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高まる製造業のCO2・電気削減要請にも対応。「カイゼン」提案SaaS「Cayzen」|Meet with Onlab Grads Vol.47

Open Network Lab(以下「Onlab」、読み「オンラボ」)は「世界に通用するスタートアップの育成」を目的にSeed Accelerator Program「Onlab Seed Accelerator」を2010年4月にスタート。これまで数々のスタートアップをサポートしてきました。Onlab Journalのシリーズ「Meet with Onlab Grads」では、これまでOnlabに参加したスタートアップを紹介しています。今回登場するのは、Onlab第27期に参加したエイトス株式会社(以下「エイトス」)です。

エイトスが提供する「Cayzen」が扱うテーマは、その名の通り「カイゼン」の提案制度。カイゼン活動とは、「改善提案」「QC活動」「現場の教育・標準化」といった業務内容の改善アイデアを集め、管理者が評価・フィードバックを行い効率化を図る取り組みのことで、9割以上の製造業で実践されているアプローチです。Cayzenはこのカイゼン活動を管理し、ひいては経営課題を解決に導くクラウドサービス。特に近年はCO2や電気代削減の要請も高まっており、この領域でのニーズが高まっています。

※ 以下、「Cayzen」はサービスを、「カイゼン」は現場の活動としてのカイゼンを指します。

Cayzenのサービス内容やエイトスが提案する電力原単位データを使ったカイゼン活動、Onlabでの経験などをエイトス代表の嶋田亘さんに聞きました。

< プロフィール >
エイトス株式会社 代表取締役 嶋田 亘

豊田通商株式会社に入社し、自動車部品のサプライチェーン管理や、現場における物流改善等に従事した後、コンサルティング会社、スタートアップを経て、エイトス創業。

カイゼンをDXする「Cayzen」

― エイトスが提供する「Cayzen」について教えてください。

「Cayzen」は名前のとおり、工場の「カイゼン」をテーマにしたクラウドサービスです。

カイゼン活動は従前から「改善提案用紙」で運用されてきたものの、紙での運用には制度の定着やアイデアの共有・データベース化といった面で課題がありました。この課題をCayzenは解決します。改善提案用紙をクラウド化することで、現場の方がアイデアを出して、管理者がそれを評価。実際にどれぐらいの効果があったかを集計し、結果としてどの程度の経営指標改善に貢献したかを可視化していきます。目標値との差異や、投稿数の推移などの分析も可能です。

アウトプットするフォームはノーコードで作れるようになっているので、従来の改善提案用紙に近いフォーマットを各社が自由に作成できます。現場のフォームは従来から大きく変えずに、入力のインターフェースだけをクラウドであるCayzenにするという形で運用する企業が多いですね。

(image: BOOOST)
image: Cayzenのサービス画面

― カイゼン案の共有は、紙では難しいんですね。

紙でカンゼン活動を運用する場合、9割のアイデアは発案者の上司にしか見られず、他の方に共有されるケースは少ないようです。システムにすることで、社内の誰でもアイデアを見られるようになり、そこからコミュニケーションが生まれる機会も増えていきます。

― 人のアイデアからコミュニケーションが発生するのですか?

生まれるんです。実際お客さまからは「紙運用だとフロアや拠点が違うと誰が何をやっているかわからないけど、システムなら色んなアイデアに触れられる」といった声も届いています。優れたアイデアは工場内のみんなが知りたいと思っていますし、製造業の現場ではカイゼンのクオリティが高い方がリスペクトされますからね。

環境変化により、CO2・電気の削減要請が高まる

― そうやってCayzenは業務効果の最大化を目指してきたわけですね。

その通りです。ただ近年製造業は、「CO2排出量抑制の要請」「電気代の高騰」といった2つの大きな困難にぶつかっています。

CO2については語るまでもなく、近年のサステナブルな動きの一環です。見える化までは対応できている企業も多いですが、今後は継続的にCO2を削減する取り組みを続けていく必要があるものの、大手上場企業においても具体的な方法はまだ手探りな会社が多いようです。

