2021年08月16日
Open Network Lab(以下、Onlab)は、「世界に通用するスタートアップの育成」を目的に、Seed Accelerator Programを2010年4月にスタートしました。シリーズ「Road to Success Onlab grads」では、プログラムに採択され、その後も活躍を続けるOnlab卒業生たちのリアルボイスをお届けします。
今回登場するのは、Onlab第18期で最優秀賞とオーディエンス賞をダブル受賞した「そうぞくドットコム不動産」を運営する株式会社AGE technologies(以下「AGE technologies」)代表取締役CEOの塩原優太さんです。「自分には縁がないと思っていた」と話すアセクラレータープログラムとの出会いやOnlabでの学びが現在までのプロダクトの進化にどう繋がっていたのか、プログラム後にOnlabが併走した資金調達成功までの秘話をお伺いしました。
< プロフィール >
株式会社AGE technologies 代表取締役CEO 塩原 優太
新卒でIT広告代理店のオプトに入社、Web広告の運用実務を経験。その後アプリ開発を行うスタートアップを経て、中小企業の相続・事業承継に特化したコンサルティング企業へ入社。拡大する超高齢社会に起こる課題の大きさを感じ、2018年、マーク・オン(旧社名)を創業。2021年、AGE technologiesへ社名変更。
― そうぞくドットコム不動産について教えてください。
人が亡くなったときに発生する相続手続きは非常に複雑で、相続する人はその手続きを何ヵ月もかけて自分でやるか、弁護士・税理士などの専門家に高い費用をかけて依頼します。まして相続する自宅や土地などの不動産の状況は人それぞれで、故人が亡くなった後に発覚する事象など、相続人同士でのトラブルも起きやすいイベントです。それに輪をかけて行政手続きは大変で、そうぞくドットコム不動産は、このような不動産相続の「負」を解消するための、不動産の名義変更手続きサービスです。
そうぞくドットコム不動産の特徴は3つ。戸籍集めがネットで済むこと、申請書作成が簡単にできること、そして全国の不動産に利用できることです。すべてweb上で手続きが完結するので、現地まで行かなくても不動産相続手続きが完結できます。
― そもそも相続ではどんな手続きが大変なのでしょうか。
相続手続きで絶対的に大変なのが「戸籍の収集」です。相続には、亡くなられた方が生まれてから死亡するまでの戸籍を全部集めなくてはなりません。つい最近、ある記者の方が相続手続きの体験記を記事にしていたのですが、故人の出生から死亡するまでの戸籍を全て集めるのに、なんと9ヵ月もかかったそうです。なぜそんなにも時間がかかるのかというと、戸籍というは本籍地でなければ取得できないからで、東京で亡くなったからといって必要な全ての戸籍を東京で取得できるわけではないんです。
もちろんこの作業は誰でもできるのですが、現金が送れないので定額小為替を用意しなければいけなかったり、古い戸籍を請求するためには、そこまでの履歴を証明するための戸籍の取得が必要だったりと、一般の方が初めて行うとなると、何回も差し戻しがあったり面倒な作業です。
― そんな面倒な作業をどのように解決しているのですか?
お客様からするとそうぞくドットコム不動産は、必要な情報を入れれば自動で作業が終了するというシンプルな体験になっています。裏側は、システムとアナログを組み合わせたハイブリッドな形で対応しています。例えば、郵送物のステータス管理、また請求書の作成などはデジタルですが、郵便物の受け取り管理や、封筒に切手を貼り小為替や請求書を入れて全国の役所に発送するなどの作業は、アナログで行なっています。今後はこのような煩雑なオペレーションも、バーコード読み取りやOCR技術などを使いシステムと統合することで、より効率的なオペレーションを構築することができると想定しています。
― 全国に郵送請求とは、裏側では結構アナログな方法で地道にやってるんですね。
戸籍の請求という意味では、AGE technologiesは日本で最も役所とやりとりしている会社なのではないかと思います。いまの事業規模でも月に1,000往復以上は全国の役所と郵送のやり取りを行なっています。また、郵送での戸籍請求の手数料は1回に数百円かかり、その納付方法として郵便局で販売している定額小為替証書が必要になるのですが、これを郵便局に買いに行くと、小為替を100万円分扱うことなんてないと驚かれるんですよね。そもそも郵便局に小為替というのは通常10万円分くらいの在庫しかないらしいんです。だから100万円分必要となったら、一回電話して予約する、といったフローが発生しています。こういった背景もあり、先ほど話したアナログな作業をどこまで社内でDXできるかは弊社ビジネスの肝だと考えています。
― 他に相続での面倒な手続きでいうと、どんなものがありますか?
