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国連にも採択されたプラスチックごみ調査。環境スタートアップ10年目の「諦めない」秘訣|ピリカ|Road to Success Onlab grads vol.10

国連にも採択されたプラスチックごみ調査。環境スタートアップ10年目の「諦めない」秘訣|ピリカ|Road to Success Onlab grads vol.10

ごみ拾いSNS『ピリカ』を中心に、ごみの自然界流出問題を解決する株式会社ピリカ(以下「ピリカ」)は、2011年に創業し、第3期生としてOnlabに参加しました。ピリカはこの期のベストチームアワードにも輝いています。それから10年経った2021年。環境省が選ぶ環境スタートアップ大賞の環境大臣賞に選出されるまでに成長しました。

しかしながらピリカは、この間、順調に成長し続けたわけではありません。Onlabで長くピリカを見てきた佐々木をして「諦めるタイミングはいくらでもあった」と言わしめる程、苦労の連続だったのです。

困難を乗り越えながら成長してきたピリカの足跡や、「諦めるわけにはいかなかった」理由まで、ピリカ社長の小嶌さんに、Onlabの佐々木が聞きました。

< プロフィール >
株式会社ピリカ 代表取締役 小嶌 不二夫

大阪府立大学卒、京都大学大学院中退。在学中に世界を放浪、道中に訪れた全ての地域で大きな問題となっていたポイ捨てごみの解決を目指し、2011年に株式会社ピリカを創業。ごみ拾いSNS『ピリカ』の開発やポイ捨て調査サービス『タカノメ』の提供など、テクノロジーを使ってごみ問題の解決に取り組む。「Eco summit 2013 in Berlin」金賞、「第1回環境スタートアップ大賞」環境大臣賞など国内外で受賞歴多数。

< プロフィール >
Open Network Lab 佐々木 智也

2005年デジタルガレージ入社。デジタルガレージグループの戦略事業に携わる。海外投資先サービスの日本ローカライズや、パートナー企業とのジョイントベンチャー事業等に従事。Twitterとの資本業務提携により日本展開を主導。 シードアクセラレタープログラムOpenNetworkLabではスタート時より参画、現在エバンジェリストとして活動。 Twitterの日本におけるユーザーグロース経験や、投資先とデジタルガレージグループの事業連携をメインにインキュベーション事業を展開。

自治体や企業でも広く使われるようになってきたピリカ

佐々木(Onlab):
ピリカ社はごみ拾いSNS『ピリカ』を2011年にローンチして、その後もごみの回収や調査に関する様々なサービスを増やしてきたよね。改めてサービスの概要を教えてください。

小嶌(ピリカ):
はい。ごみ拾いSNS『ピリカ』はごみ拾いを楽しく継続させるボランティアSNSです。これまでに拾われたごみの数は、世界108ヶ国から1.8億個以上にのぼります。サービスを進める中でごみ拾いの結果を定量的に見える化して行く必要があると、「ポイ捨て」や「歩きたばこ」の深刻さを人工知能を利用した画像認識で調べる「タカノメ」や、海洋マイクロプラスチックごみの調査サービス『アルバトロス』を運営しています。どのサービスも地方自治体がクライアントになるケースが多くて、タカノメは様々な業種の企業、『アルバトロス』は2019年から国連とも仕事をしていて、国連環境計画(UNEP)が手掛ける東南アジアの海洋プラごみ流出経路分析などの調査からグローバルな調査手法としての地位を確立し、事業化に繋げています。

佐々木(Onlab):
最近ようやく国内でも、色々な企業やメディアがマイクロプラスチック汚染について言及しだしてきたよね。やっと時代が『アルバトロス』に追いついてきた。

Onlabの佐々木(左)と、ピリカの小嶌さん

佐々木(Onlab):
ピリカのクライアントは 地方自治体が多いけど、彼らはどんな課題を抱えているのでしょう。

小嶌(ピリカ):
地方自治体から連絡をいただくケースもあるのですが、その際、地方自治体は施策の確からしさを認識していないケースが多いのです。

例えば、これまで自治体はボランティアによる清掃イベント等を、毎年同じ予算で同じ時期に開催していました。ただ、地域の人口が減少したり環境が変化する中で、今後も同じことが続けられるのかは難しいところ。しかもこのボランティア清掃によって回収される量は非常に多くて、いきなり止めるわけにもいかないのが実態です。そのため清掃の担い手がいなくなったからといってコストをかけてごみを回収しはじめたら、かなりの金額がかかってしまうことになります。こういったお話を自治体の担当者にし始めると、地域のごみに関する課題を認識してくれる自治体が多いですね。

佐々木(Onlab):
「そこで『ピリカ』です。すでに利用実績もありますよ」と営業するわけだ(笑)。

小嶌(ピリカ):
そうですね(笑)。自治体への営業はやはり事例勝負な側面があります。他の自治体が使っているから自分たちも安心して使えるようです。

佐々木(Onlab):
『タカノメ』も同様に?

