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南京錠をスマートに。「当たり前」に切り込んでレガシー産業へ変革を起こすKEYes(キーズ)|Meet with Onlab grads vol.26

南京錠をスマートに。「当たり前」に切り込んでレガシー産業へ変革を起こすKEYes(キーズ)|Meet with Onlab grads vol.26

Open Network Lab FUKUOKA(Onlab FUKUOKA) は、福岡地域のNew Normal時代における、スマートシティやスマートライフなどの事業創出を目的としたオープンイノベーションプログラムです。福岡を舞台にスマートシティの社会実装を目指し活動しています。

Fukuoka Growth Next(FGN)にオフィスを構えOnlab FUKUOKAの1期生でもあるKEYes株式会社は、サーバーを介してアプリに南京錠の解錠権限を与え、Bluetoothによって解錠を行うスマート南京錠システムを開発しています。鍵の開閉がいつ・どこで・誰によって行われたか履歴を取ることができること、自由に解錠権限の設定ができることが特長です。南京錠という「当たり前」を疑わない法人顧客に南京錠の新たな価値を届けるために、Onlab FUKUOKAはどう支援してきたのか、そして福岡でのオープンイノベーションをどのように進めていったのか、KEYesの栗山さん、Open Network Lab推進部長の松田、Onlab FUKUOKAプログラムディレクターの大木の3名にオンラインでお話をお伺いしました。

< プロフィール >
KEYes株式会社 代表取締役 栗山 真也

ITベンチャー企業の創業時にIR担当し、大手家電量販店との提携や資金調達を行う。その後、不動産開発や仲介、大手損害保険会社を経て不動産会社エイルマネジメント設立。2018年KEYes設立。

Open Network Lab 推進部長 松田 信之

東京大学大学院在学中に学習塾向けコミュニケーションプラットフォームを提供するスタートアップを共同設立。2008年4月より株式会社三菱総合研究所において、民間企業の新規事業戦略・新商品/サービス開発に係るコンサルティングに参画。スタンフォード大学への留学後、Open Network Labに参画。Open Network Labではスタートアップへの投資事業・卒業生への事業支援に従事。

Open Network Lab FUKUOKA プログラムディレクター 大木 健人

2019年よりデジタルガレージに参画。Open Network Lab FUKUOKAのプログラムディレクターとして、スマートシティにおけるテックの社会実装を目指し、不動産、金融、ヘルスケアなど多岐に及ぶオープンイノベーションを推進。一級建築士/宅地建物取引士。

スマート南京錠システムの新規事業を立ち上げたのは、実体験から現場課題を解決するため

― KEYes(キーズ)の事業について教えてください。

栗山(KEYes):
KEYesは、スマートフォンで解錠操作ができる南京錠「KEYes(キーズ)ロックサービス」を開発しています。世の中には実に多くのアナログ式南京錠があって、インフラ事業や賃貸管理事業、建設業、製造業と様々な場所で使われています。一方、私たちが実証実験を介してコモディティを分解し、それぞれの用途を調べると、南京錠をより便利に進化させることが分かりました。そこで、私たちは法人向けに、特に管理が難しいと言われる命や財産を守る南京錠を作る事業を立ち上げました。

アナログ式南京錠にまつわるペインは主に3つあり、まずは鍵の紛失が挙げられます。あるインフラ会社では、管理施設の入口に南京錠を付けて開閉操作をしていますが、1つの南京錠を複数の業者で共有していたため、一度なくしたら全てを変えなければいけなかったんです。鍵を新たに購入したり付け替えたりすると1,000万円が飛んでいくことなんてザラにあります。

次に、鍵の盗難です。例えば、不特定多数の人が出入りする工事現場では、建築作業が行われている場所に南京錠がかけられていますが、ダイヤルロックの番号が「5963(ご苦労さん)」で簡単に開けられることが多いです。作業現場としては分かりやすい番号に設定しておくと誰でも覚えられやすいのですが、盗難被害が発生するリスクもあるのです。実際に、マンション建設現場では電線が、貨物駅建設現場では鉄板が盗難に遭うなど後を絶ちません。また、部屋の内覧時に解除番号を知った人が深夜に侵入して、隣部屋を襲う事件も実際に起きています。

