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2024年06月13日
デジタルガレージが運営するアクセラレータープログラム「Open Network Lab Seed Accelerator(以下「Onlab」、読み「オンラボ」)」は、「世界に通用するスタートアップの育成」を目的に2010年4月にスタートし、これまで数々のスタートアップを支援・育成してきました。
Onlab 第27期生でありbestat株式会社(以下「bestat」、読み「ビスタット」) 代表取締役の松田 尚子さんは東京大学を卒業後、経済産業省に入省し、研究やそれに準ずる開発を通じて世の中の役に立ちたいと考えていました。研究・開発するだけでははるかに時間がかかると判断し、bestatを設立。3Dデータプラットフォーム3D.ai(読み「スリーディードットエーアイ」)を開発した経緯やOnlabプログラムを受講して学んだこと、また3D化の時代の潮流で挑戦をしたいことを伺いました。
< プロフィール >
bestat株式会社 代表取締役 / CEO 松田 尚子
東京大学経済学部卒業。経済産業省にてイノベーション政策、通商政策等に従事。米国コロンビア大学留学時にコンピューターサイエンスに出会い、帰国後、東京大学工学系研究科松尾豊研究室で博士号を取得。コンピューターサイエンスの社会実装を志し、2018年にbestat株式会社を創業。
― bestat社の事業概要を教えてください。
bestatは東京大学発の3D分野に特化したAIスタートアップ企業です。私たちはAIで3Dモデルを自動生成できる3Dデータプラットフォーム「3D.ai」を開発し、製造業や建設業、インフラ業などの企業にご利用いただいています。3DデータはGoogleやMicrosoft、Amazonなどの大手プラットフォームによって一般的に使用されていますが、それを人力で制作しようとすると長い時間を要し、多額のコストがかかります。
3D.aiを使用すると高品質な3Dデータ生成が可能で、360度アプリで動画を撮影し、クラウドにアップロードするだけでAIが3Dモデルを生成します。通常、ソフトウェアをダウンロードしないと見られない3Dデータを、3D.aiはダウンロードが不要で、URLから誰でも簡単にアクセスできます。
― 3D.aiを利用するお客様からはどのような声が上がっていますか?
働き方改革関連法の施行により、時間外労働に上限が設定される「2024年問題」に向け、建設業界の企業は、従業員の労働時間を短縮しつつ生産効率を向上させなければなりませんが、3D.aiを利用するお客様からは、3Dデータ生成から管理共有、2次活用までを一気通貫でできるため「作業時間が60%削減できた」とご好評いただいています。
また、2025年から国土交通省はBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を使用した建築物の確認申請の施行を開始します。これによって申請と審査の効率化を図り、業界全体でBIMデータの共有を促進することを目指しています。BIMは2D図面をもとにしていても良いのですが、3Dならより直感的に分かりやすいデータになります。このBIM化に向けて具体的な対策を探している企業や、実施したくても3Dデータの重さに悩む企業は、私たちの軽くて使いやすい3Dデータに価値を感じていただいています。
*BIM(Building Information Modeling)とは、コンピューター上で建物の全体像をリアルな3Dモデルとして再現し、申請や審査などの関連情報を統合して設計・建設の運用を管理するシステムのこと。
― 業務効率化の他に、どのような場面で3D.aiは活用されていますか?
デザイン開発でご活用いただいています。特に製造業の企業が機能だけでなくデザインでも付加価値を創出したいと考えるものの、それを実現するための適切なツールが不足しています。私たちは3D技術を駆使して俯瞰的な視点を提供し、製造業や建設業、家具メーカーなど、ものづくりをする企業に対して活動支援を行っています。
― 松田さんがOnlabプログラムに参加した背景を教えてください。
Onlab 第26期 Demo Dayで最優秀賞を受賞したSpatial Pleasureの鈴木さんと知り合いで、彼から「いろんなアクセラレータプログラムがあるけれど、Onlabが一番いい。応募した方がいい」と勧められ、Onlab 第27期の応募締め切り寸前に申し込みました。Onlabだったらスタートアップの経営者や事業課題を深く理解してくださるし、スタートアップを全面的に支援する方がたくさんいて、紋切り型のお作法だけでなく、さまざまな事例や最新情報を教えてくださるとお聞きしました。
― 松田さんはOnlabプログラムでどのようなことに取り組みましたか?
当初、bestatには技術力はあったものの、誰にどんなサービスを提供すべきか具体的な方向性が定まっていませんでした。そこで、プログラム期間中に多数のユーザーインタビューを行い、提案する仮説やストーリーが他者にも納得できるのかを検証しました。また、企業のペイン(顧客の悩みの種)が明確でなくてもサービスが成立するだろうと考えていましたが、Onlabのメンターから「ペインを解決するサービスでなければ市場で成功しない」とご指摘を受け、どんな企業がどんな経営課題を持っているのかを徹底的に探求する重要性を学びました。このフィードバックがターゲットや課題の発見へと繋がり、サービスや開発の方向性を明確にする手助けとなりました。
― 最初にプロダクトのベータ版をお使いいただいたのは、どのような企業でしたか?
