2021年03月30日
2021年3月24日に第4期の募集が始まった北海道初のシードアクセラレータープログラムOnlab HOKKAIDOの魅力を、卒業生や関係者にたっぷり語っていただきます。名付けて「OnlabTalk from HOKKAIDO」。シリーズ第1回の語り手は、2020年10月に第3期プログラムを卒業したHELTEQとFlyersです。両社は、介護領域やドローン分野での成長を目指す「道産子SaaS」(道産子は北海道出身者の意味)。プログラム期間中、最も苦戦したのがユーザーインタビューでした。自分のビジネスアイデアは、本当にユーザーの課題を解決しうるのか。そもそも、その課題はユーザーがお金を払ってまで解決したいものなのか。両社が重ねたインタビューは実に数十回。Onlabの支援を受けながらどのように壁を乗り越え、アイデアを磨いたのか。両社の代表取締役が振り返ります。
< プロフィール >
写真左:株式会社HELTEQ代表取締役兼CEO 中元 慧
1996年、北海道石狩市生まれ。米国ハワイの短期大学 Kapiolani Community Collegeを卒業し、現在は法政大学通信教育課程在学中。父親が経営する札幌市内の介護サービス企業に勤務し、介護教育コンテンツの作成や販売などを手掛ける。2020年4月にHELTEQを設立。好きな言葉は「七転び八起き」。
写真右:株式会社Flyers代表取締役 品川 広樹
1980年、北海道札幌市生まれ。北海道芸術デザイン専門学校を卒業後、地元企業に就職。デザイナー兼エンジニアとしてアプリのUI/UXデザインやSaaS運営業務に当たる。北海道内のピッチイベントや起業アイデアコンテストで優勝経験も重ね、20年8月にFlyersを設立。好きな言葉は「最大のリスクは、リスクを取らないこと」。
Contents
― 開発中のサービスについて教えてください。
品川(Flyers):
ドローンを飛ばしたいユーザーが、ウェブ上からクリック一つで土地管理者に飛行許可申請できるサービスFlyersを開発中です。ドローンで写真や動画を撮影してみたいという人が年々増えていますが、実は土地管理者への手続きが複雑で、簡単には飛ばせないんです。Flyersはそれらをクリック一つでできるようにします。私自身、ドローンを飛ばそうと思い、場所の確保に困った経験があって、このアイデアを思いつきました。現在はβ版を公開中で、今年夏の正式版リリースを目指しています。
中元(HELTEQ):
私たちが開発しているのは、介護事業所の営業支援ツール「ケアえもん」です。介護事業所は、利用者集めに割く営業人員が足りず、空き状況をリアルタイムに発信する手立てもありません。こうした課題を解決するのがケアえもんです。従来は、ケアマネジャーや病院との間で、電話やファクスを使って営業を行っていましたが、ウェブ上で手軽にできるようにします。私は、父が経営する札幌市内の介護事業所を小学生の頃から手伝ってきました。そんな経験から生まれたサービスです。現在はテスト版を公開しています。
― なぜ起業されたのですか?Onlab HOKKAIDOに応募した理由は?
中元:
経営者の父を見て、私もいつか会社を作ろうと決めていました。ただ、具体的なアイデアはなかったんです。米国の短大に留学して帰国し、父の会社を暫く手伝っていたのですが、「なんだお前、起業するというのは口だけか」と父に言われて。一念発起して、24歳の昨年4月に会社を作りました。資金を準備し、仲間を集めて、アイデアを固めて、という最中にOnlab HOKKAIDOの募集を知りました。当時はアクセラレーターという言葉も知りませんでしたが、自分たちのビジネスを磨き込む良い機会だと思いました。
品川:
私は現在40歳。これまでデザイナーやエンジニアとして複数の会社で勤めてきました。起業に興味を持ったのは、所属企業の社長がいずれも若くして会社を起こした方が多かったからです。ワークショップに何度も参加して起業手法を学び、2年前に札幌で行われたピッチコンテストで優勝も経験しました。その時の副賞がOnlab HOKKAIDO第2期の書類審査通過権だったんです。C向けの物流SaaSのアイデアで応募しましたが、落選しました。何クソと思い直して、第3期はドローンのアイデアで再挑戦して採択されました。
― 順風満帆に進みましたか?
中元:
初日から自信を打ち砕かれました(笑)。自分たちが考えうる「最高の起業アイデア」で応募したつもりでした。ですが、Onlab HOKKAIDOのメンターの皆さんに「これは誰のどんな課題を解決するアイデアですか?」「その課題は本当に存在しますか?」と繰り返し問われて、答えられませんでした。
― 早速、壁にぶつかったのですね。
中元:
私たちが当初開発を目指したのは、ケアマネジャーが高齢者の介護事業所を探す際に役立つ業務支援ツールです。介護事業所の空き情報などをウェブ上に集約し、高齢者の希望に応じて入所・通所先をAIでマッチングできるというもので、業務多忙なケアマネジャーの負担を減らすことができると考えました。そこで早速、ケアマネジャーにインタビューしたのですが、何度聞いてみても、介護事業所探しに対する課題感が深いようには思えなかったんです。
― どう乗り越えたのでしょうか。
中元:
助けてくださったのがメンターです。ユーザーインタビューに同行し、要領を得ない私を支えてくれました。その際にもらった助言が「一つ一つの質問が、あなた自身の仮説の何を検証するのか明確にしたほうがよい」ということ。漠然と質問しているから、ケアマネジャー側のニーズも課題も深堀りできない。そもそもケアマネジャー側に、私たちが考えていたようなニーズはなかったのです。その後、むしろ介護事業所側が利用者集めに課題を抱えている実態も見えてきました。フォーカスする顧客を変え、ビジネスアイデアを修正することができました。3ヶ月でお話を聞いた介護事業所やケアマネジャーは50を超えました。今では、プロダクトのテスト版開発を進める上での大切なパートナーになっています。
― 顧客の課題発掘は本当に難しいですね。品川さんはいかがですか?
