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Demo Dayがチーム一丸となるきっかけに。カーボンインフラサービス「EARTHSTORY」が創る、脱炭素社会への道|Meet with Onlab Grads Vol.45

Demo Dayがチーム一丸となるきっかけに。カーボンインフラサービス「EARTHSTORY」が創る、脱炭素社会への道|Meet with Onlab Grads Vol.45

Open Network Lab(以下「Onlab」、読み「オンラボ」)は「世界に通用するスタートアップの育成」を目的に「Onlab Seed Accelerator Program」を2010年4月にスタートし、数々のスタートアップをサポートしてきました。シリーズ「Meet with Onlab Grads」では、これまでOnlabに参加したスタートアップを紹介します。今回登場するのは、Onlab第27期Demo Dayで審査員特別賞を受賞した株式会社Linkhola(以下「Linkhola」、読み「リンコラ」)です。

今や世界の共通課題となった地球温暖化。CO2を2030年までに半分、2050年にはゼロにすると、日本は国内外で宣言しています。しかし現状、その道のりは遅々として進んでいません。Linkholaは、日本、そして世界初の「カーボンインフラ」サービス「EARTHSTORY(アースストーリー)」でこの問題を解決しようとしています。

ではいったいどのようにカーボンクレジットの課題を解決するのか。EARTHSTORYの開発とOnlab Seed Accelerator Programを同時並行する中で学んだこととは? Linkhola代表の野村さんに聞きました。

< プロフィール >
株式会社Linkhola 代表取締役CEO 野村 恭子

20年以上、環境ひとすじ。大学院(工学修士)時代に近隣住区理論とコミュニティプランニングと出会い、建設コンサルタント会社で国土都市計画・環境基本計画など市民参加型まちづくりの計画論と実践を積む。その後、国際環境NGOのWWFJapanで、持続可能な森林経営(FSC国際認証)の国内普及の先駆けとなって、国内各地・世界各国の活動家とのネットワークを培い、2006年4月PwCJapanの環境・サステナビリティ部門に入所。企業の省エネ・再エネ導入、気候変動対策、CO2算定・可視化、クレジット組成など多数のプロジェクトマネージャーを歴任し、2013年から様々な国籍のスタッフで構成される新規事業開発サービスを立ち上げ、2017年ディレクター就任。企業・自治体の脱炭素・ESG経営、サステナブルな脱炭素プロジェクトの組成支援を主軸にしていくため、2018年9月に独立を機に退職し、2020年1月株式会社Linkholaを設立。

気候変動対策に、今、スタートアップとして取り組むべき理由

― 野村さんがLinkholaを創業し、EARTHSTORYの開発に至った経緯を教えてください。

京都議定書が採択されたCOP3(気候変動枠組条約第3回締約国会議)に携わる機会があり、その際に気候変動は大切なテーマだと感じました。その後、WWF(世界自然保護基金)を経て東京大学で環境学の博士号を取得し、コンサルティング会社で企業のカーボンクレジットの創出支援を経験。2020年にLinkholaを設立しています。

Onlab-株式会社Linkhola 代表取締役 CEO野村恭子さん
株式会社Linkhola 代表取締役CEO 野村 恭子 さん

― カーボンクレジットをはじめ、近年、気候変動への関心が急激に高まっています。何かきっかけはあったのでしょうか。

菅元首相が、日本は2030年度に温室効果ガスを2013年度比で46%の削減(さらに50%の削減を目標)、2050年にカーボンニュートラルにすると国内外で発表したあたりから潮目が変わりました。そこから国、自治体がカーボンニュートラルに向けて本気になったように感じます。また変わったのは企業も同様です。例えばプライム市場に上場する企業には、気候変動情報や目標値の開示が義務になりました。ここまでくると企業は気候変動にある程度コミットするため、お金も人も投資しなければなりません。今になって、ようやく我々が頑張ればインパクトを出せる環境が整ったと言えるでしょう。

