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ライフスタイル・産業の変革にサステナビリティ。「コンソーシアム型」オープンイノベーションで30年後の未来に手を伸ばす|東芝テック × 三菱地所|Onlab Open Innovation

ライフスタイル・産業の変革にサステナビリティ。「コンソーシアム型」オープンイノベーションで30年後の未来に手を伸ばす|東芝テック × 三菱地所|Onlab Open Innovation

2022年、デジタルガレージはオープンイノベーションプログラム「Open Network Lab ─ Open Innovation ─(以下「Onlab Open Innovation」)」を発表しました。Onlab Open Innovationの目的は、スタートアップが大企業や行政と協業し、新たな価値を生み出し社会実装を推進すること。デジタルガレージが持つFinTechやマーケティング領域、web3やESGなどのビジネスリソースはもちろん、パートナー企業の協力も得ながら、1対1ではなく「コンソーシアム型」で、スタートアップが協業パートナーと高速でビジネス検証・開発をできる体制や環境を構築していきます。

本記事では、Onlab Open Innovationへ参画する東芝テック株式会社(以下「東芝テック」)の石井さんと、三菱地所株式会社(以下「三菱地所」)の橋本さんに、両社がCVC(※)をもつ理由、投資領域、そしてOnlab Open Innovationへの参画理由や参加スタートアップへの期待などについて伺いました。

(※)本記事ではファンドの有無に関わらず、両社のスタートアップへの投資機能を便宜的に「CVC」と呼んでおります。

< プロフィール >
東芝テック株式会社 新規事業戦略部 CVC推進室 エキスパート 石井 達也

2010年関西大学卒業後、カルチュア・コンビニエンス・クラブ入社(2015年グループ会社のCCCマーケティングホールディングス転籍)。社長室、経営企画室として中期計画策定やデータビジネス領域の協業案件をユニット長として推進。その後、M&A、スタートアップ出資をプロジェクトマネージャーとして従事。2022年10月より東芝テック入社後、新規事業創出における中期計画策定、ストラテジー立案を実行しつつCVC推進室にて投資案件の実行責任者を従事。

三菱地所株式会社 新事業創造部 主事 橋本 雄太

新聞社、コンサルティングファーム、鉄道会社を経て2021年2月より現職。成長産業の共創をコンセプトとするCVCファンド「BRICKS FUND TOKYO」を企画、立ち上げ。国内外のスタートアップへの新規投資および投資先支援、ファンド全体の戦略企画に従事する。前職では、アクセラレータープログラムやインキュベーションオフィスの立ち上げ、複数のスタートアップとの資本提携、新規事業企画などを推進。オープンイノベーションによる企業変革の長年の経験を活かし、新産業の創出への貢献を目指している。

30年先を見据えてスタートアップ投資を仕掛ける

― 石井さん、橋本さん、本日はよろしくお願いします。まずは東芝テック、三菱地所のCVCの紹介をお願いします。

石井(東芝テック):
東芝テックの石井です。東芝テックのCVCは2019年に設立しています。

東芝テック株式会社 新規事業戦略部 CVC推進室 エキスパート 石井 達也 さん

石井(東芝テック):
我々CVCのミッションとしては中長期的にスタートアップ企業との関係を構築し東芝テックの未来をつくる事業を生み出していくことです。東芝テックは主にPOSシステムを提供している会社ですが、近年のリテール業界を見ていると、お客さまの買い物に対する価値観が多様化し、リテール各社も変化に対応しなければならない状況になってきているという事を感じています。さらに、人口減少、少子高齢化、労働者減少も大きな影響をもっています。当然ながら、リテール業界にも多方面において大きなインパクトがあり、経営課題も多様化・深刻化していきます。弊社としてもそれら課題の解決を支援する為に、POSを中心とした領域から、大きく拡げる必要もあり、そのためのいち手段としてCVCを位置付け、現在我々がスタートアップへの投資を推進しています。

橋本(三菱地所):
三菱地所の橋本です。当社では「BRICKS FUND TOKYO」というCVCを2022年に立ち上げました。

三菱地所株式会社 新事業創造部 主事 橋本 雄太 さん

橋本(三菱地所):
ご存知の通り、三菱地所は丸の内などでまちづくりを行う不動産デベロッパーです。石井さんの言うように、日本は人口減少や少子高齢化という社会課題に直面しています。それに対して三菱地所は長期経営計画で、ビジネスモデルの革新を謳っており、2016年に新事業創造部を立ち上げ、これまで農業や再生可能エネルギーといった事業の創出に取り組んできました。また、アクセラレータープログラムなどを通してスタートアップとのオープンイノベーションにも積極的に挑戦してきました。

