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スタートアップの意思決定―煩雑なペット保険申請をラクにするサービス「アニポス」がOnlab同期から学んだこと|Meet with Onlab grads vol.5

スタートアップの意思決定―煩雑なペット保険申請をラクにするサービス「アニポス」がOnlab同期から学んだこと|Meet with Onlab grads vol.5

Open Network Lab(以下、Onlab)は「世界に通用するスタートアップの育成」を目的に、Seed Accelerator Programを2010年4月にスタートしました。2020年で10周年となるOnlabは、今までに数々のスタートアップをサポートしてきました。

今回取り上げるのは、Onlab第20期に参加した株式会社アニポス。アニポスはペット飼い主向けにペット保険申請を簡略化するサービスを提供するスタートアップです。申請では書類が多かったり、手続きが複雑だったりとペットの飼い主さんを悩ませてきましたが、独自の動物医療特化のAI-OCRを活かして申請を分かりやすく簡単にすることで、飼い主さんたちが安心して動物医療を受けられる仕組みづくりに挑戦しています。

アニポスがOnlabに参加したきっかけやプログラムから得られた経験等を、CEOで獣医師の大川拓洋さんにオンラインでインタビューしました。

株式会社アニポス CEO 獣医師 大川拓洋
株式会社アニポス CEO 獣医師 大川拓洋

獣医師の現場で気づいた、ペット保険の「不便」を解決する

― アニポスについてお教えください。

アニポスはペット保険にまつわる「不便」を解決するサービスを提供しています。ペットの飼い主さんである保険利用者がペットの医療費を保険会社へ申請するのに手続きが複雑だったり、保険の使い方を理解していなかったり、ペット保険に加入しているにも関わらず、利用していないという実態がありました。一方、保険会社では利用者から上がってきた明細書の精算などの事務手続きが未だにアナログで手間や時間がかかっている課題があります。

こういった課題に対して、飼い主さんがラクに保険金を申請できるようになるスマホアプリや、ペット保険会社が精算業務をペーパーレス化して効率的に遂行できるようになるシステムを提供していきたいと考えています。2020年4月現在、当社はペット保険各社と提携しながらサービスの正式リリースに向けて動いています。

― アニポスを立ち上げたきっかけを教えてください。

私はもともと地元の広島で獣医師として動物病院を経営する会社を立ち上げて、そこでは獣医師として働いていました。ある時、ペットの飼い主さんが診察後にお会計をする際に「そういえば私、ペット保険会社に入っていたんだっけ…」と、ポツリとつぶやいたんです。ペット保険にいつの間にか加入しているけれど、仕組みがよく分からないから申請が億劫だし、ペット保険対象は保険会社によってバラバラだし、もらえる金額も大したことがなかったし、と。他の飼い主さんにも話を聞いてみると、来院される飼い主さんたちの3割が同じような悩みを抱えていたので「これは何とかして解決しなければ」と、ペット保険に特化した事業を立ち上げる決意をしました。

アニポス社創業メンバーとオフィス移転当時(2020年2月)
アニポス社創業メンバーとオフィス移転当時(2020年2月)

― 事業を始めるにあたり、どのように仲間を集めていったのですか?

CTOの中川は高校時代の同級生で、卒業後も、私はビジネスアイデアを思いつくたびに彼に壁打ちしていたんです。彼はつまらないアイデアに対しては容赦なく足蹴にしてくるんですが(笑)、アニポスの目的やペット保険の課題には乗ってくれてジョインしてくれました。彼はプログラマーとして複数のスタートアップに参画していたので、彼を中心に、スタートアップに精通する弁護士やエンジニアなどの優秀な人材を集めることができました。経営メンバーについては、私が通っていたビジネススクールで、事業に興味を持ってくれたクラスメイトを口説いて仲間にしました。現在も10名の経営メンバーとエンジニアがいますね。