― 国内では気候変動への取り組みは進んでいるのでしょうか。

前述の通り、日本はCO2の排出量を2030年までに半減、2050年までにゼロにすると宣言しています。しかしながら日本政府が過去10年で携わった約1000のカーボンクレジットプロジェクトで達成した脱炭素量は、上場企業4000社に必要とされる量のたった1社分なのです。目標を達成するためには、取り組みが全く足りていません。

― この問題意識がLinkholaの創業に繋がるのですね。

はい。国だけで解決できない社会課題だからこそ、Linkholaで解決したいと思いました。CO2排出量を削減するためには、もっと国や企業、国民全体が脱炭素の取り組みに参加する仕組みが必要。その仕組みの一つがカーボンオフセットクレジットです。

Onlab-Linkhola

私は前職のコンサルティング企業時代、個社単位で、森林や省エネ、バイオマス、太陽光発電などの再生可能エネルギー、モビリティなど、多方面のCO2削減プロジェクトに携わってきました。個別の企業としては十分に脱炭素化を進められたとは感じているものの、日本または世界で削減しなければいけないCO2量に鑑みれば、それは微々たるもの。このレベルで支援を続けても2030年・2050年の目標達成には全く間に合いません。

自分の知見や経験をより広く、多くの皆さんに使ってもらえば、目標達成はできるかもしれない。そのためにはスタートアップとして大企業とコラボレーションしながら、社会全体を変えるインパクトを創出するしかない。そう思い社会の「カーボンインフラ」となるべくEARTHSTORYの開発に取り掛かりました。

ちなみに、Linkholaは私も含め、サイエンティフィックなバックボーンをもつ人材が多く、アカデミアとも議論しながら開発を進めています。時間はかかりますが、丁寧に進めないといけない分野ですからね。

多様な領域でカーボンクレジットを進める

― それでは、EARTHSTORYについて教えてください。

EARTHSTORYは「創って、売って、稼げる」をコンセプトに掲げる日本・世界初のカーボンインフラサービスです。気候変動問題を解決するためのいち手段として注目されるカーボンクレジットはCO2排出削減を経済的に奨励するシステムであり、企業や個人が気候変動対策に積極的に参加するきっかけとなります。EARTHSTORYはこのカーボンクレジットの申請を簡素化し、多様な領域での削減活動を促進するサービスです。

EARTHSTORYの特徴は大きく2つあります。1つ目が「多種化」です。官主導のカーボンクレジットは現在、主に「太陽光発電」「森林」「EV」「バイオ炭」「海藻」から発行されています。しかしカーボンクレジットは本来、他にも「移動」「遮熱塗料」「ブルーカーボン」など多様な領域から発行できるのです。そのためEARTHSTORYでは、カーボンクレジットの多種化を目指しています。

Linkholaでは現在、ビルの省エネやエコドライブ、リユースなど、多様な領域でクレジット化を進めています。リユースを例にとると、アパレル店舗で服を回収しそれが誰かの手に渡った場合、服を手に入れた方は新しいアイテムを購入しなくなりますよね。それによって新しい洋服を作る必要がなくなり結果としてCO2排出量が削減できます。こういったいろんなクレジット化をEARTHSYTORYでは進めているのです。

Onlab-(image: Linkhola)
(image: Linkhola)

― 実は企業がカーボンクレジット創出に繋がる活動をしているというケースもあるのでしょうか。

たくさんありますよ。我々が企業の活動をヒアリングして「それはカーボンクレジットになる可能性がありますよ」と指摘することもありますし、ディスカッションしていたら新たなアイディアが生まれることもあります。同業他社の活動からヒントが出る場合もあるでしょう。

EARTHSTORYとしては個別の会社にシステムを提供するのではなく社会のインフラになりたいと思っているので「この会社がこうやってカーボンクレジットを創出した」という情報はオープンにしていきたいと考えています。ただ他社を真似して同じ成果が手に入るなら、最初にアイディアを出す気にはなれませんよね。そのため最初に手を挙げた方が得をする仕組みは何かしら取り入れたいと考えています。