これまでのオープンイノベーションの取り組みは、比較的既存事業に近い領域での協業が主でした。しかしテクノロジーの進化は速く、既存事業だけでなくもっと成長領域に対して能動的にアプローチしなければならない。こういった危機感もあり、2022年にBRICKS FUND TOKYOというCVCを作り、ファンドとしてしっかりポートフォリオを組んで、未来の事業の種になり得る次の成長領域にアプローチすることにしたのです。

石井(東芝テック):
これまでの活動の礎があったからこその転換なわけですね。

橋本(三菱地所):
おっしゃるとおりです。過去のオープンイノベーションにおける成功や失敗が共通認識となったことで、経営陣にも「こういったアプローチも必要だ」と言ってもらうことができました。積み重ねのない中でいきなり「CVCファンドを作りたいです」と言っても難しかったかもしれませんね。

― 例えば「三菱地所ベンチャーズ」のように、ファンド名も社名を冠する方が外からわかりやすいように思えたのですが、なぜ「BRICKS FUND TOKYO」という名称にしたのでしょうか。

橋本(三菱地所):
BRICKS FUND TOKYOはそのコンセプトに「成長産業の共創」を掲げています。このファンドは、投資にあたって三菱地所の既存事業との関連性や協業可能性を前提としていません。なのでファンド名にも「三菱地所」の名称はあえて冠せず、あたかも独立系のVCかのような見せ方をして、スタートアップからもフラットに見てもらえたらと考えました。

実際、投資先には移動型店舗向けプラットフォームのMellowなど既存事業との親和性の高い不動産テックの会社もいますが、例えば経済活動のデジタル化を志向するLayerXや、ミレニアル世代の女性向けキャリア支援事業を行うSHEなどにも投資しています。彼らが産業のプラットフォームになる時には、我々との交点が生まれ、新たな事業機会を得ることができるだろうなと思って投資したものです。三菱地所はこれまで日本の産業の中心である丸の内エリアを開発・運営してきた会社なので、次の産業をスタートアップとつくることができれば、新たな雇用を創出し丸の内というまちが世界のイノベーションセンターとして賑わうかもしれない。日本から新たなイノベーションが生まれにくくなっている中で、もう一度世界をリードできる産業をつくるというところに貢献をしたいという思いが個人的にもあって、ファンドの名称を決めました。

石井(東芝テック):
なるほど。東芝テックは2022年、「売らないお店 = 体験型店舗」を標榜するb8taに出資しました。一見これはPOSとは相性が良くないようにも見えるかもしれません。しかし新しいテクノロジーが消費者の価値観や行動変容を起こしていく中でお店のあり方が変わる。ひいては、小売りさんへ店舗運営システムを収めている我々自身も変わらなければいけないという危機感があったため、出資を決断しました。東芝テックからも積極的に仕掛けて、リテール全体の構造を変えなければならないと思ったわけです。

石井(東芝テック):
この件も橋本さんが語るように、数年といった短いスパンではなく、10年、20年、30年と、もっと長い時間軸を見据えた投資だと思っています。リテールの従来の在り方を否定して、新しい環境を提案してくれるディスラプターとしてのスタートアップにはどんどん出資していきたいですね。

橋本(三菱地所):
やはり既存の延長ではない目線も重要ですよね。CVCはその次の未来を作る部隊だと思うので、そこはチャレンジングにやっていきたいです。

石井(東芝テック):
完全に同意です! 我々も長いスパンを見据えて、スタートアップ投資を通してリテールの未来に向き合わないといけないと思っています。

代表的な投資先は? 業界の在り方を変革するスタートアップたち

― 社会の変化に対応したり、30年後の新規事業を創るためのCVCということですね。両社のCVCの特徴を表している投資先を教えて下さい。

橋本(三菱地所):
BRICKS FUND TOKYOからは、例えばGeltorというバイオテックの会社に投資しています。ここはプリンストン大学発の研究開発型のスタートアップで、植物性のコラーゲンを作っている会社です。コラーゲンは世界的に需要が拡大しているのですが、動物性の廃棄物がSDGsの観点から問題視されていて、代替コラーゲンのニーズが高まっているんです。この人工コラーゲンは既に製品化されていて、化粧品などで導入されています。

