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20歳の起業家が挑むのは、ワンフレーズで楽しめるカラオケバトルサービス「カラバト」|Meet with Onlab grads vol.8

20歳の起業家が挑むのは、ワンフレーズで楽しめるカラオケバトルサービス「カラバト」|Meet with Onlab grads vol.8

Open Network Lab(以下、Onlab)は「世界に通用するスタートアップの育成」を目的に、Seed Accelerator Program を2010年4月にスタートしました。2020年で10周年となるOnlabは、今までに数々のスタートアップをサポートしてきました。

今回取り上げるのは、Onlab第18期に参加した株式会社aboon。ワンフレーズでバトルのできるアプリ「カラバト」を提供するスタートアップです。これまでのカラオケアプリでは、1曲をフルで歌うサービスが多く、カラオケが好きなのに歌い終わった後に疲れてしまうし、満足できる動画を作るのに何度も撮り直して時間がかかってしまう。もっと気軽に歌を楽しめるサービスを作ろうと、サビだけを切り抜いて歌えるコンテンツを生み出しました。

そんなカラバトがOnlabに参加したきっかけやプログラムから得られた経験等を、CEOの清原 三雅さんにオンラインでインタビューしました。

歌が苦手でも楽しめる「ワンフレーズ × カラオケ × バトル」

― カラバトのサービス内容をお教えください。

カラバトはワンフレーズで歌えるカラオケバトルアプリです。自分の好きな曲や流行っている曲のワンフレーズを歌って投稿して、ユーザーの審査制で勝敗が決まる仕様になっています。通常のカラオケアプリでは、ユーザーが1曲フルで歌わないと評価されませんが、それでは疲れるし、納得するものができるまで何度も歌い直すと時間がかかって面倒ですよね。だったらワンフレーズやサビの15秒だけで、誰でも気軽に楽しめるようにしたいと考えて、カラバトを作りました。また、日本人は紅白歌合戦などテレビ番組を通じて「カラオケバトル」に慣れているので対戦型にしています。

― 現在、カラバトのユーザーはどのくらいいらっしゃるんですか?

アプリダウンロード数は2020年6月時点で1万件を超えています。年齢層で最も多いのは10代〜20代前半ですが、小学生から40代まで幅広く分散していますね。現在、カラバトでは、ユーザーが独自で「サシバト」というサシでバトルする遊び方を作って、友達や家族と歌いながら競い合っています。ルールは簡単で、1日50曲に設定して、勝利数が多い方が勝ち。負けた方は「LINEのユーザー名を面白いものに変える」といった罰ゲームをしたりして。私自身はユーザーが単独で歌って遊ぶアプリとしてプロダクトを作ったので、ユーザーがおのおのでコミュニティを作って、新しい楽しみ方や面白さに昇華していってくれてびっくりしています。

ワンフレーズで歌えるカラオケバトルはユーザー審査制で勝敗が決まるので個性を出しながら歌うことができる
ワンフレーズで歌えるカラオケバトルはユーザー審査制で勝敗が決まるので個性を出しながら歌うことができる

― コロナ禍でのユーザーの変化や自社への影響などはありましたか?

カラバトは私を含めて4名のスタートアップで、エンジニアやデザイナー、コミュニティマネージャーが創業時からリモートワークをしているので、コロナ禍によるダメージはありません。むしろ、カラバトは「オンラインで遊ぶ」という時代に沿ったサービスなので、ユーザー数も通常よりも2倍に増えました。

ステイホームという時勢に合わせて、Twitterで積極的に「StayHomeでカラオケしよう」と呼びかけた時もありますが、基本的にユーザーは自然流入です。2020年4月の自粛期間中に、アプリにフォロー機能や応援機能を追加して大幅なアップデートができたのも大きかったですね。ユーザーの歌うモチベーションが上がって、より多くの楽しみを提供できるようになりました。