3つめは、鍵の貸し借りによるタイムロスの発生です。賃貸管理や売買・賃貸仲介では、扉に補助錠を付けて南京錠で管理するケースがほとんどでした。仲介業者は、空室を案内する度に管理会社に行って鍵を借りなければいけないので往復の移動時間がかかってしまうんです。また、業者の中にはセキュリティのために南京錠の解錠番号を101号室は「1234」、202号室は「3456」のように変える方もいますが、誤って別の南京錠を取り付けると解錠番号が混ざって、実際にお客さまを案内する時に手間がかかってしまうということもありました。

こういった旧来的なアナログ式南京錠が抱える課題を解決するために、KEYesではスマートフォンで解錠操作できる南京錠を開発しています。スマート南京錠システムを使えば、どの現場でも解錠コストを減らして現場の業務効率化を実現させたり、いつ・どこで・誰が使用したかの履歴が取れたり、担当者や時間帯、目的に合わせて解錠権限を与えたりすることが可能になります。

― なぜ、南京錠の事業を立ち上げようと考えたのですか?

栗山(KEYes):
私が以前、不動産業で土地・マンションの売買・賃貸仲介業務を担当していた時、実際に、賃貸住宅の空室にアナログ式南京錠をはめ込んで管理する不動産業者が多いと実感したからです。

賃貸住宅では、入居者が新しいシリンダー錠に変えるまで、仲介会社や内装業者、清掃業者が部屋を自由に出入りできます。入口には鍵の番号で解錠操作できる南京錠がぶら下がっているだけ。また、仲介業者も渋谷の物件を案内する時、八王子の管理会社に毎回鍵を借りに行くのは面倒なので、管理会社に電話して番号を聞いていました。これでは、南京錠があってないようなものですよね。誰でも南京錠を開けられるし、いつ・どこで・誰が開閉したのかも分からないので。

― 栗山さんが不動産事業で感じた課題を元にKEYesを立ち上げたんですね。

栗山(KEYes):
はい。不動産事業に限らず、法人顧客の多くは従来のアナログ式南京錠を何の疑いもなく使っているんです。例えば、鍵束を持って現場点検をしているのに、それを紛失した時のリスクを考えておらず「なくしたらどうするんですか?」と尋ねても「いや、失くしません」と。彼は1人でその業務を担当しており、有給休暇を取得する時は他の方が代行するので、それぞれの鍵にテプラを貼って識別していらっしゃいました。このようにIoT化する必要がないと思っている顧客に対して、潜在リスクやムダなプロセスを省くことでの業務効率化を提案したいですね。

― 2021年4月現在、KEYesの顧客にはどのような企業がいらっしゃいますか?

栗山(KEYes):
西部ガス様とガスの減圧施設の定期巡回での実証実験をさせていただきました。当時、西部ガス様では担当者がわざわざ鍵を持ち出してガバナと言われるガスの減圧施設を定期的に巡回していらっしゃいました。KEYesでは本実証実験を受けて近づいてボタンを押すだけで解錠操作できるシステムを開発しました。
また、巨大な工場で多くの南京錠が使われているトヨタ自動車九州様と、ロックアウト南京錠やカーシェアリング部門でのアプリでキーボックスを解錠して車の鍵の出し入れを行う実証実験を進めています。

賃貸管理業ではアナログ式南京錠を刷新するべく、あなぶきグループ様とともに「内覧アプリ」の開発を進めています。仲介業者や清掃業者も専用アプリをインストールするだけで物理的な鍵の受け渡しが不要になるような賃貸管理システムを提供しています。

Onlab FUKUOKAは「大企業の連携」を見据えたスタートアップを支援するプログラム

― 栗山さんがOnlab FUKUOKAに参加しようと思ったきっかけや、当時のKEYesの状況を教えてください。

栗山(KEYes):
当時、福岡市の旧校舎を活用した官民共働型スタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」でスマート南京錠の起業を考えていた頃でしたが、偶然にも、デジタルガレージの松田さんが福岡にいらっしゃって、新しく開始するOnlab FUKUOKAのプログラムについての説明をしていたんです。松田さんと緊張しながら名刺交換をして、南京錠の課題やサービス概要を話したところ、Onlab FUKUOKAの協賛だった西部ガス様や九州電力様の工場でもアナログ式南京錠が使われており、不動産業界だけの課題ではないのだと知りました。すぐに応募をさせていただき、まさか採択されると思ってなかったので、ご一緒させていただけることになってすごく嬉しかったですね。

― Onlab FUKUOKAのプログラムの中での印象的なエピソードはありましたか?