もう1つは、申請書類の作成が難解です。不動産の相続手続きでは、登記申請書、遺産分割協議書、相続関係説明図など何種類もの公的な書類の作成が必要になりますが、これらの書類作成が大変。何が大変かと言うと、明文化されていないルールがたくさんあるんです。役所の担当者や経験のある専門家だけが把握している、そういう暗黙知みたいなものがすごくあって、いざ提出してみたら「ここに余白が少ない」とか、些細なことで申請が差し戻され、場合によっては、修正に印鑑が必要だと言われることもあったりするので、こういう書類は機械的にお客様に入力頂いた情報を正確なフォーマットに整えて出力するのが効率的です。役所が近ければまだいいですが、遠方だとやり取りに時間がかかり、本当に大変なんです。
― 主にどういった方が利用されているのでしょうか?
利用者の平均年齢は58歳で、30代〜70代まで幅広い世代の方にご利用頂いています。今まで別サービスを利用していたという方が僕らのサービスに流れてきているというのと、あとは今まで自分でやっていたけれど、これぐらい明朗会計であれば、お金を払ってもいいと思っている方もいますね。また、不動産登記を義務化する所有者不明土地法が成立し、2024年をめどに「亡くなってから3年以内に登記しないと罰金を課される」ことになります。空き家や所有者不明土地問題を解決するためのもので、こういった規制も追い風になるのではないかと考えています。
― どのようなきっかけでOnlabに応募することになったのでしょうか?
株主であるVCの方からの紹介がきっかけです。当時、今のプロダクトの原型がやっとできはじめていたぐらいで「プロダクトがまだ完全でなく売上がなくても、その検証を一緒に伴走してくれるOnlabはいいんじゃないか」と勧められました。
― その時のOnlabの印象は覚えてますか?
Onlab卒業生はFRILやQiita、SmartHR等、錚々たる顔ぶれ。「ここに入れたらすごいな」というワクワク感を覚えています。ただ過去の応募数を見た時には、正直「絶対に無理(採択されない)だろうな」と思ってました。あと、相続ってピンとこない方も多いのですが、選考面談の担当が銀行出身で、課題をすごく理解してくださって、やりやすいなという印象でした。
― その後、無事採択をされプログラムに参加します。Onlabでの期間は、どのように検証を進めていたのでしょうか?
Onlabのフォーマットに則ってユーザーヒアリングから開始しました。当時プロダクトの原型はあったのですが、まだ課題とソリューションに腹落ち感がなかったんです。不動産相続といっても手続きは多岐に渡ります。困っているのは間違いないのですが、どの段階でユーザーが困っているのか、時間軸での整理が必要でした。ユーザーヒアリングもしましたし、実際に役所に行って親が亡くなったらどんな手続きが必要か、自分たちで申請の手順を確認しました。
それまではユーザーの声を聞く中で「なんとなくわかりづらいんだろうな」くらいの感覚だったのですが、役所で申請フローや説明書を見たのですが、本当にわかりづらかった。実体験に落とし込んだことで「これは解決しがいのある課題だ」とOnlabでの期間で再認識できました。
― ユーザーヒアリングやフィールドワークの後はどのように過ごしましたか?
