調達するのか、どうやってドローンショーで事業を展開していくのかと壁にぶつかったタイミングにOnlabのプログラムを知り、迷わず応募しました。
― 実際にOnlabのプログラムへ参加してみて、どのような学びがありましたか?
当初は、ドローンショーを「イベントのいちコンテンツ」と捉えていましたが、Onlabのメンターからは「イベントを手掛けるだけではレッドクリフの事業は大きく伸びない」といったさまざまな角度からアドバイスを頂きました。事業をスケールするには広告が重要なポイントになってくる、と。そこで、プログラム期間中は広告に詳しい方とお話しする機会を沢山頂きながら、どこが営業先に相応しいのかといった細かいレベルまで相談しましたね。同時に、広告について学びながらレッドクリフが提供する価値を詰めていきました。
― Onlabのプログラムを経て、レッドクリフの事業やサービスに変化はありましたか?
レッドクリフの収益の軸は広告ですが、現在では広告をただ取ってくるだけではなく「どこで開催すると価値があるのか」も押さえるようになりました。全国各地で開催される花火大会では何十万人もの方に夜空を見ていただける。そんな場所を押さえながら広告媒体としていくらの価値があるかを設定し、広告代理店や制作会社に提案・販売しています。
― 現在、レッドクリフにはどのようなメンバーがいらっしゃいますか?
営業やクライアント対応をしながらプロジェクトを進めるプロデューサーをはじめ、ドローンショー仕様にカスタムされた3DCGソフトを利用して飛行プログラムを作成するアニメーター、完成したプログラムを現場で飛行させるオペレーター、現場全体をマネジメントする現場監督など、約10名のメンバーが活躍しています。
― ドローンに特化したスキルやご経験を持つ方を見つけるのは難しいと思いますが、どのように採用していますか?
やはりドローンショー自体が新しい業種で完全に合致するスキルを持つ方は少ないので、チームと連携しながらサービスを作り上げる方や、案件一つ一つへ真摯に向き合う方を中心に採用しています。アニメーターでは3DCGソフトの経験値がある方、オペレーターではドローンやネットワーク通信に詳しい方、プロデューサーでは制作会社やイベント会社での業務経験がある方や営業が得意な方を募集しています。
― メンバー一人ひとりが成果を上げるために、コミュニケーションで工夫していることはありますか?
コロナ禍でオンラインでのコミュニケーションがメインでしたが、案件が無事に終了した後はメンバー全員が集まって打ち上げをしたり達成した喜びを分かち合ったりしています。また、基本的にはリモートワークをしていますが、週1回は対面で話せるように広い会議室を借りて集まったり、部署ごとのランチ会を設けたりしてコミュニケーションの回数を増やしています。
― メンバーの皆さんはどのようなモチベーションを持っていらっしゃいますか?
新しい分野に挑戦することにやりがいを感じてくれています。レッドクリフには多忙を極める仕事が多く、短いものだと1〜2ヶ月で終わりますが、大規模なドローンショーでは半年かけて制作したり、キャラクターを持っている企業とのコラボでは確認作業が多く時間がかかったりするんですよね。しかし、案件ごとに終わりがあるのでメリハリをつけて臨んでくれています。何よりも、ドローンショーで多くの方に楽しんでいただけていることや、驚きや感動をお届けしていることがやりがいに繋がっているようです。
― ドローンを活用した広告に魅了される方が増えていく中、レッドクリフの事業拡大に向けた今後の計画をお聞かせください。
業務ではAIを使った効率化を進めています。例えば、アニメーションの作成では、最後の仕上げを人の手でやる必要がありますが、写真を500個のドットに表現する作業であればAIでもできるかもしれない。もちろん、各チームの管理職の人材も採用したいですが、現在は人材を増やすよりも各ポジションの効率化をはかってお客様からのご依頼へ対応しています。
― レッドクリフの中長期的な事業戦略をお聞かせください。
現在はレッドクリフがドローンショーを実施する件数を増やしたり、花火大会やイルミネーションとコラボレーションする企画も作成したりしています。レッドクリフだけでは回せない案件数になってきたところで、ドローンショーに興味のある企業に向けてトレーニングやドローンの販売も始めています。今後に向けてレッドクリフでは新たに大規模なプロモーションに注力していて、小規模の案件であれば販売先の企業に紹介し、ドローンショー市場自体の活性化をはかっています。ドローンショーの開催回数が増えたらまたレッドクリフからドローンをご購入いただくというサイクルを回しながらスケールアップしていく予定です。
― 佐々木さんが個人的に成し遂げたいことはありますか?
ゆくゆくはドローンの市場全体に関わりたいですね。日常生活で皆さんがドローンを見る機会は少ないですが、近い将来では全国の花火大会やイベントでレッドクリフのドローンを目にするだろうと想像しています。現在、レッドクリフがドローンショーで使用しているのは、PC1台で何百台ものドローンを制御する技術。それを農業や測量、物流に活用できるようになれば、ドローンで最も有名な企業になると確信しています。
― 最後に、これからOnlabプログラムへ応募しようと考えていらっしゃるスタートアップに向けてメッセージをお願いします。
どのスタートアップにも専門分野があって、本当にいいプロダクトを持っていると思うんですよね。IPOを目指したり自社の価値を上げたりするには、Onlabを通じてさまざまな経営者や業界にいらっしゃる方々からご意見を聞くのが近道です。私も「ドローンショー」というとイベント業界だと捉えられやすいところ「広告」「芸術」「技術」と新たな活路を教えていただきました。自分の戦う市場を拡大させるためにOnlabのプログラムに参加すると、専門知識を持つメンターや先輩起業家と話せる機会が待っています。自分の考えに囚われない新しい発見に出合い、視野も人脈も広げられる取り組みになるのではないでしょうか。
(執筆:佐野 桃木 撮影:taisho 編集:Onlab事務局)