起業を決意したのは、仲間が自分の提供するサービスを楽しんでくれた原体験から

― 清原さんが起業したキッカケをお教えください。

私は小さい頃から組織に属していることが苦手で、常に一匹狼。両親からも「会社勤めは無理だ」と言われてきたこともあり、いつも、自分で何か事業を起こさなければならないと思って過ごしてきました。起業しようと思うキッカケになったのは、高校1年生の時、同級生数名とチームを組んでビジネスコンテストに出場したことですね。

アイデアは至ってシンプルで学生らしいもの。私は軽井沢にある全寮制インターナショナルスクールに通っていました。軽井沢は国際的な観光地なのに、地元のお店は海外から来る観光客に対応できていなかった。そこで、私は学校の仲間を集めて工芸品やサービスを翻訳して、越境ECを作って海外に売り始めたんです。結果、私たちのチームが優勝して、自分たちが工夫をこらして作ったサービスを地元の皆さんが喜んで使ってくれたことが嬉しかったですね。

その後、スタートアップにインターンとして参画して、起業家の方々と出会う機会を経て、高校2年生の夏には「起業家になる」と確信していました。以来、様々なサービスを考案しては、校内で発表していきました。高校を卒業した時に、支援してくださる方もいたし、共同創始者として一緒にサービスを作ってくれるルームメイトもいたので、やってやる!と意気込んでいましたね。私がサービスを作る原点は、自分が解決したいことや好きなことをサービスにして、ユーザーに提供すること。ユーザーがそれを使って楽しんでくれる姿を見るのが好きなんです。

カラバト清原さん高校生当時の様子
カラバト清原さん高校生当時の様子

― 高校生で起業家を決意するとはすごいですね。当時、どんな課題をテーマにしていたのですか?

私の通っていた高校は軽井沢とはいえ、最寄りのコンビニまで歩いて50分とアクセスが悪く、みんな、気軽にお菓子や飲み物が買いに行けなくて困っていたんです。しかも、奨学金を頼りにしている外国籍の学生からすると、日本の物価が高くて自由に買えない。その2つの問題を踏まえて、私は安い仕入れサイトから商品を買って、それを校内でデリバリーする仕組みを作りました。1人でコーラを買ったら150円だけど、2人で買ったら180円、という小売業です。

結果、それが大きな成功体験になりました。小さなビジネスでしたが、学生にとっては大きな利益を得たし、学校の先生方も使ってくれたんですよね。何よりも、2人で買うと安くなるから誰もが一緒に分けて食べて、そこで楽しい会話が生まれる。自分が提供したサービスによって、みんな笑顔になりながら食べるという新たな価値を生み出せてた、ビジネスってこうやってできるんだ、と感動したのが印象に残っています。

Onlabプログラムで気づいた、ユーザーが本当に使いたいサービス

― そんな清原さんがOnlab18期生としてプログラムに参加したのは、なぜですか?

1つは資金調達を探していたから。もう1つは、私たち共同創業者の2人があまりにも「自由」だったからです。起業に向けて無駄な回り道をしたし、悩みを打ち明けたくてもメンターや頼れる人がいなかった。そんな時、インターンをしていた会社で「Onlabだったら3ヶ月間向き合ってくれるよ」と聞いて、事業を伸ばしたい自分たちのためにあるプログラムだ!と、すぐ応募しました。

― Onlabに参加して、学んだことやチーム内での変化はありましたか?

私はこれまであらゆることで「自分が信じたことが正しい」と思ってきたんですが、プログラムの初日で出鼻をくじかれました。Onlabでは当時、スピードメンタリングという約10名程のメンターが入れ代わりでフィードバックするというプログラムがあって、「このサービスは何を解決するのか?」「どうしたら儲かるのか?」と立て続けに聞かれる中、何一つまともに答えられなかったんです。悔しかったけれど、あそこまで本気で見てもらえたことはなかったし、「その時に作っていたサービスはユーザーが本当に使いたいものではない」と気づき、1週間後には現在のカラバトにピボットしました。

― カラバトの前はどのようなサービスだったんですか?

