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花嫁のハピネスを追求して生まれたコミュニティとコロナ禍での決断|maricuru|Meet with Onlab grads vol.12

花嫁のハピネスを追求して生まれたコミュニティとコロナ禍での決断|maricuru

Open Network Lab(以下、Onlab)は、「世界に通用するスタートアップの育成」を目的に、Seed Accelerator Programを2010年4月にスタートしました。Meet with Onlab gradsでは、過去10年間でプログラムに採択され、その後も活躍を続けるOnlab卒業生たちのリアルボイスをお届けします。

プログラム発足から10年。2020年はOnlabにとってアニバーサリー・イヤーである一方、各業界はコロナ禍による打撃を受けました。スタートアップもまた、どう生存していくかが問われる難しい局面に立たされています。

Onlab12期卒業生の株式会社maricuru(以下、「maricuru」)は、ウェディング領域のコミュニティ・サービスmaricuruを主軸に事業を展開してきました。しかし、ウェディング市場はコロナ禍で急激に縮小し、maricuruは大きな転換を迫られました。

これまでどのように事業を育んできたのか、そしてこれからどのように発展させていくのか。コロナ禍で生き残るスタートアップのヒントを探るべく、maricuruの代表取締役CEO高木 紀和さんにオンライン・インタビューしました。maricuruの歩みとOnlabとの関わり、そして新たな試みと展望についてお届けしけます。

株式会社maricuru 代表取締役CEO 高木紀和
株式会社maricuru 代表取締役CEO 高木紀和

自分が熱を注げる事業を探し求め、辿り着いた身近な課題

リクルートで3年のキャリアを経て、起業。その大胆な決断とは裏腹に、創業当時は「何を」やるのか明確ではなかったと振り返る高木さん。起業は目的であって、手段ではなかったのだそうです。

高木:もしもこのまま会社にいたら、何もできない人間になるんじゃないか。その恐怖が先立って会社を辞めて、そこから自分が熱を注げる道を探し始めました。ミャンマーを放浪したり、実家の手伝いをしたり……紆余曲折あって、最終的に起業という道を選びました。

ですから、創業当時は明確なビジョンや事業計画はありませんでした。創業後、さまざまな領域のプロダクトやサービスに挑戦しては失敗し……10個くらい事業を潰したかもしれません。自分が熱くなれるものじゃないと続かないから、それをひたすら模索し続けました。

株式会社maricuru 代表取締役CEO 高木紀和

maricuru誕生のきっかけとなったのは、高木さん自身の結婚式での出来事です。寝たきりで結婚式に参加できない祖母のために、高木さんは当時開発していたVR事業の技術を活かし、仮想空間での挙式参加を祖母にプレゼントしました。

このエピソードはテレビ番組にも取り上げられるほど話題を呼び、多くの人が同じ課題を抱えていることがわかります。そこから初めて、高木さんはウェディング市場へと足を踏み入れました。

高木:結婚式をVR映像で届けるサービスを展開しようとして、ウェディング領域は非常に閉鎖的な市場だと知りました。

式場を介してカメラマンや花屋などの契約が為されているため、ユーザーの選択肢は限定されます。前提となる式場がなければサービスを享受できないから、自由度が低くとも条件をのまなければならない。いわばサービスの受け手が弱い市場なんです。そうしたウェディング領域の課題に触れて、何か解決の方法はないかと考え始めました。

ちょうどそのとき、僕の会社でアルバイトをしていた女の子が結婚を控えていました。自分自身が納得できるよう、彼女はリサーチしていました。彼女が使っていたツールはInstagram。同じ立場の女性同士で、相談し合い、情報交換をしていたんです。その姿を見て、これが最善の解決方法だと直感しました。

Instagramには挙式を控えた「プレ花嫁」たちのコミュニティが存在し、「正しい情報を知り、自分の願い通りの結婚式を挙げたい」という潜在的なニーズを表しています。そのコミュニティを整理し、適切な情報を届けることを目的に作られたのが、maricuruです。

maricuruのInstagram
Instagram @maricuru 提供

maricuruでは、プレ花嫁同士のコミュニティを活性化させる情報提供やオフ会などの場が設けられ、挙式後は「卒花(花嫁を卒業している女性たち)」として次期プレ花嫁をサポートするポジションに就くこともできます。結婚というイベントを主軸にした女性限定のコミュニティは、当事者の視点に立った安心という価値をもたらしました。

高木:僕自身や、アルバイトの女の子にとって、結婚式に対する悩みが身近なものだったからこそ、熱を帯びて取り組むことができました。

僕が生み出す事業に共通するのは、誰かの「ハピネス」に結びつくことです。ウェディング市場はもっとブラッシュアップできる領域だったし、身近な人たちを幸せにすることもできる領域だった。誰を幸せにするのか見えることが、熱を注げる条件なんだと思います。

