2022年05月06日
【プロフィール】
Open Network Lab 原 大介
2005年慶応大学卒業、公認会計士試験合格。2007年より新日本有限責任監査法人勤務。金融業や製造業等の様々な業務の監査に従事。2012年より2年間、アメリカ・シリコンバレーに出向、現地でアメリカ企業の上場を支援(3社)。2015年より、不動産ビッグデータを利用したコンサルティング会社・ゴミを原料としたケミカルリサイクルを営む会社でCFO。エクイティのみならず、デッドや助成金等の様々な資金調達手法に精通。現在までの累積調達額は130億円超。2019年11月よりDG参画。
Open Network Lab(以下、Onlab)は「世界に通用するスタートアップの育成」を目的に、Seed Accelerator Programを2010年4月にスタートしました。これまで数百社以上のスタートアップを支援・育成してきました。今回はエクイティファイナンスに心がけておきたいTipsをご紹介します。
【シリーズ目次】
・ 第1の習慣:主体的であること
・ 第2の習慣:終わりを思い描くことから始める
・ 第3の習慣:最優先事項を優先する
・ 第4の習慣:Win-Winを考える
・ 第5の習慣:まず理解に徹し、そして理解される
・ 第6の習慣:シナジーを創り出す
・ 第7の習慣:刃を研ぐ
こんにちは。原大介です。私は、デジタルガレージのOpen Network Lab(以下、Onlab)で、主にプレシード〜シリーズA前後のスタートアップ向けにファイナンスの支援をしています。具体的な支援内容としては、各社の資本政策を一緒に検討したり、事業計画を一緒に作ったり、金融機関や他の専門家を紹介しています。まず、本記事を書いたきっかけですが、私のスタートアップに対するアドバイスは突き詰めると、
①相手のことを理解しましょう
②IPOから逆算して資本政策を作りましょう
③交渉では常に主体的でありましょう
の3点なんですが、この3点は自己啓発の名著である「7つの習慣」
に書かれている内容と同じだなと感じました(パラパラと目次をめくっている時に気づきました)。今回は少し志向を変えて、エクイティファイナンスについて、7つの習慣の観点から説明してみます。(尚、ここに書かせて頂くアドバイスのいくつかは既に他の記事で記載している内容と重複している点についてはご留意ください。)
7つの習慣は、私的成功、公的成功、最新再生の3部構成になっており、私的成功の習慣として、①主体的である、②終わりを思い描くことから始める、③最優先事項を優先するがあり、公的成功の習慣として、④Win-Winを考える、⑤まず理解に徹し、そして理解される、⑥シナジーを創り出すがあり、最新再生(①~⑥の習慣を実行するため)の習慣として、刃を研ぐがあげられます。エクイティファイナンスに例えると、私的成功とはきちんと自分たちのファイナンスを成功させること、公的成功とは自分たちだけではなく投資者にもしっかりと成功してもらうこと、最新再生とは1度の成功にとどまらず更なる高みに上っていくことだと思います。
今回は第3の習慣である「最優先事項を優先する」をファイナンスの観点から説明していきます。
第3の習慣「最優先事項を優先する」では、効果的なマネジメントを以下のように説明しています。
効果的なマネジメントとは、最優先事項を優先することである。リーダーシップの仕事は、「優先すべきこと」は何かを決めることであり、マネジメントは、その大切にすべきことを日々の生活の中で優先して行えるようにすることだ。自分を律して実行することがマネジメントである。
※スティーブン・R・コヴィー. 完訳 7つの習慣 人格主義の回復: Powerful Lessons in Personal Change (Kindle の位置No.3130-3133). キングベアー出版. Kindle 版.