元は、3Dアバターを使ったカラオケアプリでした。tiktokでもよく見かける、自分の顔にアニ文字のようなキャラクターの画像を被せる機能が付いていたんです。当時からカラオケライブが流行っていて、自分の歌っている姿を撮りながらSNSに挙げるんですが、その方法だと外見に自信のあるユーザーしか楽しめないと思っていました。メンターからは「ユーザーはアバターを使うことで本当に使い続けてくれるのか?」と詰められても明確に答えられませんでした。

当時、プレスリリースを出したり、大手メディアに取り上げてもらったりしたのに、ユーザーからは全く反応がなくて、1週間のダウンロード数は150件だけ。その原因は仮説検証をしていなかったからだ、と気づいたのです。当時はショックを受けましたが、その後Onlabのプログラムの中でMVP (Minimum Viable Product)の概念を学んだおかげでサービスを逆転できました。

2019年 Onlab 18期 プログラム当時の様子
2019年 Onlab 18期 プログラム当時の様子

― どのようなプロセスを経て現在のカラバトに辿り着いたのでしょうか?

当時のカラバトは、無機質なスマホに向かって1曲フルで歌うという仕様でした。「当然、カラオケなんだから全部歌うもんだろ」と。でも、カラバトはライブ形式ではなかったので他のユーザーからの反応がないし、アプリを使ってくれた人も「毎回、1曲フルで4〜5分も歌うのはしんどい」と離脱していました。そんなユーザーの声をヒアリングを通じて目の当たりにする中で、「ユーザーが欲する最小限の機能」の解決策を模索し、Onlabに参加して2〜3週間後に現在のカラバトの原型が誕生しました。ユーザーが歌うのはワンフレーズの15秒で、それもバトル形式にしよう、と。

― ユーザーヒアリングはどのように実施していったのでしょうか?

Onlabでアドバイスいただいたのは「既存サービスの問題を見つけろ」ということで、10〜20代の200人にヒアリングしました。他のカラオケアプリについて渋谷のハチ公前で女子高生にインタビューしたり、TwitterでDMを送りまくったり。

他社のサービスで判明した課題は、やっぱり、1曲フルで歌うプレッシャーや手間があること。1曲が長いと、良い動画を投稿するために何回も撮り直して1時間以上かかってしまって、投稿頻度が1週間に1回だけになる。気軽に歌いたいのに投稿できる動画が少なくなって楽しめない、と。また、実際にカラオケに行っても、だいたいの人が友達が歌っているのを最後まで聞いていなかったり、有名なサビの時だけ一緒に歌ったり、最初から早送りしてサビだけ歌っていたりするという実態を知ることができました。

現実はそんなに甘くない、ピッチしてボロボロになるも、新たに湧いた決意

― 清原さんはシリコンバレーのTop VCの前でピッチをする機会に恵まれたそうですが、その時はどんな刺激を受けましたか?

FacebookやTwitter、Instagramなどに投資先を持つ、あのAndreessen Horowitz(a16z)やAccelのパートナーの方の前でピッチしたのは衝撃的でした。2019年6月、アメリカのサンフランシスコで朝食会に参加したんですが、3名のTop VCに対して、50〜60名の飢えた起業家が我こそはピッチで興味を持ってもらおうと突進するんです。まさにアフリカのサバンナのような弱肉強食の世界で、日本にはない熾烈な争いが繰り広げられていました。会場で仲良くなったインド人の起業家もVCが現れた瞬間、一変して目つきが鋭くなっていましたね。

