2021年06月24日
Open Network Lab(以下、Onlab)は「世界に通用するスタートアップの育成」を目的に、Seed Accelerator Programを2010年4月にスタートし、これまでに数々のスタートアップをサポートしてきました。今回は、Onlab第15期生、株式会社ロジクラ代表取締役CEOの長浜佑樹さんです。長浜さんは高校時代にアルバイトとして働いた物流倉庫で労働生産性の低さを実感したといいます。また、大学時代にアメリカで出会った創業間もないUberにも衝撃を受け、物流をテーマにサービスを立ち上げるも幾度かのピボットを経て、現在の在庫管理ソフト「ロジクラ」を運営しています。「小売のニューノーマルを創造する」という志を抱く創業者の長浜さんに、ロジクラを起業した当時のエピソードやOnlabへ参加したきっかけなどをオンラインで伺いました。
< プロフィール >
株式会社ロジクラ 代表取締役CEO 長浜 佑樹
福岡県福岡市出身。大学中に5度渡米し創業時のUBERに感動し起業を決意。大学卒業後の2016年8月に株式会社ニューレボを創業。以前からアルバイトで働いていた物流倉庫で感じた「過剰在庫」という社会課題を解決するために需要予測による供給量の最適化を長期的なビジョンとする。フェーズ1として大量の在庫データを集めるために無料で使える在庫管理ソフト「ロジクラ」をリリース。10,000社の法人企業が利用する国内No.1成長率の在庫管理ソフトにまで成長中。
― ロジクラの事業概要を教えてください。
ロジクラは「在庫データを活用し企業の成長を支援する」というミッションのもと、小売企業(店舗・EC事業者)へクラウド在庫管理SaaS提供するスタートアップです。ロジクラを導入すれば、スマートフォンやPCを使って複数拠点の在庫管理や入出荷処理ができるだけでなく、従来のアナログな倉庫業務を効率化したり、ロジクラが保有する在庫データの活用によって過剰在庫の削減や最適化も実現できます。現在は約2万社の小売企業や倉庫事業者にロジクラをお使いいただいていますが、巨大産業になった物流業界に眠るデータを活かして、今後も商品の仕入れから配送業務までの物流戦略を支えるソリューションを提供したいと考えています。
近年、新型コロナウイルスの影響もあって、大量消費社会において物流業界がますます注目されています。この数十年に一度の変革期に、ロジクラは単なる「物流のソフトウェアのスタートアップ」ではなく、小売のニューノーマルを創造していく企業を目指しています。身近な例では、私の親世代はネットショップすら知らなかったのに、今では当たり前のようにAmazonや楽天などを使って商品を買うようになりました。イノベーションが起きるのは、こういった変化のタイミング。ロジクラは新しいスタンダードを作っていき、物流というバックヤードから小売企業の成長をサポートしていきたいと考えています。
― 長浜さんが物流サービス事業を選んだきっかけは何でしょうか?
私の父は現在78歳で、私が中学生だった時には定年退職したので、昔から「早く社会に出て自分で稼ごう」と心に決めていました。高校生になって初めて選んだアルバイトは倉庫作業でした。朝9時から夕方までは学校に行って、21時から明け方まで作業現場で働いていて、当時、最も衝撃的だったのは、倉庫で派遣として雇われていたのが、高齢のおじいちゃんばっかりだったということ。当時は、重労働を強いられるわ、若い主任に怒られるわで、肉体的にも精神的にもきつい職場で、入出荷作業などの業務効率も最悪でした。そんな現場で働くおじいちゃんたちの姿が高齢の父と重なったことが、後にロジクラを立ち上げる大きな動機になりました。
また、大学生になってアメリカに旅行したことがあったんですが、現地でUberを体験し、テクノロジーってすごいと、大きな刺激を受けて帰国しました。帰国後すぐにプログラミングを勉強して、Uberに似たようなサービスを作っていました。私は福岡出身で大学を卒業したら地元の企業に就職する人が多い環境でした。そんな中私はアメリカでテクノロジーに触れたことをきっかけに、自ら味わった倉庫や物流の課題を解決したくて起業の道を選びました。
