2020年08月05日
「ギフトで、『人と人』『人と企業』『人とまち』をつないでいく。」をミッションに、eギフト文化の創造を目指す株式会社ギフティ(以下、ギフティ)。
2010年の設立以来、メールやLINEなどで気軽にeギフトを贈ることができるサービス「giftee」を皮切りに、法人向けサービスの「giftee for Business」、eギフト発行システム「eGift System」、地域活性化プラットフォーム「Welcome Stamp!」などを次々にローンチし、個人・法人・自治体を横断する「eギフトプラットフォーム事業」を展開しています。
2019年9月には東京証券取引所マザーズへのIPOを達成。サービスの海外展開もスタートし、成長著しい企業として国内外から注目を集めています。
ギフティのこれまでを振り返って「『このプロダクトになら全てを懸けてもいい』と確信できる事業だけをしてきた」と語るのは、創業メンバーであり代表取締役の太田睦氏。「Open Network Lab(Onlab)」の第1期生でもある太田氏に、同社の10年の歩みと、いま見据えているビジョンについて伺いました。
ギフティは設立以来、eギフトを事業ドメインとして拡大し、現在の「eギフトプラットフォーム事業」を確立するに至りました。その出発点はCtoCサービス「giftee」です。
「giftee」は、メッセージカードを添えたeギフトを、メールやLINEなどで贈れるサービス。コンセプトの「日頃のちいさな”ありがとう”を贈ろう」の通り、友人・知人同士で少額のプレゼントを贈りあうために考案されました。
2010年の創業以後、着実に存在感を増し、2011年には大手競合他社とのコンペを勝ち抜いて、スターバックスコーヒージャパンへのシステム導入を実現させます。
順風満帆ともいえるスタートを切ったギフティ。しかし、その後事業は停滞を迎え、成長が頭打ちになる時期もあったと言います。課題となったのは「コンテンツの不足」でした。「giftee」はビジネスモデル上ユーザー獲得のために、コンテンツとなるeギフトの種類を充実させる必要があります。しかしコンテンツを充実させるためには導入企業を増加させなければならず、他方で導入企業を増加させるためにはその説得材料となる豊富なユーザー数が求められます。つまり、「コンテンツの不足」に起因するジレンマに陥り、事業成長に歯止めがかかっていたのです。
こうした課題を解決するため、ギフティはCtoCからBtoCの事業モデルにも進出を果たします。2014年、企業がオリジナルのeギフトを生成して販売できるeギフトSaaS「eGift System」をローンチ。さらに2016年には、法人向けにeギフトを販売する「giftee for Business」をローンチし、コンテンツの充実とユーザーの獲得を相互に実現できる、プラットフォーム型の事業モデルに取り組むことになります。
設立以来貫いてきた方針の転換。そこには苦悩もあったと言います。特に太田氏の頭を悩ませたのは、社員とのコミュニケーションでした。「eギフト文化の創造」を信念にCtoCの事業モデルに取り組んできたギフティ。それを拡大しBtoCの事業モデルに進出することに、社内では戸惑いが広がっていました。
ギフティ太田氏(以下太田):ある日、とある社員とランチに行くと「社長はCtoCを諦めたんですか?」と真剣な眼差しで聞いてきたんです。この頃社内にはCtoCの事業モデルに憧れて入社したメンバーも多かったので、多少の動揺があったのだと思います。「これは社員に丁寧に説明しなきゃダメだ」と気付かされました。
「CtoCを諦めたわけじゃない。CtoCを広めるために、BtoCが必要なんだ」。太田氏は社内のメンバーに自ら説明を繰り返します。そうした太田氏の誠心誠意の説得に社内も賛同。社員一丸となって、eギフトのプラットフォーム事業の構築に向けて再び走り出すことになります。
その後、ギフティは大手コンビニエンスストア、サーティワンアイスクリーム、ミスタードーナツ、など、名だたる企業へのサービス導入を成功させます。強力なコンテンツを獲得した「giftee」や「giftee for Business」はますます規模を拡大。ギフティはeギフトのプラットフォーム事業を確立し、2019年には東京証券取引所マザーズへのIPOを達成します。
2019年末時点で、「giftee」の会員数は138万人、eギフトの発行企業数は89社、eギフトの流通金額は68億円にも上り、eギフト業界のリーディングカンパニーとしての地位を確立しています。こうした事業や組織の成長にあわせて、太田氏自身のマインドにも変化がありました。
太田:ひと言でいうと「起業家」から「経営者」にステップアップしたかなと思います。会社がスタートアップの頃は自分自身がプレイヤーという意識が強かったんですが、上場を準備しだした頃から徐々に、組織全体をどうデザインするかというふうにマインドチェンジしていきました。
ベンチャー起業家から上場企業の経営者へ。新たなフェーズに突入し、創業当時よりも格段に増えたステークホルダーへの責任を果たすなかで、太田氏が特に力を注ぐようになったのが採用と組織づくりです。
ギフティはIPOの以前と以後で、入社を希望する人材のキャラクターに変化があったと言います。上場以前はベンチャー精神あふれる自走型の人材が入社を希望する傾向にあったところ、上場以後は組織に順応しやすい調整型の人材が集まるようになったのです。
太田氏はこうした変化について、「どちらのキャラクターも組織にとって必要」だと語ります。規模の大きな組織を運営するうえで、チームワークを発揮できる協調性を備えた人材は必要不可欠。しかし他方で、新規事業や大型案件など、一筋縄ではいかない局面を乗り越えるためには、独創性のある自走型の人材の力が求められます。そのため太田氏は、そうした多様な個性が力を発揮できる組織づくりに尽力してきました。事実、ギフティは上場後も新規事業の立ち上げが続いており、自走型の人材がポテンシャルを発揮できるポストが増えているそうです。
