2020年06月18日
【プロフィール】
Open Network Lab 原 大介
2005年慶応大学卒業、公認会計士試験合格。2007年より新日本有限責任監査法人勤務。金融業や製造業等の様々な業務の監査に従事。2012年より2年間、アメリカ・シリコンバレーに出向、現地でアメリカ企業の上場を支援(3社)。2015年より、不動産ビッグデータを利用したコンサルティング会社・ゴミを原料としたケミカルリサイクルを営む会社でCFO。エクイティのみならず、デッドや助成金等の様々な資金調達手法に精通。現在までの累積調達額は110億円超。2019年11月よりDG参画。
はじめまして、Open Network Lab(Onlab)の原です。Onlabでは定期的にスタートアップの皆さんに役立つノウハウやトレンドを発信しています。私は前職でのケミカルリサイクル企業でのCFO経験を生かし、現在はOnlab卒業生インキュベーションチームのファイナンス支援を担当しています。 今回は、先日のスタートアップ界隈に衝撃が走ったあるニュースをきっかけに、資金調達をしたばかりで内部統制や社内ルールを構築していないスタートアップが、どのように内部不正に向き合いどう防ぐべきか、その対応方法について書いてみたいと思います。
2020年6月10日の早朝、寝ぼけまなこで携帯を見ているとびっくりするようなニュースが飛び込んできました。エルピクセルの元取締役が、会社の資金を横領し、逮捕されたというのです。エルピクセルは人工知能を活用した医療画像診断支援技術「EIRL(エイル)」というプロダクトを持つ医療系画像認識・診断の会社で、スタートアップ業界では知らない人がいないくらいの有名な企業です。当該横領事件は、エルピクセル元取締役が会社の口座から複数回にわたり、自身の口座におよそ29億を送金・横領した疑いで逮捕されました。この取締役は当時、経理担当者として会社の資金を1人で管理しており、着服した金の大半を FX 取引に充てていたと報道されています。
まず、このような事件をきっかけにスタートアップの皆さんに内部管理について注意を促そうとすると、多くの企業から言われるのが「うちはしっかりしているから大丈夫」「資金を扱えるのは自分しかいない、もしくは信頼できる少数の人間だけが扱える」という回答です。実はこの考え方は非常に危険です。
何故ならば、人というのは環境によって変わり、さらに弱い生き物だからです。Onlab卒業生でもあるSmartHR宮田さんは、「人は弱い人間である」を前提に利害を一致させるための組織づくりに取り組んでいるそうです。不正しないように頑張るとか、信頼できる人を採用するといったことではなく、誰にでも起こりうることとして捉え、その原因を潰すために継続した仕組みを作るのです。
皆さんは「不正のトライアングル」という話をご存知でしょうか?米国の犯罪学者 ドナルド・R・クレッシー(Donald R. Cressey)が犯罪者への調査を通じて導き出した要素を、W・スティーブ・アルブレヒト(W. Steve Albrecht)博士がモデル化した理論です。
この理論では、不正行為は、
①「機会」
②「動機」
③「正当化」
の3つの不正リスク(不正リスクの3要素)が揃ったときに発生すると考えられています。
この理論の「機会」とは、不正行為の実行を可能または容易にする客観的な環境を指します。例えば、会社のキャッシュカードを手元に持っているとか、他の人の許可なく振込を実行できる状態です。また「動機」とは、不正行為の実行を欲する主観的な事情を指します。例えば、借金でお金に困っているような状態です。さらに、「正当化」とは、不正行為の実行を積極的に是認する主観的な事情を指します。例えば、他の役員と比べて、自分の給料が少ないから多少悪いことをしても許されると考えることです。
これらの不正トライアングルが揃ったからと言って、必ず不正が起きるわけではありませんが、不正が起こる時にはこの3つの要素を満たすことが多いと言われています。
この理論の「機会」とは、不正行為の実行を可能または容易にする客観的な環境を指します。例えば、会社のキャッシュカードを手元に持っているとか、他の人の許可なく振込を実行できる状態です。また「動機」とは、不正行為の実行を欲する主観的な事情を指します。例えば、借金でお金に困っているような状態です。さらに、「正当化」とは、不正行為の実行を積極的に是認する主観的な事情を指します。例えば、他の役員と比べて、自分の給料が少ないから多少悪いことをしても許されると考えることです。
これらの不正トライアングルが揃ったからと言って、必ず不正が起きるわけではありませんが、不正が起こる時にはこの3つの要素を満たすことが多いと言われています。
未上場のスタートアップでも近年では数千万から数億の資金を保有しているものの、社員数が潤沢とは言えず1人で何役もこなさなければならない場合が多いです。そんな未成熟な組織で資金を管理していかねばならないのが現実です。先にお話した「不正のトライアングル」の「機会」を私が過去2社のスタートアップCFOとして、どのように潰していったのか具体的に実行していた対応方法を説明していきます。明日からでもできることなので是非参考にしてみてください。
まず、会社社内の現金を廃止しました。このTipsと関係あるのと思う方もいるかもしれませんが、実は多いに関係あります。例えば、私がジュースを買おうとしたが現金がないため、会社の小口現金を使ったとしましょう。これを見ていた社員はこういったことをしていいんだと思う可能性があります。横領は最初は少額から始まることが多く、だんだんエスカレートしていきます。なので、最初に小さな芽を絶つのです。
キャッシュカードは便利な半面、簡単にお金を引き出せてしまいます。倫理観の高い人でも、多額の現金があれば、魔が差してしまうかもしれません。そこで、キャッシュカードは廃止し、振込等は基本的にオンラインで行うようにしました。
キャッシュカードを廃止しても、通帳と銀行印があれば、お金の引き出しはできます。そこで、別々の担当者が保管する形に切り替えました。
これにより、完全なリアルタイムではありませんが、今自分の会社にいくらあるのかが把握できるようになります。通帳を改ざんしても、すぐにわかります。ここでのポイントはすべての口座を紐づけることです。少額だからといって紐づけないと、悪用される可能性があります。
これにより、自分が会社と関係ない先に振り込むことは出来ませんし、また仮に振り込んだとしても、仕訳を起票することができないので、変なことをしたらすぐばれます。請求書発行機能も自分には与えなかったため、請求書を偽造して振り込むということも出来ないようにしていました。
不正が出来ない仕組みを構築することは重要ですが、仕組みというのはどこかで抜け穴が出てくるものです。そこで、定期的に業務に携わない人に見てもらう仕組みを構築しました(私の場合は監査役にお願いしました)。また、自分の経費についても、きちんと業務に関係あるものか、毎月見てもらうようにしていました。
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繰り返しになりますが、人は変わりますし、弱い生き物です。そもそも私が何故「機会」を潰すようにしたかというと、それは単純に大きなお金を扱うことが怖く、何があっても自分は大丈夫だと思う人間ではなかったからです。監査を依頼する会社規模ではなかったとしても、上記のような小さなことを積み重ねて、仕組みを構築するのは初期のスタートアップにとって必要なことだと思っています。
最後に、Onlabでは事業相談会を実施しています。起業にまつわる相談や、プロダクトやファイナンスに関することなどいつでも受け付けておりますので、こちらからお待ちしております。 また、定期的に勉強会やイベントも開催していますので、Onlab公式 Twitter / Facebook も是非フォローお願いします。
(執筆:原 大介 編集:Onlab編集部)
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