2021年05月11日
Open Network Lab は日本初のアクセラレーターとして、2010年よりプログラムを運営し、giftee、FRIL、WHILL、SmartHRといった、上場や資金調達を経て成長し続ける130社ほどのスタートアップを輩出しています。
また、Onlabではスタートアップ支援として課題検証やプロダクトづくりのためのユーザーインタビュー、サービス開発などのノウハウやTIPSをOnlab生と共有しています。今回は、4月14日に開催したOnlab卒業生「giftee」の共同創業者をお招きしたオンラインイベントの模様をお届けします。
2019年に上場したカジュアルギフトサービス「giftee」を共同創業し、UI設計からデザイン、開発までを担うフルスタックエンジニアでもある中原 寛法さんをお招きし、創業期からスケールのフェーズに至るまで、プロダクトをどのように考え、ユーザーとどう向き合い、難題をどのように解決してきたのか、実際の制作物も交えながらOnlabの古川がお話を伺いました。
< プロフィール >
株式会社 nD Founder / Creative Director 中原 寛法
千葉大学大学院デザイン科学専攻でユニバーサル・デザインを研究。大学院修了の翌日の2003年4月1日からフリーランスとして活動後、2009年に株式会社nDを設立。ソーシャルギフトのスタートアップ「giftee」の創業や、スタートアップ企業数社のデザインアドバイザリー、企業の新規事業開発のアドバイザリーも務める。株式会社 Alternative Startup 取締役、株式会社 giftee 共同創業者。
https://www.ndinc.jp/
株式会社デジタルガレージ Open Network Lab 推進部 古川 裕也
日本・タイでの二度の創業。起業家のパートナーとして寄り添えるアクセラレーターに関心を持ち、Onlabへ参画。スタートアップの成長ボトルネックの発掘と解決を目的としたStartup Success Managerとして、主にスタートアップ支援コンテンツ開発、事業進捗カルテ管理、メンタリングに従事。得意領域は、プロジェクト管理・仮説検証キャンペーン管理、Web・CRM活用したデジタルマーケティング、Webプロダクトのデザイン・設計。
Contents
古川:
中原さんはこれまでどのようなお仕事をされてきましたか?
中原:
広告のプロジェクトではGoogleの「Google 未来を選ぼう 衆院選2009」などのキャンペーンなどを4年程やっていて、ディレクション、デザインから開発までを担当しました。サービス開発では2008年くらいからauのRUN&WALKも設計・ディレクション・開発などを行ってきました。
スタートアップ領域では、gifteeの共同創業、設計からフロント側の開発まで行い、Soup Stock Tokyoやスターバックスへの営業活動までしていましたね。他のスタートアップでは、地域・地方に特化したクラウドファンディングのFAAVOの立ち上げからブランディング、アイディアを持ち寄って商品やサービスをつくれるコミュニティBlaboの2011年頃のリニューアル、誰でも簡単に風景写真を撮影できる写真SNSのPASHADELIC、クラウドファンディングのMotionGalleryのリニューアル、国際物流をやっているShippioのブランディングやピッチ設計サポートなども携わってきました。
古川:
本当に成功請負人ですね!興味深いです。今では上場企業として大きく成長したgifteeですが、当時のアイディアからユーザーに愛されるプロダクトとして成長させるためにはどのようなことをしてきたのでしょうか?
中原:
こちらは当時のgifteeのサイトです。当時のトレンドとして、Facebookのソーシャルグラフを表示しておこうとか、スマホよりPCで物を買うのでPCでの利用を考慮したつくりが反映されています。今ではもう無い機能ですが、他の人が何を贈っているのかというのも可視化していました(画像左下)。
古川:
C向けのサービスですと、他のユーザーと同じことをしているというような一体感で行動を促すことは重要ですよね。
中原:
そうですね。右側の方では受賞したり取り上げられたりといったメディア掲載して、ユーザーへの安心感を演出していました。当時はまだスタートアップが大手企業と組む事例があまりなかったので、どうやったら目を引いてもらえるかを考え、アーリーアダプターが使いたくなるように、目新しさやスタイリッシュさを意識していました。当時メジャーなSNSはTwitterだったので、Twitterで贈りあっているという景色をユーザーに見せてあげて、あの人も使っているよという訴求をしていきました。
企業側でも、販売促進はチラシだったり、食べログなどのメディアに掲載だったり、まだカジュアルにできるところがそれほど多くなかったので、ギフトで贈れるという新しい文脈で送客できるのは、当時流行り始めていたコーヒーカルチャーや若い飲食店の人と相性が良く、徐々に広まっていきました。その流れで無印良品さんへ提案に行くと、とりあえずやってみたいというような反応をいただけました。
古川:
こういったコンンセプトメイクは文章に落とし込んだりしていましたか?