またギフティは2017年から新卒採用を実施。例年、新卒学生の受け入れを積極的に行なうようになりました。その意図について、太田氏は以下のように説明します。
太田:「ギフティのDNAを継承させる」ことが、新卒採用に取り組む理由です。会社の文化や価値観を根本から理解してもらうのは、中途採用の社員にはなかなか難しい。その点、新卒学生ならゼロからのスタートなので、それぞれの個性を生かしながら、ギフティのDNAを伝えていくことができます。
将来的にはギフティを人材輩出企業にしたいという太田氏。「made in giftee」というフレーズを確立したいとも語ります。これは「ギフティで育った優秀な人材」という意味。いつの日かギフティを卒業したメンバーが優れた事業を立ち上げ、人々から「made in giftee」と賞賛される日を迎えるのが、現在の大きな目標のひとつです。
2020年2月、ギフティはレビュー投稿などで暗号通貨が貯まるトークンエコノミー型グルメSNS「シンクロライフ」を運営する株式会社GINKANと資本業務提携を締結。食にまつわるトークンエコノミーの領域でeギフトの流通拡大を図ると発表しました。
ギフティは今後こうした外部企業とのパートナーシップを強化し、さらなるeギフトプラットフォームの強化・拡大を狙います。その一例として、太田氏が注目しているのは「ポイントカード」等のeギフトを活用し既存顧客のファン化を促す仕組みです。
太田:多くの飲食店ではユーザーの再来店を促すために様々な施策を展開しています。例えば、ポイントカードの発行もその施策の1つではありますが、まだまだ紙のカードが主流です。このポイントカードを「eGift System」を導入いただいているブランド向けにデジタル化して提供し、新規顧客の来店だけでなく既存顧客の来店を促進につなげられないか、さらに顧客データも収拾して顧客のロイヤリティを高める施策に貢献できないかと。実際、ギフティのお客様からもそうしたニーズが挙がっていますし、資本業務提携も含めた外部企業との連携を検討しながら、実現に近づけていければと思っています。
設立以来、大手をはじめとした様々な企業とシナジーを生み出してきたギフティ。株式上場を経た現在もその方針は変わらず、オープンイノベーションによる事業創出にも積極的です。
2010年当時、小さなスタートアップだったギフティが今日に至るまで数々の企業との連携を実現させてきたポイントとは一体何だったのでしょうか。太田氏は「横並びの関係をいかに作るか」と答えます。太田氏によれば、外部企業との連携を実現させるためには、対面して相手を説き伏せるのではなく、同じ方向を向いてビジョンを共有するようなアプローチが必要なのだと言います。それによって初めて、双方のニーズが合致するソリューションを見出すことができ、パートナーとしての信頼を獲得できるのです。さらにそのうえで太田氏は、愚直な姿勢を貫くことの重要性も強調します。
太田:例えば、初対面の方に「結婚してください!」と頭を下げても相手にしてもらえません。普通はまず「デートに行きましょう」と言えるような関係を目指しますよね。外部企業との連携も同じで、少しずつ信頼関係を築いてくために、何をすべきかを真摯に考えなくてはいけません。相手企業のことを深く知る。そうした当たり前のことを愚直に続けることが、信頼獲得の一番の近道なのだと思います。
初期のOnlab生がユーザーの声を聴きプロダクトを作るように、ステークホルダーが変わっても同じ。相手が望むものは何か、どういう状況であれば、その先のアクションを起こす判断ができるのか、そんな積み重ねの連続が、今日にも繋がっているのではないでしょうか。
2018年度から5年間で、市場規模が2倍以上拡大すると見込まれているeギフト市場。そうした成長分野において、すでにプラットフォームを確立し、拡大路線を突き進んでいるギフティには強力な優位性が備わっています。業界のリーデイングカンパニーとして市場を牽引し、さらなる高みへと到達する日も遠くないはずです。
2020年4月、太田氏は会社として初めての株主総会に臨みました。
初めて目にする株主の顔。真剣な質問が飛び交うなかで、太田氏は自らの責任の重さを痛感しました。しかし、一方で「すごくいい経験で、事業へのモチベーションにつながりましたね」とも語ります。
こうした泰然自若とした姿勢を保つことができるのは、創業時から変わらぬビジョンを維持し、その実現に向けて邁進してきたからにほかなりません。
人々が日頃の感謝を伝える手段として、気軽にeギフトを贈りあう文化の創出。そんな壮大なビジョンが、太田氏のなかでは揺るぎないものとして結実しているのです。ギフティの次の動向に、注目です。
ギフティ太田さんの事業のPMF経緯や10年間の事業成長の様子を解説した本「Pitchピッチ 世界を変える提案のメソッド」が発売中です。合わせて、今ではとても貴重な初期(2010年当時)のgifteeの事業をまとめたPitch資料も公開中。起業家や投資家のブログやインタビューも掲載されているこちらのサイトでは、Onlabがキュレーションし、スタートアップのための情報を更新していきます。
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< プロフィール >
株式会社ギフティ 代表取締役 太田 睦
1984年生。慶應義塾大学総合政策学部卒業。2007年アクセンチュア株式会社にて公官庁の大規模開発業務に従事。2010年株式会社ギフティを設立、代表取締役に就任。