三菱地所がバイオテックというと違和感があるかもしれませんし、実際、現時点では協業もしていません。しかし細胞培養などのバイオテックは、政府が明言するようにこれからの日本の基幹産業になる分野。三菱地所としてもそこにアンテナを張らなくてはならないということで投資を決断しています。もちろん社内からも「なぜバイオ?」「なんで投資?」と散々聞かれましたが、その度丁寧にCVCの役割や信念を説明して説得しています。Geltorに関しては単に投資して終わりではなく、関係者から他のバイオテック企業やキーマンを紹介していただくことがアメリカでのネットワーク作りにも役立ったりと、期待以上の効果が出ています。

橋本(三菱地所):
また国内だと、店舗の電話応対DX SaaSを手掛けるIVRyに投資しています。こちらも単に電話応対のDXだと三菱地所から遠く感じますが、昨今話題の大規模言語モデル(LLM)を応用することで将来的には、深い文脈のやりとりをデジタル化し、まちの中のUI/UXを高めていく可能性があります。

石井(東芝テック):
東芝テックはイスラエルのCatchに投資しています。この会社は、ショッピングカートに装着できるタブレット型の端末を用いて、リアルタイムで消費者行動を分析しコンテンツ配信を行うといったリテールメディアプラットフォームを提供するスタートアップです。特徴として、GDPRといった欧州での厳しい個人情報規制などを視野に、極力個人情報を使わずにその時その時の消費者行動のモメンタムをとらえ、AIにより関連するコンテンツを配信することができます。例えばスーパーで麻婆豆腐を作ろうかなと思った人がお肉や豆腐コーナーを通った際に、お客様の行動をリアルタイムにAIが分析してその商品に関連するクーポンや関連商品の提案をするといった具合のサービスを展開しています。

先ほどのb8taもそうですが、両社ともある意味で今のリテールの在り方に新たな定義を加えようとチャレンジし、新しい価値を創造しようとしている会社です。東芝テックはそんなスタートアップに積極的に声をかけて、投資活動に繋げています。海外案件はまだ少ないのですが、今後は海外スタートアップにも積極的に投資したいですね。

コンソーシアム型にわざわざ参加する会社の意見をまとめて聞けるチャンス

― デジタルガレージが運営してきたオープンイノベーションプログラムは、2023年からOnlab Open Innovationとして再始動しました。東芝テックと三菱地所にはそのパートナーとして参画していただきます。参加の決め手を教えて下さい。

石井(東芝テック):
Onlab Open Innovationについては、「コンソーシアム型」のオープンイノベーションプログラムだという点が非常に面白いポイントだと感じています。複数の会社が集まり、それぞれの強みを提供し合って大きなプロジェクトを創っていく。これが本来のオープンイノベーションの在り方ですよね。例えばスタートアップと三菱地所と東芝テックで一つのプロジェクトを大きく育てる。そこに魅力を感じたのが今回参画した最大の理由です。

橋本(三菱地所):
三菱地所も同様です。私は前職でもアクセラレータープログラムを運営していて、いくつもPoCを手掛けてきました。一方で「1対1ではなく、1対n、n対nのオープンイノベーションなら、もっとビジネスに広がりをもたらせる可能性がある」という学びもあったんです。三菱地所としてもずっとアクセラレータープログラムを運営してきていて、似たような課題感を抱えていたところに、Onlab Open Innovationに出会いました。不動産テック(Resi-Tech)という枠組みを超えて、東芝テックのようなリテールだったり、他の業種、そしてスタートアップと連携していく。これが我々としては理想的な座組みだなと思って仲間に入りました。ここからn対nのオープンイノベーションを仕掛けていきたいです。

石井(東芝テック):
既存事業同士で連携しようとすると競合してしまい、ライバル関係になりかねないんですよね。でも業種、業界を超えて新しい価値を生み出すなら、そのリスクは小さい。オープンイノベーションにおいては、それぞれのリソースをダイナミックかつスピード感をもって提供していくことが事業会社の責務だし、価値があるところです。その役割を果たしながら新たな事業を創っていきたいですね。