(image: BOOOST)
エイトス株式会社 代表取締役 嶋田 亘さん

また2022年頃から、電気代が高騰を続けています。以前と比較すると3割も増加しており、これは大規模な工場だと数億円の追加コストが発生するほどのインパクトがあります。Cayzenでもこれらのテーマに立ち向かっていこうと、大手企業を中心に現在提案を進めています。

― CayzenはCO2・電気の削減に特に力を入れているということですね。具体的にはどのようなフローで削減していくのでしょうか。

各工場は、本社から予算的に電力やCO2の削減目標が課せられるケースが多いようですが、そもそもCO2・電力の削減方法には、大きく3つの方法があります。

1つ目に、太陽光パネルや再エネなどへの「設備投資」。もちろんこれも効果はありますが、最初に投資をしたらその後どの程度削減できるかが決まってくるので、継続的な削減には繋げにくい面があります。2つ目に、CO2については「カーボンクレジット」、つまり排出権を購入し相殺する方法です。これももちろん削減には繋がりますが、コストがかかってしまうのが難点です。そして3つ目に「生産性向上」。生産性は一度高めてしまえば効果が永続的に生じるので、現場としての関心はこれが最も高いと言えます。

― 生産性を向上させようとすると、Cayzenの出番になるというわけですね。

その通りです。前述の通り、カイゼン活動は紙で運用されてきたケースがほとんどです。そのため、当該アイデアを実行した結果、CO2・電力がどの程度削減されるのか、ひいては金銭的にはどの位の影響があるのかといったことを集計し、計算するのは簡単ではありません。レポートを作る手間もかかります。

Onlab-エイトス

そこでエイトスは、カイゼン活動の結果、どの程度のCO2・電力が削減できるのかを集計・計算する機能を開発しました。例えば村田製作所の工場では、以下の3ステップでCO2・電力の削減に繋げています。

まず、各設備別に算出したデータをCayzenに取り込みます。ここで使うのは、各工場の1000にも及ぶ設備の一つひとつを動かすと何キロワットを消費するのか・どの程度のCO2を排出するかという電力原単位データです。次に、現場の方がCO2・電力を削減するアイデアをCayzen上に投稿。最後に、Cayzenが削減効果を自動で計算します。計算結果や、目標値に対しての達成度はグラフなどで可視化する機能も備えました。

Onlab-エイトス

業界横断でカイゼン活動のフィードバックを

― 電力原単位データを使ったカイゼン活動は、従来から行われてきたのでしょうか。

今紹介した「原単位を管理し、ボトムアップでCO2に繋げる」という仕組みは、既存の仕組みをデジタル化したわけではなく、お客さまからヒアリングしながらエイトスがオリジナルで仕組みを考え、開発したものです。まだまだブラッシュアップしていく必要はあるものの、いずれは「これがCO2・電気対策のベストプラクティスです」と言い切れるようにしたいと考えています。前例がないことに対応し、市場を作っていかなくてはならないという意味では大変な取り組みですね。

― SaaSであるCayzenには、色んな会社のカイゼン活動データが集まってくるかと思います。そのデータを使った取り組みは何か考えていますか?

はい。例えばAIを用いて収集されたデータを活用し「こういう視点で取り組んでもらったら、いいアイデアが出てくる可能性があります」といったAIからのフィードバックを組み込もうと考えています。もちろん各企業ごとの情報管理は確実に行います。

― 例えばどういうフィードバックができる可能性があるのでしょうか。

「こうすれば効率性が上がる」というカイゼン案が現場から提出されても、もしかしたらそれは、効率性と引き換えに品質が落ちる案かもしれません。Cayzenにあるアイデアが提出され、上長がそれを評価する際に「このアイデアは効率は上がるけど品質が下がるリスクがあります」といったアナウンスができれば、評価のプロセスに役立てられると考えています。

先述したように、カイゼン活動は業界横断で利用されている手法です。そのため、各業界に共通するものはCayzenによるAIフィードバックで対応することで、管理者の負担を下げられるんじゃないかと考えています。