小嶌(ピリカ):
そもそも街の清掃や美化活動という意味では、例えば市中にごみ箱が置かれていますよね。でも結局それで街がキレイになったかどうかを判断する物差しがないんです。そのため行政が「この予算の効果を証明して下さい」「説明責任を果たして下さい」と言われても、方法が無いんですね。「頑張りました」とかしか言いようがない。

また清掃の予算配分にしても、渋谷区だったら渋谷駅の周辺等人が多いところに重点を置きますが、その配分は本当に適切かどうか信頼できる物差しがありませんでした。例えばクレーム数を物差しにしているケースもありますが、それだとそもそも人が多くてごみの多いことが当たり前な渋谷駅周辺はクレームが少ないけど、高級住宅街だったらちょっとタバコが捨ててあるだけでもクレームが来る。それが本当に街の美化のための指標として適切かどうかは難しいところです。

佐々木(Onlab):
なるほど。そこでタカノメを使って現状を街の姿を定量的に調査すると。自治体にとってはみえにくかった指標が明らかになり、効果的な予算配分もできるのは価値あるよね。

小嶌(ピリカ):
はい。タカノメの調査方法は主に2つです。まずは複数地点で調査をして、どこがどの程度汚いのかを調べます。これで「汚れているところから優先して予算を使っていくようにしましょう」と、現状把握と予算配分ができるようになるんです。

次に汚い地域にごみ箱を置いたり、ポスターを貼ったりとアクションを起こします。その前後でごみの量を比べれば、施策の効果がわかるというわけです。やってみると「ポスターや看板は意味なかったね」というケースももちろん出てきますが、それで予算の無駄使いが防げるようになります。

小嶌(ピリカ):
導入例としては、政令指定都市に、熱心に活動していただいている自治体があります。先進的でしばしば新しい取り組みも一緒に始めてくださるありがたい存在で、タカノメを最初のほうに積極的に使ってくださいました。

佐々木(Onlab):
自治体ではどうやってタカノメを使っているの?

小嶌(ピリカ):
近年、自治体では喫煙禁止地区を増やしているんです。ある地域が禁煙禁止地区に指定されたら、パトロールを雇って、違反者から罰金を徴収します。しかし罰金の金額はパトロールを雇うコストに比べたら微々たるもので、パトロール自体は大赤字なんです。場合によっては数千万円の赤字になります。そこでタカノメを使って、喫煙禁止地区の設定とパトロール雇用によってタバコのポイ捨てや歩きタバコが減るのかどうかを計測し、予算の効率的な利用に繋げるのです。

佐々木(Onlab):
ピリカはこういう風に事例が増えていっているので、行政にも紹介しやすいですね。まだ公開はできないプロジェクトですが、現在もデジタルガレージから紹介した案件が進んでいて、流石だなと感じます。

小嶌(ピリカ):
行政だけじゃなくて、企業との共同案件も増えてきました。例えば、たばこ会社とはデータから喫煙所の設置場所も導いたり、色々な取り組みをしています。今の時代は副流煙の問題等でなかなか喫煙所が置けないですよね。他方でピリカのデータからは、喫煙所があると周囲のタバコポイ捨てが抑制されることが確認されています。効果を可視化しないと撤去されてしまう喫煙所の存在意義説明のために、ピリカのデータを使っていただいています。

信頼してくれた「人」の顔は潰せない、10年続く原動力とは

佐々木(Onlab):
今は自治体や企業の話をしてくれたけど、最初はごみ拾いSNSのC向けサービスの会社だったよね。課題に対する思いやサービスの発想が面白くて、第3期のベストイノベーションアワードとベストチームアワードも納得だった。ただその後はなかなか順調に成長しなくて、大変な時期を過ごしていると感じた。そこでよく心が折れなかったよね。

小嶌(ピリカ):
折れるわけにはいかなかった、という事情もあります。

起業しようとした時に、祖父に資金提供をお願いしにいったら「不二夫が変なことを言い出した、何を言っているか分からないからとにかく来てくれ」と父が招集されました(笑)。父はとても真面目な人なので厳しいだろうなと思ってたら、当時アプリなんて全くわからないはずの父が、「自分もよく分からないが、不二夫は見どころのある奴だから応援してやって欲しい」と、祖父を説得してくれたんです。これは諦めるわけにはいかないなと思いました。

また、Onlabとの出会いもそうでした。今振り返ると、面談の時は右も左も分からずに事業の思いを一方的に話していただけでした。不思議に思って、後日なぜ自分はOnlabに採択されたのか、と聞いたところ、審査の方々は、私という人間に魅力や可能性を感じたんだと。自分以上に自分のことを信じてくれた人達の顔は、潰せないなと思ったんです。

ピリカとオープンネットワークラボの5ヶ月間。
PIRIKA(2011年資料)

佐々木(Onlab):
本当に頑張っていた。本来は禁止していたんだけど、当時Onlabが運営していたコワーキングスペースで寝泊まりしていることがあったよね(笑)。

