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バーニングニーズから事業の方向性を導き出す。aiPass(アイパス)がホテル向けオペレーションシステムになるための道筋|Meet with Onlab grads vol.17

バーニングニーズから事業の方向性を導き出す。aiPass(アイパス)がホテル向けオペレーションシステムになるための道筋|Meet with Onlab grads vol.17

Open Network Lab(以下、Onlab)は「世界に通用するスタートアップの育成」を目的に、Seed Accelerator Programを2010年4月にスタートしました。2020年で10周年となるOnlabは、今までに数々のスタートアップをサポートしてきました。Onlab第20期に参加したCUICIN株式会社(以下「CUICIN」)は、「Making trip better for everyone.」をミッションに掲げ、より良い旅行体験をつくるために、非接触型のチェックイン機能をベースにした、宿泊施設の基幹運営システム HotelStyle OS「aiPass(アイパス)」を提供し、宿泊業界のDXに取り組んでいます。

波乱に満ちたCUICINの立ち上げから宿泊業界のDXに向けての課題、Onlabに参加した理由とその中での学び等を、CEOの辻さんと、COOの山田さんに伺いました。

< プロフィール >
CUICIN株式会社 CEO 辻 慎太郎

1990年宮崎県生まれ。2014年、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科修士課程修了。大学院在学時に観光鉄道のプロモーションに携わり、代表としてROOM Inc.を設立。アパレルブランドや、生鮮流通、不動産B2Cサービスなど、様々な企業で新規事業開発に取り組む。2019年からホテル運営会社で、ホテルのブランディングとシステム開発を推進する部の責任者として従事。2019年11月にCUICIN株式会社を創業。

CUICIN株式会社 COO 山田 真由美

1988年福岡県生まれ。2011年、神戸大学発達科学部卒業。新卒で株式会社フォトクリエイト入社。インターネット写真販売プラットフォーム事業に携わる。2017年、友人たちと新規宿泊施設の立ち上げを行い、副支配人として従事。宿泊業界の旧態依然としたシステムに疑問をもち、2018年からホテル運営会社で、ホテルシステムの開発にPMとして従事。2020年1月より創業メンバーとしてCUICIN株式会社に参画。

まだまだやれるはず。前職の事業撤退を契機に3人で起業

提供:CUICIN
提供:CUICIN

― CUICINが運営するaiPass(アイパス)について、簡単に教えて下さい。

辻:HotelStyle OS『aiPass』は、非接触型のチェックイン機能をベースに、業務効率化やホスピタリティ向上などのプラグイン機能をカスタマイズすることで、施設のスタイルに合わせた理想のOSを実現します。低コストで汎用性が高いシステムを短期間に導入することで、宿泊業のDXを実現し経営を強くしていきます。2020年11月に正式版をリリースしました。

― CUICINは共同創業だと伺いました。どのような経緯で創業されたのですか?

辻:CUICINはCEOの私とCOOの山田、デザイナーの櫻井が共同創業した会社です。元々前職のホテル運営会社で、aiPassの前身となるスマートチェックインサービスを運営していたチームがそのまま独立して創業しました。というのも、その当時、急な経営判断でその事業から撤退することになってしまったんです。ただ僕らのチームとしては、サービスの骨格が見えてきた矢先だったので、「まだまだやれるはず。だったら勝負してみたい」という思いが強かった。そこでその会社の経営陣と相談して独立することにしたんです。

― 会社の創業はスムーズにいったんですか?