橋本(三菱地所):
日本には100年企業がたくさんあるように、我々は先人が作り上げてきたアセットの上でビジネスをしていると言えます。今を生きる我々は、そこに胡座(あぐら)をかくだけではなく、新しいビジネスを作っていかないといけない。そのためには我々も変わっていかなければいけないし、世の中も変えていかなければならない。我々ができることは、次のチャレンジャーであるスタートアップと一緒に新しい価値を創っていくこと。先人から引き継いできたアセットをスタートアップに流し込んで、新しい価値を一緒につくっていくこと。そういった同じ志を持った大企業が集まってひとつのプログラムになっているというのは、非常に貴重な機会だと思います。

― Onlab Open Innovationでは募集テーマを設定していますが、両社の関心領域はどこでしょうか。

橋本(三菱地所):
正直、「これだけやりたい」という領域はなくて、テーマ全般に関心があるんですよね(笑)。というのは、先述したように、我々の知らない領域、未知のサービスにどれだけ出会えるか、気付きを得られるかといった点も大事だからです。むしろ思ってもみなかったような出会いがあることを期待しています。そういう意味ではスタートアップだけでなく、東芝テックのようなパートナー企業も同様です。プログラムでは「もしかしたらこの会社とこの会社と3社組み合わせたらこんなことが起きるんじゃないか」みたいな会話を生んでいきたいですね。

石井(東芝テック):
我々も同様です。私見ですが、同じ領域の人間の頭の中はどれも同じなので、想像以上のものはなかなか生まれにくいんじゃないかと思っています。でもスタートアップでも大企業でも、他の領域の方々とディスカッションすると、今まで気付かなかった発見があるものじゃないですか。今回のコンソーシアム型ならそういう発見も期待できますし、そういう意味では東芝テックとしても多くのテーマに携わりたいです。

石井(東芝テック):
とはいえ、我々はPOSを中心とした周辺サービスを提供している会社なので、新しい価値観をもってそれを上手く使ってくれるようなサービスにはもちろん関心があります。

またリテールに限らずですが、近年は「サステナブル」が社会課題として注目されているのは間違いありません。今はエシカルな商品やカーボンニュートラルが話題に上ることが多いですが、この先はもっと多様な観点が登場するでしょう。今後リテールは、ユーザー接点としてサステナブルに対応していかなければならない。とすると自社だけですべての観点に対応するのは難しいはず。東芝テックとして何に対応し、何を提供しなければならないかについては正直まだ私も朧気なのですが、近い将来にここをしっかりと固めていくことは重要な課題だと考えています。

橋本(三菱地所):
確かに、ESGやSDGsといったサステナビリティの流れは今後も止まらないでしょう。それにESGという単位は、企業1社で対応するには大きすぎます。だからこそ産業を横断して対応しなければいけない。そこにいかにスタートアップのテクノロジーが貢献できるか。こういった観点をまさに今回のOnlab Open Innovationで考えられると、社会的な価値が高まると感じています。

― ライフスタイルの変革、産業DX、サステナビリティ。このあたりは特に関心が高そうですね。最後に、Onlab Open Innovationへの参加を検討しているスタートアップに、メッセージをお願いします。

石井(東芝テック):
今回のOnlab Open Innovationは新たなチャンスだと思っています。つまり、多くの事業会社が関わるコンソーシアム型のオープンイノベーションプログラムはなかなかないので、参加する会社の意見をまとめて聞けるのは、またとないチャンスだということです。「このテーマだから」「この会社だから」という主語や細かいことは最初は置いておいて、まずはイノベーションや新しい産業を生むという高い志を持つ会社にご応募いただきたいですね。あとは話をしながら進めていきましょう。ひとまず志だけお持ちいただいて、お話できたら嬉しいです。

橋本(三菱地所):
スタートアップの皆さんはとにかく事業を成長させようとして、まさに志を叶えるために日々頑張っておられます。我々はその成長に貢献できるように汗をかく覚悟でいますし、まして大企業はその邪魔になってはいけません。まずはプログラムにご応募いただいて、いい出会いをつくり、大企業のリソース・アセットを使い倒してほしいです。

とはいえ、「なんか感覚が違う」ということも、スタートアップと大企業なのであるかもしれません。そういった場合は事務局のデジタルガレージが双方に寄り添って目線合わせをしてくれるはずです。ですので我々を遠慮なく使い倒してください。お待ちしています。Onlab Open Innovationでお会いしましょう。

― 石井さん、橋本さん、ありがとうございました。

(執筆:pilot boat 納富 隼平 撮影:taisho 編集:Onlab事務局)

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