2021年04月27日
2020年に始まったコロナ禍は、民泊産業に大打撃を与えました。民泊の管理ツール「m2m Systems」やマンスリーマンションプラットフォーム「Sumyca」を運営するmatsuri technologies株式会社(以下「matsuri technologies」)も、その煽りを受けた1社です。しかしながら同社は、コロナ禍だからこその需要を捉えることで、コロナ前より急成長しています。
そんなmatsuri technologiesを率いるのは吉田圭汰さん。これまで2度の起業を経験。2017年Onlab14期卒業の吉田さんは、期間中に大苦戦したと言います。吉田さんが直面した苦難とは、そしてそれをどう乗り越えて現在も成長しているのか、プログラム期間からシード、シリーズAを乗り越えたこれまでの様々な出来事について伺いました。
< プロフィール >
matsuri technologies株式会社 代表取締役 吉田 圭汰
1992年東京都生まれ。早稲田大学社会科学部出身。2013年SPWTECH合同会社を設立。2014年には国内最大規模のアクセラレーターであるKDDI∞laboに選出され、同社より賞をいただく。2015年には女性向けキュレーション事業を事業売却し、現在の注力分野である民泊分野の事業開発を行う。民泊管理システム、民泊運用の部分代行など複数の事業で国内トップシェアを達成。また民泊新法に対応する二毛作民泊運用(民泊とマンスリーの併用運用)を提唱し、新法成立後の運用のモデルケースを作りつつ、無人での本人確認SaaSの提供や国内初の民泊マンスリーファンドの運用(上場企業との資本業務提携)など適法化以後の民泊業界の形成を自社の民泊事業群と多数のパートナー企業との連携で構築している。
― matsuri technologiesは民泊を中心としたサービスを運営されています。そもそも吉田さんはどうしてこのマーケットに興味をもったのでしょうか。
もともと自分がやりたいことの根幹してあるのは、テクノロジーを使って世の中にどうインパクトを残すかということで、世の中にあるものを共有したり効率化したりすることで、自分が一番価値を出せるものは何かというのを探していました。そんな中、民泊が日本に登場してきた2014年頃、私の友人が民泊を運営していたんです。マンションの一室をホテルみたいにして人に貸し出していて、かなり稼いでいるようでした。聞けばAirbnbという会社が日本でも知られてきていて、盛り上がっている市場なのだと。そこで民泊に興味を持ち始めたのがきっかけです。
― matsuri technologiesは多くのサービスを運営していますが、最初のサービスはどれだったんですか?
現在の「m2m Basic」が最初のサービスです。これは民泊の貸し手と借り手のメッセージをmatsuri technologiesが代行するサービスで、民泊を使ったことがある方ならわかると思うのですが、ゲストが「この家に泊まろう」と決めてから、物件のオーナーとやりとりが発生しますよね。部屋の設備はどうなっていて、どうやって鍵の受け渡しをするのか、宿泊時の注意点はなどなど。オーナーはこれを宿泊者ごとに繰り返すので、かなりの労力で大変なんです。そこで民泊のカスタマーサポートを始めたらいいんじゃないかと、まずはそこからスタートしました。
m2m Basicから発展して開発したのが「m2m Systems」です。これは民泊管理ツールで、Airbnbのアカウントと紐付けて使います。テンプレートによるメッセージングや予約承認の自動化、物件情報の表示等の機能を備えているので、m2m systemsを使うことで民泊の管理が効率的に行えるというサービスになっています。
― そこから「m2m 」ブランドのサービスをどんどん拡張していって、民泊全域にバリューチェーンを広げていったのですね。
その通りです。2018年6月に住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行され、民泊のルールが定められ、それに伴い必要になってきたサービスを開発しています。例えば民泊にも、ホテルと同様に本人確認が求められるようになりました。といっても部屋には誰もいない場合もあるので、「m2m check-in」というタブレットで本人確認ができるシステムを作るといった具合です。ちなみに、民泊で本人確認システムを市場に投入したのは、matsuri technologiesが恐らく初めてだと思います。
2018年のこの法律では、1年の内半分の180日までしか民泊として営業できないというルールも定められました。逆に言うと1年の半分は民泊で収益が発生しなくなるということ。そこでmatsuri technologiesは「二毛作民泊」というモデル(商標取得済)を提唱しています。これは民泊は180日までにして、それ以外の期間は30日以上の住宅用マンスリーマンションとして貸し出しましょうというアイデアです。この仕組みをプラットフォーム化したのが、マンスリーマンションの賃貸プラットフォーム「Sumyca」で、様々な条件からマンスリーマンションを探せるサービスとなっています。コロナで民泊の売上が激減した今は、Sumycaでの売上が好調です。
― Sumycaでのマンスリーマンションの利用者はどんな方が多いのですか?
