2022年06月03日
【プロフィール】
Open Network Lab 原 大介
2005年慶応大学卒業、公認会計士試験合格。2007年より新日本有限責任監査法人勤務。金融業や製造業等の様々な業務の監査に従事。2012年より2年間、アメリカ・シリコンバレーに出向、現地でアメリカ企業の上場を支援(3社)。2015年より、不動産ビッグデータを利用したコンサルティング会社・ゴミを原料としたケミカルリサイクルを営む会社でCFO。エクイティのみならず、デッドや助成金等の様々な資金調達手法に精通。現在までの累積調達額は130億円超。2019年11月よりDG参画。
Open Network Lab(以下、Onlab)は「世界に通用するスタートアップの育成」を目的に、Seed Accelerator Programを2010年4月にスタートしました。これまで数百社以上のスタートアップを支援・育成してきました。今回はエクイティファイナンスに心がけておきたいTipsをご紹介します。
【シリーズ目次】
・ 第1の習慣:主体的であること
・ 第2の習慣:終わりを思い描くことから始める
・ 第3の習慣:最優先事項を優先する
・ 第4の習慣:Win-Winを考える
・ 第5の習慣:まず理解に徹し、そして理解される
・ 第6の習慣:シナジーを創り出す
・ 第7の習慣:刃を研ぐ
こんにちは。原大介です。私は、デジタルガレージのOpen Network Lab(以下、Onlab)で、主にプレシード〜シリーズA前後のスタートアップ向けにファイナンスの支援をしています。具体的な支援内容としては、各社の資本政策を一緒に検討したり、事業計画を一緒に作ったり、金融機関や他の専門家を紹介しています。まず、本記事を書いたきっかけですが、私のスタートアップに対するアドバイスは突き詰めると、
①相手のことを理解しましょう
②IPOから逆算して資本政策を作りましょう
③交渉では常に主体的でありましょう
の3点なんですが、この3点は自己啓発の名著である「7つの習慣」
に書かれている内容と同じだなと感じました(パラパラと目次をめくっている時に気づきました)。今回は少し志向を変えて、エクイティファイナンスについて、7つの習慣の観点から説明してみます。(尚、ここに書かせて頂くアドバイスのいくつかは既に他の記事で記載している内容と重複している点についてはご留意ください。)
7つの習慣は、私的成功、公的成功、最新再生の3部構成になっており、私的成功の習慣として、①主体的である、②終わりを思い描くことから始める、③最優先事項を優先するがあり、公的成功の習慣として、④Win-Winを考える、⑤まず理解に徹し、そして理解される、⑥シナジーを創り出すがあり、最新再生(①~⑥の習慣を実行するため)の習慣として、刃を研ぐがあげられます。エクイティファイナンスに例えると、私的成功とはきちんと自分たちのファイナンスを成功させること、公的成功とは自分たちだけではなく投資者にもしっかりと成功してもらうこと、最新再生とは1度の成功にとどまらず更なる高みに上っていくことだと思います。
今回は第7の習慣である「刃を研ぐ」をファイナンスの観点から説明していきます。事前にお伝えしておくと、今回はファイナンス特有の事項に触れるというよりも、より一般的な内容を解説しています。
第7の習慣である「刃を研ぐ」では、森で木を倒そうとしている人の話が出てきます。
森の中で、必死に木を切り倒そうとしている人に出会ったとしよう。
「何をしているんです?」とあなたは聞く。
すると男は投げやりに答える。
「見ればわかるだろう。この木を切っているんだ」
「疲れているみたいですね。いつからやっているんですか?」
あなたは大声で尋ねる。
「もう5時間だ。くたくただよ。大変な仕事だ」
「それなら、少し休んで、ノコギリの刃を研いだらどうです?そうすれば、もっとはかどりますよ」
とあなたは助言する。すると男ははき出すように言う。
「切るのに忙しくて、刃を研ぐ時間なんてあるもんか!」
皆さんも、木を切る(目の前の作業をこなす)のに忙しくて、刃を研ぐ(作業をしっかりするための準備等を行う)ことを忘れていることはありませんか?
