2020年04月30日
Open Network Lab (以下、Onlab)は「世界に通用するスタートアップの育成」を目的に、Seed Accelerator Programを2010年4月にスタートしました。2020年で10周年となるOnlabは、今までに数々のスタートアップをサポートしてきました。
今回取り上げるのは、Onlab第20期に参加した株式会社フクスケ。増加しつつある副業者や副業者を雇用している企業を守る、クラウド型副業制度構築サービス「フクスケ」を提供しています。
副業に関する社会的背景や起業したきっかけにも触れつつ、フクスケがOnlabに参加した理由やプログラムから得られた経験等を、代表取締役の小林大介さんに語ってもらいました。
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― フクスケのサービスについて教えてください。
フクスケは従業員の副業を適切に管理し、トラブルを未然に防止するための副業管理サービスです。副業セキュリティ研修による情報セキュリティ教育や倫理教育、利益相反を判断するためのガイドライン作成、従業員の取り組む副業に潜むリスクチェックなどの機能を提供しています。
― 2018年が「副業解禁元年」だと聞きました。具体的にどのような変化があったのですか?
2018年1月の厚生労働省による「モデル就業規則」改訂をきっかけに、副業を解禁する企業が増加しました。しかし従業員の副業が把握できないことを恐れ、厳しい副業禁止状態を続けている企業も多く、それに伴い勤務先に伏せて副業をする「伏業」も増えているのです。
伏業の結果、知らないうちに企業機密の漏洩や本業への利益相反、反社会勢力との癒着などの潜在リスクが拡大してしまい、企業・従業員ともに不利益を被ってしまう可能性があります。こうした課題を解決するため、フクスケをリリースしました。
― フクスケを立ち上げるきっかけとなった小林さんの経歴について教えてください。
私はクリエイターを多く輩出するデジタルハリウッド大学の出身です。しかし当時からHR分野に興味があり、学内でも珍しい組織開発系のゼミに所属していました。デザイナーやエンジニアとして仕事を請け負う友人もいたので、彼らの契約周りの面倒もよく見ていましたね。
新卒で株式会社VOYAGE GROUP(現・株式会社CARTA HOLDINGS)に入社。傘下の株式会社サポーターズでエンジニアの新卒採用事業に携わり、京都支社の立ち上げに関わり支社長も経験しました。
その後エンタメ系で働きたいと考え、XR系のスタートアップに人事HRマネージャーとして転職。バーチャルタレント事業の拡張のため、従業員数が100名規模になるまで採用や人事管理を担当しました。このときに感じた課題が今のフクスケに繋がっているんです。
ひとつは中途採用者のコンプライアンス知識に個人差があったこと。何気なく情報漏洩やブランド毀損に当たる発言をしてしまう社員もいたので、各種研修を実施してトラブル防止に努めていました。
もうひとつは副業問題。従業員が副業先で問題を起こして炎上したときに、その火の粉が自社にも降りかかる危険があるので、副業管理を徹底しないといけない。でもユーザーに夢を見せるようなエンタメ系の会社が、締め付けるような管理体制にはしたくない。そんなジレンマを抱えていたところに副業解禁の流れが来たんです。
― 副業解禁の流れにはどのように対応したのでしょうか。
当時は熟考の末に、従業員の副業を禁止しました。しかしそもそも副業の禁止は法的に認められていません。そのため隠れて副業する「伏業者」や、副業を禁止されたことでパフォーマンスの落ちてしまう人が出てしまいました。禁止できないことを禁止しているので、私が悪いことをしているようにも感じます。これでは誰も幸せにならないから、どうにか解決したいと思ったんです。
― 副業管理問題の解決のためフクスケを立ち上げたんですね。
元々起業は考えておらず、エンタメ系HR分野で能力を発揮したいと思っていました。しかし実務に携わったらあまりの課題の深さに愕然としたんです。
2019年4月にStartup Weekend Tokyo Workstyleというスタートアップ体験イベントに参加したとき、自分のナレッジと経験が全て繋がって、フクスケのアイデアが生まれました。人材系のコーチに後押しされたこともあり、すぐにモックを作り始めて5月に開発、7月に起業しています。
― その後の10月にはOnlabに応募されています。Onlabに参加しようと思った理由は何ですか?
