2020年11月06日
< プロフィール >
Open Network Lab プログラムディレクター 佐藤 直紀
東工大大学院在学中にシードアクセラレータープログラムに参加し起業、その後グリー株式会社やFintechスタートアップにて、新規事業の立ち上げ・資金調達・企業売却等に従事しOpen Network Labに参画。Open Network Labでは、アクセラレータープログラムの企画、スタートアップへの投資・経営支援業務に従事。
Open Network Lab(以下Onlab)のSeed Accelerator Programは2020年に10周年を迎え、年2回プログラム参加を希望するスタートアップからのエントリーを受け付けています。スタートアップの成長を見守るOnlabのプログラムはどのようなものなのか、そしてOnlabでの3ヶ月を経験し、卒業することでスタートアップが何を得られるのか。Onlabプログラムディレクターを務める佐藤直紀が語ります。
OnlabのSeed Accelerator Programは、シード期のスタートアップ育成を目的とした3ヶ月間の短期集中プログラムです。一般公募により選ばれた採択企業には、活動資金やオフィススペースなどを提供するほか、事業成長に資するメンタリングや事業計画作成などのあらゆるサポートを行います。
佐藤:Onlabの特徴を一言で伝えると、核となるブレない事業価値を創るプログラムです。プログラムが終わった後のスタートアップアンケートでは、「こんなにリソースを割いてもらえるとは思わなかった」という意見が多く、充実したサポートができているのかなと思います。ブレない事業コンセプトを創るご支援する上で重要なのは、ユーザーニーズや成長戦略など事業の前提となっている事項を、率直に問いかける姿勢です。曖昧なところがあれば、Onlabの知見やネットワークも活用し迅速に検証を進めていきます。
2010年に日本初の取り組みとして生まれた Seed Accelerator Program の卒業企業数は、既に124組(2020年10月時点)を数えます。この卒業生によるメンタリングも、Onlabの強みです。
佐藤:Onlabが提供できる価値の一つが、シードからIPO後まで幅広いステージに広がる卒業生のネットワークです。彼らの事業はB向け、C向け多種多様にありますので、採択企業の事業内容に応じたメンターを紹介できます。時代に合ったベストプラクティスを学ぶのならば、今を生きる起業家から学ぶのが一番の方法でしょう。そのため私たちOnlabのメンバーに加え、卒業生のメンターがリアルな経験談と共にアドバイスしてくれるのです。
Onlabのプログラムは、アイデア検証とMVP(Minimum Viable Product)開発、その後のピッチ練習を経て、デモデイへと進んでいきます。
そのステップの進行スピードは各企業によって様々で、既にリリース済のプロダクトがあり顧客獲得を進める企業もあれば、中には最終月の3ヵ月目までアイデアのピボットを続けるケースも。採択企業の試行錯誤は、課題設定を徹底的に見直すOnlabだからこそ起こるものです。
佐藤:新しい事業を作る際のよくある間違いとして、「このアイデアは面白い」と信じてサービスを作るものの、実際にマネタイズできるか、多くの人々に届くサービスなのかという点を、きちんと検証できていないということがあります。検証のためのユーザーヒアリングにしても、いざ取り組んでみると誘導的な質問で自社に都合の良い結果ばかり選んで解釈してしまうことも珍しくありません。こうした主観的な事業設計や誤った課題設定を見直す壁打ちの相手となり、取り組むべき課題に“フォーカス”を与えることがOnlabの役目だと考えています。創業期のスタートアップは、CEO一人の意思決定による舵取りをすることが多くなります。私たちはその期間に、それが必要な行動か、本当に提供すべき価値は何かを問いかけ続けるんです。その結果、プログラム期間中に採択企業のうち3~4割が何かしらピボットすることもあります。これは正しい価値提供について熟考し、適切な答えを見つけ出して進むためのプロセスと言えるでしょう。
Onlabの掲げるミッションは「世界に通用するスタートアップの育成」です。そのためには、プログラム終了後も成長し続ける企業が、社会に価値を提供できる土台を作らなければなりません。こうした目的に沿ってOnlabのメンバーが取り組む支援内容は、小さなタスクの地道な積み重ねです。