辻:僕自身が今まで新規事業を担当していましたし、起業経験もあったので、新しく会社を立ち上げることに対してのハードルが高かったわけではありませんでした。

山田:私自身は、ホテルで働いていた経験があったので、ホテルの課題が身に沁みてわかっていました。なので「この事業はこれから必ず伸びる」という確信があって、事業は継続したかったんです。辻が先陣を切ってくれたからこそ、会社を立ち上げることができました。辻がいなかったら、CUICINの起業はできていなかったですね。

提供:CUICIN
提供:CUICIN

― 山田さんが感じたという、ホテルの課題を教えてください。

山田:私は新卒で就職した会社を辞め、友人から誘われて宿泊施設の立ち上げを経験しました。2015年の話なので、これからインバウンドが盛り上がるぞと言われていた時期です。そこで副支配人として宿泊施設を立ち上げました。

その時に初めてホテルのオペレーションを経験して、とてもアナログだなと感じたんです。例えば、チェックイン情報は紙で書かれたものをスタッフが手作業でシステムに打ち込んでいるし、旅行代理店からの予約通知はFAXで来る。基幹システムは、慣れるのに貴重な時間を費やしてしまうだけでなく、複雑で使いにくい。とにかく、アナログで非効率な業務が多いと思いました。その一方で旅行者はスマホを使いこなして、スマートに旅をしている状況。明らかにホテル側が遅れていると感じたんです。この業界の生産性をあげて、旅行者によりよい体験を提供したい、と強く思いました。

― それでホテル向けのソリューションを作ろうと思ったんですね。

山田:はい。これから色々な業界が宿泊業へ参入しようとしているのに、ホテル業界の人しか使えないシステムでいいのか。従業員だって世代が変わって、スマホのUIに慣れている人が増えてくる。更には人材不足や海外対応の観点から、外国人を積極的に採用しようという流れの中でこの複雑なシステムのままでよいのだろうか?そんな疑問が浮かんできて、「もう変わるべきタイミングだ」と直感しました。

バーニングニーズからオペレーションシステムという解をみつける

― 会社の設立が2019年11月でしたが、Onlabにはどのような経緯で応募されたんですか?

辻:先述したようにCUICINは前職の会社からスピンアウトした会社です。ですのでプロトタイプはほぼできていたんですよね。シード向けのスタートアップ支援をするOnlabの存在は昔から知っていて、これまでは自分は対象ではなかったのですが、起業して資金調達も動いていたので、いいタイミングだと思い応募しました。

実は、独立する際に「資金調達できなかったらいったん解散しよう」という話をしていたんです。VCにも数社お声がけをしながら、資金調達とサービスのブラッシュアップも支援してくれるOnlabに挑戦しました。

― Onlabとの当時の面接を覚えていますか?

辻:めっちゃ覚えてますね。言い訳ではないですが…(笑)急遽独立して、まだピッチデック(プレゼン用の資料)もほとんどない状態で。ただOnlabの担当の方とは丁寧にディスカッションさせてもらって、選考の場ではあったのですが、いい壁打ちパートナーになっていただいたという印象でしたね。

山田:選考の前にOnlabで実施している事業相談会に参加させて頂いて、プログラムディレクターの佐藤さんから「ユーザーの課題は」「どういう山の登り方をするのか」といった質問を投げかけられて、そういう機会も活用しながら選考に臨んだ記憶があります。そこから面談用にピッチデックも作り直しましたね。その繰り返しで最終面談までいくことができました。最終面談は、DG経営陣の前でかなり緊張したのを覚えています(笑)

― メンタリング・壁打ちを経てプロダクトは変わっていきましたか?

辻:aiPassはユーザー視点から見ると、チェックインや館内案内、周辺案内、チェックアウトができるというもので、根幹は変わっていません。

ただ「誰のためのソリューションなのか」という点は議論を重ねました。「aiPassはC向けなのか、B向けのソリューションなのか」とずっと言われましたね。最初はどっちつかずだったのですが、まずは法人向けのソリューションとして舵を切りました。そこはひとつ大きな変化でした。

Onlabのプログラムの中でもずっと言われていたのですが、バーニングニーズ(顧客が今まさに直面している課題)に徹底的にフォーカスしました。事業会社にヒアリングさせてもらって、チェックインという単体のソリューションではなくて、いわゆるオペレーションシステムという、ホテル運営の肝である課題が非常に燃えていることを掴んだので、今はそちらに振り切っています。

― オペレーションシステムとしての課題というのは、先ほどのホテルのアナログな一面ということですか?