システム化によりクレジット発行を高速に

EARTHSTORY 2つ目の特徴は「高速化」です。既存の、官または民間主導のボランタリーカーボンクレジット制度で排出削減量を売買しようとしますよね。そうすると、補助金を申請して、CO2の算定方法やプロジェクトの計画表を作成し、それを審査機関に提出し……といったプロセスに約2年間を費やさねばなりません。丁寧ではありますがこんなスピード感と手間があっては、企業が二の足を踏むのも仕方ないでしょう。

そこでEARTHSTORYは、作業の標準化、テンプレ化、入力支援機能などを施すことにより、カーボンクレジット申請の高速化を実現しようとしています。理想は、これまで2年かかっていた申請を3カ月にすることです。

Onlab-(image: Linkhola)
(image: Linkhola)

また、既に許可が下りたカーボンクレジットを、企業が再度申請することは珍しくありません。しかしながら既存のシステムでは、全く同じ申請にも関わらずまた行列の後ろに並ばないといけないため、また膨大な時間がかかってしまうんです。その点EARTHSTORYでは、2回目以降の申請は差分だけチェックすることによって、スピード感を高めようとしています。

― システム化することで、排出権の創出や売買に手間と時間がかからないようにしているんですね。他にもカーボンクレジット申請の課題はありますか?

既存のカーボンクレジットには、申請のためのガイダンスや関係書類が用意されていますが、長いしテクニカルな用語が多用されています。しかし担当者は人生で何回もカーボンクレジットの申請をするわけではないので、それらを一度読んでミスなく対応するのは至難の業です。そこでEARTHSTORYでは、例えば「あなたはここだけ入力すればいいですよ」とガイドを入れたり、データを連携して入力項目を減らしたりすることでこの課題も解決しようとしています。

― 「データの連携」とはどういうことでしょうか。

例えば「化石燃料を使わずに太陽光でこれだけの電気を作ったから、これくらいのCO2削減に貢献した」という申請をするとしましょう。今は太陽光のメーターやシステムから電気量を把握して申請書に手入力しているかと思いますが、スマートメーターやシステムと連携することで、申請書に関係数値を自動で入力する、というイメージです。

― EARTHSTORYはプラットフォームだけでなく、クレジットを創るためのアプリなども提供していますよね。

はい。例えば「CO2CO2(こつこつ)」はスマホでできる移動の脱炭素アプリです。現在は企業向けに提供していて、例えば従業員の出退勤によって削減できたCO2を可視化し「移動の脱炭素領域のクレジット」を使ったオフセットに活用いただいています。

Onlab-Linkhola

Onlabが、リモートワークで働くチームが一丸となるきっかけに

― それではOnlabの話を聞かせてください。応募のきっかけはなんだったのでしょうか。

起業して、最初はエンジェルラウンドだけ実施し活動していたのですが、開発費やコア人材の人件費を賄うため、VCからのプレシードの資金調達を検討し始めました。そこで投資してくれそうな会社を調べていたら、デジタルガレージを見つけたんです。デジタルに明るいのは当然として、「カーボンとWeb3の世界はシナジーがあって馴染みがいい」といった情報を発信しているのが印象に残り、興味を持ちました。たまたま知っている会社のeMoBi(えもび)がOnlab 26期に参加していたので紹介してもらい、Onlab 27期に応募することにしたんです。

― Onlabプログラムに参加することへの迷いはありましたか?

正直リソースが少ない中で、アクセラレータープログラムに参加する余裕はないのではないかと当初は思っていました。ただ情報を集めていると、Onlabは無駄に体力を奪われるわけでもなく、意味のある支援をしてもらえるという声が聞こえてきたんです。それならチャレンジしてみるのもいいかと思い、応募しました。

― Onlabプログラム期間中の学びを教えてください。

EARTHSTORYが誰にとって必要なサービスで、ユーザーはどういう点に困っているかといった仮説を、再度研ぎ澄ませるきっかけになりました。

例えばSaaSだと、誰の課題をどうやって解決しているのかは比較的わかりやすいと思いますが、Linkholaが向き合っている脱炭素はその名の通り「地球」規模の「社会」課題であり、特定の誰かのペインではありません。そのため自分ごとに感じてもらうのが難しいんです。それをどう表現して、わかってもらうのか。そういったことをOnlab期間中に磨けたと感じています。

― Onlabの3ヵ月を過ごした感想を教えてください。

結果的に審査員特別賞をいただくまでにEARTHSTORYを高められました。カーボンクレジットがまだまだ世に認知されていない中で、この分野のサービスを知っていただくきっかけにもなったと思います。自社だけで情報発信するよりも、注目度も上がり信頼性も高まりました。

悪い感想は特にありませんが、強いて言うなら体力をかなり使いましたね(笑)。

― 何が大変でしたか?