Onlab-エイトス

ベースがしっかりしながらも、カスタマイズもしてくれるOnlabのプログラム

― エイトスの創業経緯を教えてください。

親が経営者ということもあって、私は大学生の頃から起業したいと考えていました。起業テーマで関心があったのは、日本発でグローバルに繋がる領域。社会人になってからは、30代前半での起業を目標にキャリアを積み上げています。また私は新卒時代から製造業に関わっていたのですが、働く環境に恵まれたと感じていて、今まで関係した方々の可能性を広げられる環境をつくりたいと考えていました。それで「カイゼン」をテーマに2019年に起業。しばらくは副業的に開発を進めていましたが、2021年にシードファイナンスを実施。それからはエイトスにフルコミットしています。

― 2023年にOnlabに参加していますが、どのようなきっかけでOnlabを知ったのでしょうか。

あるアクセラレータープログラムの最中、「Cayzenはこれから、ESG要素の強化と、グローバルを意識していきたい」という話をしていたら、Onlabの名前が出てきたんです。調べてみると、確かにOnlabはESGに力を入れているし、グローバルでも活動していることが判明。SmartHRをはじめ錚々たるスタートアップが参加したアクセラだとも知って、興味をもち応募しました。

― Onlabに参加したとき、Cayzenはどんなフェーズでしたか?

CO2・電力といったESG関連の機能を本格的に開発しはじめたものの、その後の戦略はまだ定まっていない。大手企業からいい反応は貰えていたものの、ターゲットはまだ曖昧で、今後の方向性はまだ手探りといった時期でした。

― 3カ月間のプログラムを過ごした感想を教えてください。

ベースのプログラムが充実していると感じました。例えばファイナンスのメンタリング1つ取っても、VCからの資金調達のみならず、助成金や融資も含めたテクニカルな話を聞けたのはよかったです。サンフランシスコで活躍している現役の起業家を紹介してもらいアドバイスをいただいて、グローバルへの視座も高まりました。

また先述の通り、Onlab参加時にはCayzenのターゲットはまだ明確に決まっていなかったのですが、見込み顧客からの反応などを踏まえて、結果的にターゲットを大手企業に設定。この意思決定に際してはOnlabのメンターから、大手への営業ノウハウが聞けたのもよかったです。

総じて、これまでのベストプラクティスが積み上がっていながらも、必要に応じてカスタマイズもしてくれた点が良かったと感じています。

(image: BOOOST)
OnlabのDemo Dayでピッチする嶋田さん

プログラム後半のピッチブラッシュアップでは、ピッチ自体の改良に加え、中身を良くするためのフィードバックにも時間を費やしました。Cayzenは誰にでもすぐに理解していただける事業ではないため、色んな方に色んな角度でフィードバックをもらうことで、事業の上手な伝え方はかなり磨かれたと感じています。

またOnlabでは、同期のスタートアップ達と切磋琢磨しながらプログラムを過ごしたんです。どんどんピッチが上手くなる同期を見て、それが刺激になり、いい経験になりました。

「Cayzen」をグローバルなスタンダードに

― 今後のお話も聞かせてください。グローバルを目指しているとのことですが、そもそもCayzenのようなサービスは海外にもあるのでしょうか。

カイゼン提案SaaSは複数確認していて、その中にはアメリカのトヨタ出身の方がファウンダーという会社もあります。そういう意味ではCayzenも近いかもしれません。しかし今我々が注力している電気・CO2、特にエネルギー原単位からカイゼンの効果を計算する仕組みは、完全にエイトスのオリジナルです。

カイゼン活動は英語でも「Kaizen」と呼ばれています。つまり日本で始まったカイゼンがベストプラクティスとして世界に広がり、グローバルスタンダードとなっているんです。カーボンニュートラルがグローバルな課題となっている今、Cayzenがグローバルレベルで解決策を提示し、「カイゼン」のようにグローバルになっていきたいですね。

日本の代表的な産業を聞かれれば「自動車」と回答されることが多いと思いますが、この恩恵を受けられているのは、現役の方ももちろんですが、数十年前からの積み上げによるものです。同様に、エイトスがグローバルでこの領域の一番手となり、数年後、世界中で当たり前の取り組みに広げ、日本がその取り組みを牽引している状態を作ることで、次の世代に繋げていきたいと思っています。

(執筆:pilot boat 納富 隼平  撮影:ソネカワアキコ  編集:Onlab事務局)

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