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時代に応じて事業を変化させるタイムマシン経営。写真アプリからD2Cブランド支援へ「MONOC」の鮮やかな転身に迫る|Road to Success Onlab Grads vol.25

時代に応じて事業を変化させるタイムマシン経営。写真アプリからD2Cブランド支援へ「MONOC」の鮮やかな転身に迫る|Road to Success Onlab Grads vol.25

デジタルガレージが2010年から取り組んできた日本初のシードアクセラレータープログラム「Open Network Lab Seed Accelerator(以下、Onlab)」はこれまで数々のスタートアップを支援・育成してきました。

今回はOnlab 第6期として写真編集サービス「papelook(パペルック)」を立ち上げ、現在は事業ピボットをして発展させたコスメブランド立ち上げ支援事業「D2C STATION」が好調な創業12年目を迎えるモノック株式会社の登場です。代表取締役CEOの小澤一郎さんは、時代の流れに合わせ、当初とは別事業のようにも見える経営をしています。これまでの事業の経緯について伺いました。

< プロフィール >
モノック株式会社 代表取締役CEO 小澤 一郎

2011年大学2年生のときにiPhoneアプリをエンジニアと開発し、2000万ダウンロードを達成したiPhoneの写真アプリ「papelook」の成功から会社を起業。その後もコスメメディア「FAVOR(フェーバー)」や自社ブランド「FAVES BEAUTY(フェイブス・ビューティー)」を展開してきた。10周年を期にモノ作りを由来とするモノック株式会社へ社名変更。現在はクライアント企業のコスメブランドの立ち上げを全面的に支援する事業「D2C STATION」を開始。価値あるブランドを世の中に届けるため、商品企画から製造・物流・販売・プロモーションなどの化粧品ブランドに必要なトータル支援をしている。

海外で成功している事例を日本に持ち込む「タイムマシン経営」でみえたこと

― モノック社はどのような事業を行う会社ですか?

化粧品のプロデュース会社として、D2C事業に参入したい企業にむけた企画製造販売マーケティングまでのトータル支援を行っています。もともと2015年から記事メディアを運営し、クライアントからの広告タイアップやSNS運用などをメイン事業にしていました。現在のD2C事業への転換は2019年に自社製品を作り始めてからですね。

― Onlabとの出会いについて聞かせてください。

2011年から学生起業で写真加工アプリ「Papelook」を運営していました。当時のOnlabメンバーの方との繋がりもあり、Onlabに応募したところ、採択され、同時に出資もしていただきました。当時のプログラムでは、社会人経験のない私に対し、経営に関するバックオフィス支援(弁護士紹介)やエンジニアの方の相談会などいろいろなコンテンツでサポートしていただきました。当時紹介された弁護士の先生は現在も顧問弁護士として、ご一緒させていただいております。

モノック株式会社 代表取締役CEO 小澤 一郎さん
モノック株式会社 代表取締役CEO 小澤 一郎さん

― 写真加工アプリ「Papelook」運営で苦労された点をお聞かせください。

運営していたアプリは若干の課金はあったものの基本無料アプリでした。なので、会社としてはマネタイズ方法を模索していたんです。DL数は2000万人、しかもほとんどが女性ユーザーということもあり、「Papelook」の女性ユーザー向けにマネタイズのサービスをいくつか(電子雑誌、メディアキュレーションなど)考えていて。そんななか、プログラム後もOnlabやデジタルガレージの方々から事業ピボットも視野に入れ、事業会社の紹介やマネタイズに関してもたくさんのアドバイスをいただきました。

― どのような事業の考え方で活路を見出したのでしょうか。

海外で成功したビジネスモデルやサービスを日本で展開するいわゆる「タイムマシン経営」です。2015年にイギリスの地下鉄構内の広告が有名モデルではなくYouTuberだらけになったことに取締役の女性メンバーが気付いたのがきっかけでした。「いよいよ時代が変わるぞ」と。日本では「YouTuber」という言葉が出始めた時期でしたが、海外のように”動画による発信”を日本でもやっていこうと。

しかし、ほどなくして日本と海外のコミュニケーションの違いにぶつかりました。外国の方は話すことが得意なので動画として成立するのですが、当時の日本のインフルエンサーで話せる人がなかなかおらず、魅力的な動画が作れない。

そこで、メンバーがもともとブロガーだったことを活かし、まずは記事ベースでの商品訴求を始めたのが新作コスメサイト「FAVOR」でした。商品を買ってきて、自分で写真を撮り、ブログを投稿するところからスタートしたんです。

― 当時からレビューブログは多かったと思いますが、御社の独自性はどこにあったのでしょう。

確かに「アメーバブログ」などで化粧品の紹介をする人は多かったのですが、写真の撮り方や記事の書き方を体系化して、クオリティの高い記事を提供した点が弊社の独自性だったと思います。ひと昔前はキュレーションサイトがたくさんありましたが、コピペ記事に価値はないと地道にオリジナル記事を作ったことが化粧品ブランドから評価してもらえた理由だと思います。ユーザーも顕著に伸びましたし、外資系ブランドや国内大手ブランドからも広告を頂けるようになって、それも会社の成長に繋がりました。