機会があればアクセラレータープログラムには絶対参加しようと思っていました。実務で副業に関する課題を肌で感じていたものの、どの程度の確実性があるのか数字ベースで検証していなかったので、アクセラレータープログラムに参加して1回ブラッシュアップしたかったんです。
OnlabはSmartHRさんみたいなSaaSの参考にしていたスタートアップが過去に参加していたので、以前から知っていました。実はアクセラレーターは複数応募していて、一度落選したこともあったので、真剣に準備したんです(笑)。受かったときは心底安心しましたね。
― すばり、ご自身で課題に感じていたことは何でしょう?
副業管理に課題感が存在することは明確でしたが、どのような手段で解決するかが不明確だったことです。副業管理は人によって何を課題として認識して、どんなソリューションが欲しいのかはマチマチです。そのためまずは私が自分の中で課題整理をした上で、他者にしっかりと伝えられるようになる必要がありました。
― 無事に採択され2020年1月からプログラムが始まりました。Onlabに参加して感じた一番の成果は何でしたか?
ユーザーヒアリングを通じてエンタープライズ向けにブラッシュアップできたことです。私がweb業界出身だったこともあって、元々のクライアントもweb系が多かったのですが、Onlabに参加する中で非web系大企業を多く紹介していただきました。
その中でも一番利用してくださったとある企業の競合を分析したら、実は非web系の企業にニーズが強いことがわかったんです。これをきっかけにサービスをエンタープライズ向けにピボットしました。
― プログラム期間中に一番苦労したのはどのような部分でしたか?
プロダクトそのものよりも、サービス内容の整理に一番時間を使いました。前職で社内ピッチコンテストに出場したり、話すことには慣れていると思っていましたが、「フクスケは何のサービスですか?」とVCや副業環境を全く知らない方に聞かれたとき、最初は明確に答えられなかったんです。
フクスケというサービスの価値を誤解なく伝えられるよう、メンターにサポートいただきながら課題の整理に打ち込み、だんだんとフクスケに自信を持てるようになりました。
― 課題の整理が反映されたサービス内容もあるのでしょうか。
フクスケは副業管理の機能を「制度構築」「制度運用」「事故対応」に切り分けています。事故対応は元々保険サービスとして完成していましたが、制度構築と制度運用に関してはその整理が明確にできていなくて。ここをプログラム中に整理できたことで、サービスの価値がより分かりやすくなったと思います。
― 新型コロナウイルスの影響で、メンタリングがオフラインからオンライン対応に切り替えられた部分もあったと聞いています。不自由を感じる点はありましたか?
特に不自由は感じませんでした。Onlabのプログラムは先輩スタートアップ事例を元にしたレクチャーや進捗報告やメンタリングが中心でオンラインオフラインに関わらず刺激になりました。ただオンラインでのピッチは、はじめてだったのでオフラインとは感覚が異なるので、そこは少し苦戦しました。
― これからOnlabに参加しようと考えているスタートアップに、何かアドバイスをお願いします。
Onlabのメンターは、最初から厳しいメッセージをたくさん伝えてくれます(笑)。事業の立ち上げ期は実績が何もない中、熱量だけで動いているので、もしかしたら心折れるかもしれません。
しかしOnlabは直面すべき課題をファクトベースで言ってもらえるので、その課題を乗り越えることができたら、確実に強くなれると思います。そういう環境だと理解して飛び込んでくるといいと思いますよ。
< プロフィール >
株式会社フクスケ 代表取締役 小林 大介
働きがいのある企業ランキング3年連続1位のVOYAGEGROUP(現CARTA HOLDINGS、電通グループ)に新卒入社。エンジニアの新卒採用支援を行う株式会社サポーターズの社員1号として立ち上げに関わる。同社で京都支社立ち上げ支社長経験後、XR系スタートアップに転職し人事HRマネージャーを勤める。政府の副業解禁に伴う潜在的な雇用リスクの高まりをうけ2019年7月に株式会社フクスケを創業。普段は2児の父で日本の人口減少問題に寄与しています。
プログラムディレクターの佐藤をはじめとした、Onlabメンターとの事業相談会は、下記よりお申し込みください。社会の課題に沿った事業を展開したいスタートアップの皆さんの挑戦をお待ちしています。