とにかく早くプロダクトを世に出そうと考えていました。ユーザーヒアリングが終わって1~2ヵ月後にDemo Dayが控えている中で、ギリギリにプロダクトをリリースしたら、そのプロダクトがどうなったのかという結果が見せられない。「プロダクトを出しました」だけではなくて「出した結果こうでした」とDemo Dayで言いたかったんですね。それでリリースを急ぎました。このときにリリースしたのが、そうぞくドットコム不動産の前身である「e-相続」です。
― e-相続をリリースした当時の話を聞かせてください。
「e-相続」は当初から有料でリリースしました。しかしアカウント登録はされるものの、課金はされない。全然使われませんでしたが、諦めずにユーザーヒアリングを繰り返したり、ユーザーの行動を分析して、最終的にDemo Dayの10日程前に初めて課金がされました。これは嬉しかったですね。たった、2~3週間の話だと思うのですが、何回もLPや細かなUXを変え、高速でPDCAを回していました。思い返すとすごい量をやっていましたね。
― DemoDayでは最優秀賞とオーディエンス賞をダブル受賞します。ヒアリングからリリース、ピッチまで結果を出せた秘訣はなんでしょうか?
Onlab期間中は本当にずっと仕事をしていました。当時プログラム生が無料で利用することができたコワーキングスペースに来たり来なかったり、CEO以外は来ないというチームも多い中、僕達は創業メンバー3人が必ず毎日出社して、OnlabのOfficeHourやメンタリングにもすべて出るようにしていましたね。愚直にやったことが成果に繋がったんだと思います。ちょうど僕らがOnlabに入る時に、Cansellの山下さんがキックオフイベントで「Onlabを使い倒せ」と。それを言っていた意味はすごくわかりましたね。限られた期間に集中して仕事をし、Onlabを使い倒すという言葉を意識して臨んだのが上手くいった秘訣だと思います。
― プログラムが終わって、その後のOnlabとはどんな関係だったのでしょうか?
エクイティやデットなど調達についていろいろと相談しながら事業の方向性についても都度相談に乗ってもらっていました。今回の調達できっかけをつくってくださったOnlabの原さんとも、最初はデットファイナンスで相談させていただいて、今回の調達でもリードの考え方やバリエーションをどうするのかなどは、多くの時間を使って議論させてもらいました。
― 昨年の10月頃からシリーズAの資金調達に動きはじめて、Onlab/DGベンチャーズ(以下DGV)からの出資はどのような流れで進んでいったのでしょうか?
最初は2020年の夏頃だったと思います。「シリーズAの資金調達をしたい」とOnlabの原さんに相談させていただいて、現状の売上や調達額、バリエーションについてのディスカッションから始まっていきました。まず、希望をかなえるためにはリードを立てなくてはいけい、ではリードを誰にするのかなど、候補となる会社をいろいろ分析する中で、候補のひとつとしてDG(DGV)も上がっていました。DGとの親和性がありそうなのとOnlab卒業生への調達支援も積極的にしていきたいというOnlabチームの意向も重なって、DG社内での検討に至るまでの諸々の調整やグループ連携の座組みなど、フォローしてくださったと聞いています。
― いろいろあったかと思いますが、特に印象に残っているエピソードはありましたか?
ちょうど調達のディスカッションを始めて少し経った頃に、OnlabでのPitch登壇のお話をいただいたんですが、最初は断ったんです。と言うのも、シードラウンドの資金調達にかなり苦労した思い出があったから。当時は、お客様もいたのですが、トラクションはこれからという時期。前回苦労した記憶もあったので、完璧な状態に仕上げて持っていきたい、シリーズAに関しては自信持って臨みたいという思いがあり、Pitch登壇のお話も、二の足を踏んでいました。
それでその旨を原さんに「まだ想定していた状態に事業が仕上がっていないのでPitch登壇はやめときます」と。それで、原さんから結構な長文が返ってきまして、「塩原さんの意見はわかります。それはそうでしょう。ただ、もったいない気もします。理由は…」みたいな感じでバーッと返信が来たんです。最後に「投資家に会うのに完璧な状態なんてないはずだ。今までもたぶんそうだったはず」と来て、そのメッセージは図星で、それで「やっぱり出ます」と返信しました。もし僕に後輩起業家がいたら、そういうのは言いたいなと思うぐらい僕には刺さりましたね。まさに「チャンスは貯金できない」だと思います。
ただそのPitchは自体はコロナ禍のバタバタでなくなってしまったんですけど、そのために撮影していた動画をDGの林社長をはじめ関係者に見ていただくことができたんです。その後、2回ほど林社長とカカクコムの社長とミーティングをする機会があって、今回の調達に繋がりました。なかなか1社のスタートアップのために時間を作ってもらえる機会はないなと思ったので、その辺で本気度を感じたというか、僕も本気で考えはじめた感じでしたね。
― その後はどんな流れで進んでいったのですか?