私がピッチできた時間はたったの1分30秒。将来、カラバトを海外展開するためにはどうしても爪痕を残したいと思い、カラバトの事業内容を話したのですが、すぐにカラバトの本質を見抜かれ、淡々と厳しい質問を受けたんです。それまでは、ボーダーレスなプロダクトであれば、各国に合わせて翻訳すればリリースできる、と思い描いていましたが、現実はそんなに甘くなかった。国ごとにカルチャーやユーザーの好みがあって、海外でC向けサービスを作るなら初段階から海外で事業を進めないと成功しない。日本で作ったサービスを世界に横展開することはできないと告げられ、完璧に潰されました。

いずれは海外に挑戦したいと思っています。しかし、まずは日本で必ず結果を出す、と振り切りました。何しろ、日本のカラオケの市場規模は膨大で、今のカラバトなんてミジンコレベル。国内で他のカラオケアプリをどうやって押しのけようかと頭がいっぱいです。

note — 19歳の起業家がシリコンバレーのtopVCにピッチをしてきた話-
note — 19歳の起業家がシリコンバレーのtopVCにピッチをしてきた話-

原点に立ち返り、ユーザーに長く使ってもらえるサービスを目指す

― 現在、カラバトではチームやプロダクトの課題はなんでしょうか?

そうですね。チーム面では、リモートワークでひとつひとつは小さいコミュニケーションロスが、だんだんと積み重なって大きくなっていくことです。メンバー4人で業務の連携が上手くいかず、事業目標に向かって一緒に走ることができなかったり、生産効率が落ちてプロダクトのリリースが遅れたりしてしまってはいけないので。

以前、インターンでお世話になった先輩起業家のecbo株式会社の工藤さんはミッションドリブンでチームをまとめて、メンバーと定期的に話す機会を作っていらっしゃるので、それを自社でも取り入れたいです。頭では分かっても、いざメンバーと対面すると、自分の事業構想を言語化するのに苦戦してしまうんですよね…(苦笑)。

プロダクト面では、せっかく新規ユーザーが流入しているので、継続率を保つための施策が課題です。例えば、任天堂が作っている「大乱闘スマッシュブラザーズ」は、単独でも友達ともプレイできる対戦型ゲームで、楽しいからずっとやっていられる、リテンションの高いサービスですよね。カラバトでは一人で歌って飽きて終わってしまうので、今後はユーザーコミュニティを組成するなど、サービスにヒトの関係性を絡めたいと思っています。一般的な対戦型ゲームとは違って、歌はパターン化もスキルの上達もできないため、一人で負けが続くとモチベーションが下がるんです。一緒に楽しむ友達がいることで、悔しさもやわらいだら良いなと思っています。

― 最後に、今後目指す会社像やサービス像をおしえてください。

カラバトは、私個人の「面白い」からスタートしているため、頭で考えている事業計画や、サービスに秘めた思いをきちんと言語化してメンバーに共有して、会社として正式なミッションを掲げて進んでいきたいと考えています。「ワンフレーズのカラオケバトルアプリ」であるカラバトをトレンドで終わらせたくない。一人でも仲間とも楽しめる、長く使ってもらえるサービスにしたいんです。ヒトの役に立ちたいという原点に立ち返ってこの事業を成長させたいです。

そんなカラバト清原さんのPitchエピソードや先輩起業家たちのPitchを解説した本「Pitchピッチ 世界を変える提案のメソッド」が発売中です。特設サイトでは起業家や投資家のブログやインタビューも掲載、スタートアップのための情報を更新していきます。

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< プロフィール >
株式会社aboon 代表取締役 清原 三雅

2000年生まれ。幼少期をアメリカで過ごし、中学時代に日本、タイ、オーストラリアで学ぶ。帰国後、日本初全寮制国際高等学校UWC ISAK Japanの2期生として入学。UWC ISAK Japanを卒業後、在学時のルームメイトと共に株式会社aboonを創業。2018年夏、谷家衛、MTパートナーズ株式会社 (代表取締役 高野真)を引受先とする資金調達を実施。Open Network Lab 第18期として、曲のサビなどのワンフレーズでカラオケバトルができるアプリ「カラバト」の開発と運用を行う

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