山田:そうですね。既存システムが複雑化しているというところがポイントです。現場は、色々なシステムを繋ぎ合わせて、雁字搦めになったものを運用しているんですよね。それが原因でホテル運営は非効率で高コスト、かつレガシーになっています。

これは事業が進んでいく中で言語化できたことなのですが、既存のシステムは、「予約管理システム」として作られているんです。設計思想が予約情報をどう引き継いで運用管理していくかという観点で作られている。それが使いにくさや非効率さの原因になっているんです。

aiPassは「チェックイン」という顧客とのタッチポイントを活用して、「顧客管理」をするオペレーションシステムとして作り込んできました。そのため今は「予約管理から顧客管理へ」といったメッセージを打ち出しています。このメッセージもソリューションの着眼点は変わっていないのですが、「チェックインの業務効率化」という見せ方や伝え方から、より顧客に何が刺さるのかを徹底的に磨き込んだ結果、生まれたものだと思っています。

提供:CUICIN
提供:CUICIN

― Onlabでの経験は役立っていたのでしょうか?

辻:もちろんです。プログラム期間中はひたすらバーニングニーズのことを考えていましたから(笑)。当時は盲目的に「絶対にチェックインは売れるサービスになる」と思っていましたが、いざ蓋を開けてみたら「チェックイン」というよりは「オペレーションシステム」としてのほうが顧客のニーズに適っていることがわかりました。柔軟に切り替えできた、いい意味でピボットできたのがよかったのかなと思います。

山田:「チェックイン」いうキャッチーな面を持ちつつも、一番深い課題である「オペレーションシステム」をどう変えていくかを深く考えることができたのがよかったと思っています。

プログラム後にコロナ禍が本格化してきたのですが、その時だともうアクセルを踏むしかない状態で、心情的にも事業的にも顧客と向き合っている余裕がなかったかも知れません。結果的にOnlabの期間に顧客とちゃんと向き合える機会を作れたことで、目先のチェックインサービスに飛び付いて、そのまま事業を進めなくて良かったと振り返って感じますね。

― 顧客の声を聞いてオペレーションシステムとして運営しているとのことですが、実際に商談になった時にお客さんはどういう反応をするんですか?

辻:各施設状況が違うので、皆さんから色々な要望を聞いています。ただそれに1から10まで全部応えるというのは難しいので、僕らが基礎機能と呼んでいるチェックインシステムを中心に考えています。とはいえ要望にはなるべく応えていきたいので、現在はプラグインという形で提供しています。

要望をヒアリングしていく中で、おおよその傾向は見えてきました。大きくは「ホスピタリティーを上げたい」「業務を効率化したい」「集客力を伸ばしたい」この3つです。今はこの3つのニーズを中心にプラグインのパッケージを提供しています。

Onlabは人をみつめて成長に寄り添ってくれる、メンターや採択企業の多様性も強み

提供:CUICIN
提供:CUICIN

― Onlabのピッチはいかがでしたか? このBatchからコロナ禍の影響もあって、プログラムもオンラインに切り替わり、今までと勝手が違った部分もあったかと思います。

山田:Onlabでのピッチは、事業をどういうストーリーで伝えていくのかというところから、構成を作り、発表してフィードバックをもらって、修正してという流れを繰り返しました。オンラインとはいえ皆さんの前でピッチをしなければいけないので、かなり練習しました。

ピッチ練習の中で感じたのは、自分たちの意見をしっかりもっている必要があるということです。何人ものメンターの方が様々な観点からアドバイスをくれるのですが、全て取り入れるわけではありません。色々な視点がある中で、最終的には自分達が大切にしている視点や、大事にしているプロダクトの価値をブラしてはいけない。軸を持つということの大切さを学びました。ここはその後の投資家とのミーティングの場でも役に立っていますね。

― オンラインでのプレゼンでも手応えがありましたか?