まず、プレゼンです。私は学校の教師のようなプレゼンをする機会は多いのですが、大勢の前でスタートアップとしてピッチする経験は今回のDemo Dayまでありませんでした。両者は区別して使い分けないといけないと気付くまでに時間がかかり、そこからリカバーするのに体力が必要でしたね。

Onlab 第27期 Demo Day Pitchの様子-Linkhola
Onlab 第27期 Demo Day Pitchの様子

また、Onlab期間中はちょうどサービス開発が佳境だったので、それに意識がかなりもっていかれていたという事情もあります。Onlabから「これを準備してください」と言われているのに一向に進まず、「後で頑張ればなんとかなるだろう」なんて思っていたのですが、同期の会社がどんどん前に進んでいるのを目の前にして、「こんなにゆっくりしていてはダメだ」と反省しました。そこからです、Onlabに本気で向き合ったのは。ただ今度はCTOから「Onlabに時間かけすぎじゃない?」と怒られましたが(笑)。

― バランスが難しかったんですね。

ただ、結果的にあれでよかったと思っています。審査員特別賞もいただけましたし、何よりチームが一枚岩になれました。

というのも、Linkholaは私達自身が脱炭素を標榜していることもあって、全員がリモートワークで働いているんです。そのためメンバーが一緒の空間で働く機会は多くありません。そのメンバーたちが一枚岩になってリハーサルをしたり、ブースでゲスト対応するという機会は、コロナ後はOnlabのDemo Dayが初めてでした。メンバーが一丸になれたというのはかけがえのない価値になったと思っています。

― 同期のスタートアップともコミュニケーションはとりましたか?

27期は大人のスタートアップが多かったんですよね。だからかわかりませんが、お互いの悩みのような心情の話から、キャッチフレーズやホームページをどう改修するか、スタートアップの経営者として何役もこなすために普段どうやって活動しているのかなど、色んな深い話をしました。EARTHSTORYに興味を持ってくれて、クレジット化を検討している会社もあります。

Onlab 第27期生 集合写真(撮影:Onlab)
Onlab 第27期生 集合写真(撮影:Onlab)

― 最後に、今後の展望を教えてください。

EARTHSTORYは、国内外でのカーボンクレジットの普及によって、持続可能な未来の実現を目指しています。私たちは、企業だけでなく一人ひとりが地球環境に対して肯定的な影響を与えられるような仕組みを提供することで、脱炭素を「グーン」と進展させたいと考えています。

脱炭素は世界が抱える課題であるため、カーボンクレジットは国内のみならず、海外に販売することも可能です。そのためEARTHSTORYでは、国内外で同じフォーマットでクレジットを売買できるようにしたいと考えています。日本の企業がカーボンクレジットを作って日本の企業だけが使うというローカルなサービスではなく、グローバルで使われるサービスにしていきたいです。また将来的には、Web3的に中央集権すぎない第三者性をもったシステムで信頼性を高めることも視野に入れています。

日本のCO2削減量は目標に対して圧倒的に足りていません。カーボンクレジットは世界中で必要とされているんだから、国内で足りる / 足りないなんて量ではなく、余るほど作ればいいんです。

これまで脱炭素は、「やらないと地球が危ない」「会社にも負の影響がある」なんてホラーストーリーが語られてきました。しかしLinkholaは「脱炭素に取り組んだ方が企業も地球も良くなる」「あなたも私もみんな良くなるという世界にしませんか」と明るく語りながら、脱炭素化を進めていきたいと思います。

(執筆:pilot boat 納富 隼平 撮影:ソネカワアキコ 編集:Onlab事務局)

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