― 最近では、さまざまな企業から投資を受けていらっしゃいますよね。
直近では、STRIVEや三井住友海上キャピタルからの第三者割当増資とデットファイナンスによって総額3.6億円の資金調達を実施しました。私自身は優秀な方ではないけれど、「あいつは諦めないよね」と応援してくださっているんだと思います。2年前にリリースしたスマートフォンのアプリでは、ネットショップを立ち上げた人たちが簡単に自分の事務所や倉庫の出荷作業を管理・操作できるようにしています。イノベーションとしての粒は小さいけれど、今後、リアルタイムの在庫データという基盤を介してお客様の在庫管理や経営を支援していきたいので、業界としては革新的な挑戦ができたのかなと思います。ロジクラの強みは、これから成長していくポテンシャルの高い中小企業さんたちと密接に繋がっていること。佐川急便をはじめとするパートナーからこういう点でお声掛けいただいたおかげで、アライアンスの機会も増えています。
― Onlabにはどんな経緯で参加されたのでしょうか。
Onlabには同年代で同じ福岡出身の起業家から聞きました。彼は1つしか歳が違わないのにIT知識が豊富で、2〜3人で東京の狭い部屋で起業して、圧倒的成長を遂げていたので、こうしてはいられないと即Onlabにエントリーしました。シリコンバレーにあるスタートアップ養成スクールのYコンビネーターみたいだ、とわくわくしましたが、結果は不採択。その後も諦めたくなくて、年に2回の選考も毎回受けていましたが、やっぱり一次審査か二次審査で落ちていました。当時、福岡に来ていたOnlab事務局の皆さんに、面談する度に事業進捗を聞いていただいて、「あいつ、もう3回目だな」と半分呆れられていたと思います。
そんな4回目の正直で、やっと最終審査に辿りつき、デジタルガレージの林社長にプレゼンしましたが、「事業の理念は何か?」「なぜ長浜さんがやる必要があるのか?(Why You?)」という質問に、自分なりにうまく答えられず、悔しい思いをしました。しかし、そこで終わらせたくなかったので、「今回落とされてもまた来ます」と必死に伝えたのを覚えています。
― Onlabでの期間、物流業界の課題に対してどのようにアプローチされていったのですか?
Onlabでは「顧客の課題は何か」を何度も問われながら検証していく毎日でした。最初に挙げた自分の仮説は「在庫を持つ企業では紙やエクセルといったアナログな在庫管理を行っているせいで、在庫のズレや誤出荷が生じている」というもの。みんながこのペインを感じているに違いない、とプロダクトを開発しながらファーストユーザーを見つけに行きました。List Finderというサービスで「小売業、アパレル、東京」にヒットする顧客リストを買って、Onlabのワークスペースで片っ端から電話していきましたね。テレアポを続けながらお客様の声をプロダクトに落とし込んでいく3ヶ月間を過ごしました。
― Onlabのプログラムで得た収穫は何だったのでしょうか?
解決すべき本質的な課題を見つける集中力と、DemoDayに向けたプレゼンの資料を作成するスキルですね。今は事業規模が拡大してできることが増えたので、仮にお客様の課題を解決しないプロダクトだったとしても、強い営業マンがいたり「他の商品がないから」という理由だったりすれば、なんとなく売れてしまう。しかし、それでは爆発的なスケールはできないですよね。お客様の課題を見抜けるようになるには道のりが長いけれど、事業が生き残るには、「本質的な課題」というこの一点突破する力が鍵なんです。そして、自分で「これが課題だ」と思ったらやり抜く力も必要です。この両輪が揃っていないと、どんなスタートアップも道半ばで潰れてしまいますから。
― Onlabのようなプログラムに合う起業家とはどんな方だと思いますか?