私の一番大きな失敗談は、自分がCFOをしていた会社でM&Aをしていた時です。当時はM&Aの交渉をほぼ一人で行っており、それこそ目の回るような忙しさで、睡眠もろくにとれていない状況でした。契約書もなんとかまとめ上げ、実際に支払いのタイミングで、私は誤って税金を入れた金額で支払いをしてしまったのです(注意:株式の売買には消費税はかからない)。相手先の指摘で気づき、平謝りして消費税分を返金してもらいましたが、その時に無理すると大きな失敗をするなと痛感しました。
スタートアップの皆さんでも、重要な投資家との面談前に、徹夜で準備したものの実際の説明がしどろもどろになってしまったケース等はあるのではないでしょうか。
本書では第7の習慣は、成果を生み出す能力に関連するもので、あなた自身の価値を維持し、高めていく習慣です。具体的には、肉体、精神、知性、社会・情緒の4つの側面の刃を研ぐことであるとされています。
第1に、肉体的側面の刃を研ぐというのは、健康に気を遣い、栄養をきちんととって、十分な睡眠をとり、運動をきちんとすることです。一人でいくつものことをこなすスタートアップのCEOにはそのような時間はないように感じるかもしれませんが、アップルCEOであるティム・クック氏は朝5時にはジムに行き、睡眠時間は7時間は確保しているそうです(https://www.businessinsider.jp/post-104910)。また、オバマ元大統領も運動を定期的に行っていたことで有名です。
スタートアップCEOの皆さんは、健康であることも自分たちの仕事だと思って(投資家が投資しているのは究極的には人なので)、是非健康に気を使ってください。
第2に、精神的側面の刃を研ぐというのは、自分の人生を自分で導くことで、その方法は人によって様々です(著者は聖書読み、祈り、瞑想しています)。瞑想することかもしれないですし、サウナに入ってスッキリすることかもしれないですし、頭が空っぽになるまで走ることかもしれないです。なんにせよ、自分なりの方法を確立することが重要です。UC Berkeleyの調査によれば、起業家の鬱等の病気の罹患率は非常に高いとあるので、注意していきましょう(https://diamond.jp/articles/-/191198)。
第3に、知的側面の刃を研ぐとは、継続的に学ぶこと、知性を磨き続ける努力をしていくことです。これは何も自分の事業に直接関連するものでなくとも、一般的な教養でも構いません。私は経営者の書いた本が好きで、そこから大きな刺激を受けています(ユニクロ柳井正氏が書いた「一勝九敗」や京セラ稲盛和夫氏が書いた「稲盛和夫の実学」は何度も読みました)。著者は、これら肉体、精神、知性の刃を研ぐ努力は「毎日の私的成功」だと呼んでいます。
第4に、社会・情緒的側面の刃を研ぐためには、心の安定が重要であり、心の安定を得るためには、自分の価値観に誠実に生きることがその源になると著者は説明しています。日々の他社との交渉の中で、当初の目的等を見失ってしまうこともあるとは思いますが、そういう時は自分が何のためにビジネスを始めたのかを再度考えてみるとよいかもしれません。
また、本書では4つのバランスが重要だと説明されており、これは個人でも組織でも変わらないとされています。例えば、組織で4つのバランスを考えてみた時に、みんなから共感されるミッション・ビジョンを掲げ(精神〇)、資金調達に成功し(肉体〇)、その資金を使って採用に成功しても(知的〇)、スタッフの処遇が劣悪であれば(社会×)、スタッフは辞めてしまい、どこかで成長が止まってしまうことになります。4つのうち3つが出来ても、全部は出来ていない組織が多く、バランスが悪いところを探しながら、常に改善し、上向きの螺旋階段を上っていくことが重要です。
7つの習慣では、第7の習慣「刃を研ぐ」において、ビジネスで成果を出すためにも(第1から第6の習慣を実行するためにも)、肉体面、精神面、知的側面、社会・情緒的面を鍛え、4つのバランスをとる重要性を説明しています。
7つの習慣を実践する際には、必ずしも第1の習慣から実践する必要はなく、どの習慣から始めてもよいと言われています。これは7つの習慣は性質上、全体(7つの習慣)が部分(1つの習慣)に含まれ、部分が全体に含まれているからです。なので、皆さんも読んで気になったことがあれば、そこから気軽に始めてみてはいかがでしょうか?
7つの習慣は、ファイナンス活動に向けに書かれた本ではありませんが、普遍的内容であるため、ファイナンスにも役立つかなと思い、本記事を執筆してみました。
以上、エクイティファイナンス×7つの習慣でした。
(執筆:原 大介 編集:Onlab編集部)