山田:手応えはありましたね。投資家だけではなくて事業会社からも反響を頂きました。録画ならではだと思うんですが、ピッチ動画を自分たちの振り返りに使ったり、コンテンツにして、お客さんに商談前に見てもらったりしています。ピッチを通してアウトプットをやりきったことで、どういうストーリーでお客さんに伝えるべきかも明確になってきたと思います。

― 2020年11月にはついに正式版もリリースしました。

辻:2020年9月にスマートチェックイン機能を先行してリリースしていたのですが、創業日である11月13日に正式にフルオープンしました。大手ホテルと業務提携も決まり、採用も少しずつ進め、事業も組織も成長しているところです。

― 今後の展開を教えて下さい。

辻:CUICINとしては、宿泊業界が変われば観光業もちゃんと回復すると考えています。そういった思いから、自治体とのアライアンスも強化しています。このような観光に対して貢献できるようなサービス作りには、これからより注力していく必要があるなとは思っています。

山田:宿泊施設から近隣施設など観光に繋がる部分で、aiPassを活用していきたいです。今後スマートトラベルやスマートシティという概念が普及していく中で、aiPassは「パーソナライズ」「カスタマイズ」「シームレス」をキーワードに旅行体験を描いています。宿泊業のDXに止まらず、旅行体験まで変革していくのがaiPass最終目標です。aiPassで顧客情報をしっかり管理・蓄積して、お客さん一人一人にパーソナライズされたプランをカスタマイズして、シームレスに旅行してもらう。それが宿泊施設の中だけではなくて街中とか、観光全体に広がっていけば、旅行体験を大きく変えていけるのではと考えています。

提供:CUICIN
提供:CUICIN

― 最後に、Onlabに興味がある方に、メッセージをお願いします。

辻:起業家を育成するという面では本当にいいプログラムだと思います。ファイナンスも含めて全部手厚くやってくれるプログラムはないと思いますね。

山田:私は起業経験がありませんでしたがプログラムに参加することで「顧客のバーニングニーズは何か」「PMF(プロダクト・マーケット・フィット)とはどういう状態か」等、事業をつくる上で向き合うべき問いを実践しながら身につけられたと思います。単に知識や事例を受け身で教えてもらうだけでなくて、「じゃあ実践してみて」「はい発表して」というのがOnlab。こういった経験を積むことで、チーム内で事業の考え方も言語化でき、事業はもちろん、個人としても成長できたと思っていますので、本当おすすめです!

辻:Onlabの特長は、色々な起業家やメンターがいるところなのかなと思います。未来の可能性を変に摘まないという点も良い部分だと思います。多様な事業アイデアも、Onlabならちゃんと社会実装できるようなビジネスにまで成長させてくれるのではないかなと思います。

今って色んなアクセラレーションプログラムが出てきているじゃないですか。そういうのですぐ売上が立ちそうなBtoB SaaSとかが選定されている気がするんですよね。ただ突然変異をするビジネスは絶対にあると思いますし、今みたいな市場が荒れたり社会環境がガラッと変わるタイミングでは異質なものほど強かったりします。そういうところをちゃんとまともに成長させてくれるというのは、Onlabのいいところですね。

山田:Onlabは人を見ている感じがあります。事業に対する思いとか、ビジョンを大事にしたい人、思いがある人はOnlabに向いていると感じます。

2020年11月13日 ― 創業してちょうど1年目のタイミングで、正式版をローンチしたaiPass(アイパス)。会社員時代の思いを受け継ぎながら、顧客の声に耳を傾けてきた結果が、今日のaiPassの進化に繋がっています。業界を変える挑戦は、並大抵のことではできないと思いますが、CUICIN社が掲げる3つのValueでもある「Customer Obsession(顧客にこだわる)」「Creative Confidence(創造力を信じ発揮する)」 「Co-creation(共に価値を創造する)」 で、必ずや「旅行体験そのものを変革する未来」が作れるのではと期待しています。多様性を持ったメンバーが集まり、お互いの役割を理解し前進する。チームの魅力もCUICIN社の大きな武器のひとつです。