2020年12月11日
< プロフィール >
Open Network Lab 有山 百恵
2009年Twitter日本展開支援の一環としてTwitterメディアの立ち上げに参画。コンテンツ企画や取材、編集、SNS運用を担当。その後社内新規事業に従事した後、子会社投資部門の投資先Hands-On業務としてカスタマーサクセス・プロダクトセールスを担当。2015年よりOpen Network Labで事務局運営を担当。
Open Network Lab(以下、Onlab)は「世界に通用するスタートアップの育成」を目的に、Seed Accelerator Programを2010年4月にスタートしました。活動資金やオフィススペースなどの設備を提供すると共に、事業のブラッシュアップを目的としたコンテンツやスペシャリストによるメンタリングを通じて、これまで数百社以上のスタートアップを支援・育成してきました。 今回は、アイデアや事業の伝える方法としてOnlabでスタートアップの皆さんが取り組むピッチについて説明します。
Contents
Onlabは3ヶ月のアクセラレータプログラム後半になると「Demoday」というイベントに向けたピッチのレクチャーを行っています。スタートアップにおけるピッチには、以下のような3つの種類があり、OnlabのDemoDayは、投資家や業界関係者に向けたピッチコンテストに該当します。
自分が誰かに伝えたいアイデアや事業があったとしても、ピッチを聞く側の捉え方は千差万別です。ピッチ資料を組み立てる上で重要なのは、ピッチする相手(聞き手)の価値観をピッチする人(話し手)がどう理解し準備できるかです。Onlabのプログラムレクチャーの中でもこのパートは時間をかけ、正しい準備や検証をしてDemodayに備えます。どのように準備をしていくのか具体的に説明していきます。
ピッチの場面は相手の予備知識や環境などの条件が整っていないことも想定されます。短い時間で相手に伝えたい時は、ピッチ資料の中で一番伝えたい情報を絞る必要があります。伝えたいことはたくさんあるかもしれませんが、聞き手の集中力はそんなに長く続きません。次から次へと要素を盛り込んで話しても「どんなサービスなのか」「このサービスの価値は何か」は相手の印象に残らなければ意味がないからです。スタートアップにおける資金調達という目的では、多くの投資家は以下のようなポイントに注目してピッチを聞いています。
このように相手や目的に合わせて重点を絞り、ピッチを作る前に必要な要素を洗い出すことが大切です。
次に大切なのが、構成とストーリーです。投資家が注目するポイントとも重なりますが、スタートアップのピッチに必要な視点は、このように整理すると伝わりやすくなります。
次にこの具体的な視点をストーリーを落とし込みます。
Onlabでは下図のストーリーボードを使って構成を組み立てています。長い文章ではなく、一言で端的にまとめることで、伝えたいことの整理に繋がり、印象に残る言葉やメッセージを生み出します。ちなみに、必ずしもこの順番という訳ではなく、例えば、医療分野のサービスでチームも医者で構成されている場合は、納得感を出すために、チームを1枚目で紹介するというパターンもありますので、相手や目的に合わせてアイデアや事業が一番伝わる順番も考えてみてください。
それぞれの要素のポイントを簡単に紹介します。
課題を説明する時には、その深さ(OnlabではPainと呼んでいます)や大きさを伝えるようにしましょう。しかし回りくどい課題の説明や言い方は不要です。課題だけが印象に残っては意味がないので、あくまでダイレクトな解決手段=ソリューションを提示することが大切です。
プロダクトを説明する際は、独自性や優位性を明確にすることが重要です。誰もがそのプロダクトを選びたくなるようなコア機能を伝えましょう。できればデモ画面があるとベストです。
また、トラクションについては、明確な数字を出すと説得力が増します。例えば「3ヶ月でUU300%up」などです。トラクションがない場合は、「LP公開してわずか2週間で300社が登録」など顧客がどれだけそのプロダクトを欲しているのか、その熱狂度合いも「成長の兆し」として1つの指標になります。
次にマーケットです。マーケットが小さ過ぎてはアイデアとしてはよくても、ビジネスとしての魅力が伝わりません。その市場は魅力的に映るのか?製品開発や顧客開発にかかるコストに見合う収益をもたらす市場は本当に存在するのか?また大きく見せようとするあまり、納得感のない定義にならないようにも注意しましょう。競合については、既存の代替手段と比較してそのサービスを使う必然性は何かを伝えましょう。
次にチームです。例えば、医師のためのサービスを作るのに、その業界のことを全く知らない人が作っていたら「なぜあなたが?」と聞き手は思ってしまいます。どんなバックグラウンドを持ったメンバーであるからこの事業を成し遂げられるのか、どんな思いやビジョンを持って取り組んでいくのかを明確に伝えましょう。
上記の要素を含むスライドのページテンプレートは、Onlabで公開している資料を参考にしてみてください。
上記の視点や構成以外に、話を聞いている相手に向けて「なるほど!そういうことか」「え?そうだったのか!」と思われるような内容、つまりを自身が発見した「ユニークインサイト」をピッチに盛り込むと、相手をより引き付けることができます。例えば、競合優位性であったり、シークレットソースであったり、自分だけが話せる手触り感のあるものがベストです。そのチームの先見性を印象づける稀有な物事の捉え方や展望などは、投資家が出資に踏み切る動機付けの1つになります。
ユニークインサイトは自分で発見することもできますが、多くの場合は上記のストーリーを練習相手にピッチしてみて、その反応や伝わり方のフィードバックを受けることで見つかることがあります。ピッチは資料にまとめて終わりではなく、何が伝わり何が伝わらなかったかの検証が重要なのです。
5分のピッチであれば、10〜15枚でストーリーを作るのがベストです。5分間すなわち300秒で15枚を超えるような資料は情報が多すぎて相手に伝わらないことがあるからです。大切なのは、全てを伝えることではなく印象に残すことです!印象に残れば次のアポイントやミーティングに繋がり、目的達成のための足がかりになるからです。ピッチで聞き手の心を掴むことができたら、事業の詳細については個別ミーティングでしっかり伝えましょう。
最近はオンラインでのピッチの場面も増えています。オンラインでのピッチではオフラインで行うピッチでの表現に加えて、環境や表示に気を使うと聞き手の印象が大きく変わります。ピッチの前にこちらを確認して準備することをおすすめします!
今回は、ピッチ組み立て方について説明しました。Onlab生のピッチ事例だけでなく、どのように事業をブラッシュアップしてきたのかもこちらの本にまとめていますので、詳しく知りたい方は参考にしてください。話がわかりやすい人や上手な人のピッチを見るだけでも学びはたくさんあるはずです。ピッチは正しい準備ができれば誰もが自分の言葉で人を動かすことができます。