YouTuberとのコラボ商品の成功が事業展開のフックに

― 当初の展望だった動画配信についてはいかがでしょう。

2018年に動画制作チームを編成して、タイアップ動画を作り始めた時が売り上げのピークでした。ですがイギリスでは既にブログを書いていた人がYouTuberとして活動し、次の展開として実際の商品を発売していたんですね。そこで我々も2019年に商品を出したのですが、当然いきなり売れる訳もなく……。作り方もミニマムロットもわからず、かなりのお金を使ってしまって在庫の山(笑)。

でも、それを知った企業が「うちも化粧品を作りたいから相談させてほしい」と声をかけてくれたんです。新規事業として予算を組んで、こちらに全部任せてくれました。ここから化粧品ブランド立ち上げの受託事業を請け負うようになったんです。そこから自分たちの商品よりもYouTuberとコラボした商品が、1年で100万個ほど売れて。これが日本におけるYouTuberブランドの先駆けとなり「自社でもD2Cブランドを作りたい」という企業から受注が殺到して今に至ります。

― 今、振り返ってみて何が成功の要因になったと考えていますか。

実は、先ほどのYouTuberとのコラボ商品がコロナ禍で爆発的に売れたのが大きな要因の一つです。コロナ禍を予知していた訳ではなく、偶然当社の作ったリップが”マスクに付きづらいテクスチャー”だったんです。
タイミングの妙もあり、YouTuberからYouTuberへと口コミでの評判が広がっていきました。

― 口コミベースということは、宣伝費もかからずということですよね。

CMやSNS広告は一切使っていません。
当時はYouTuberのプロデュースブランドも珍しかったので、チャンネル登録者100万人くらいのインフルエンサーが何人も紹介してくれました。タイアップとしてお願いしたら合計3億円はかかると思います(笑)。色々なラッキーが重なって成長に繋がりました。

― その後、ビジネスとしての「プロダクトの再現性」を持たせる必要があったかと思いますが、その点はいかがでしたか。

ブランドが成功した結果、メーカーをやったことのない我々の商品が話題を呼び、オンラインだけでなくバラエティショップなどでの実店舗展開も始まりました。

出荷方法や店舗とのやり取りをはじめ、店舗の什器に関する業界の通念…いわゆる”暗黙のお作法”なども知らない中、失敗を繰り返しながら手探りで進めてきました。振り返ると、そのハードな経験が今に繋がっています。

その教訓を基に現在は良い商品作りや什器、倉庫のシステムが整えたプロデュースサービス「D2C STATION」に結実させることができました。現在までにプロデュースした数は40ブランドほど。3年で売上3倍を記録し、累計の出荷店舗数は1000店舗を超えています。

D2C STATION サービス紹介動画

― 現状「D2C STATION」はどのようなクライアントからの受注案件が多いのでしょうか。

大きく2パターンあります。まずはYouTuber事務所やECサイトをやっている企業から「新規事業としてやってみたい」とオファーをもらい、彼らの予算をもとに我々がプロデュースする方法。もうひとつは老舗ブランドやOEM工場から「開発はできるけど商品企画の仕方がわからない」「商品を開発したものの、時流に合ったマーケティング方法が分からない」という相談が来るパターンです。

前者は今よりも「D2C」盛り上がっていた2年前頃に特に多くて、新しい事業に挑戦される会社がまだ無名だった弊社を利用してくださることが多かったです。ただYouTuberの名前でリリースすれば売れるという訳でもなく、どういうファンが付いているのか、自身がしっかり関わって愛情を込めて開発したかなどで売れ行きが大きく変わるということもありました。そこで実績を積みながら老舗企業の評価を得た結果、最近は後者の受注が増えています。

個人がプロデュースしていく時流をしっかりとキャッチするSNS時代に即したマーケティング

MONOC

― タイムマシン経営の視点でいうと、次はどんなビジョンをお考えですか。

イギリスなどでYouTuberブランドが数多く立ち上がりましたが、残っているものは少数。それに代わる今の主流は超有名アーティストが携わるブランドですね。例えば歌手・リアーナによる「Fenty Beauty」などが有名ですが、あれもLVMHなどの巨大資本のサポートがあるんです。

今後も「企業よりも人がプロデュースする」という時代は変わらないはずです。ただプロデューサーの質が変わっていくはずで、日本でもHIKAKINさんのような大御所が満を持してプロダクトを出すという流れが見られます。

― その流れを受け、今後どのような事業展開を考えていらっしゃいますか。

先ほどの話でいうと、「予算は少ないけどスピード感のある開発」を求めるのがIT企業、「予算は大きいけど慎重な開発」が老舗の企業。当然ながら予算が大きくなれば、より影響力の強いインフルエンサーのアサインが可能になりますね。「大手企業と大きい予算で有名な人とやっていく」という方向にシフトすればするほど、我々の持ち味である企画力やSNS時代に即したマーケティング手法が重宝されるはずです。

― デジタルガレージとの取り組みもスタートしていると伺いました。

はい。長年にわたり支援頂いている中から現在はデジタルガレージの運用広告などに専門性のあるマーケティング部門の方と連携して「D2C STATION」を拡大させていきたいと思います。

(執筆:山本真紀子 編集:Onlab事務局)

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