サービスを介して知った女性の本質とコロナ禍のウェディング市場

プレ花嫁たちのオンライン・コミュニティを構築したmaricuruが、なぜ多くの女性たちの支持を受けたのか。その理由は、結婚というイベントが持つ特殊な価値にあります。

高木:結婚式はめでたいイベントですが、だからこそ嫉妬を生みやすい機会でもあります。他方、結婚しない生き方や挙式しない選択だって、もちろんある。結婚式によって生まれる幸せは、全人類共通のものではないわけです。

でも、結婚する当事者は盛大に自慢したいし、人生で一度のイベントを最大限に楽しみ、幸せにしたい。だから結婚というイベントを主軸にしたコミュニティのニーズが高まったのでしょう。お互いが気兼ねなく一番幸せな瞬間を共有し、高め合う。プレ花嫁同士の共感によって、maricuruは成立しています。極めて女性的な感覚のサービスですね。

株式会社maricuru 代表取締役CEO 高木紀和

maricuruのユーザーの一部は、メインアカウントとは別に花嫁アカウントを作り、SNSで結婚式の情報をリサーチしているのだそう。そういったユーザーはmaricuruで提供した情報の中から自分の理想に近いものをピックアップし、自分の結婚式やウェディングフォト撮影のイメージを具体化するためにサービスを利用しています。

高木:プレ花嫁たちの熱量はとても高いんです。挙式前に撮影する前撮りでは、具体的なカットを記した指示書を作成して挑む方もいます。結婚前後の自分を、人生で一番“かわいい”と感じている女性も多いようです。だからこそ、その輝かしい瞬間をどう残すかが重要になってくる。男性だとなかなか理解しづらい感覚ですから、夫婦の温度差はプレ花嫁の悩みの一つでもあるようですね。

こうした熱量の高いユーザーのニーズは今なお続いていますが、2020年、コロナ禍でウェディング市場は大きな打撃を受けました。人の集まる挙式の自粛が進む現状は、市場の縮小に直結しています。

高木:ウェディング市場は、「挙式への参加人数×単価」という公式が市場規模を左右します。コロナ禍で参加人数が減れば、それだけ市場規模も縮小する。パーティーではなく写真で思い出を残そうとする動きも強まっていますが、市場規模に影響を与えるほどのインパクトはありません。ウェディング領域の市場規模がコロナ以前のように回復することは、今のところ想像できません。少なくとも数年は厳しい状況が続くでしょう。

結婚式というゴールそのものが揺らぐ昨今、maricuruの提供するサービスは根幹から見直しを迫られています。

事業をシェイプアップし、スピーディな方針変更で時代に適応する

高木:現在、maricuruはInstagram運用のみ継続し、webサイトやアプリでのサービス運営を停止しました。Instagramは広く面でユーザーを取ることに向いており、自社ではサーバー費用などもかからないため、コミュニティ持続のためにはコストパフォーマンスが良い選択です。従来のアプリではユーザー同士で活発なやりとりがあり、Instagramよりも深い交流が可能でした。しかし、現状はビジネスとして成り立たないため、クローズという選択を取りました。

maricuruから発展した育児メディアも、同様にInstagramのみでコミュニティ拡大を目的に運営。これまで二本柱として展開していた事業いずれも、最低限の対応に切り替えました。同時に、アフターコロナにつながる新事業への準備も始まっています。maricuruは情勢の変化と市場縮小という見通しの立たない状況下で、素早く大胆な方針変更を決めたのです。

高木:現在、私たちはワーケーションを軸にした新しい事業を構想しています。コロナ禍で働き方が刷新されつつある中、私たちmaricuruメンバーも全員がフルリモートで働いています。福利厚生も働き方も、もっと自由でいい。自分たちがそう思っているからこそ、ワーケーションをテーマにした事業に挑みたいと思いました。

株式会社maricuru 代表取締役CEO 高木紀和

ワークとバケーションを組み合わせ、働き方と生き方双方を見直す新たな概念、「ワーケーション」。リゾートへ旅をしつつその場で働く、ノマド的なワークスタイルを指します。観光地の経済的損失の深刻化や、リモートワーク活性化といった状況の交点で推薦されるこの働き方は、まだスタンダードな考え方として普及しているわけではありません。

高木:ワーケーション事業もまた、maricuruのサービスが誕生した時と同じように、自分の身近な人たちが必要とするサービスです。カスタマー・ハピネス、エンプロイー・ハピネス……いずれも私たちの幸せに価値のあるサービスだからこそ、やりたいと思えました。生き方や働き方の改善を通じて、多くの人に幸せを届けたい。何度ピボットしても、根本の願いは変わりませんね。

アフターコロナの新事業に向けて、現在maricuruはOnlabと連携しながら準備を進めています。こちらの記事(後日公開予定)ではその状況を聞きながら、今を生き残るスタートアップの姿に迫ります。

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