品川:
苦戦しました。私が当初フォーカスした課題は「個人や企業が所有する土地の上空でドローンを飛ばしたいけれど、その方法が分からない」というものでした。分かりやすくいうと、民有地での飛行許可申請を考えていたんです。中元さん同様にユーザーインタビューに挑戦しましたが、そもそも最初は協力者が思うように集まらなくて。ウェブのアンケートサービスを活用したものの、話が聞けたのはたった2人でした。
― Onlab HOKKAIDOのメンターからどんな助言がありましたか?
品川:
愛好者のコミュニティに飛び込んでみたら、と言われたんです。札幌市内のドローン研究会に入りました。そうしたら、メンバーの声から様々な課題が見えてきて。一番は、やはり飛ばす場所でした。ただ、私が当初イメージしていた民有地で飛ばしたいという人は実は少なく、景色が良いとか有名な場所とか、自治体や国が管理する公有地で飛ばしたいという声が多かったんです。特に北海道は自然豊かな景勝地が多く、そうした場所への飛行ニーズも大きかった。これは、研究会メンバーの話を深堀りすることで見えた部分でした。当初の仮説を覆したくない気持ちもありましたが、研究会に入って、自分の考えは少数派だと気づけたんです。狭い世界から外に出て考える大切さを知りました。私たちは、北海道の市町村にドローンの飛行許可を申請するサービス内容にピボット(方針転換)し、Onlab HOKKAIDOの産官学連携の枠組みも活用しています。
― Twitterも使ってユーザーと繋がったそうですね。
品川:
アカウント開設から半年間でフォロワーは700を超えました。飛行場所の確保以外にも、さまざまな課題を伺っています。今後のプロダクト開発に生かしたいですね。研究会の仲間やTwitterのフォロワーの皆さんは、私の大きな財産です。将来的にはFlyersのファンになってもらい、お客様にもなっていただききたいと思っています。
― 密度の濃い3ヶ月、落ち込むことや辛いことはありませんでしたか?
中元:
プログラム期間中は5kg痩せて、今は7kgリバウンドしました(笑)。ユーザーインタビューでつまづいていた頃、自分たちはこれで本当に良いのか、何がしたいのかと悩みました。Onlabメンターとの週次ミーティングの前日には、事務所の机に深夜まで向かい、報告できることがないと焦って辛くて。周囲からは鬱じゃないかと言われたんですが、会社を作ると言った手前、仲間も巻き込んできたし、最後までやり切るしかなかった。そんな時、先輩起業家の方々のメンタリングを受けたんです。「他人からの言葉より、自分の思いを信じろ。それが前に向かう原動力になる」「他人から言われて、いい悪いじゃなく、自分の思いに励まされろ」と。凄くいい言葉をもらって、もっと頑張ろうと思えました。
品川:
僕も起業家のメンタリングが心の支えになりました。ホビー用のドローンはニッチな世界。ユーザー数もまだまだ成長途上です。本当に売り上げが立つのか、市場規模は大きいのか、様々に悩みました。そんな時、ファームノートホールディングス(北海道帯広市)の小林晋也CEOのメンタリングを受けました。言われたのは「儲けることが先でなく、やりたいことが先。少ないユーザーかもしれないが、日本に10万人いたらその100を取ればいい。ユーザーが集まれば、新しいサービスも起こせるかもしれない。広い世界を見ていこう」。何度もピボットを重ねながらクラウド牛群管理システムを開発し、「ものづくり日本大賞」内閣総理大臣賞も受賞した小林さん。実績に裏打ちされた言葉の説得力に圧倒されました。チームのメンタルが落ちた時、力をもらいました。
― 最後にOnlab HOKKAIDO4期に応募される方々へメッセージをお願いします
品川:
とにかく密度の濃い3ヶ月間になると思います。Onlab HOKKAIDOは、初歩的な相談から聞いてもらえる面倒見のよいプログラム。自分だけで何とかしようと踏ん張らず、経験豊富なメンターに沢山沢山頼ってください。プログラム期間中に消化できなかった宿題も沢山残ると思います。卒業後もとにかく忙しくなりますよ。私も今、ひたすら宿題をこなしています(笑)。
中元:
私はプロダクトがないゼロからのスタートでした。ビジネスアイデアをどのように形にしていくか、Onlab HOKKAIDOの方々が熱心に伴走してくれました。最初は何をして良いかも分からなかったけれど、今では自分たちで課題を設定し、解決に向かうことができるようになりました。プログラムに参加すれば、起業家として自走する力がつくことは間違いないです。ぜひ、チャレンジしてみてください。
< プロフィール >
Onlab HOKKAIDOスタートアップコミュニティマネージャー 山崎 清昭
スタートアップのエンジニアとしてキャリアをスタートさせた経験から、技術面でのサポート、新規事業開発の支援が得意領域です。1980年代のマイコンブーム以来、札幌のIT業界は20年周期で盛り上がる「波」があるのではないでしょうか。その度に、ゲーム会社のハドソンや初音ミクのクリプトン・フューチャー・メディアなど日本を代表する企業が誕生しています。今はちょうど「第3の波」が来ていると私は考えます。これからの世界を担うスタートアップを目指し、是非このタイミングで起業してみませんか?私たちがアイデア段階から伴走させていただきます!