中原:
明文化まではしていませんが、元々広告関連の仕事もしていたので、企業が求めているものの勘所というのはあったかもしれないです。一番大切と考えるのはユーザーが使っている場所、gifteeで言うとカフェだったので、創業メンバー3人で集まって、あの人が実際に使っているとするとどんな感じなんだろう?と想像していました。コーヒー屋にいるのに、ずっとレジを見ていましたね。「giftee」というプロダクト名もカフェで決まった記憶があります。
古川:
実際にユーザーがいる場所でインサイトを発掘されていたわけですね?
中原:
そうですね。当時3人でアイディアを考えていた時は、まだ名もなきスタートアップがスターバックスへコンタクトを取るには、どうしたらいいんだろう?と思っていたのですが、僕が元々 Creative Commons などの伊藤穰一さんの動きに興味を持っていたこともあり調べていたときに、その流れでデジタルガレージでOnlabというシードアクセラレータープログラムが始まることを知って、応募することにしました。
当時、デザインは僕が行い、パターンをひたすら作っていました。色とか、形とか、ボタンのサイズとか最後まで悩みました。いわゆるギフトラッピングというと赤とか可愛らしいファンシーな物が多かったですし、一方で食べ物はオレンジとか暖色系が多く、間をとって赤オレンジがはまりそうではあったし、いろいろとアドバイスもいただいたんですが、差別化が難しいと思いました。
Call to Action(コール・トゥ・アクション)という考えもあって、一般的にはブルーのボタンがコンバージョンが良いとされていたんですが、フードとの色の相性は良くなかったのもあり、また様々なブランドや飲食店さんに入ってもらうのに、カジュアルだったり、落ち着いたお店だったり、いろんな店舗がWebサイトに並んでいくことを考えると、ロゴはニュートラルな方向に振っておいた方が良いのではないかとか、とにかくロゴ決めは難しかったですね。
古川:
ロゴだけでそれほどバックグラウンドストーリーがあるとは思いませんでした。そこまで考え抜いているんですね。
中原:
実はロゴは初めはオレンジ色で、gift.eeというエストニアのドメインを取ろうとしましたが取れず、ならば変えようと黒ベースであまり見ないフォントタイプにし、ギフトっぽいマークを考案しました。そしてユーザーに対してUXや利用シーンを伝えるために、初期からサービスの利用ムービーも作成しました。当時はTOPページに動画が載るのがトレンドでした。
オープンしてからは、Twitterでの反応はとても良かったです。今ほどスタートアップサービスが乱立していなかったというのもありますが、オンラインでギフトを贈れて、Twitterでその様子を見ることができるというサービス体験は意外性があり洒落ていますねと言われ評判でした。
中原:
2011年3月にローンチして、その10日後に東日本大震災が起こり、スタートアップをやっている場合ではなくなりました。至急Webサイトも変更し、gifteeを通じて寄付ができるようにしました。「Send a small thank you」も「Send a small がんばろう」というメッセージに変更しました。
古川:
時代の流れに即座に適応させていくあたりがスタートアップらしい素早さですごいですね。それにしてもサービスローンチ後でのハードシングスでしたね……。先ほどのロゴのお話もしかり、多くのデザインを作られていたと思うんですが、どうやってUIを決定されていたんですか?
中原:
デザインを本当に数多くつくりましたが、日の目を見なかったものもたくさんありましたね。自分自身で不採用にしているデザインが7割くらいありました。何行で並べるか、何段にするか、初期は店舗数も少なかったのでバランスが悪いなとか、色も使いすぎるとバラバラしてくるなとか、ドロップシャドウも付けすぎると暑苦しくなるなとか、いろいろ試行錯誤の日々でしたね。
古川:
リリース後はどのように検証していったんですか?