ポジティブな評価をいただいてからDD、投資委員会へ進んでいきました。ただ、自分たちのような規模だと財務DDとか法務DDの質問の意味がわからなかったり、きちんと対応できるか不安な部分もあったので、ここも都度壁打ちとしてOnlabの原さんにサポートいただきました。
― なるほど。今回の以外でも他に役に立ったDGやOnlabからの支援はありますか?
いろいろありますが、原さんをはじめとするOnlabチームには、何かわからないことや困ったことがあったら必要に応じてデジタルガレージ社内やネットワークで紹介してもらっています。今回、会社として3年目にして初めてのプレスリリースの際も、PR相談をしたのですが対応が早かったですね。相談から1か月以内に必要な人の紹介含め、全部決まったみたいな。また今回AGE technologiesの社外取締役として、DGVの前川さんに参画頂き、ビジネスのアライアンスを強化したり、また経営面でも頻度高く壁打ち等を実施させてもらっていたり、今後もDGグループ全体との連携を進めています。
― 今回の調達での資金の使途は何でしょう?
まずは採用です。今までバーンレートが上がるのが怖くて採用できなかったんですよね。シリーズAを終えた今、採用のアクセルを踏んでいるのですが、振りかえると1年早くてよかったと思います。1年前から今の売上げ規模は見えていたので、そのときから採用をしておくべきでした。AGE technogiesとしてはまだまだ創業メンバーと言えるぐらいの規模。興味がある方には是非応募してきていただきたいです。
AGE technologiesの採用情報はこちらから!
― ところで、資金調達に合わせて社名をマーク・オンからAGE technologiesに変更していますよね。どんな意図だったのでしょうか。
スタートアップではサービスが「いけるぞ!」と確信したときに、社名を創業時の名前から社名に変更するケースが多いですよね。自分達の会社もいつかそうしたいなと思っていたのですが、最初のサービスがそのままいけるという確信はありませんでした。
そうぞくドットコムも軌道に乗ってきて、そろそろ社名を変更してもいいかなと思い始めました。ただ社名に「そうぞく」を入れると、相続だけを扱う会社となってしまう。中長期的には相続以外も扱う必要が出てくると思っていたのでそれは避けたい。もう1段階抽象化したいなと考えたといに「AgeTech」というワードを知って「これだ!」と思ったんです。これなら高齢社会で起こる課題に全部対応できる、ど真ん中で事業ができると思って、シリーズAの調達に合わせてAGE technologiesに社名を変えました。
― 運営するサービスは現在「そうぞくドットコム『不動産』」です。「不動産」以外の領域への進出も考えているのでしょうか。
そうぞくドットコムという1つのブランドで今後いろいろやっていきたいと思っていて、短期的には、不動産以外では預貯金と相続税にはチャンスがあると思っています。人は平均して4~5個の預金口座をもっていると言われていますが、この解約等も非常に手間がかかる。またこれはエンドユーザーだけでなく対応者である金融機関側の負担にもなっていて、その両者の負担を無くすサービスを構想しています。相続税の申告手続きもある仮説に基づいた、新しいサービスを検討中です。
そして中長期では、相続が終わった後の次の相続への生前対策、また相続後の資産運用など、より大きな市場を見据えています。最終的には相続に留まらず、高齢社会で起こるあらゆる課題の解決に取り組んでいきたいです。とは言え、この先5年のメインの事業ドメインは相続かなと思います。
(執筆:pilot boat 納富 隼平 写真:taisho 編集:Onlab事務局)
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