栗山(KEYes):
メンターの大木さんがちょうどFukuoka Growth Nextの事務所を借りていらっしゃったので、何度も相談させていただきましたね。実証報告の発表に向けた資料の作り方を手伝っていただいたり、出資について相談したいと伝えたらすぐに担当者に繋いでくださったり。松田さんと大木さんのハンズオンで手厚いご支援をいただきました。

― 大木さん、松田さんからOnlab FUKUOKAのプログラムについて簡単にご説明いただけますか?

大木(Onlab FUKUOKA):
私たちデジタルガレージは2010年からスタートアップ支援の一環として投資・インキュベーション事業を行なっています。創業して間もない起業家に対し、顧客獲得やプロダクトの収益化を目指しプログラムを運営しています。同じステージや同じ課題に直面している起業家が集まるので、お互いに学び合ったり、苦楽を分かち合ったりするコミュニティがあるのが特徴です。

一方、2019年にスタートしたOnlab FUKUOKAは、シード期(事業の立ち上げに向けた準備段階、或いは設立したばかりの段階)のスタートアップを育成するネットワークがすでにある福岡という地域特性を活かし、アライアンス先を探したい企業、販路開拓をしたい企業、また、多くの企業に対してプロダクトの価値を伝えフィットするマーケットを見つけたい企業、といった「大企業との連携」を見据えたプログラムを運営することにしました。

私自身はファイナンス出身ではなく、栗山さんと同じく不動産開発領域の事業会社に所属していた経験があるので、企業がアライアンス提携を進める過程で、企業の意思決定のプロセスやご担当者にどんな事例を伝えたら社内で進めやすくなるのかといったといった観点で支援をさせていただいています。他にも、支援先スタートアップの「ビジネスハブ」を担ってスタートアップの皆さんの事業がグロースするためのサポートをしています。

松田(Onlab推進部長):
Onlab FUKUOKAには、その地域の大企業とグローバルなスタートアップを繋ぎながらスマートシティを社会実装していくといった側面もあります。また、Fukuoka Growth Nextのようにスタートアップが集まる場所があるため、そのような場所や機会をフル活用しながらプログラムを進めています。

Onlabでのメディア露出がきっかけで新たに切り開いた、KEYes成長の可能性

― プログラムでは、メンターからどんなアドバイスやサポートを受けましたか?

栗山(KEYes):
まず、ファイナンスについての知識ですね。今ではPreやPostといったファイナンス用語を活用していますが、当時は資本政策とかバリエーションという言葉すら知らなかったんです。そのあたりは丁寧にサポートいただけました。あとは、事業をグロースさせていくのに必要な知識や専門的な視点、企業と接点を持つ上での作法も教わりました。

また、KEYesのビジネスモデルをブラッシュアップしてくださったり、西部ガス様とお繋ぎいただいたりしました。何よりも、私は「スマート南京錠を売っていれば良い」とだけ考えていましたが、より綿密な事業設計を叩き込まれました。他社から模倣された時にいかに権利を守っていくか、いかにサービスを差別化していくか、また、事業拡大に並行していかにKEYesの強みを出していくか、と。

― 西部ガス様はOnlab FUKUOKA第1期の協賛企業でした。協賛企業の現場でアナログ式南京錠を課題だと認識していない中、KEYesの課題やソリューション、プロダクトをどのように相手のニーズに変えていきましたか?

大木(Onlab FUKUOKA):
KEYesの事例では、西部ガス様とKEYesは元から接点がありましたが、ペインを解決できるパートナーであることをお互いに気づいていないように見受けられました。アナログ式南京錠といった普段当たり前に接しているモノに改善の余地があるとは気づきにくいんですよね。Onlab FUKUOKAは、あらゆる産業の方々が何を考えているのかをうかがい知る機会に恵まれています。KEYes側も当初は不動産企業向けにアピールしていましたが、業界を限定せずにアナログ式南京錠が抱える課題を深掘った結果、西部ガス様が「当社の課題に合うのではないか」ということになったんです。その後は、プロジェクトのマネジメントの過程でも新たな気づきを伝えながら支援させていただけたかなと思っています。

― 大木さんが協賛社とKEYesの両者の間に入って相互理解できるように繋がりを築いていったんですね。プロジェクトはどのように進んでいきましたか?