通常のマンスリーマンションと同様にビジネス利用やホテルのように使う方もいますが、matsuri technologiesは「一時帰国.com」「おためし同棲」というユーザーの個々のニーズの切り口からマンスリーマンションを提供するサービスも運営していて、こちらの用途で使う方も多くなっています。新型コロナウイルスの影響で急速に住居利用のサービスに舵を切る必要があったため 一時帰国.com 含め6つのサービスを半年で開始しました。
民泊は元々、7割程度がインバウンドで使われていました。それがコロナ禍でほとんどなくなって、matsuri technologiesでも新しいビジネスの柱を作る必要に迫られていました。そんな時です。2020年3月25日に1人の利用者から「国内の空港に閉じ込められている」という相談が飛び込んできました。聞けば「国内に2週間待機できる場所がないと、空港から出られない」と言います。その方は待機所が確保できなくて、空港で寝泊まりしていたそうです。それで「どうしようもない環境だから部屋を貸してくれ」と連絡してきてくれました。
そこでまずは国内のホテルを調べてみたんです。だけどどこに連絡しても断られるばかり。この時期はまだコロナウイルスのことがよくわかっていなくて、ホテル側もどうしようもなかったんだと思います。とは言え、日本のPCR検査は非常に精度が高いということもわかってきた時期でもありました。だったら検査結果で陰性の方のための待機場所として物件を提供できないか、と。自社物件やSumycaの物件に、帰国の際に困っている方々を送迎して泊める判断を下しました。色々言われると思うけれど、PCR検査で陰性と確定した人を安全な待機場所に送るだけだから問題ないだろうと。そこで問い合わせがあった翌日3月26日に「一時帰国.com」というサービスを打ち出したら、1日で130件程の問い合わせが急に来て、強いニーズを感じました。
しばらくは「一時帰国.com」単体で運営していたのですが、裏側の仕組みは同じなので、後日Sumycaと合体させたんです。
― 「ここだ」という顧客のニーズにスッと入り込んで、素早くオペレーションを組み立て実現するというのは吉田さんは上手いですよね。
Onlabで教えてもらったことをそのままやっています(笑)。「製品がなくても、とりあえず売れ」というのを実践して、「すごい売れるな」と思ったからローンチしたという感じです。他にも民泊需要が回復しなかった時に備えて「おためし同棲」というサービスをリリースしたり、地方需要は回復していたので、現在は地方の民泊に力を入れたりしています。その結果現在の売上はほとんどが新規事業に転換しており、コロナ前よりも成長しています。
― matsuri technologiesのことがわかってきました(笑)。
よかったです、色々なサービスを運営しているので、全体像がよくわからない会社だとよく言われるんです(笑)。
会社のことがわからないから採用に苦慮しているところもありまして。例えば今はCFOを採用しているのですが、matsuri technologiesは一般的なスタートアップとはちょっと違う側面があります。
というのも、例えば弊社では民泊用の自社物件を抱えていますが、ソフトウェアだけを開発しているスタートアップだと普通こんなアセットはもっていないですよね。しかしこの民泊市場を攻略するには、ソフトウェアだけではダメで、オペレーション、そして、ファイナンスを含め、民泊が新しい不動産運用の一つであることを自ら証明しなければなりません。現在は物件を借り上げて運用するビジネスをファンド化する等までですが、ゆくゆくはプロジェクトファイナンスや、民泊運用前提での物件売買、REITに組み込まれるようなストラクチャーを構築することで産業としてひと段落つけたいと考えています。通常のスタートアップのエクイティファイナンスのみならず、金融ストラクチャーの構築を通して事業面にも大きく貢献することができます。難易度は高いですが、とても挑戦的な職種となります。ご興味がある方はぜひご連絡くださいませ。
matsuri technologiesの採用情報はこちらから!
https://bit.ly/2OUDJHx
― matsuri technologiesは吉田さんとって2回目の起業ですよね。1社目はどんな事業をされていたんですか?
1社目は21歳のときに設立した学生起業で、キュレーションアプリを運営していたのですが、上手くいきませんでした。何もかも中途半端な感じで、何をしたいのだろうか?と自問自答したときに、やはり大きな商売がしたい、意味ある事業を作りたいというのが一番だったので、会社も仕切り直しホームランを狙いに行くことにしました。
そんな様子を側で見ていた当時のアクセラレーションプログラムの同期に「吉田君はOnlabに行って性根を叩き直してもらった方がいいよ」と言われたんです。学生起業だったのもあって、ビジネスの基礎というか経験値や知識のある方に教えてもらうのが、一番手っ取り早く成長できるだろうと思い、Onlabに応募したんです。丁度、冒頭でお話した民泊に出会ったころですね。
Onlabに入ってからは色々な方にお世話になっていたのですが、Onlabメンターの方には色々教えてもらいました。あまりにいろいろ聞きすぎて当時の皆さんには嫌がられていないかなと心配していましたが(笑)根気強く寄り添って並走して頂いて、その度に的確なアドバイスを頂きました。
― Onlabに採択されてからはどのように過ごしましたか?