佐藤:スタートアップにフィットしたレクチャー資料を作ったり、プロジェクト管理を実践したり、サービスのワイヤーフレームを作ったり……。スタートアップと共に手を動かす支援が、「想像以上にリソースを割いてくれる」と驚かれる所以でしょう。これまでのプログラムで積み重ねてきたテンプレートやナレッジを活かしつつ、スタートアップの課題に向き合います。私たちはこうした支援の先に、卒業後の企業成長に資する「ガバナンス」を作ることを意識しています。3ヵ月間は、スタートアップにとってはほんのわずかな期間です。何かを教えきろうというより、この先に生き抜く考え方を養いたいと考えています。セオリーのようなものはありますが、取り組む市場でリソースの少ないスタートアップが競争に勝っていくためには、自分たちしか知らない情報や考え方を見つけハックしていくしかないからです。
Onlabの支援の成果は、卒業した企業のその後の発展によって証明されます。Onlabを卒業したスタートアップの次回資金調達達成率は過半数を超え、一般的な水準よりも高くなっています。それもあって、徐々に事業規模を拡大する企業も多くなってきましたし、中には上場する会社やM&Aする会社も出てきました。
佐藤:一企業が大きく発展するまでには早くとも5~10年とかかるものです。Onlab卒業生とは、卒業後も定期的に連絡を取り、必要に応じて支援しています。 昨年末実施したYear End Partyでは125名もの卒業生が集まり、国内外で活躍する卒業生によるトークイベントや懇親会など、熱量の高い交流ができました。そのほか定期的に開催する勉強会では、企業課題に直結するトピックを取り上げつつ、ナレッジを共有する場を提供しています。 Onlabが理想とするのは、起業家同士で刺激し合ったり、ちょっとした情報交換ができ、連帯感のようなものが生まれることです。古い例ですが「トキワ荘」のようなイメージです。 Onlabでもメンタリングや勉強会、交流イベントなどの実施を通じ、世代を超えた起業家同士が対話できる関係性が構築されることを願っています。
長期的なスパンで見たOnlabの支援は、こうした人脈に対するアプローチだけではありません。シード期のスタートアップを対象としたSeed Accelerator Programのほか、不動産業界のIT化をテーマとするOnlab Resi-TechのOpen Innovation Programをはじめとした、ネクストステージになり得るプログラムが用意されています。 点ではなく線で、個々ではなくチームでサポートする。それがOnlabの支援ポリシーです。
日本初のアクセラレーションプログラムとしてOnlabが活動を始めてからの10年間で、アクセラレーションは国内でも広く浸透しました。シード期のスタートアップに焦点を絞ったプログラムは多くはないものの、起業家を支援する制度や仕組みは以前より幅広くなったと言えるでしょう。スタートアップに挑戦する起業家の裾野も広がり、近年は多様な業界の課題解決を目的としたビジネスモデルを携えて起業する人が増えつつあります。
佐藤:業界の課題を現場で見てきた起業家は、ユーザーのペインを身に染みて理解できている点が特徴です。例えば薬剤師は薬の処方のほかに処方箋のデータ入力という事務作業をしなければなりません。この作業負担を軽減することを目的とした遠隔入力代行サービスを提供する元薬剤師が起業したスタートアップが、昨年の採択企業の一つにありました。このスタートアップは元々は別のアイデアで応募いただいたのですが、自身の経験や知人の薬局へのヒアリングを通じ、素人には気付けない真に解くべき薬局の課題を特定していきます。このように、例えば学生起業家だったら一番悩む課題設定について、キャリアのある起業家の方は着実に進めるケースが多いんです。ですが一方で視野が狭まり、課題のスケールが小さくなってしまうこともあります。そのためOnlabが、それぞれのニーズに応じた「壁打ち」の相手になることが必要だと感じています。
2020年1月以降は新型コロナウイルスの感染拡大による影響が広がり、プログラムもオンラインに切り替えて進めました。オンラインは時間や場所を選ばず集中して支援できるので、これまの培ったハンズオン支援の一部をオンラインで完結できるように準備を進めています。
佐藤:プログラムとは別に創業間もないスタートアップ支援の取り組みの一つとして、事業相談の機会を設けています。一枠30分でカジュアルにお話し出来ますので、資金調達や創業前の粗削りなアイデアの壁打ち、プログラムについての質問など、是非気軽に相談してください。
(執筆:宿木 雪樹 編集:pilot boat、Onlab事務局)
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