3D.aiはCG制作会社やゲーム制作会社、クリエイターをターゲットにしていましたが、ペインはあるものの費用面の制約に直面しました。その後、建設業や製造業、インフラ業をメインターゲットに設定し、さらにBtoBのEC企業にもサービスを提供しています。当初はBtoBとBtoCを区別せず、BtoCの中小EC企業にもアプローチしていましたね。市場が広いだけに、さまざまな業界や企業に当たって仮説・検証を繰り返しました。
― Onlabプログラム期間中にどのようなピボットをしましたか?
「この週はこの仮説だ」とさまざまな仮説を立てたり、中間発表の時も違うターゲットを挙げたりしていました。例えば「製造業が工作機械を輸出するために3Dで表示した方がいいだろう」と工作機械の販促を考えたこともありますね。ただ、それを2024年問題やBIM化といった社会的課題に結びつけることが困難だったため、ストーリー作りには苦戦しました。株式会社D2 Garage代表取締役の佐々木さんからは「社会的課題や経営課題、ツール、ソリューションが連携すると仮説として正しい」とアドバイスを頂き、ユーザーインタビューを重ねながら毎週ストーリーを構築しました。
― 現時点で、3D業界にはどのような課題があるとお考えですか?
3Dデータは2Dデータに比べて容量が大きく、作成するのも取り扱うのも大変ですが、世の中ではデータの3D化が進むことを当然と考えているため、このギャップを技術で埋めていく必要があります。例えば、ロボットがものをつかむ際には、2Dだとどこを目指して動かしたらいいか分からないため、3Dデータが不可欠です。bestatはまだ小さいですが、さまざまなものづくりの現場が持つニーズに応えながら、2Dから3Dへの移行期において業界をリードする企業でありたいと考えています。
― 2024年2月に3D.aiを有償化したと伺っています。
もともと2024年4月のリリースを予定していましたが、企業からの購入希望により時期を前倒ししました。これまではエンジニアがコードを動かして処理していましたが、有償サービスになるとクラウドで自動化します。2月時点では管理画面がなかったにも関わらず、一部の機能だけでもいいので購入したいとおっしゃっていただきました。
― bestat社ではどのようなメンバーが活躍していらっしゃいますか?
bestatでは現在、過去に3D CAD(コンピュータ・エイデッド・デザイン)ソフトを開発したエンジニアや、VRの販売経験のある事業開発メンバーなど、専門性の高いメンバーを中心に活動しています。また、東京大学教授であり日本ディープランニング協会の理事長である松尾豊さんからは、bestatの個人投資家および技術顧問として経営や技術に関するアドバイスを頂いています。
*CAD(Computer Aided Design)とは、コンピュータ上で設計図面や製図を作成するためのツール、ソフトウェアのこと。主に、建築・住宅・自動車・服飾・家電など、さまざまな分野で広く使用されている。
また、事業のサービス内容や販売戦略が定まりつつあるため、事業開発部門を拡充しています。これまで経験していなくても、2Dから3Dへの変遷に伴い、新たな市場を創りたい意欲的な方や、SaaSといった無形商材の営業経験のある方にぜひジョインしていただけたら嬉しいですね。3D.aiはまだ不特定多数に当てるサービスではないため「3Dってかっこいい」と思っていただけるようなアプローチを知っているBtoBマーケティングや広報も募集しています。
― bestat社の今後の事業戦略をお聞かせください。
3Dデータを誰もが使いこなせるようになる時代に向け、私たちは市場への早期参入やIPOを目指しながら、bestatを信頼してくださっているお客様へ技術やサービスを提供していきます。また、ヨーロッパの建設企業といった海外からも3D.aiに興味を持ってお問い合わせをいただいているため、日本の市場の成長を待つだけでなく、すでに成熟している海外の市場にも進出していきたいです。海外対応のSEOはまだ実施していないものの、営業の必要がないオンライン販売に適した商材なので海外向けにWebページもリリースする予定です。現在、海外では発展途上国よりも先進国をターゲットとしています。スマホやパソコンのスペックがある程度高くないと3Dデータを使用できないため、ヨーロッパの企業からアプローチしたいですね。
― 最後に、Onlabに興味を持つスタートアップの方々にメッセージをお願いします。
プログラム期間中、毎週のようにピッチの練習をさせていただき、伝えたい内容を聴衆に正確に理解してもらうには、単に情報を伝えるだけでは不十分であり、どのように伝えるかというテクニックが必要だと認識しました。ピッチの冒頭から聴衆に「?」と思わせてしまうと、その後に続く内容が素通りするため、5分でいかに伝わるように展開していくのかを学べたことも大きかったですね。今では、セミナーやイベントでプレゼンターとして積極的に登壇したり、展示会にも出展したりして自社サービスや3Dコンテンツを広めています。
Onlabプログラムに参加して第26期の鈴木さんが言っていた「どこよりも深く経営課題を分かってくれるプログラム」を、身をもって実感しました。bestatはOnlabプログラムでPMF(プロダクトマーケットフィット)を見つけることを目標としていました。が、事業や経営の課題を解決したい、スタートアップに必要なスキルを習得したいと希望する方や、伴走しながら一緒に考えてくださるメンターや専門家を求める方にも向いているのではないでしょうか。
(取材・執筆:佐野 桃木 写真:小島 三幸 編集:Onlab事務局)
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