目の前のエサに食いつくのではなく、長い時間をかけて1つの課題に取り組んでハイリターンを獲得するような長期的視点を持っている方だと思います。また、全ての意思決定や言動が1つのミッションに向かっているような、原体験をして強い思いを持っている方も向いていると思います。
― これからOnlabへ参加しようと検討している方々へのメッセージをお願いします。
スタートアップにとって「Onlabでの3ヶ月間」は財産だと思うんです。会社が大きくなってくると資金調達や株主説明、人材採用とやらなきゃいけないことが溢れてくる。そんな中、課題を見極めたりプロダクトの開発に集中したりする期間をいただけたことはラッキーなこと。もちろん、スタートアップは想像どおりには進まないことが多いです。「Onlabを受けて、何ヶ月後にプロダクトが完成して、何年後にIPOする」と決めても、思わぬところでつまずくので理想と現実のギャップが大きくなっていきます。しかし、そういったハードシングスを積極的に経験したり、お客様の課題に向き合う時間を取ったりすることで、長期的な成長が実現するんだと教わりました。
課題の本質を探すことは、遠回りをしているように見えますが、長い目で見ると近道です。プロダクトによっては課題を追求しなくても売れるものもあるし、受託をしている場合は自分で売り上げを立てることもできる。しかし、長期的な体力を付けて走り続けるにはやはり、課題を見抜く力が欠かせないと思います。
― 現在の小売業界の課題について詳しく教えてください。
現在、大きな変革期を迎えている小売業界ではネットショップに乗り出す企業が増えてきています。事業を立ち上げたばかりの頃、お客様の仕事は、マーケティングや商品開発といった自社商品を売ることがメインです。一方、商品を消費者へ配送する仕事となると、チャネル数や在庫数、入出荷の仕組みが複雑化しているので足踏みしてしまっている。すでにネットショップを運営されている企業でも、急激な需要の増加によってスペースや人員が不足したり、出荷遅延やクレームが頻発したりして頭を抱えていらっしゃいます。ロジクラはこの煩雑化された在庫の全体最適を図ってオムニチャネルでの物流作業をサポートしています。
今まではこういった物流業務をアウトソーシングしたとしても倉庫側が受けてくれないといった課題がありました。しかし、ロジクラはお客様のネットショップを黎明期から拡大期まで事業フェーズに寄り添ってサポートしたいし、ずっと応援したい。そこで、佐川グローバルロジスティクスさんと事業連携をして、SGホールディングスグループの次世代型大規模物流センター「Xフロンティア」を活用した国内最速・最大級のネットショップフルフィルメント「XTORM」を作りました。XTORMでは、佐川急便の大型中継センターと直結しているので、ネットショップ特有の急激な入出荷増にも対応可能なキャパシティを固定費ゼロの従量課金制で利用することができるんです。また、簡単にECサイトが開設できるECサイト制作プラットフォームのShopifyなどと連携することで出荷の自動化も実現しています。
― 新しくネットショップを開設する企業に対して、どのようにマーケティングされているのですか?
お客様に協力いただき、ロジクラを導入する前の課題やロジクラ導入後の様子などをインタビューさせていただいています。また、お客様の課題に合わせたWEBセミナーを開催したり、広告を打ったりといった地道なマーケティングや広報活動を続けているので、業界内ではロジクラを知っている方が着実に増えてきています。また、ネットショップを立ち上げ始めたお客様がロジクラを使ってくださっているので、大手物流企業さんもロジクラしか持っていない顧客リストや集客力へ注目してくださるようになりました。
― 現在、ロジクラに社員は何名いらっしゃいますか?
主にリファラルで採用してきた社員が23名います。計画としては2021年末までに30名、2022年末までに50名に増やしたいと考えています。現在、積極的に採用したい職種は開発エンジニア。経験で物を語らない、現状否定ができる、新しい領域や問題に挑戦することができるメンバーが揃っているおかげで、いつもチームワークが良いですね。反対に相手の意見をリジェクトする、文句を言う、経験でものを言うような方は採用していません。今後はプロダクト連携をさらに強化して、ネットショップや会計ソフトとの連携業務にも対応できるようにしたいです。
― ロジクラの今後の展開について教えてください。
まず、小売業の現場には、在庫表を見て「これを発注するべきか」「値段を下げて売り切ってしまうか」といった在庫をコントロールする方たちに向けて、新たに在庫の見える化ツール(マーチャンダイジング業務のビジネスインテリジェンスSaaS)開発しています。
新型コロナウイルスの影響でオンラインショッピングの需要増加が予想される昨今、ネットショップの新設を急ぐ事業者が増えるとともに、チャネルや在庫の分散といった課題も生じています。企業がネットショップで商品を売る場合、Shopifyでネットショップを立ち上げてもいきなり商品が売れていくわけではないので、マーケティング戦略を練ったりモールに出品したりするんです。例えば、アパレル業者がZOZOTOWNで売ったり、雑貨店がYahoo!ショッピングやAmazon、楽天で売ったりする。しかし、チャネルを増やしても在庫そのものを増やすわけではないので、1つの在庫を複数のチャネルで出荷したり取り合ったりしているんです。そのコントロールや在庫管理が難しい中、これからもロジクラが他社のツールと連動させてビジネス成長のサポートと在庫の交通整理を実現させようと考えています。
事業のミッションは在庫データを活用し企業の成長を支援すること、ビジョンは小売のニューノーマルを創り、小売企業をサポートしていくことです。ロジクラで蓄積された大量の小売・物流データを活かして、各企業が抱える在庫の課題を新しいソリューションによって解決したい。それが各企業への成長支援に繋がっていくし、データに強い私たちだからこそやるべきだと考えています。