広島から上京、Onlabで叩き込まれたのは、トガったものよりも「顧客のほしいもの」

アニポス社創業メンバーとプログラム当時(2020年1月)
アニポス社創業メンバーとプログラム当時(2020年1月)

― アニポスがOnlabに参加するまでのいきさつを教えてください。

実は、当社の株主の方がOnlabを教えてくれました。それまで私は正直Onlabを知らなかったので「へえ、起業家向けにこんなプログラムがあるんだ」というぐらいの印象でした。その後、デジタルガレージの方やOnlab事務局の方を通じて、ペット保険の現状課題や事業についてお話ししたところ、「アクセラレータープログラムをやってみないか?」とご紹介いただき、すべり込みで応募しました。ご紹介がきっかけでしたが、その期は過去最高の120チームからの応募があったそうで、最終選考7社のうちの1社に採択されました。

― Onlabに参加した当時、アニポスはどのような状況でしたか?

私は地元の広島に在住しており、2018年5月頃から保険サービスの構想をペット保険会社へ提案し始めていました。その後、本格的にサービスの開発へ着手するために2019年3月に会社を設立しました。Onlabのプログラムに参加させて頂いたのが2020年1月からだったのですが、プログラムに入って、それまで作っていたアプリのほとんどと言っていいほど作り直しました(笑)。

― Onlabのプログラムではどのようなことを学びましたか?

「マーケットが求めることを提供しよう」というのが全てですね。スタートアップにありがちな、独りよがりで自分たちが作りたいものを作るのではなく、市場やお客様が求めているサービスを作ろう、と叩き込まれました。メンターからは、あなたが作っているサービスは本当にお客様がほしがっているのか、その検証はしたのか、と繰り返し問いかけられ、自社の事業のあり方を何度も見直しました。

また、スタートアップはスピード感が重要だと何度も教えていただきましたね。例えば、Onlabで隔週でオフィスアワーという事業進捗報告会があるのですが、前回から何も進んでいないと何の意味もない会になる。時間の使い方はいい意味でプレッシャーになりましたね(笑)。完璧な報告なんてできたことはないんじゃないかな。ユーザーヒアリングでのインサイトを報告しながら、行ったり来たりの日々でした。

― メンバーだけで事業を進めるよりも、フィードバックしてくれる存在がいることは大きかったですか?

大きかったですね。単独で進めるとどうしてもトガったものを作ろう、自分が納得するものを作ろうとズレてしまうし、業務に忙殺されると事業の成長速度も維持できなくなる。客観的に見てもらって定期的に意見をいただける機会はとても貴重でした。

とはいえ、アドバイザーは誰でも良かったわけではありません。誰からも聞き回ってサービスに反映させていたら、平均的でつまらないものになってしまう。Onlabにはこういうさじ加減も熟知している方ばかりいらっしゃるので、聞くに値するフィードバックを沢山いただけたと思っています。

― 「顧客にとってほしいものか?」を突き詰めるにつれ、貴社ではどのような変化がありましたか?

当社が開発したスマホアプリは、動物病院からもらったレシート(明細書)をスマホで撮ってアプリから送信すれば、加入しているペット保険会社から銀行口座に入金される仕組みになっています。ペット保険には「手続きが面倒そう…」というイメージがつきまとうので、とにかくシンプルな仕様にしたかった。なので、当初はスマートフォンでアプリを起動したらすぐ撮影画面になるように設計していました。

ところが、ユーザビリティテストをした時、なんと、誰もアプリを使えなかったんです。複雑なプロセスを排除したから大丈夫だろうと自信があったのに、蓋を開けてみると「使い方が分からない」という戸惑う声ばかり。ユーザーは「保険金を申請したい」という頭でアプリを開くのに、いきなり撮影画面が起動するからびっくりしてしまったんですね。