小嶌(ピリカ):
当時節約のために、共同創業者とアパートに住んでいたのですが、ボロボロすぎて寒いんですよ。オフィスの方が快適だったのでつい(笑)。

佐々木(Onlab):
ハングリーな感じは当時からあったよ。経営も堅実にうまく節約して過ごしていたよね。あと、『アルバトロス』のプロトタイプ事件もあったよね。

小嶌(ピリカ):
ハードウェアを作っていたときですね。水質の実験をしていたので、東京中から汚い水を集めて……。コワーキングスペースに持ち込んで、よく怒られていました(笑)。

小嶌(ピリカ):
Onlabには色々な思い出があって、運営するデジタルガレージ社長の林さんにはドイツで講演する機会をいただきました。林さんが欧州の環境スタートアップが集まるカンファレンスを運営している友人を紹介してくれたんです。それで講演することになって。海外の環境ビジネスを知るいいきっかけになりました。

海外に行ってみて改めて感じたのですが、環境ビジネスの最先端を走っていると言われていた欧州ですら、ちゃんとビジネスになっているのはエネルギーと水処理くらいしかなかったんですよね。なので「ごみのポイ捨て管理アプリです」なんて言っても、誰も評価できないんです。世界のどこにも前例が無いから、海外のサービスを模倣することもできない。結局自分たちの頭で考えるしかないなと。

穴の空いたバケツを国連に納品?!お金をかけないプロトタイプづくりの原点

佐々木(Onlab):
それが今では国連のプロジェクトでも採用されるようになったんだからすごい成長だよね。海洋プラスチックごみの調査はどんな経緯で国連に行き着いたの?

小嶌(ピリカ):
国内のごみ問題ももちろん大変なのですが、発展途上のアジア圏のほうが影響が大きいんじゃないかと2018年くらいから考えていたんです。そこで何カ国か現地調査に行きました。

現地の学会等に参加していると、国連が川へのプラスチック流出実態を調べるための会議を近々開催するとの噂を聞いたんです。なのでその会議に色々な伝手を使って参加させてもらいました。ところが、会議なので皆さん色々なプレゼンをするわけですが、どうやら明確な方針はまだ決まっていないように見えたんです。

そんな中「折角だから日本の事例を紹介してくれ」と言われ、『アルバトロス』の話をしました。「流出しているマイクロプラスチックを調べたら人工芝由来だとわかって、追跡調査をしたらグラウンドからの流出を確認した」といった内容です。

そうしたらそれがかなりウケまして。ごみ問題というと、どうしても大きなごみが注目されてしまいますが、マイクロプラスチックも見逃すわけにはいきませんよね、と話をしたら、『アルバトロス』を採用してくれることになったんです。

佐々木(Onlab):
もちろんタイミングがよかったというのもあるんだろうけど、タダじゃ出張から帰れないという貪欲さがピリカは強いよね。

小嶌(ピリカ):
貪欲さみたいな話では面白いエピソードがありまして。マイクロプラスチックの調査装置は当時からずっと使っているのですが、当初国連に納めたのは、コストや修理のしやすさの観点から、まだ色々な既製品を組み合わせて作ったものだったんです。

で、その一部はバケツの底をノコギリで切って、ガムテープでぐるぐる巻いたものでした。不格好ではあるのですが、性能としてはこれで十分だったし、型から作ったら費用が何倍にもなってしまう。そこでそのまま納品したんですね。性能は元から実証済みでしたし、意外と突っ込まれませんでしたが、長い国連の歴史の中で、穴の空いたバケツを納品したのは、ピリカが最初で最後なんじゃないですかね(笑)。

佐々木(Onlab):
ピリカが解決しようとしているのはごみ問題だけじゃないよね。

小嶌(ピリカ):
ピリカはごみ問題だけではなく、もっと広く環境問題に関心をもっています。僕が環境問題に興味をもったきっかけは、小学2年生のときに読んだ全7冊の環境問題のシリーズ本でした。1冊のテーマは大気汚染だったり、水質汚染だったり、ごみ問題は1冊分でしかありません。そう考えるとピリカがやるべきことは、まだまだたくさんあると感じています。

起業した10年前に比べると、環境分野でも事業を成立させられると信じてもらえるようになってきたと思います。投資対象になったり、環境省が環境スタートアップ大賞を創設したり、少しずつ評価が変わってきているなと実感しています。今やっていることを成功させてさらに投資できる資金を増やし、今後もっと事業規模を拡大していくことで、より深刻で大きな問題にチャレンジしていきたいです。

まずは今やっている事業を拡大していき、その過程の中で日本国内だけではなくアジアやアフリカ等、ごみの流出がより深刻な地域に挑戦したいですね。

佐々木(Onlab):
先日無事に資金調達も完了し、グローバルな活動も期待しています。まだまだ道半ば、引き続き、デジタルガレージやOnlabでもご支援させていただきます。OnlabでもESG/SDGsスタートアップ支援にも注目しているので、環境スタートアップの先駆者として突き進んでください。あと協力お願いします。今日はありがとうございました。

小嶌(ピリカ):
是非。ありがとうございました。