当時はまだ「m2m Systems」の原型となるサービスだけがある状況。なのでOnlabではリーンスタートアップのモデルの型に合わせてサービス検証と開発を進めていきました。結局「AIを使って民泊のメッセージングを自動化して効率化する」というサービスを作っていたのですが、なかなか思うようなソリューションが提供できていませんでした。DemoDayの朝までそんな調子で、メンターの方に「本当にこれでDemoDayに出るの?」と言われて、自分でも課題とソリューションがフィットしていない部分があると薄々感じていたところを、ズバリ的確に指摘され、DemoDay当日に登壇しないことに決めたんです、号泣しながら。これは今までで一番辛かったですね。
― 上手く行かなかった理由はなんだったのでしょう。
当時のプロダクトが、顧客の課題を解決するかどうか正直わかっていなかっていなかったんです。にも関わらず、DemoDayに出ることが目的化してしまっていたのが一番の理由ですね。DemoDayには出られないわ、プロダクトはできていないわという状況なので、改めて「本当に自分のやりたいことはなんなんだろうか」「それはどういうサービスになるのか」と考えました。
それでOnlabには珍しく、例外的に次の期にも参加させてもらうことになったんです。当然どんなサービスを作るつもりかという話になりまして、そのときにもっていったのが「Sumyca」の前身となる「nimomin」というサービスで、これをもってあらてめてDemoDayに出ることができました。本当に嬉しかったです。
Onlabを卒業生した後、matsuri technologiesはIVSのLAUNCHPAD(訳注:著名なスタートアップのピッチイベント)に出場したのですが、Onlabでしごかれながらピッチの練習しなければ出られなかったと思います。IVSでも吐きそうになりながらピッチをしたのですが、これをきっかけに後々株主になる方々との出会いがありました。Onlabに採択されて、Demo Dayに登壇できていなければ、多分IVSに出られなくて、IVSに出られなかったら株主と出会えなくて、その株主との出会いがなければシリーズBに耐えうる会社となっていなかったと思います。全ての逆境に意味がありました。
― そんなmatsuri technologiesも、今では50人を超える大所帯になってきました。組織の課題も変わってきているのではないでしょうか。
恐らく多くのスタートアップはエンジニアの比率が4~5割程だと思いますが、matsuri technologiesは民泊の管理やオペレーションをしている都合上、エンジニアは全体の20%程度なんです。エンジニアはプロダクトの開発で絶対に必要ですが、オペレーションを管理しているからこそプロダクト開発に活かせる知見が溜まっていく。他方でエンジニアもオペレーションをやっている人たちのことを鵜呑みにするのではなく、自分たちもオペレーションをちゃんと理解する。オペレーション側もテクノロジーを理解するという組み合わせが重要で、それを組織内でできていることがmatsuri technologiesの強みです。
ただどうしてもエンジニアとオペレーションでは職務内容等が違うので、会社としてどうやって一体感を保つかという点は今の課題ですね。
― 今はどうやって対処していますか?
「Sumyca会」「m2m Systems会」「m2m core会」といった、製品単位で開発とビジネス側の人が話す会を意識的に作っています。どちらかに負担が寄るとプロダクトにも偏りが出て結局作り直しになってしまったりするので、バランスやコミュニケーションをとって解決するようにしています。これは効いている施策だなと実感しているところです。
― コロナ禍もあって、会社では退職希望が出たりはしなかったですか?
実はかなりの人数の退職がありました。何しろ9割減のマーケットでフルベットしていましたし、会社が本格的にグロースし始めたタイミングの谷も重なりました。退職者は多く出ましたが、現在は60名程度の正社員となっており、コロナ前より人数としては増えています。マーケットが断絶したことで放り出された他社の優秀な人材も参画し、新旧混ざり合い、産業を作り上げようとしています。
― サービス開発が予定通りに進まなかったり、人が辞めたり、吉田さんは心が折れないのでしょうか…?
折れそうになりますよ。そうなっても「どういうふうに組織をつくっていくべきか」といった相談を株主達としています。
株主には本当にお世話になっていて、全投資家に、金銭以外にもたくさんのアドバイスをもらっています。こういうのはやはり会社の原動力になるもので、折れないのは、そういう人たちを裏切れないというのも大きいです。
― 投資家とのコミュニケーションで気を付けていることはありますか?
株主定例は効率的な運営を意識するようになりました。月に1回3~4時間ぐらいで開催しています。議論に集中することが大事だと思っているので、前提となる数値や内容は先にビデオで送付して、全員見てから会議に参加するんです。これで集まる時間をまるまる議論に費やせるので好評ですよ。
また悪いことが起きたら早めに伝えることにしています。早く連絡して社外取締役にも仲間になってもらう。細かく情報開示する代わりに解決するための仲間になってください、という感じですね。
― Onlab生もステージが進んでいき、投資家とのコミュニケーション方法はいろいろと模索しながら進めているようです。今の話は参考になります。
取締役の方たちも、皆さんとても頭が良くて天才だと普段から思っているのですが、我々が1か月間一生懸命やってきたものを全て理解するのは、さすがに時間がかかります。なので効率的な運用は大事ですね。
― これからも是非Onlabの後輩にノウハウを伝授して下さい。本日はありがとうございました!
(執筆:pilot boat 納富 隼平 写真:taisho 編集:pilot boat、Onlab事務局)
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