スタートアップのエクイティファイナンスにおいて重要なことは、通常ファイナンスは、ミッションやビジョンを叶えるための手段であって、それ自体が最優先事項となることは望ましくないことです。なので、ファイナンスが最優先のタスクになっている状況、例えば、今月中に入金がないと資金ショートしてしまうような状況はできる限り避けるべきです。
7つの習慣では、緊急性×重要性を使った時間管理のマトリックスを使ってタスク管理の重要性を説明しています。ここで、緊急かつ重要なものは第1領域、重要だが緊急でないものは第2領域、重要ではないが緊急なものは第3領域、緊急でないかつ重要でないものは第4領域になります。ファイナンスはほとんどの会社にとって、第1領域か第2領域に存在すると思います(ファイナンスが第3領域か第4領域にある会社はこの記事を読んでないと思います)。なので、ファイナンスが第2領域にあるうちに対応してしまいましょう。時間がたつと、第2領域から第1領域に移動してしまう可能性があります。
実際Onlab卒業生でも資金調達のタイミングが遅かったり、バーンレートの計算を見誤り、CEOが資金調達にフォーカスせざるを得ず、その間に営業活動等が疎かになっているスタートアップがあります。
では、ファイナンスにおける第2領域にあるうちに、スタートアップができることはなんでしょうか?以下、いくつか例を挙げていきます。
■ 既存株主との密なコミュニケーションを心がける
情報共有をしっかりすることにより、今の株主が次回の資金調達に参加してくれることが期待できますし、適切な資金調達のタイミングについてアドバイスをもらえるかもしれません。また、その人たちが参加しなくとも、いい投資家候補を紹介してくれるかもしれません。
■ 中長期的のアライアンスについて考え行動する
特に大企業とのアライアンスには時間がかかります。例えば、僕が以前CFOをしていた企業では、大手商社と資本業務提携をしていますが、それまでには大変長い時間がかかっています。
■ ファイナンス人材は中長期の視点をもって探しておこう
ファイナンスが第1領域にある時点で人を探しても、間に合わない可能性が高いです。いい人材は既にどこかで働いていることが多いので、時間をかけて採用に取り組みましょう。
■ ミッション・ビジョン・バリューを策定する
既にミッション・ビジョン・バリューを作成している場合は、ミッションなどが実態と合っているか見直してみましょう。ミッション等の重要性については、第2回の記事をご参照ください。
■ 中長期な事業計画を立てよう
目線が上がりますし、中長期に必要な資金、人材が見えてきます。そうすれば、資金調達のタイミングがわかります。また、中長期的な事業計画とミッション等が整合しているかについても確認してください。事業計画とミッションは別々のタイミングで作っていることが多く、単体では違和感がなくとも、一緒に説明したりすると、投資家等からの納得を引き出すのは難しいです。
上記アドバイスは、余裕があるうちに、色々考えたり行動をしておきましょうということなのですが、毎日やることに追われているとなかなか第2領域のタスクに取り掛かれません。そのために、是非経営者の方にはデリゲーション(権限移譲)を覚えてもらいたいです。
デリゲーションの名人といえば、Onlab10期卒業生で、先日ユニコーン企業にも認定されたSmartHR CEOの宮田さんです。宮田さんは、2019年の自身のブログで、権限移譲のTipsとして、
①自分よりも専門家を採用する
②ToDoではなくイシューを渡す
③決定権を渡していることを繰り返し伝える
④仕事の過程をチェックしない
⑤役割を周囲に周知してあげる
⑥障害になりそうなことを取り除いてあげること
をあげています。
詳細は権限移譲する技術 – 宮田昇始のブログ (shojimiyata.com)をどうぞ。
デリゲーションしたつもりでも、仕事の過程をチェックしすぎて結局自分の仕事に戻してしまうといった事例はよくあるのではないでしょうか?何でも自分でやる習慣がついている経営者にはハードルが高いと思いますが、将来の成長のために今から取り組んでみてください。
7つの習慣では、第3の習慣「最優先事項を優先する」において、重要な事項を余裕があるうちに取り掛かる重要性とそれを実現するデリゲーションについて説明しています。第1の習慣から第3の習慣までは、私的な成功を指します。これはこの3つをスタートアップは意識していけば、単独の資金調達は上手くいくことを示しています。次回以降は更に踏み込んで、自分のみならず周りの人とも成功を共有していくためにはどうすればいいかを考えていきましょう。
7つの習慣は、ファインナンス活動向けに書かれた本ではありませんが、普遍的内容であるため、ファイナンスにも役立つかなと思い、本記事を執筆してみました。
以上、エクイティファイナンス×7つの習慣でした。
(執筆:原 大介 編集:Onlab編集部)