栗山(KEYes):
実は、西部ガス様の本社は福岡市にありますが、長崎にいる事業開発部の担当の方のがKEYesに興味を持っていただきました。スマート南京錠をレガシー産業に当てはめることは難しいものの、「長崎だったら実証実験ができるのではないか」と。そこで、福岡から長崎まで片道2時間かけながら、2020年1月から実証実験をさせていただきました。

実は、実現したもう一つの理由として、Onlab FUKUOKA DemoDayの記事が、忘れもしない、2020年1月3日に西日本新聞の3面に掲載されたことだと思っています。同じ紙面にカルロス・ゴーンさんも載っていましたが(笑)。普段、私たちのような小さなスタートアップには箔がないし、話題になる機会も少ないですが、Onlab FUKUOKAというブランドうまく活用させていただき、客観的評価をいただくことができました。2019年12月にDGベンチャーズから出資をいただいていましたが、この記事がきっかけで西部ガス様の子会社で、福岡を中心としたスタートアップへ投資を行うSGインキュベート様から出資のオファーをいただきました。

「当たり前」に疑問を持つ、レガシースタイルイノベーション。ITの力でプロダクトを刷新していく

― KEYesとして、今後はどのようなことに挑戦したいとお考えですか?

栗山(KEYes):
今後は不動産業界だけではなく、大規模工場や警備業界、建設業界にも進出して私たちのスマート南京錠を提供していきたいです。「南京錠を開閉するだけ」「解錠操作の履歴管理をするだけ」では他社との差別化にならないため、各業界に特化した新しい価値を考えています。鍵には様々な仕様や使い方があるし、ビルや空き家、学校を加えると推定5億個超のアナログ式南京錠が存在します。KEYesはその中でも命と財産を守る南京錠に特化したサービスを提供していきたいと考えています。

それには、まずは私たちのサービスを知ってもらうことが大事。いきなり大手警備企業に飛びついて南京錠を作っていくよりも、まずはKEYesのサービスや提供価値を世の中に浸透させて、お客様に使い勝手の良さを実感していただいた上で、業界ごとのニーズやペインに合わせた使い方を確立していければと考えています。

私たちは「レガシースタイルイノベーション」と言って、当たり前に存在している常識や習慣に疑問を持って、ITの力で刷新していきたいんです。既存の南京錠に慣れてしまってその非効率性に気づきづらいため、お客様のニーズを変えるのは一筋縄ではいきません。お客様にイノベーションの必要性を認識していただけるように啓蒙活動を続けていきます。

― 最後に、Onlab FUKUOKAに参加しようとしていらっしゃる方々へメッセージをお願いします。

栗山(KEYes):
Onlab FUKUOKAでの出会いやプログラムを通じて初めて知ることや経験することが多かったので、ビジョンを持っている方は、敷居の高さを考えずに飛び込むことをお勧めします。私も参加当初は数字に強くなかったし、初めて聞く専門用語も多くて毎日必死でした。でも、松田さんに都度教わりながら進めていったので、楽しかったですね。

スマート南京錠は、仕組み自体はシンプルですが、お客様に認知・浸透させていかなければならないし、事業の「その先」を考えなければならない。今まで存在しなかったものを作っていくのはまさに産みの苦しみでしたが、松田さんや大木さんをはじめ、多くの方からお力をいただいたおかげで、興味を持って使っていただく方が増えて、新たな挑戦を見据えることができています。

― 大木さんにお伺いします。福岡にはKEYesの南京錠が必要な企業が沢山いらっしゃると思いますが、KEYesとどのように並走していこうと考えていらっしゃいますか?

大木(Onlab FUKUOKA):
私が毎期プログラムを運営する中で、スタートアップの開拓はどんどん進んでいっていますし、福岡を拠点にネットワークも徐々に広がっています。意外な場面で南京錠のニーズを見つけられるだろうと思いますので、KEYesさんと積極的に事業連携をしていきたいと考えています。

― Onlab FUKUOKAとして、松田さんからKEYesに期待することをお教えください。

松田(Onlab推進部長):
KEYesはハードウェアの会社として、スマートフォンで南京錠の解錠操作を行うサービスを提供していますが、今はちょうどバック管理をするSaaSシステムが完成したところなので、ここからが勝負だと思います。システムの販売をはじめ、利用価値を増やしたり業態を広げていったりすると良いですよね。Onlab FUKUOKAを卒業して、たった1年でここまで歩んできたのは本当にすごいこと。是非、今後も頑張ってほしいです。

(執筆:佐野 桃木 写真:taisho 編集:Onlab事務局)

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