中原:
ユーザーインタビューをしましたね。ユーザーを先に集めるのか、掲載店舗を集めるのかのいわゆる「鶏と卵」問題もあったので、ユーザーと店舗の両方へのインタビューをしながら検証していきました。例えばお店を掲載する場合には写真が必須なので、フォトグラファーの友人にガイドラインを作ってもらって、学生アルバイトに撮影してもらったりもしましたが、写真の質はみんながみんな良いわけでもなく、ひたすら自分でレタッチしたり苦労もしましたね、笑。
古川:
たしかに、Airbnbもそうですが、掲載されている写真でCVRもかなり変わりますからね。
中原:
いわゆるMVP(Minimum Viable Product)は、習うより慣れろというか、回数や経験がものを言うと思っています。例えば、陶芸家は質の良い陶芸作品を1個作らせたグループよりも、大量に作らせたグループの作品の方が結果的に作品の質が高まったという実験結果があるそうで、『失敗の科学』という本にも載っていますが、うまく失敗し、そこからどう学ぶかが重要だ、と僕も思います。今お見せしているようなものは、僕が作ったものの一部でしかなくて、もっと山ほどデザインやプロダクトを作っているので、それがあったから今もいろいろと作れているのではないかと思っています。
顧客に求められるものは何かを検証するときに、アイディアを思いついたら、まず簡単なページを作って、Googleなどで広告を出して、人を集めて顧客のニーズを確かめてみてください。それを繰り返すと顧客に提供する価値は何かが見えてくると思います。
このあたりの感覚は、見えない経験値と言いますか、数をこなして初めて見えてくるという部分もあるかと思うんですが、個人的に一番わかりやすいMVPの例として「友人の結婚式」が挙げられると思います。
古川:
結婚式を実験の場にするということですか!?
中原:
そうです!結婚式って顧客が具体的で、様々な年代のテストユーザーが集まっている状況で、提供すべき価値も明快です。スケジュールもタイトで、程よい緊張感があり、何より幸せな空間なので、辛辣な評価をしてくるユーザーもいない、笑。とにかくバグ(大きなミス)さえ出さなければ、みんな楽しく使ってくれるので、MVPの要件を絞るトレーニングの場として最適です。
ユーザーが喜ぶサービスだと、作り手も反応を見やすいです。当時、先輩の結婚式向けにつくったTwitterの投稿で誰でも祝電が送れるサービスであったり、国際結婚のお祝いメッセージをリアルタイムに翻訳するサービスであったり、どれも目の前のユーザーの反応やモチベーションが手に取るように分かるのがとても参考になりました。
中原:
競合サービスがあるということ自体はいいことだと思います。見た目とか分かりやすいところは徹底的に競合と異なる方がいいと思っています。インターフェイスやバックエンドの仕組みは競合と似ていた方がハードルが低くなると思うんですが、ビジュアルとかメッセージや伝え方は差別化されていた方が印象に残ると思います。同じことを伝えるのでも違う文脈とかストーリーで伝えてあげるというように、クオリティにはこだわった方がいいですね。
古川:
なるほど。先ほどのgifteeの例でいうと「写真にはこだわる」というような感じですね。あとは、事業の中でのユーザーの粘着度を上げて、構造上の強みを伝えていくというのも良いと思います。例えば、旅行のレビューを残していくと、レビュワーとしてのランクが上がっていくというような、ユーザーが離れにくい仕組みがあるといいですね。そのほかプロダクトづくりで気をつけていることはありますか?
中原:
そうですね、「早めに失敗すること」ですかね。あとは、僕はよく「絵がみえる」という表現をよく使うんですが、使っている人、表情、場所が具体的に想像できることが特にC向けサービスだと重要だと思います。実際の現場やユーザーのアクションの中での身振り手振りだとか、人の温度感含めてきちんと想像できるかどうかを大切にしています。それができないということはユーザーが見えていないということで、プロダクトをつくりようがないので、想像できない時はユーザーインタビューをするなどしてもっとユーザーを観察することですね。
B向けサービスでは効率的な部分を求めたり違った見せ方や作り方もあるだろうと思いますが、C向けサービス場合は利便性や楽しさを言葉だけで伝えるよりも、ビジュアルや絶妙なトーンで表現する方が説明の必要なくユーザーに理解されます。プロダクトをつくる上では、その前段となる使われているシーンがいかに想像できるかということが大切だと思っています。
古川:
なるほどですね。言葉だけで伝えるのは難しいのですよね。ビジュアルやトーンで利用シーンを伝えるというのは大変勉強になりました。ありがとうございました。
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ユーザーが体験するシーンを想像して、アーリーアダプターを的確に捉えていくという中原さんのお話は、顧客ニーズを検証していく手法の具体的な事例が満載で、とても良い学びになりました。中原さん、本当にありがとうございました!
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(画像提供:nD 中原 寛法 執筆・編集:Onlab事務局)