― 面倒なプロセスを省いているからユーザーに優しいはずが、そうではなかったんですね。

難しいですよね。でも、おかげでユーザーにとって「シンプルさ」と「簡単さ」は別物だと気付いたんです。当社のメインターゲットである30〜50代の女性が求めるのは、シンプルさよりも分かりやすさ。また、このボタンを押したら次はこんな画面になるという「安心感」でした。

このユーザビリティテストを介して、お客様の声を当社のメンバー全員でインタビューをしたことも良かったですね。私だけがユーザーと対話するのではなく、チーム全員で聞くことにより「ユーザーの求めることを反映しなければアプリを使ってもらえないし、事業は動かない」と、エンジニアも素直に作り直しましたし(笑)。Onlab卒業生の方の事例やインタビューの仕方も教えて頂きました。「ユーザーの生の声を聞く」という教訓もOnlabで得ました。

CEOとしてのあり方は、叱咤激励してくれる同期スタートアップが教えてくれた

20期キックオフ当時(2020年1月)
20期キックオフ当時(2020年1月)

― Onlabの同期のスタートアップの方から学んだことはありますか?

同じ環境にいると、やっぱり同期の事業進捗が耳に入ってくるので、彼らが順調に進んでいる時は「ウチだって負けない!」と良い刺激になりましたね。また、彼らが行った仮説検証を抽象化して当社に当てはめると、自分の頭の中でさまざまなトライアンドエラーもできますし。

私が地元で1人で会社経営していた時とは違い、アニポスを立ち上げている今は同じ志を持つスタートアップの仲間がいる。それだけで大きな励みになるし、思考や性格が合う人が多くて心地良さもありました。どうやってエンジニアを探した?というカジュアルな相談もしていましたね。

― 他に同期から刺激を受けたことはありますか?

私はCEOとして事業の決断を下す時に、どうやってエンジニアや経営メンバーに従ってもらおうかと悩んでいたんです。優秀なスペシャリストばかりが揃っているので、専門性のない私が一番、頭が回らないなあと。それを相談したところ「優秀とか関係ないよ。CEOの自分が一番事業について考えているなら、自信を持って意思決定をしなきゃ。自信が持てないなら、持てるまで考え抜きなよ」と叱咤激励をしてくれて、とても励まされましたね。

オンラインプログラムの様子(2020年3月)
オンラインプログラムの様子(2020年3月)

― 地元の広島から東京にいらしたとのことですが、広島にもスタートアップ向けのプログラムもあったと思いますが……

正直、地方でスタートアップを続けることに限界もあったんです。私は27歳から地元のスタートアップとしてずっと頑張ってきたけれど、スタートアップの中心はやっぱり東京だなとも感じていました。事業のスケールに必要な情報に触れられるのも、あらゆる有識者や仲間と繋がれるのも東京ですね。

― これからOnlabに参加しようと考えているスタートアップに、何かアドバイスがあれば!

スタートアップに限らず、誰でもアイデアは思いつくし、何かに挑戦したいと思っている。でも、人生をかけて成し遂げたいと腹をくくってアクションする人はほんの一握り。私自身、広島でも他の会社を見てきた経験があるから言えるのですが、どうやったらマーケットに良いものが届けられるのかを純粋に考えることが、事業の成功や経営の存続に必要だと思います。周りのスタートアップがどうかとか、東京どうだとかは関係なく、いかにお客様の課題の解決に取り組むかです。

その上で、とにかくやりきることです。「やるしかない」と覚悟を決めて、周りの人を巻き込みながら誠実に実現していけるかどうかにつきると思います。その中でOnlabの事務局の方は馬力があり、スタートアップへの理解もあるので、安心して飛び込めると思います。

< プロフィール >
株式会社アニポス CEO 獣医師 大川拓洋

獣医師、MBA(経営学修士)。山口大学農学部獣医学科内科学研究室卒。2014年広島市にて株式会社ベットワークを設立し、主に動物病院を経営。現場で肌で感じてきた課題を解決するために2019年株式会社アニポスを設立し、ペットの飼い主さんやペット保険会社に向けたサービスを作っている。